「お前、妊娠中だろ?拒否権はないからな。荷物をまとめて出て行けって、姑に言われた瞬間、私は笑みを浮かべることしかできなかった。夫と長男夫婦は、私をただの世帯主のいない役立たずだと思っている。でも彼らは知らない。私が何を準備してきたのかを。夫のリストラも、長男嫁の秘密も、すべて知っている。そして家を出た私は、1億のタワマンに住み、資格を活かして起業した。さあ、今から彼らに思い知らせてやるわ。私…

「お前、妊娠中だろ?拒否権はないからな。荷物をまとめて出て行けって、姑に言われた瞬間、私は笑みを浮かべることしかできなかった。夫と長男夫婦は、私をただの世帯主のいない役立たずだと思っている。でも彼らは知らない。私が何を準備してきたのかを。夫のリストラも、長男嫁の秘密も、すべて知っている。そして家を出た私は、1億のタワマンに住み、資格を活かして起業した。さあ、今から彼らに思い知らせてやるわ。私...

祖母の家を訪れたとき、祖母は「双子の中さ大変だったよな」と話し始めた。しかし、その言葉の後、祖父が私たちに言った。「俺の夢としてよく頑張ってくれたよ。そんな前のために今日は親族を集めたんだ。というわけでいつも通り料理の準備よろしくな。」

私は困惑した。今日は私の出産祝いのはずだった。私は双子を出産したばかりで、体はボロボロだった。なのに、夫の秀は私に料理の準備をさせようとしている。私は我慢の限界だった。

「ねえ、それなら子供の世話をあなたがしてくれるの?」

「そんなのやり方わからねえよ。母親なんだからお前がやって当然だろ。」

「あなたも父親なのよ。子育ては夫婦で取り組むべきだわ。だから何度も両親学級に一緒に行こうって言ったじゃない。」

「知るかよ。母親が出ればそれでいいだろ。俺は父親だから働くことが最重要な役割なんだよ。誰の金でおむつ台が出てると思ってんだ。」

私は呆れ果てた。この夫は何もわかっていない。私はスマホを取り出し、夫に告げた。

「じゃあご両親に手伝ってもらうわね。」

「は?何言ってんだ?父さんと母さんは仕事で海外だろ?」

夫の言う通り、義両親は海外に拠点を置いて仕事をしている。しかし、私は夫のしでかしたことを全て知っている。出産という大仕事を抱えながらも、今日まで必死に準備を重ねてきたのだ。

「今からそれを1つ1つ明かしていこう。泣き濡れる日々はもうおしまいだ。それじゃご両親を迎えに行ってくるわね。」

私は一旦席を外した後、年配の男女2人と戻ってきた。夫は驚き、声を荒げた。

「だ、誰なんだよ、その2人。今日は親族の集まる日なんだぞ。そんなどこの誰も分からない奴らを連れてくるなんて何考えてるんだ。」

「心配しなくても身元は確かよ。こちら山田洋司さんと奥様の典子さん。彼らが今日の準備を手伝ってくれるわ。」

夫は困惑し、私を連れ出して詰め寄った。

「一体何を考えてるんだ?勝手に他人を家に呼ぶなんて非常識にもほどがあるだろう。親族にもどう説明するつもりだ?さっさとあいつらを追い出して食事の準備を始めろ。」

私は冷たく言い放った。

「こっちは準備万端よ。あなたを訴えるためのね。あの2人、あなたの浮気相手の両親なの。」

「はあ?何を言ってるんだ?ふざけるな。何が浮気相手だ。ありもしないものをでっち上げるな。」

夫は腕を振り上げたが、その時、騒ぎを聞きつけた親族が近づいてきた。夫は慌てて笑顔を作り、ごまかそうとした。

「え?ああ、いや、すみません。ちょっと妻と喧嘩になってしまってさ。」

私は親族たちが集まる部屋へ赴き、その場に立ち上がった。

「親族の皆様、本日は私のお祝いのためにお集まりくださり誠にありがとうございます。おかげ様で無事双子を出産いたしました。」

親族たちが大きな拍手で祝ってくれる。私は声を張り上げ、夫の仕打ちを暴露し始めた。

「初めての妊娠。それも双子ということで苦労もひとしおでした。でも多くの方が私を支えてくれたのです。お父さん、お母さんは海外からいつも温かいエールを送ってくださいました。もちろん夫にも感謝しております。彼がしたのはこだを巻くことだけでしたけれど。」

場が静まり返った。私は構わず続けた。

「妊娠中はそれはそれは辛いものでした。つわりがひどく起き上がることさえ困難だったのです。そんな私を夫は労るどころか全ての家事を押し付けました。トイレで吐き続けている私に向かって『飯はまだか』と言い、水一滴飲むことができず倒れている私に『服にアイロンがかかってない』と言いました。検診を受けるため病院に連れて行ってと懇願する私を『仕事があるから』と見放しました。」

親族の中でも女性たちが顔をしかめ始めた。私はさらに続けた。

「そんな私に夫は繰り返し言いました。『嫁が妊娠して出産するのは当たり前だ。俺は仕事をして嫁を養ってやっている』と。そしてなんとか出産を終えた今、今度は私のお祝いの準備を私にしろと言ってきています。絶対安静にしなきゃいけないのに。」

その一言で親族たちは互いに顔を見合わせた。夫は慌てて私の隣に立ち、得意の笑顔を貼り付けた。

「少し誤解があるようです。確かに私もまだまだ未熟故、妻に嫌な思いを1度もしなかったとは言い切れません。しかし同じくらい、いやそれ以上に妻を労わってきました。残念ながら妻の中には不快な出来事ばかりが強く印象に残ってしまったようですが。」

夫が寂しそうに笑って見せると、親族たちの顔に同情の色が浮かぶ。私は心の中で嘲った。このすぐ人を信頼させるスキルには感心する。

「外向きの顔がいいわね。私に対する時とは大違い。」

すると山田夫妻が部屋の中へと入ってきた。

「その必要はありません。皆様、こちらをご覧ください。」

夫が叫ぶ中、親族たちは山田夫妻が配った写真を見た。

「これは写真に映ってるの秀樹君じゃないか。隣にいるのは皆さんじゃないな。でもこれ、後ろに映ってるのホテル。」

夫は慌てた。

「ちょ、ちょっと見せてください。なんだよこれ。なんでこんな写真があるんだ。」

山田夫妻が語り始めた。

「皆さんご覧の通り、この写真は夫の秀さんの浮気現場です。私は入院前から夫の浮気に気づいており、証拠を集めていました。そこで浮気相手のすみれさんという方の両親と接触し、協力を仰ぎました。」

「すみれは秀さんの会社で社員として働いておりました。昼活動で苦労しながらやっと入った会社です。ある時、すみれはボロボロになって私たちの元へ帰ってきたのです。この男に弄ばれて。」

典子さんは興奮するあまり言葉をつまらせた。洋司さんが続ける。

「秀樹さんはあろうことか自身を独身と偽り、一回り以上若いすみれを自分のものにしたのです。秀樹さんにのめり込んでいた娘は、彼が既婚者で自分を遊ばれただけだと気づくと、すっかり塞ぎ込んで精神を病んでしまいました。」

場が静まり返った。親族たちはもう一度写真に目をやってから、黙って夫に視線を移した。夫は必死に叫ぶ。

「皆さん騙されないでください。私は皆さんと血を分けた身内ですよ。このような大切な局面で他人の言うことを信じるのですか?」

私は言い放った。

「聞き捨てならないわね。山田夫妻だけでなく、妻である私まで他人呼ばわりする気。それなら子供にいる親族の血の半分は他人ね。」

その時、誰かが夫の肩を叩いた。振り返った夫の顔を見て、皆が目を丸くする。

「え、父さん、母さん、なんでこんなところにいるんだ?」

義両親が帰国していたのだ。

「大事な用ができてね、緊急で帰国してきたんだ。」

夫はすがりついた。

「それならいいところに帰ってきてくれたよ。助けてくれ。みなが変なことを言い出したんだ。俺は何も悪いことなんてしてないのに。」

しかし義両親は無表情で夫の顔を眺めている。夫はさらに続けた。

「ほら、妻とかよく言うだろ。一度病院に行った方がいいかもしれない。専門家に見てもらってゆっくりと休ませるんだ。」

義父が静かに爆弾を投下した。

「秀、お前には会社をやめてもらう。首だ。」

夫は勢いよく水を吹き出した。

「お、親父、一体何を言い出すんだ?その年で冗談なんて似合わないぞ。」

義父はスマホを取り出した。

「冗談かどうかはこれを見て判断するように。」

「これってスマホ、通話状態。しかもスピーカー状態。まさか。」

私は言った。

「そうよ。通話相手は私よ。義両親に電話をかけて、最初から全部スピーカーにして聞いてもらっていたの。」

「なんだって?どうしてそんなこと?」

「あなたの本性に気づいた段階で義両親には連絡を入れていたの。1番に相談するべき相手だからね。それに、私は妊娠中にあなたから浴びせかけられた数々の暴言をしっかりスマホで録音していたのよ。その全てを義両親に聞いてもらったの。」

義父が夫に問いかけた。

「さて、ここからは私たちがお前に問いかける番だ。どうして浮気なんかしたんだ。皆さんは立派にお前を支えていてくれただろう。」

夫は突然、義両親に縋り出した。

「その結婚は形だけだったんだ。前々から俺の将来を気にしてるのは分かってたから、とりあえず皆みたいに地味な女と結婚すれば安心すると思って。頼む。首にはしないでくれ。会社にとっても俺は必要な存在だろ。なんたって社長なんだ。埋め合わせは必ずするから。」

その直後、義父は近くのテーブルに拳を叩きつけた。

「バカ者。皆さんを妊娠させておきながら、何も知らない若い子を独身と偽って弄んでいたくせに、いざ自分に火の粉が振りかかろうとしたら口先だけでも乗り越えようというのか。お前はそれでも人の子か。」

義母も続けた。

「あなたには本当に失望したわ。自分の欲望のままに行動して、人の気持ちを顧みることができない。こんな自分勝手なことをする人間に育てた覚えはないわ。あともうお前のことは息子だとは思わん。俺からは1人で生きていけ。」

夫は慌てて私の前に膝まづいた。

「皆、俺が全面的に悪かった。今この瞬間から心を入れ替える。だからどうか俺の両親を説得してほしい。」

私は冷たく言った。

「ふうん。謝るのは私だけなんだ。結果的に浮気だったとはいえ、すみれさんも被害者のはずだけど。」

夫は唇を噛みしめると、山田夫妻に向き合い頭を下げた。

「この度はお嬢様を傷つけてしまい誠に申し訳ございません。」

山田夫妻は静かに答えた。

「私たちが求めるのは謝罪ではありません。復讐ですから。」

私はさらに追い打ちをかけた。

「横領、あなた会社のお金を私的に使っていたんですってね。」

夫の顔色がさっと変わり、恐る恐る義両親の方を見た。義両親の視線は氷のように冷たかった。

義父が言った。

「もちろんその件についても調査を進めているところだ。そう遠くないうちにはっきりとした結論が出ることだろう。このことだけでも十分解雇理由だ。」

私は言った。

「つまりあなたはどちらにせよ解雇を免れないということよ。浮気は個人的なことだけど、横領は組織全体に関わることだから。」

私は彼の額を指で叩いた。

「あなたとは当然離婚するわ。そして浮気の慰謝料と養育費の請求をするから。慰謝料はすみれさんには請求しない約束だから、その分あなたに支払ってもらうわね。」

山田夫妻も言った。

「私たちも秀樹さんに貞操権侵害による慰謝料を請求します。すみれの失われた時間は帰ってきませんから、せめてそのくらいの罪はきっちり見せてください。」

夫は周囲を見回したが、帰ってくるのは白い目ばかりだった。親戚たちは1人、2人とこの場を去っていった。夫に声をかけた人は誰もいなかった。

その後、私は夫と正式に離婚した。慰謝料や養育費もほぼ希望通りの額が取れた。山田夫妻も宣言通り夫を訴え、会社も正式に調査を終えて横領の賠償金を求めたと聞く。

夫は借金まみれとなり、私や義両親、親族たちに助けを求めてきた。もちろん手を差し伸べた者はいない。会社も首となり、業界中に横領の噂が立った夫を雇う企業もない。結局、お金に困った夫は消費者金融に手を出すはめになり、今は日雇いの仕事で借金を返す自転車操業の日々を送っているらしい。

義両親は改めて私に謝罪をしてくれ、夫が私に危害を加えることのないようにしっかりと夫の暮らしぶりを監視してくれている。

私はと言うと、あれから数年が経ち、双子たちはスクスクと成長し、幼稚園に通い始めてからはできることもぐっと増えた。今では家事のお手伝いもしてくれて、私のことを支えてくれている。

実は今、私はフルタイムで働いている。義父が知り合いの会社を紹介してくれたのだ。女性の社長で、なんと女1人で息子さんを育ててきたのだとか。私の境遇に理解を示してくれて、働き方にも随分融通を利かせてもらった。本当に感謝している。

疲れて帰ってくる日も多いけれど、子供の笑顔を見ると途端に癒される。改めて子供と過ごす時間は宝物だなと実感するし、この子たちを産んで本当に良かったと思っている。仕事しながらの育児は大変だが、双子たちの成長を見守れる人生に一片の悔いはない。この幸せをこれからも大切にしていこう。

私は今日も双子たちの寝顔を見ながら誓うのだった。

しかし、その平穏な日々に、ある一本の電話が割って入った。

「え?私のクレカをどこにやった?」

夫……いや、元夫の徹也からだった。

「なんだ?今頃気づいたのか?結衣。お前のクレカは俺が持ってるよ。海外旅行で使うためにな。300万使う予定だから支払いよろしく。」

徹也はゲラゲラと笑いながら言い放った。どうやら徹也は今、私に内緒で親族と海外旅行中らしい。義父の誕生日祝いと私の姉が計画した旅行だが、費用は私のクレカで全額負担するつもりのようだ。

普通ならぶち切れるところだろうが、私は淡々とした口調で事実だけを伝えた。

「クレカなら解約したよ。ついでに離婚もしておいた。別に300万使ってもいいけど、徹也が自分で払ってね。」

「解約?離婚?ははっ、そんな嘘信じると思ってんのか?何強がってんだよ。」

思った通りの反応ね。どうせ徹也は信じないと思ってた。でも、信じるか信じないかなんてどうでもいい。あなたが困ればそれでいいの。

「このままだと海外に閉じ込められるでしょうけど、もう私は他人なので助けない。それじゃさようなら。」

「はいはい。さよなら。さよなら。さて、海外旅行を満喫するか。嫁の金で。」

そう言って徹也は電話を切った。あなたにとって最悪の旅行になるだろうに、どこまでバカなのかしら。まあ、私には好都合。これで夫が地獄に落ちることが確定した。徹也、あなたにはたっぷりと後悔してもらうわ。

翌日、徹也から鬼のように大量の着信が来た。思ったより早かったなと思いながら無視する。不在着信が50件に達したタイミングで電話に出た。

「やっと出た。実は両親と親族たちがホテルに帰って来ないんだ。電話しても繋がらないし。結衣、なんか知らないか。」

「今頃気づいたの?大丈夫よ。心配しないで。親族の皆さんは揃って帰国したから。じゃ、そういうわけなので。」

「待て待て。何言ってんだよお前。みんなが帰国するわけないだろ。俺がいるのに。知らないなら知らないって言えよ。時間の無駄だろうが。」

「やっぱり信じないか。じゃあこれを見てくれる?百聞は一見にしかずって言うしね。」

私はスマホを操作し、テレビ電話に切り替えた。すると徹也のポカンとした表情が画面に映った。

「はあ?なんでだよ。なんで結衣の隣にみんながいるんだ。マジで帰国したのか?」

「私は最初から冗談も嘘も言ってない。確かに親族たちは帰国し、今私の隣にいる。」

全員が鬼の形相でテレビ越しに徹也を睨んでいた。徹也を見ていた義両親が口を開く。

「おい、徹也。お前は言ってたよな。俺の金でみんなに海外旅行をプレゼントするって。でも実際は結衣さんのクレカを盗んで使うつもりだった。」

徹也は言い訳を並べ始めた。

「いや、クレカを盗んだなんて人聞きの悪い。ちょっと借りただけだよ。後で返すつもりだったんだ。」

私は言った。

「分かったわ。徹也。日本に帰ってきたら話し合いをしましょう。電話じゃみんなも納得できない様子だし。」

徹也はホッとした様子で電話を切った。だが、10分ほどするとまた徹也から電話がかかってくる。

「おい、結衣。クレカが使えなかった。解約したってマジだったのか。」

「あなたが海外に着いたタイミングで解約したのよ。24時間前くらいかしらね。ちなみにあなたがカードを盗むことは予想していた。だから先に手を打っておいたのよ。」

「嘘だろ。絶対にバレてないと思ったのに。あと、さっき気づいたんだけど俺のクレカが偽物にすり替わってた。これもお前の仕業か?」

「大正解。なかなかよくできてるでしょ。まあ、ちゃんと確認したらすぐに分かることだけど。あなたは私のクレカを使う気満々だったからね。」

「ふざけんなよ。人のクレカを盗むなんてありえないだろう。犯罪だぞ。お前、会社の社長のくせして何考えてんだ。」

「特大ブーメラン投げないでくれる?あなたが先に私のクレカを盗んだんでしょうが。」

「俺は盗んだんじゃない。さっきも言ったけど借りようとしてただけだ。それに夫が嫁のクレカを使って何が悪い?」

「とにかく、このままだと日本に帰れない。お前が責任とって何とかしろよ。」

「私は仕事でそっち行けないから無理ね。他の誰かに頼めば?」

「他の誰かって誰だよ。親族はみんな帰国したんだろうが。ここには俺しかいない。さっさと金を送れよ。」

私は全てを暴露してやった。

「何を言ってるの?徹也。まだそっちに1人だけ帰国していない人がいるでしょう。私の姉。真紀よ。あなたの浮気相手でもあるわね。」

直後、あれだけ騒がしかった徹也の声がぴたりと止んだ。私は夫と姉に復讐するために準備してきたのだ。もちろん徹也がクレカを盗むことだけでなく、親族と海外旅行に行くことも知っていた。今回海外旅行を計画したのは徹也と姉だったので、2人まとめて地獄に叩き落としてやろうと思ったわけだ。ちなみに義両親を始め親族たちにも相談しているので、全員が私の協力者である。

「あなたと姉には言いたいことが山ほどあるの。早く日本に帰ってきてくれないかしら?」

徹也は慌てた。

「え?いや、実は真紀さんもお金を持ってないんだよ。だからこのままだと帰れないんだ。結衣、改めて頼むよ。金を送ってくれ。」

「ごめんなさいね。実は姉がお金を持っていないことも想定済みなの。だって徹也は姉に何でも買ってあげてたでしょう。私のクレカを勝手に使ってね。だから旅行費も徹也が出すと思ってた。さっきも言ったけど、このままだと海外に閉じ込められるわね。姉と2人きりになれるからいいんじゃない?」

ここでようやく自分の立場を理解したのか、徹也は完全に沈黙してしまった。300万使う予定だから支払いよろしくと言っていたくせに、その勢いを完全に失っている。

恐る恐る徹也が口を開いた。

「あの、結衣さん。いや、結衣様。なんとかならないでしょうか。このままだと俺たちは日本に帰れないわけで、先ほどは大変失礼な発言をしてまい、申し訳ございませんでした。どうか助けてください。」

それは見事な手のひら返しで、笑いをこらえるのに必死だった。そのまま手首が折れればいいのに。ただ、こうなることは想定内だったので、私は次なる計画を実行する。

「仕方ないわね。じゃあ私の知り合いにホテル経営者がいるから連絡してあげる。ちょっと待ってて。」

そう言って一旦電話を切り、秘書の山本さんにホテルへ連絡を入れてもらう。山本さんはいつものように迅速に対応してくれ、数分で徹也に折り返すことができた。

「なんとかなったわよ。今から伝える場所に行ってちょうだい。そこで皿洗いしたら、特別に支援してくれるそうよ。」

「そっか。ありがとう。俺頑張るよ。じゃあ明日にはそっちに帰るから。」

「え?何言ってるの?明日帰れるわけないじゃない?1ヶ月よ。1ヶ月皿洗いしてきなさい。じゃあ頑張ってね。」

「1ヶ月?そんなの聞いてない。おいおい、電話を切るな。」

私はお構いなく電話を切った。案の定、徹也から大量の着信が入ったが、私はそっとスマホの電源をオフにする。このまま簡単に帰国させてしまっては私の気が済まない。徹也と姉には自分の行いを嫌と言うほど後悔させる必要があるのだ。

そして、次に私が電話に出たのは1ヶ月後。徹也だけでなく姉もぶち切れていた。

「結衣。お前ふざけんなよ。地獄のように忙しかったじゃねえか。」

「毎日のように怒鳴られたわよ。言葉が分からなかったから何言ってるのか分からなかったけど、あんたのせいでひどい目に会ったわ。」

「まあ、すごく有名なホテルだからね。っていうか、むしろ感謝して欲しいんだけど。2人きりにさせてあげたんだから。そのまま海外に永住してもいいんじゃない?ちなみにスタッフたちが怒っていたのは、徹也とお姉ちゃんが私を裏切り、浮気していることを知っているからよ。もちろん親族の皆さんも知っているわ。帰国したら覚悟しておくことね。」

「ぐっ…」という声が電話越しから聞こえる。2人仲良くダメージを受けたようだったが、すぐに反論してきた。

「そっちこそ覚悟しておけよ。俺たちはただでやられないからな。お前の思い通りにはさせない。」

「そうよ。なんだかんだ言っても親族の皆さんは私たちのことを信じてくれるはずよ。こんなこともあろうかと親切に接してきたからね。」

そんな捨てゼリフを残し、電話は一方的に切られた。徹也と姉は親族に本性を隠していたので、うまく言い訳をすれば言い逃れできると思っているのだろう。でも、どれだけ逃げようとしても無駄だ。だって私は全部知っているのだから。

それから私たちが合流したのは2週間後だった。期間が空いたのは、私に協力してくれた親族たちに温泉旅行をプレゼントしたので、その帰りを待っていたのが理由だ。親族たちは温泉旅行を気に入ってくれて、お土産を買ってきてくれた。でも徹也と姉の分のお土産はなかった。2人を許さないという意思表示なのだろう。

そんな徹也と姉は無事帰国したようだが、作戦会議でもしていたのか余裕の笑みを浮かべていた。親族と対面した2人は早速言い訳を並べ出した。

「父さん、母さん、俺と真紀さんは浮気なんてしてないよ。俺には結衣という大事な人がいるんだから。」

「妹が勝手に言っているだけですよ。憶測です。憶測。私と哲也さんは仲がいいですからね。焼きもち焼いているんですよ。」

言いがかりだとでも言いたげな表情で夫と姉は浮気を否定する。ただ、私から事情を聞いている親族たちは呆れた様子だった。

義父が言った。

「俺と母さんも信じたかったんだがな。結衣さんのクレカを盗んでいたお前を簡単に信じることはできなくなった。海外旅行に連れて行ってくれると聞いた時は嬉しかったんだけどね。まさか奥さんのクレカを無断で使っていたなんて。」

徹也は言い訳を続ける。

「この話は誤解があるよ。俺と結衣は夫婦なんだからさ。俺が結衣のクレカを使ったっていいじゃないか。それに前にも言ったけど、クレカは盗んだんじゃない。借りただけなんだ。後で返すつもりだったんだよ。」

よくもまあ、ここまで平然と嘘をつけるものだ。仮に借りたとしても、後で返すなんて絶対にしないくせに。ただ、それについては証明することができないので私は何も言わなかった。私が黙っているのをいいことに、徹也は自信ありげに話を続けた。

「ほら、俺と真紀さんは結衣の会社で働いてるだろう。部署も同じで経理担当だ。だから毎日のように顔を合わせるし、自然と話す機会も多い。仕事終わりに飲みに行ったりもしたけど、それって普通でしょ?それを結衣が勘違いして浮気って言ってるだけ。」

「そうですよね、真紀さん。」

「ええ、そうですよ。お父さん、お母さん。結衣は小さい頃から焼きもち焼くことが多かったんです。学生時代も、結衣が好きになった人と話しているだけで怒ってましたから。私は全然その気じゃないって言っても聞かなくて困った妹ですよ。」

作戦会議をして口裏を合わせてきたのか、徹也と姉はスラスラと台本を読むように話していた。徹也の言う通り、私はアパレル関係の会社を立ち上げて社長をしている。私は姉にお願いして起業当初から経理としてサポートしてもらっていた。そんな私の会社に入社した徹也と私は結婚。それ以来、私たちは力を合わせて頑張ってきたつもりだった。

徹也は続ける。

「結衣はさ、ちょっと神経質なんだよ。大体、証拠もないのに浮気を疑うなんてたまったもんじゃない。今すぐ訂正してくれ。証拠もないのにね。」

私は静かに言った。

「なぜ私がクレカを盗むことを知っていたのか、考えなかったの?」

そう伝えると、自信ありげだった徹也の顔に疑問が浮かんだ。それと同時に、私は待機していた人物を呼び出す。その人物は秘書の山本さんだ。山本さんはいつものようにキビキビとした動きで私たちの前に数冊の書類と写真を並べた。その瞬間、徹也と姉の顔色は一瞬で青白くなった。

「山本さんはね、本当に優秀なの。だから私、徹也とお姉ちゃんの監視をお願いしていたのよ。元々は浮気のための監視じゃなかったけどね。」

数冊の書類には徹也と姉の行動の記録。そして写真には浮気現場がばっちりと映っていた。これはすでに義両親にも見せているので、徹也と姉がどれだけ浮気を否定しても呆れるばかりだったというわけだ。

徹也は叫んだ。

「卑怯だぞ。秘書使ってこそこそと。」

「あら、勝手に人のクレカを盗んで姉と浮気するのは卑怯じゃないのかしら。ホテルで皿洗いしている時も姉とイチャイチャしてたくせに。」

追い打ちに、私はスマホに保存している動画を再生した。そこには徹也が姉とイチャイチャしている姿が映っている。実はホテルの経営者にも頼んで監視と撮影をしてもらっていたのだ。海外で気分が解放的になっていたのか、動画内の2人の顔はゆるゆるだ。それとは対象的に、目の前にいる2人の顔はガチガチだった。

固まってしまった徹也と姉に義両親が怒りを露わにする。

「言い訳ばかりしよって。哲也、真紀さん、自分が悪いことをしたという自覚はないのか?もし自覚がないというのなら、本当に情けないことだぞ。なんで浮気なんてしたのよ。結衣さんは立派に働いているし、家事だっておろそかにしたことないでしょ。」

義両親の問いかけに徹也と姉は下唇を噛みながら俯いた。重苦しい空気が広がっていく中、もう言い逃れができないと思ったのか、2人は明らかに開き直った様子だった。

徹也が言った。

「俺も結衣は立派だと思うよ。でもさ、気づいちゃったんだよね。結衣は俺がいなくてもいいんだって。やっぱり嫁っていうのは夫を立ててなんぼって言うか。その点、真紀さんは俺のこと分かってくれるし。正直言うと真紀さんと結婚したいんだよね。真紀さんも俺と同じ気持ちですよね?」

「ええ、そうね。妹に哲也さんはふさわしくないわ。学生時代は勉強だけ。大人になったら仕事だけだし。男性の気持ちなんて分からないのよ。あんたは浮気されても仕方ないの。浮気されるあんたが悪いの。」

二人の本音は義両親の怒りをさらに高めた。義父は切れそうなほど血管が浮かび上がり、義母は体をブルブルと震わせている。

義父が怒鳴った。

「ふざけるなよ。浮気する方が悪いに決まっている。自分たちの都合だけで結衣さんを傷つけるなんて、どう考えてもおかしいだろう。それが家族に対してすることか。お前らに感謝の気持ちはないのか。」

義母も続けた。

「本当にありえないわ。恩を仇で返す気。すぐに謝罪しなさい。」

徹也は開き直った。

「そんなに熱くならないでよ。夫婦が離婚するなんて世の中に溢れてるんだから。それに結衣は俺と離婚して独身になったらしいじゃないか。結衣本人も俺との関係を断ち切ったんだから。真紀さんと結婚したっていいじゃないか。」

姉も続けた。

「そうですよ。それに結衣の会社で働いているのは、結衣が私たちに助けを求めたからです。どうしてもって言うから手伝っていたんですよ。だから感謝されるのは私たちの方です。何も知らないのに出しゃばるのは気分悪いですね。」

直後、徹也の体が激しく床に叩きつけられた。とうとう義父が徹也に掴みかかり、投げ飛ばしてしまったのだ。ドスンと音を立てて徹也が床に倒れ込む。それと同時に親族総立ちになって徹也と姉を囲んでいた。

「徹也、お前を勘当する。真紀さんも、2度と俺たちに関わらないでくれ。結衣さんの気持ちを考えるとお前たちを一生許せそうにない。会社もやめろ。すぐに辞表を出せ。」

徹也は痛そうにしながらも、まだ開き直っていた。

「痛えなあ。そういうのうんざりするよ。分かった。喜んで縁を切ってやる。もうあんたらにごまするのも面倒だと思ってたんだ。俺は真紀さんがいればそれでいいし、俺たちなら次の会社だってすぐに見つかるからね。そっちこそ2度と関わらないでくださいよ。」

姉も続けた。

「結衣、あんたもね。もう妹だって思わない。助けて欲しいって言っても助けないから。」

火に油を注ぎ続ける徹也と姉のせいで、この場は異様な雰囲気に包まれていた。まさに一触即発で空気がピリピリとしている。でも、そんな中で私だけは冷静だった。私は義両親と親族たちに向き直りこう告げた。

「皆さん、私のためにありがとうございます。ですが、もう大丈夫です。どうか怒りを収めてください。」

義父が問いかけた。

「結衣さん、本当にいいのかい?2人とも全く反省していない。力づくでも分からせるべきではないか?」

「いいえ、その必要はありません。もう何を言っても無駄でしょうし。」

私の言葉にピリピリとしていた空気は少しだけ緩まった。私はにこりと微笑み、大丈夫だという意思を伝える。その様子に徹也と姉だけはニヤニヤとした表情を浮かべた。

徹也が嘲るように言った。

「やっぱり結衣の思い通りにならなかったな。俺たちを怒らせたお前が悪いんだから恨むなよ。これでようやくお前ともお別れだな。」

姉も続けた。

「調子に乗るからいけないのよ。あんたは私に一生勝てないんだから。じゃあ哲也さんは遠慮なくもらうわね。残念だったわね、結衣。」

私は静かに言った。

「好きにすればいいわ。でも最後に一言だけ言わせて。この先何があっても後悔しないでね。ここにいる誰もあなたたちのことを助けないから。泣きついて来ないでね。」

徹也は笑い飛ばした。

「最後の最後まで強がりか。後悔なんてしないから安心しろよ。それじゃあ真紀さん、行きましょうか。」

結局、徹也と姉は私の言葉をまともに聞こうともせず家から出て行ってしまった。義両親と親族たちも私が強がっていると思ったのか、心配した表情を浮かべていた。でも強がりなんかではない。すでに徹也と姉は詰んでいるのだ。最後の準備が整えば、2人は嫌でも後悔することになる。その時が来るのを私は待つだけなのだった。

それから数日もしないうちに、元夫の徹也と姉から連絡が入った。2人とも今までにないくらい焦っており、すぐに話をしたいと言ってきた。私は山本さんと共に会社にて2人が来るのを待つ。そして徹也と姉がやってきたが、顔面蒼白で今にも倒れそうだった。

「結衣、教えてくれ。いつからだ?いつから知っていたんだ?絶対にバレてないと思ったのに。」

2人が焦っているところにお構いなく、山本さんに書類を出してもらった。その瞬間、徹也と姉の顔色がさらに悪くなった。徹也と姉の目の前に並べた書類は、領収書、通帳履歴、不正な送金履歴、不適切な請求書。これらは徹也と姉が会社のお金を横領していた証拠だ。そう、徹也と姉は浮気だけでなく会社で不正をしていたのだ。

答えを求めている2人に、私は順を追って説明した。

「徹也、お姉ちゃん。前にも言ったけど、私は山本さんに2人の監視をお願いしていたわ。監視していた理由は元々横領を調査するためだったの。その延長線上で浮気が判明した。浮気よりも横領の方が先に発覚していたってことよ。ちなみに横領に気づいたのも山本さんで、社員たちの証言を集めてくれたのも山本さんだ。本当に彼女は優秀で頼りになる。」

徹也は土下座した。

「結衣、悪かった。1回だけのつもりだったんだよ。だけど全然バレないから調子に乗ってしまって。何年かかってもお金は返すから、示談に済ませてくれないか?これから真紀さんと幸せになりたいんだよ。頼むよ。」

私は冷たく言った。

「本当にふざけた人ね。自分のことしか考えていない。だから平気で人を騙せる。私が徹也を許すわけないでしょう。これだけのことをしておいて示談に済ませるなんて笑わせないで。」

私は山本さんにアイコンタクトを取ると、彼女は別の書類を取り出し徹也の前に並べた。それを見た瞬間、徹也は体全体をブルブルと震わせた。

「う、嘘だろ。なんだよこれ。こんなこと信じられない。」

そこには姉と男性の姿が映っていた。その男性は徹也とは別の男性だ。

「徹也、お姉ちゃんと結婚するなんて無理なのよ。お姉ちゃん、あなたのことを捨てる気だからね。その男性はホストで、お姉ちゃんの大本命よ。その人のためにお金が必要だったみたい。横領を持ちかけたのもお姉ちゃんからでしょ。つまり徹也はまんまと騙されていたってわけ。」

徹也は絶望感で満ちた表情で姉を見た。

「マジかよ。真紀さん、嘘ですよね。俺、真紀さんのために頑張ったのに。」

姉は下唇を噛みながら何も言えずにいる。1度は逃げ切ったと思っていたのに、一瞬で窮地に立たされてしまった。姉も焦りに焦っていたはずだったが、それでも開き直った。

「別に残念がる必要ないじゃない。哲也さんは今まで通り私のために働けばいい。結婚はできないけどね。それにあなたも妹を騙していたんだから文句言えないでしょ。」

徹也は怒鳴った。

「ふざけんな。俺がどれだけリスクを背負ってきたと思ってる。真紀さんと結婚できるから無理してきたんだよ。その仕打ちがこれか。俺の人生返せよ。」

徹也は必死の形相だったが、姉が取り乱すことはなかった。そんな2人を見て、ふと昔のことが頭をよぎった。起業した当初は徹也も姉も頼りになる存在だった。私が社長として頑張って来れたのも2人のおかげだ。でも、それも全部嘘だったと思うと、胸にぽっかりと穴が開いた気分だ。信頼していた人に裏切られるということは想像以上にダメージが大きかった。それはきっと義両親や親族たちも同じだろう。だから、例え家族であっても、いや家族だからこそ許せない。人を騙すことを何とも思わない2人には相応の報いを受けてもらわなければならない。地獄に落ちることになってもだ。

「横領の弁済と浮気の慰謝料、全額回収させてもらうわね。それまで今度は私があなたたちを監視します。ちなみに解雇するから再就職は難しいかもね。でも安心してね。とってもいいホテルを知ってるの。あなたたちはそこで私に監視されながら働くのよ。逃げられると思わないことね。」

姉が縋った。

「ねえ、結衣。お願いよ。このままだとお姉ちゃんの人生が終わってしまうわ。私たち家族でしょ。見逃してよ。」

徹也も続けた。

「改めて謝罪させてくれ。俺が悪かったんだ。どうかしてたんだよ。冷静じゃなかったんだよ。一度夫婦になった仲じゃないか。頼むよ。許してくれよ。」

私は静かに言った。

「2人とも忘れたの?私は忠告したはずよ。この先何があっても後悔しないでね。ここにいる誰もあなたたちのことを助けないから、泣きついてこないでね。もう取り返しがつかないの。お金が問題なんじゃない。1度失った信用を簡単に取り返せると思わないで。」

その瞬間、徹也と姉は操り人形の紐が切れたように崩れ落ちてしまった。もし2人が最初から罪を認めて謝罪していれば、違った未来があったかもしれない。でもその未来は2度と訪れることはないと、私は確信するしかなかったのだった。

その後、宣言していた通り、私は夫と姉を海外のホテルに送った。以前と同じように毎日怒鳴られながら皿洗いからスタートしたらしい。全額回収まで長い時間がかかるだろうが、2人が反省と後悔をするには十分だと思う。ただ、2人が本気で変わろうとしない限り、同じことの繰り返しだろう。

一方、私はと言うと、会社も順調で前向きに楽しんでいる。しばらくは精神的に辛いものがあったが、なんとか立ち直ることができた。それは私を支えてくれている全ての人たちのおかげだ。ありきたりな言葉だが、感謝の気持ちを忘れないこと。それが大切なのだと私は思っている。

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