「元妻の母親と、まさか混浴の温泉で再会するなんて思わなかった。4年前、娘の不倫で離婚した。あの時の傷はまだ癒えていなかった。それなのに彼女は突然、『娘の責任は私が取ります』と言って、泣きながら俺に抱きついてきた。その目は、罪悪感に押しつぶされそうなほど濁っていた。俺は彼女の申し出を受け入れるべきか、それとも――。そして翌朝、元妻が突然現れて、『再婚して』と言い放った。その瞬間、俺の人生は再び…

「元妻の母親と、まさか混浴の温泉で再会するなんて思わなかった。4年前、娘の不倫で離婚した。あの時の傷はまだ癒えていなかった。それなのに彼女は突然、『娘の責任は私が取ります』と言って、泣きながら俺に抱きついてきた。その目は、罪悪感に押しつぶされそうなほど濁っていた。俺は彼女の申し出を受け入れるべきか、それとも――。そして翌朝、元妻が突然現れて、『再婚して』と言い放った。その瞬間、俺の人生は再び...

玄関を開けた瞬間、俺の世界は崩れ落ちた。妻の水希が、知らない男と抱き合っていたのだ。4年間続いた結婚生活は、その一瞬で終わりを告げた。

俺はイ。35歳のサラリーマンだ。今でこそ仕事一筋だが、かつて結婚していた経験がある。しかし、その結婚生活は想像とはかけ離れたものだった。

4年前、当時31歳だった俺は、合コンで10歳年下の水希と出会った。彼女が俺の初めての彼女だったこともあり、俺は調子に乗っていた。彼女の言うことは何でも聞き、欲しいものは何でも買って与えた。その甘やかしが、結婚生活を大きく狂わせることになるとは知らずに。

水希の実家に挨拶に行った日のこと。彼女の母親である園子さんは、一人で応対してくれた。10歳も年が離れていることもあり、当然のように警戒された。

「確かに僕と水希さんは年齢が離れています。それでも僕は絶対に水希さんを幸せにしてみせます。どうか結婚を認めていただけないでしょうか」

そう頭を下げると、園子さんは「そこまで言うなら分かりました」と話を聞いてくれた。そこで初めて知った水希の家庭環境。なんと園子さんはまだ30代だった。

「私の実家はかなり田舎で、結婚できる年齢になったらすぐに結婚できるようにと、生まれた時から言い付けられていたんです。水希はその相手との子供なんです」

園子さんはそう語った。水希が2歳の時、元旦那が好きな人ができたと言って二人を置いて出て行ったらしい。その後、両親の助けを借りながら一人で水希を育て、田舎を出てきたという。

園子さんから結婚の許可をもらい、俺たちは無事に結婚した。しかし、結婚後の水希は専業主婦として働かず、家事も一切しなかった。それだけでなく、勝手に貯金を使い込むようになった。

「水希、さすがにお金を使いすぎじゃないか」

「え、でも夫婦のお金は2人のものでしょ。だから私が何に使ってもいいのよ」

反省するどころか、悪びれる様子もない。園子さんも何度か注意してくれたが、水希の浪費癖は治らなかった。そして、事件は起きた。水希の不倫だった。

その後、水希にはすぐに家を出て行ってもらい、その場で離婚を決意した。すると、園子さんが家にやってきて頭を下げた。

「本当にうちの娘が申し訳ございませんでした」

「お母さん、僕はもう大丈夫ですから。でも水希はもう僕に2度と近寄らないでくれ」

それが水希たちとの最後の会話だった。

それから俺は生涯独身を満喫することに決めた。やりきれない思いを仕事にぶつけたおかげで、職場での評価は上がり、任される仕事も増えていった。

そんなある日、突然上司から1ヶ月の有給を消化するよう命令された。会社の方針で、溜まった有給を消化させなければならなくなったらしい。どうせならと、旅館を探すことにした。

「田舎の温泉ね。よし、ここにするか」

見つけたのは、山奥の温泉だった。料金は1ヶ月で5万円と破格に安い。少し疑問に思ったが、長い休みを利用してのんびり過ごすにはちょうどいいだろう。

翌朝、目的地に向けて出発した。しかし、片道だけでも7時間。電車やバスを乗り継ぎ、夕方になってようやく到着した。

「本当にこんなところに旅館なんてあるのか?」

想像していた以上に何もない田舎だった。書かれていた住所にたどり着くと、そこにあったのはどう見てもただの一軒家だった。恐る恐る扉を開けると、中から年老いた男性が出てきた。

「遠いところを足を運んでいただきありがとうございます。本日からお世話をさせていただきます。さあさあ、どうぞ。お腹が空いているでしょう」

どうやらここが予約した旅館で間違いないらしい。それにしても、どう見ても旅館ではなく民宿だった。案内された部屋に荷物を置くと、移動の疲れでそのまま仮眠してしまった。

しばらくすると、部屋をノックする音が聞こえた。

「お客様、夕飯の準備ができましたので、下の間へどうぞ」

夕飯は少し広い和室に準備されていた。天ぷらを中心とした料理を口に運ぶと、その美味しさに驚かされた。

「これ、めちゃくちゃ美味しいです。これもお父さんが作ったんですか?」

「あはは、そう言ってもらえると作った甲斐がありますね。お代わりもたくさんあるので、遠慮なく言ってくださいね」

俺は普段では考えられないほどの量を食べ続けた。夕飯を食べ終えると、温かいお茶を持ってきてくれた。

「ちなみにお客様は、温泉目当てでここまでいらっしゃったんですよね?」

「はい。この後、行ってみようかなと思っています」

「そうでしたか。この先の地図は玄関に置いてありますから、よかったら使ってください。ここだけは混浴となっています。そこだけあらかじめご了承ください。まあ、今はお客様以外の宿泊はないので貸し切り状態だと思いますけどね」

「ここの人は利用しないんですか?」

「ここの村の人間はほとんどが高齢者なので、みんな家のお風呂で済ませてしまいますね。行くとしてもお昼でしょうし。おそらくうちの娘が最年少だと思うのですが、それでも40歳近いですからね」

そうなのか。俺は地図を片手に、温泉へと向かった。山を登ること15分ほどで、目的の温泉が見えてきた。脱衣所も小さな小屋で、高齢者には確かに大変そうだ。

少しぬるめのお湯が、疲れた体の隅々まで染み込んでいく。

「おお、気持ちいいなあ」

貸し切り状態の温泉を満喫していると、突然脱衣所の扉が開く音が聞こえた。混浴だということを思い出し、少し緊張しながら湯船に浸かっていると、足音が少しずつ近づいてくる。

「あら、見かけないお顔ですね。この村の人ではないですよね。一緒に入るのは気まずいですか?」

「ああ、僕は大丈夫ですが」

振り返ると、そこには見覚えのある女性が立っていた。

「え、もしかして園子さんですか?」

「は、はい。え、あなたはひょっとしてイさんですか? どうしてこんなところに?」

「ああ、ちょっと一人で旅行に来ていて。園子さんも入りますか?」

「そうですね」

園子さんは少し離れた場所から温泉に浸かった。それにしても、まさか元妻の母親と再会するとは。それより、何で彼女がこんな田舎に?

「それにしても久しぶりですね」

「はい。まさか園子さんとこんなところで再会するなんて思ってもみませんでした」

「それは私もですよ。まさかイさんが私の地元に来るだなんて、すごい偶然ですね」

「地元っていうと、前に話してもらったところですよね?」

「そうです。それがこの村です」

「え、じゃあひょっとして園子さんの、お父さんって?」

「そうなんです。うちの父は民宿を営んでいるんです」

「ああ、やっぱり民宿だったんですね」

「父からも今日から1ヶ月ほど連泊するお客様がいると話は聞いていたんですけど、そのお客様がまさかイさんだったなんて」

そう言えば、さっきの男性が「うちの娘」と言っていた。彼女は先月から母の入院に伴い、退院するまでの間、父の手伝いをしに戻ってきたらしい。

「イさんは変わらずお仕事?」

「まあそうですね。以前と変わらず働いています」

そんなやり取りをした後、俺たちは互いに黙り込んでしまった。やはり元妻の母親と話すのは少し気まずい。しかも、よりによって混浴の温泉で再会するなんて。

「気にしないつもりでいましたけど、やっぱり知り合いと一緒にお風呂に入るのは恥ずかしいですね」

「そうですよね。実は僕もさっきから緊張していて」

「え、そうなんですか。全然気づかなかったです」

園子さんはそう言って、俺に近づいてきた。すると、さっきよりも鮮明にその体が見えてしまう。以前に比べて随分痩せた気がする。それに、表情を見ていると疲れが溜まっているようにも見える。

「園子さん、勘違いだったらすいません。ちょっと痩せました?」

「あ、ああ。実は数年前から少しだけダイエットしていて」

園子さんは微笑みながらそう言っていたが、それが嘘だということはなんとなく分かった。そしてそれと同時に、嫌な予感がした。

「ひょっとして、また水希が何かやらかしたんですか?」

「さすがは元旦那さんですね。実はあの子、またトラブルを起こしてしまいまして」

園子さんから話を聞くと、呆れて言葉を失うような内容だった。

水希はその後、他の男と再婚をしたらしい。だが、またしても不倫がバレてしまい、激怒した旦那に高額な慰謝料を請求されたという。当然払えるわけもなく、園子さんが借金をして全額支払ったらしい。それからは今まで以上に働かなくてはいけなくなり、最近になってようやく完済したという。

「それはまた大変でしたね。ちなみに水希は今どこに?」

「あの子とは連絡が取れずにいて、どこで何をしているのかさっぱり。この数年間、本当に辛い思いをしてきました」

「いやいや、園子さんは悪くないんだから、謝る必要ないですよ」

「このままでは私の気が済まないんです。イさんさえよければ、私が体で……」

「ちょっと待ってください」

園子さんは突然立ち上がり、俺に抱きついてきた。

「娘の責任は私が取りますので、お願いします」

園子さんの目からは涙が溢れていた。きっとこの数年間、罪悪感に追われながら生きてきたのだろう。もしここで俺が断ったら、彼女はもっと自分を責めてしまうかもしれない。

「園子さん、その気持ちは分かりました。では最後にもう一度だけ確認させてください。本当にいいんですね」

「はい。好きにしてください」

そして俺たちは温泉を出て、そのまま激しく愛し合った。

行為が終わり、再びお風呂に浸かる。

「園子さん、ありがとうございました」

「お礼を言うのは私の方です。勝手なお願いを聞いてくれてありがとうございました」

「そんなことないですよ。まさか園子さんとこんなことになるとは思ってなかったですけど、大満足でした。あの、もしよかったら、僕たちお付き合いをしませんか?」

「え、イさん本気で言ってるんですか?」

「前から園子さんが水希のことを叱ってくれたり、僕の悩みを聞いてくれたのが本当に救いだったんです。今度は僕が園子さんを助けたい、というか守りたいんです」

「でも、私たちは元親子になるわけだし。それに私と一緒にいれば、水希のことを思い出してしまうでしょう」

「確かに思い出してしまうことはあるでしょうね。でもそれ以上に、幸せな生活が待っているとも思うんです」

「本当に?」

「はい。だからこの先、僕とずっと一緒にいてください」

「わかりました。イさん、これからよろしくお願いします」

こうして、俺たちの交際が始まった。

翌朝、俺たちは二人でお父さんに交際していることを報告した。

「私の娘と孫が大変ご迷惑をおかけしたようで、本当に申し訳ありません。イさん、よければこれからも園子のことを大切にしてあげてください」

「僕は園子さんを幸せにしてみせます。だからお父さんも安心してください」

「お父さん、イさんの言う通りよ。彼と一緒なら私、幸せになれると思う」

「でも本当にいいんですか? 園子はバツイチだし、子供だっている」

「それは承知の上でお付き合いをさせてもらっています。ただ、水希とは縁を切るつもりでいます。これ以上彼女が園子さんに甘えるのは、本人のためにもなりませんから」

「そうですね。私からも一度話してみます」

こうして俺たちはお父さんから承諾をもらい、園子さんの実家で暮らすことになった。園子さんとの生活はとても幸せな毎日で、水希と結婚していた時とは真逆だった。園子さんはお父さんのお手伝いをする傍ら、嫌な顔一つせず俺の世話までしてくれた。俺はそんな園子さんにどんどん惚れていった。

俺みたいな30代でもこの村では貴重な若者ということで、村の人々からもすんなりと受け入れられた。そんな中で、気になることが一つあった。仕事をどうするかということだ。

うちの会社は在宅ワークも完備されているが、そもそもこの村にネット環境が整っているのだろうか。しかし、そんな悩みも園子さんはあっさりと解決してくれた。

「それだったら安心して。こう見えてこの村は、ネット環境は整っているから」

話を聞くと、少し前に観光客を取り込むための村おこしとして、ネット環境を整備したらしい。これなら、ここで園子さんと生活しながら仕事ができる。そう本格的に考え始めた。

しかし、そんな中であいつは現れたのだ。水希が。

「あら、イさん、久しぶり。どうしてこんなところにいるの?」

「あなたこそ、どうしてここに?」

「ちょっと嫌だなあ。大切なお母さんの地元なんだから、帰ってきたって全然おかしくないでしょ」

確かに、水希がここに来たのは幼い頃に一度だけ連れて来られただけと聞いていたが。

「お母さんに会えると思ったから。で、いきなりなんだけど、お母さんにちょっとお願いがあってね。今度は何?」

「別に私が悪いわけじゃないんだけど、今の彼氏が家族を捨てて私と一緒にいたいって言って聞かないの」

「水希、まだそんなことをしているのか」

すると水希はニコッと微笑んだ。

「イさんの言う通り。私もそろそろ落ち着かなきゃなって。だからイさんと一緒に暮らしたいなって思って」

「今更何を言ってるんだよ」

「だってイさんなら、私の言うこと何でも聞いてくれるし、何でも買ってくれるでしょ。だからお願い。もう不倫なんてしないから、私と再婚して」

「いい加減にしなさい」

園子さんが水希の言葉を遮った。その勢いに、水希は固まってしまった。

「あなたはまだイさんに迷惑をかけるつもり? これまで自分がしてきたことを振り返ってみなさい。あなたのせいでイさんがどれだけ傷ついたと思っているの?」

「そんなこと、お母さんには関係ないでしょう」

「関係あるのよ。私たちは結婚を前提にお付き合いしているんだから」

「は? どういうこと? イさん、元妻の母親に手を出したの? 最低じゃん」

「最低なのはどっちだよ。僕と園子さんは愛し合っているんだ」

「イさんの言う通り。私も彼のことが好きなの。水希が血のつながった娘だとしても、彼だけは譲れない」

「じゃ、じゃあ、お金はどうしたらいいのよ」

「お金なら自分で働いて稼ぎなさい」

家の奥の方から、お父さんが現れた。

「水希は私のことを覚えているかな。お前のじいちゃんの年雄だよ。話は聞かせてもらった。ひとまず私が立て替えてやろう。だから水希はここで働きなさい。そして稼いだお金で私に返済するんだ」

「はあ? 働くの? めんどくさい。立て替えてくれるなら、そのままじいちゃんが払ってくれたらいいじゃない」

「だめだ。お前は自分の考えがどれだけ甘いかを知る必要がある。ここだったら簡単に逃げ出すこともできない。しっかりと自分の行動を見つめ直せ」

「こんな田舎で生活するなんて絶対に嫌」

結局水希は年雄さんに連れて行かれ、ここで働くことになった。しかし、そうなると、水希を再び甘やかしてしまう恐れがある。だから俺と園子さんは、二人で田舎を出ることにした。

「イさん、本当にこれで良かったのかしら?」

「仕方ないですよ。あそこに僕たちがいたら、彼女が成長できない」

「水希のことがそんなに心配なの? ひょっとしてまだあの子に未練でも?」

「まさか。未練なんて一切ないですよ。ただ、このまま僕たちの関係が順調に進めば、あの子は僕の娘になる。そう思ったら、今からちゃんとしておかないと」

「イさんの言う通りね。私たちが結婚するまでには更正してもらわないとね。とりあえずは、二人で暮らす家を探しましょうか」

「そうですね」

そして俺たちは二人で家に帰ってきた。行く時はあんなに長く感じたのに、帰りはあっという間だった。それだけ園子さんの存在が大きかったのだろう。

これから先、俺たちにはまだまだ多くの問題が降りかかってくるだろう。それでも、俺たちは力を合わせて問題を解決していこうと思う。俺は園子さんと一緒なら、どんな壁でも乗り越えられる気がするんだ。

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