「ママに500万持ってきてもらえなきゃ、てめえの体を売り飛ばすぞ」――本屋に押し入ったヤクザは、店内を破壊しながら私を殴りつけた。私は工藤組の組長の娘。でも、ここが母の組の店だと知られたくなかった。商店街での立場が壊れるから。私は泣く泣く母を呼んだ。母が現れた瞬間、ヤクザの顔から余裕が消えた。そして、その後の一言が全てを変えた。あの日、私は商店街に本当の安寧を取り戻せると思っていた。でも、そ…

「ママに500万持ってきてもらえなきゃ、てめえの体を売り飛ばすぞ」――本屋に押し入ったヤクザは、店内を破壊しながら私を殴りつけた。私は工藤組の組長の娘。でも、ここが母の組の店だと知られたくなかった。商店街での立場が壊れるから。私は泣く泣く母を呼んだ。母が現れた瞬間、ヤクザの顔から余裕が消えた。そして、その後の一言が全てを変えた。あの日、私は商店街に本当の安寧を取り戻せると思っていた。でも、そ...

「痛えか。いい顔してんじゃねえか。怖いんならママでも呼んで助けてもらえばどうだ?ママに500万持ってきてもらえなきゃ、てめえの体を売り飛ばすぞ。」

私は今、目の前のヤクザに殴られ、うずくまっている。私が営む小さな本屋に突然現れたヤクザは、みかじめ料として500万円を要求してきた。支払いを拒否した私への見せしめとして、店内は荒らされ、私は殴られ、人間の尊厳を奪うような脅しをかけられた上、母まで巻き込もうとしている。そんなヤクザのやり方に、私は心底腹が立った。しかし、これから起こる因果応報とも言える結末に、ヤクザは苦しめられることになる。

私の名前は工藤梢。私は工藤組というヤクザ組織の組長の娘で、今はある商店街で本屋を営んでいる。小さな本屋だが、こだわりのたくさん詰まった大切な店で、自分の全てをこの店に注いでいると言っても過言ではない。おかげで私は33歳で結婚相手を探す暇もないけれど、とても充実した日々を送っている。

そんなある日、私の店にヤクザが来た。ヤクザだってインテリで、本を読みたい人もいるのだろう。本が好きな人を拒否する理由はないし、このヤクザも本を買いに来たのだと思っていた。しかし、相手の望みは他にあった。そんなことはつゆ知らず、私はヤクザを店内へ招き入れた。

「おお姉ちゃん。ここの責任者はいるか?」

店内に入るや、本棚を見ることもせずヤクザが言った。

「責任者と言うと、店長ということですかね。店長は私ですが。」

「あんたが?へえ。」

ヤクザの微妙な反応に、少しだけ頭に来る。そりゃ無条件に若いと言われる20代は過ぎているけれど、30代前半で独身なんですけどね、と悪態をつきたくなった。しかし、客は客なので、飛び切りの笑顔で接客を続けることにする。

「どのようなジャンルの本をお探しですか?ビジネス本とか?」

「この店はいつからやってるんだ?」

「うちは平日休日問わず、朝10時から営業してますけど。」

「ちげえよ。何年前から店を構えてるんだってことだ。」

「ああ、そういうことですか。ちょうど1年前からやらせてもらっています。」

「1年前か。知らねえ店だな。よし、500万だ。」

「500万って……何の話ですか?」

「この店のみかじめ料、まとめて500万円だ。」

「み、みかじめ料……」

この店を営んできて、今まで1度もみかじめ料なんて請求されたことがなかった。私は目を丸くした。大体、この辺りを仕切っているのは私の母の組である工藤組のはずで、こんなヤクザは組員にはいない。

「そんなもの、この店と何か関係がありますか?」

ヤクザはニヤリと笑うと、本棚に陳列された本たちを次々と投げ飛ばし、店内を荒らし出した。

「何するんですか?やめてください!」

私が静止しても行為はエスカレートするばかりで、ヤクザはニヤニヤと笑っている。

「いいか?お前がここで1年間無事に店をやってこれたのは、俺たちみたいなヤクザがいるからなんだ。こんな風に暴れ回る面倒な客が来た時に、バックにヤクザがいると分かれば全部が解決する。」

そう言って、わざと「ヤクザ」という言葉を強調してくる。まるで、店をやるにはヤクザの許可を取れと言わんばかりの言い草だ。

「役所から店をやるための許可は降りてるんですよ。」

「役所が許可したとしても、俺たちのところに挨拶に来てないだろうが。ここは俺たちの島なんだから、ここで商売したいなら挨拶に来るのは当たり前だろ。店を荒らされて、役所がなあ何とかしてくれるのか。」

「そんな馬鹿な話がありますか?それに、あなたたちはどこの組なんですか?」

私が聞くと、この辺りで1番大きな組織の加藤組だとヤクザが言う。でも、この辺りで1番大きな組織は工藤組のはずで、加藤組なんて名前は聞いたことがない。

「この辺りで1番大きな組織は工藤組ですよね?」

「よく知ってるな。でも、あれは俺たち加藤組の下にある、ちっちゃい組織だよ。あんなところ役になんて立たないだろうな。だから黙って俺たちにみかじめ料を払えばいいんだよ。」

「払いませんよ。大体、みかじめ料は支払った方も捕まるんです。そうなると分かっているのに払う奴なんていません。」

私とヤクザが言い合っている間にも、店内の様子は一変していく。本棚のありとあらゆる本が投げ飛ばされ、本棚は蹴られて倒れてしまったり、心が痛むような光景が広がっていく。

「痛い目見ないと分からねえようだな。」

ヤクザに言われたのと同時に、私の方に痛みが走る。何が起こったのか理解できないまま、今度は腹に鈍い痛みを感じ、私はうずくまった。両親にも殴られたことなどないのに、私は顔面と腹を殴られていた。突然のことで頭が真っ白になっていると、ヤクザはニヤニヤしながら私の胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。

「痛えか。いい顔してんじゃねえか。怖いんならママでも呼んで助けてもらえばどうだ?ママに500万持ってきてもらえなきゃ、てめえの体を売り飛ばすぞ。」

ヤクザの言葉に思考がはっきりしてくる。だけど、ヤクザの言っていることは当然聞き入れられない。黙ったままの私をヤクザが袋叩きにしてくるので、このままでは本当に命がなくなってしまうかもしれない。命の危機を感じ、私はヤクザたちに言った。

「本当に母を呼んでもいいんですね。」

「ああ、いいぞ。きっちり500万持って伝えてな。」

「命の保証はできませんよ。」

私の言葉にヤクザは鼻で笑う。

「脅しのつもりか?女に。しかもババアに何ができんだよ。万が一ママが格闘家で俺たちのことを投げ飛ばしでもしたら、それは犯罪だ。ということは、てめえがどんなに強いママを呼ぼうが、こちらは何も怖くねえんだよ。正直。」

組長である母を呼びたくはない。ここが母の組と関係のある店だと周りに知れたら、商店街の私の立場はどうなってしまうのか予想がつく。「あいつはヤクザの娘なのだ」と、虫けらを見るような目で見られ、お客さんの足もどんどん遠のいていってしまうに違いない。

私は色々なことを考えていたけれど、その間にも店は荒らされ、私の体には蹴りが入る。

「いい加減やめてよ。」

「だから500万払えって言ってんだろ。出すものさえ出せばやめてやるよ。」

このままでは店も私も危ない。命を落とすどころか、人間の尊厳を失うようなことをさせられてしまうかも。そんなことになっては困ると、私は覚悟を決めた。

「分かった。母を呼ぶから、これ以上店を荒らさないで。」

私は電話をかけて母に助けを求めた。

「今、店にヤクザが来てて、みかじめ料を500万払わないと店を壊すって言ってるの。私を助けて。お願い。」

そう言うと、母は「すぐに行く」とだけ言って電話を切った。

10分後、母がやってきて、ボロボロの私と荒れた店内を見て声をあげる。

「梢、大丈夫?これは一体どういうこと?」

「おお、お前がママか。」

ヤクザが母の顔を見た瞬間、表情から余裕が消えた。ここにいるのが工藤組の組長・早紀と分かった時にはすでに遅く、ヤクザの7人のうち3人は母が連れてきた幹部に放り出されていた。さらに他の幹部が残りの3人をボコボコに殴り倒していた。母からの命令を待たずしての行動だった。組長の娘に手を出したとあれば、彼らも黙っていられなかったのだろう。

しかし、このままでは商店街の人たちに迷惑になってしまわないか。

「ママ、いくら何でもあんなにやったら、商店街の人たちがびっくりしちゃうよ。現に、騒ぎを聞きつけた商店街の人たちがギャラリーを作ってしまっているよ。」

「そうね。分かったわ。お前たち、それくらいにしておきな。」

母はそう言って幹部たちを静止すると、ボロボロになったヤクザたちがその辺りに転がっていた。私に散々金を要求し、ひどい言葉を浴びせてきたヤクザは、ブルブルと体を震わせながらうずくまっている。

「てめえら、どこの組のもんだ。」

母の言葉に、ヤクザは涙目になりながら母の方を見て答える。

「はあ……俺たちは加藤組のものです。どうして工藤組の組長さんがこんなところにいらっしゃるんで。」

「当たり前だろ。娘に呼ばれたんだから。」

「は、娘?」

「ここはうちの娘の店だよ。てめえらが手を出したのはうちの娘だ。つまり、てめえらはうちの工藤組の店に手を出したってことだ。それで、工藤組の店にみかじめ料を取りに来たって?」

「ここが工藤組の店だなんて知らなかったんだ。」

「知らなかったなら仕方ない。じゃあ、その小さな脳みそでよく覚えておくんだな。ここはうちら工藤組の娘の店だ。2度とみかじめなんて請求するんじゃないよ。」

「はい、分かりました。」

母の一喝で、ヤクザは怯えながら走り去っていった。

「ママ。ありがとう。助かったわ。」

「お礼なんていらないよ。あんたが助かってよかった。」

母にお礼を言って店の外を見ると、随分と人だかりができている。荒れた店内、ボロボロの私、見るからに強そうな組長である母が引き連れてきた黒服の幹部たちを見れば、無理もない。不安そうな顔で私たちを見る商店街の人々にどう弁解しようか考えていると、母が口を開いた。

「皆さん、この度はお騒がせして申し訳ありません。さっきの奴らはもう来ないとは思いますが、もしもあなた方の店に来るようなことがあれば、娘にすぐ連絡していただきたい。すれば、娘から私に連絡を入れるようにしますから、あなた方には指1本も触れさせません。」

まさかヤクザの組長にこんなことを言ってもらえるなんて思っていなかった商店街の人たちは驚いた後、次々と安心した表情になっていく。お隣のお店の奥さんは救急箱を持ってきてくれて、私の怪我の手当てをしてくれた。

「そういうことだから、皆さん困ったことがあれば私に言うんだよ。梢。」

「うん。分かった。」

商店街の人たちも「ありがとうございます」と次々に頭を下げる。工藤組の店があると分かれば、さすがに奴らも再度襲撃してくることはないだろう。それに母のおかげで商店街の人たちとも気まずくならずに済んで、これからも店を続けていける。そのため、私は安心しきっていた。

しかし、それからしばらくして、喫茶店のマスターが店に駆け込んできた。

「助けてくれ。あいつらが来たんだ。」

マスターの頬は青く腫れ上がっている。

「落ち着いてください。一体どうしたんですか?」

「突然店にヤクザがやってきて、みかじめ料を払えって言ってきて。」

「ヤクザって、この間の加藤組ですか?」

「そう、加藤組って言ってたよ。それも1000万払えって言われて、そんな大金払えないって言ったら、店内を荒らされてさ、カップも皿も全部割られた。それどころか、俺と女房も殴られたけど、女房はひどいあり様で、救急車で搬送されて、そのまま入院になっちまった。1週間以内に1000万用意しろって言われてさ。用意しないと次は何をされるか分かったもんじゃないけど、そんな用意もできねえ。だから、梢さんのお母さんに相談しようって言ったんだけど、お礼だけで店が潰れちまうって女房が言うんだよなあ。」

「そんなことはないですよ。もちろん、母が自分から言い出したことですから。」

「じゃあ、相談してもらえないかい。もしお礼が必要になっても、商店街のみんなに行って協力してもらうからさ。この調子じゃ、きっと他の店もうちと同じようになるかもしれんから。」

今にも涙をこぼしそうな喫茶店のマスターを見て、私は口に出すよりも早く頷いていた。

「分かりました。すぐ母に連絡しますね。」

私はすぐに母に電話をして事情を説明した。母はすぐに行くと言って電話を切り、すぐに駆けつけてきた。私は母に、喫茶店が襲撃されたこと。店内は荒らされてマスターと奥さんも怪我をしたこと。そのせいで現在奥さんは入院していることを話した。

「店に案内してくれ。」

母と、母が引き連れてきた幹部と一緒に喫茶店へ向かう。現場は話に聞いていた以上にひどいあり様だった。

「身内に手を出しやがって。許せないね。」

怒りを露わにする母に、マスターは「お礼ならいくらでも払うから、なんとかして欲しい」と頭を下げる。母はそんなマスターの肩を叩いて首を振った。

「そんなものいりませんよ。ここはうちの島ですから。島を守るのは当然のことです。大丈夫。安心してください。」

母の言葉に、マスターの顔がちょっぴり明るくなる。そして、母は加藤組のことを話し出した。

加藤組というのは最近できた組織らしく、新しくできた組織というのは下がいないからお金が集まらないので、よその島からお金を徴収して自分の組の資金にするのだ。

「ここが工藤の島だと分かっていて手を出しているのか知らないけど、手を出したことは事実だ。ケジメをつけようじゃないか。」

母はそう言うと、幹部へ他の組員を招集するように指示をする。

「ママ、頑張ってね。」

私と喫茶店のマスターに見送られ、母と組員たちは加藤組の事務所へ向かった。

一方、その頃加藤組の事務所では、組長である加藤の怒声が飛び交っていた。

「金も持って帰ってくるとはどういうことだ?」

「組長、すみません。あの商店街の金を持ってそうな喫茶店に行ってきたんですが、金がないと言われてしまいまして、1週間猶予を与えてやったんです。」

「猶予じゃねえんだよ。金がないって言うなら、その場でコンビニでも金貸しにでも駆け込んで、無理やりにでも作らせろや。どうしてそれができねえんだよ。」

そう言って、手にしていたバールを組員に振り下ろす。

「すみません……」

「いいか。うちの組は結成したばかりで資金不足なのは全員よく分かってんだろうが。それなのに資金になるみかじめを徴収してこないでどういうつもりなんだ。役立たずはいらねえんだよ。コンクリートに固められて沈められたいか?」

「1週間後に必ず金を用意します。」

加藤はその言葉を聞いても首を縦には振らなかった。

「すぐに用意できないなら、自分自身の命を使ってもらうしかない。」

加藤の言葉に、組員は怯えて言葉も出ない。そんなやり取りの最中に、母が事務所のドアを叩いた。

「なんだ?」

加藤が声をあげた瞬間、ドアが開き、母と大勢の組員が事務所へ雪崩れ込んできた。

「誰だ、てめえ?」

「私は工藤組の組長。私の島で好き放題してる奴らがいるって聞いて、挨拶しに来てやったんだよ。」

「だからって、こんな大勢で乗り込んでくるかよ。」

「大勢に越したことはないだろ。」

母はそう言って、血まみれになって横たわっている男を横目で見る。

「ケジメを入れてる最中だったのかね。まさかとは思うが、みかじめを徴収できなかったからこいつらを閉めてるってことじゃないだろうね。」

「みかじめ?何のことだ?」

「てめえのところの組員がうちの島へみかじめ料を請求してきたんだけど、知らないのかい?」

「そんなわけないだろう。うちは最近できた組織なんでね。うちみたいな小さな組が島なんか持てねえよ。」

「そうか。てっきり資金集めのために他の島に行って金を徴収しろってことなのかと思ってたよ。」

「うちはそんな見みっちいことするようなヤクザじゃねえ。」

「ふうん。でもね、うちの娘の本屋にみかじめ料を請求しに来たのは、そこで血濡れになっているやつなんだけど。」

加藤の眉毛がピクリと動く。

「娘は本が大好きだから、うちの島の商店街で本屋やってんのさ。この間、その店にそこの奴らがみかじめ料を払えって言ってきてね。私らが来たらとっとと帰っちまったよ。」

「何?それが本当だったとしても、うちの奴らが勝手にやったことだ。」

「へえ。組長さんの指示じゃないのかい。」

母がそう言うと、加藤は組員を睨みつける。「余計なことを言うな」という指示のようだ。

「それだけじゃないんだよ。今日は商店街の喫茶店が同じことされてね。本屋で金が徴収できなかったからターゲットを変えたんだろうけどね。ああ、てめえが知らないのなら、組員が勝手にやったんだろうな。本屋も喫茶店も店の中はめちゃくちゃで、仕入れた本はほとんどダメになっちまったし、喫茶店で使う食器も割られたから弁償が必要だね。喫茶店の奥さんは入院しちまったから、病院代も必要だ。どうしてくれるんだろうな。」

「まあ、組長さんの指示じゃないってことなら、私らも島を荒らされて黙ってるわけにはいかねえんだ。」

「え?そんなこと言っても、俺は指示してねえから関係ねえよ。」

「でも、組長と組員って親子みたいなもんだろ。組長にとって組員は子供だとなれば、子供が起こした問題は親が責任を取るのが道理じゃないのかい。」

「自分で起こした問題は自分で始末をつけるのが加藤組のルールでね。うちの奴らが勝手にやったんだから、俺が弁償する必要はねえよ。」

「そうか。それなら仕方ない。」

母は怯える組員の方を向いて、哀れみの表情で言った。

「それなら、お前らが自腹で弁償するしかないね。店の修理費も、ダメにした本と食器代も、奥さんの治療費も。」

「ひどいじゃないですか。組長。俺たちは組長に言われたからやったのに。」

母の言葉に、組員が口を滑らせてしまう。思わず真実を暴露してしまったのだ。

「俺らにも修理費と治療費を払う金なんてないですよ。」

「本当に組員のことを思うなら、誠意を見せてきっちり責任を取るべきなんじゃないか。組長さん。」

「うるせえ。ケジメをつけるなら本人たちがつけるべきなんだよ。俺は指示していない。関係ない。これが俺のやり方だ。」

「そんなやり方、初めて聞きましたよ。」

「しつけえな。俺に逆らうんじゃねえよ。」

加藤と組員のやり取りを見ていた母がため息をついた後、工藤組の幹部に指示を出した。すると、幹部は事務所で一斉に暴れ出す。

「おい、何すんだよ。事務所が壊れちまうだろう。」

加藤が顔を真っ赤にして叫んだが、もちろん幹部は暴れることをやめない。

「おい、お前ら、あいつらを止めろ。」

組員に指示をするが、勝てないと悟った組員は真面目に対応しない。さらに加藤は全く動かず、自分だけ安全な場所に逃げているだけだった。

これでは組員たちがかわいそうだと思った母は、加藤へ歩み寄り、恐怖に震えている加藤の胸ぐらを掴み上げた。

「なんだよ。何するんだよ。俺は痛いのが嫌いなんだ。やめてくれ。」

「こんなことでわめくなんて、よく組長なんてやってられるね。」

「自分が殴られるのは平気なのに、組員を殴るのは平気なのか?俺は殴られたくないから自分の組を作ったんだよ。殴られるのが好きな奴なんているわけがないだろう。」

「呆れたね。こんな卑怯な組織なんざ必要ないな。今日から、お前のところの看板はうちでもらってやるから。」

「せっかく作った組織なのに。そりゃないだろう。」

「自分で巻いた種だろ。ああ、それと金庫の金、全部頂戴な。殴られたくなかったら、さっさとしろ。」

加藤は震える指先で金庫の鍵を開ける。しかし、金庫に入っていたのはたったの50万だった。

「ああ、これっぽっちじゃ足りないね。」

「足りないってどういうことだよ。」

「本屋と喫茶店を荒らした分と、両方の店に暴力を振った分の慰謝料だよ。8000万円よしな。」

それを聞いて、加藤の顔がさらに青ざめていく。

「そんな大金持ってるわけないだろ。」

「そうか。じゃあ、お父さんかお母さんに払ってもらえばいいだろ。私の娘に行ったみたいにさ。」

「この年で親を頼れるわけねえよ。」

「うーん。」

母はわざと考え込むそぶりを見せ、にっこりと微笑んだ。

「それなら、金貸しに行け。お前もよく知ってるだろ。私らヤクザ御用達の金貸し屋があるじゃないか。それが無理なら、命で払ってもらうしかないね。刻んで売れば、お前みたいな卑怯野郎でも50億は下らないだろ。余った分は親にでも渡しておきな。悪い話じゃないよ。」

「そんな、嫌だ。」

「じゃあ、金貸しから借りるんだな。」

そして、事務所にやってきた金貸しから8000万円を借りて、加藤は連れて行かれてしまった。その後、金貸しから聞いた話によると、加藤は研究所にモルモットとして送り込まれ、他の組員は荷揚げの船に乗せられることになった。加藤のような卑怯な奴の下についているより、荷揚げをしていた方がよっぽど組員も幸せだろう。加藤は40歳過ぎの初老だったが、研究材料としては十分に使えるらしい。とは言っても、送り込まれたのは闇の世界に精通している研究所だ。あらゆる薬品を投与されて体も内臓もボロボロになったところに体力検査をされたりと、繰り返される実験の嵐にかなり辛い状況らしい。

耐え切れなくなった加藤は、助けを求めるため絶縁している父親へと連絡を入れた。父親が加藤に会いに行くと、顔色が悪く、髪の毛もすっかり抜け落ちているひどいあり様だったらしい。それなのに、口だけは相変わらず達者だった。

「親父、俺を助けに来たんだよな。金は持ってきたのか?俺は金がないとここから出られないんだよ。」

釈放にはかなりの額が必要になるが、そんな大金を用意できるはずもない。父親が加藤を一喝すると、加藤と父親は殴り合いになったらしい。その出来事があってから、父親は加藤を完全に見放し、絶縁したとのことだ。

母は加藤が金貸しから借りた8000万円を握りしめて戻ってきた。そのうち3000万円は私に、3000万円が喫茶店にそれぞれ渡された。商店街の人たちは問題が解決したことを喜んで、母にいくらお礼を渡せばいいだろうと言ったが、母はそれを断った。

「娘のためにやったことだからね。もし礼をする気持ちがあるなら、どうかこれからも娘と仲良くしてやってください。」

と言っていた。しばらくして喫茶店の奥さんも無事に退院し、喫茶店も私の店も元気に店を開けられている。それに、私は母の言葉のおかげで商店街の人たちとも変わらずに仲良くやれている。そして、商店街は無事に前のような活気を取り戻した。

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