里帰り出産から4ヶ月ぶりに自宅へ戻った私を待っていたのは、無くなったブランドバッグと、警察を呼んだ私を殴った夫だった。すぐに気づいた。ソファーは繋げて置かれ、甘い香りが漂っていた。夫の下着からは、私ではない女の指紋が見つかった。問い詰めると、彼は「警察なんか呼ぶからだ」と拳を振り下ろした。私はもう、騙されない。彼が私に払ったお金も、新しい結婚も、すべて計算づくだった。彼女の正体に気づいた時、…

里帰り出産から4ヶ月ぶりに自宅へ戻った私を待っていたのは、無くなったブランドバッグと、警察を呼んだ私を殴った夫だった。すぐに気づいた。ソファーは繋げて置かれ、甘い香りが漂っていた。夫の下着からは、私ではない女の指紋が見つかった。問い詰めると、彼は「警察なんか呼ぶからだ」と拳を振り下ろした。私はもう、騙されない。彼が私に払ったお金も、新しい結婚も、すべて計算づくだった。彼女の正体に気づいた時、...

警察を呼んだのは私だ。生まれたばかりの赤ちゃんを抱え、里帰りから4ヶ月ぶりに自宅へ戻ったその日に、私の宝物がすべて消えていた。

家のドアを開けた瞬間、違和感があった。何か甘い香りが漂っている。リビングに入ると、ソファーが二つ、繋げて置かれている。以前は私が座る一人用と、夫が寝転ぶ三人用が離れて配置されていたのに。

おむつを替え、荷物をしまおうと寝室のクローゼットを開けて、言葉を失った。独身時代からコツコツ集めてきた海外ブランドのバッグが、全部ない。限定品で50万円以上したものもあった。

必死に家中を探したが、見つからない。夫に電話しても、出ない。実家の母に相談すると、母は言った。「高価なものだけ盗まれてるんでしょ?」

確かに、普段使いの数千円のバッグは全部残っている。私はすぐに警察に電話した。警察が事情を聞き、現場検証をしていると、夫の信之が帰ってきた。

私が状況を説明すると、夫は不機嫌になった。「なんで警察呼ぶ前に俺に相談しないんだ?」

「電話したわよ。何度も。出なかったじゃない」

夫は気まずそうな顔をした後、警察官に向かって信じられないことを言った。「大丈夫です。こちらで全部調べますから、お引き取りください」

私は驚いて叫んだ。「何言ってるの? 全部で200万円分ぐらいのバッグなのよ。絶対に犯人を見つけて返してもらわないと困るわ。すみません、ちゃんと捜査してください」

警察が帰った後、夫に詰め寄ると、彼は冷たく言い放った。「いくら高いか知らないが、随分古いのもあるだろ。もう2、3年使ったんだから、亡くなったっていいじゃないか」

「良くないわよ! 給料から少しずつ貯金して、ボーナスが出ても使わず我慢して、一生懸命貯めたお金で買ったのよ。どんなに古くたって、とっても大事なものなの」

夫は私を横目で見て吐き捨てた。「本当、女ってくだらないよな。千円のバッグだろうが百万円のバッグだろうが、使い道は同じだろう。そんなもののためにわざわざ警察呼ぶなんて信じられない」

私は夫の顔をまっすぐ見て言った。「ねえ、なんでそんなに警察呼ぶのを嫌がるの? もしかして、あなたが犯人なの?」

その瞬間、視界が揺れた。夫の拳が、私の顔面に飛んできたのだ。一瞬、何をされたのか分からなかった。頬がじわりと痛み始め、口の中で血の味が広がる。

「あなた、今、殴った?」

腫れ上がった顔で口元から血を流しながら夫を睨むと、夫は怯えた。「え、いや、だから警察なんか呼ぶから……」

「今、呼び戻しましょうか。夫に暴力振るわれましたって、訴えてやるから」

私がそう叫ぶと、青ざめた夫は必死に謝った。「頼むから、警察だけはやめてくれ。もう二度とこんなことしないから」

「どっちのこと? 殴ること? バッグを盗むこと?」

怒りのあまり表情が歪んでいたのだろう。私の顔を見た夫は突然、金切り声を上げた。「だから俺はお前が嫌いなんだよ! いつも強気で俺をコケにしやがって!」

そう言うと夫は寝室に入り、鍵をかけてしまった。絶対に何か知っている。こうなったら、絶対に真実を見つけ出してやる。心に誓った。

数日後、警察から連絡が来た。第三者の指紋が、クローゼットや残されたバッグだけでなく、ソファー、寝室のベッドや布団、洗濯機の中に脱ぎ捨てられていた夫の服や下着からも見つかったという。

「これはただの窃盗とはちょっと違うようです。ご主人、何か事情を知っているんじゃありませんか?」

警察も、夫が何かに関係していると感じていた。私は夫に単刀直入に聞いた。「あなたの下着にまで指紋がついてるってことは、あなたとその指紋の人は、そういう関係だってことよね」

そこまで言うと、夫は観念した。相手の女性は隣町に住む、バーの朝美という女性。確か何人もの男性と付き合っているという噂のある美人だ。夫の話によると、私が里帰り中、通っていたコーヒー店で彼女から声をかけられたらしい。「気の強いお前と違って、女らしく優しく包み込んでくれる彼女」に惹かれて、家にあげるようになった。そして彼女が私のバッグコレクションを見て欲しがったため、一つまた一つとあげていったと白状した。

「で、あなたたちは今後どうするつもりなの? 結婚したいの?」

夫は頷いた。「君には悪いと思ってる。でも、4ヶ月も家を空けた君も悪いんだ。一人寂しく飯を食ってた俺を、彼女は慰めてくれたんだ」

「好きで里帰りしたわけじゃないわ。私たちの赤ちゃんのためでしょう? 一人が寂しいからって、出産で大変な思いをした妻より、ちょっと優しい言葉をかけてきた女を取るなんて」

もういい。こんな男はこちらから願い下げだ。私は警察に被害届を出したまま、三人で話す機会を設けることにした。

朝美は開口一番、「被害届、すぐに取り下げてちょうだい」と言ってきた。

「なんでですか?」

「なんでって、私と信さんが犯罪者扱いされるじゃない」

「扱いじゃなくて、犯罪者そのものでしょ。それに、あなた、盗んだバッグ全部、買わせるの?」

朝美は口ごもった。半分以上はオークションサイトで売ってしまったらしい。「残ってるバッグ返すから。それでいいじゃない」

「いりません。あなたが使ったものを今更返されても、気持ち悪くて使えないもの。きっちり賠償金請求させてもらうわよ。それと離婚の慰謝料、子供の養育費を一括で払ってくれるって言うなら、被害届を下ろしてもいいけど」

夫と結婚して5年も経っていないので、それほどの金額ではないと思ったらしい。朝美は勝ち気に言った。「分かった。払うわよ。払ったら絶対に取り下げてくれるのね?」

「ええ、約束する。でも、払えるかしら? 弁護士に計算してもらったら、1500万円くらいですって」

それを聞いて、二人とも絶句した。慰謝料はそれほどでもないが、生まれたばかりのこの子の養育費20年分となると、それだけで1000万円以上になる。高額でも何でもない、平均的な額だ。

夫が埋め合わせるように「せめて分割で」と言ったが、途中で支払われなくなると困るので一括を要求した。一週間後、どう工面したのか分からないが、私の口座に1500万円が振り込まれ、被害届は取り下げた。

その後、再び三人で会い、私と夫は離婚届に署名した。すると朝美が今度は婚姻届を取り出して、夫に差し出した。夫はニコニコしながら署名し、「じゃあ今から出してくるわ」と機嫌良さそうに言う。私は、完全に有頂天になっている元夫に、とても残念なものを見せた。

「何、これ?」

「う…… これは、朝美さんが他の男ともラブラブな写真よ。20枚。相手の男は全部で7人」

私は朝美の存在を知って、夫に2週間の調査を依頼していた。「あまりいい噂を聞かないから、ちょっと心配で調べたの。随分と派手なのね」

写真を見て震えている元夫には気の毒だが、もっと衝撃的なことを最後に伝えることにした。「ねえ、なんで朝美さんがあなたとの結婚をそんなに急いだと思う?」

「そりゃ、俺を愛して……」

「違うわ。あなたじゃなくて、あなたのお金」

夫は椅子から立ち上がり、「そんなわけないだろ!」と店内中に響き渡る大声で叫んだ。

「どうやら彼女、既婚者が好きみたいね。この7人、全員既婚者なの。つまり、結婚してる男に引っかかるのが好きなわけ」

「た、なら遊びだろ。単なる」

元夫の声は震えている。「そうね。この中であなたが一番いい会社に勤めてるみたいだからね。でも、それが仇になったわ」

「どういう意味だよ。はっきり言え」

「かわいそうだけれど、あなたには知る義務がある。朝美さんね、この7人の奥様全員から慰謝料請求されてるみたいよ。結婚生活が長い夫婦もいるから、多分合計で1500万円以上。もし離婚となれば、その他、財産分与や養育費も請求されるはずだわ。多分あなたが一番高収入だと踏んで、慰謝料をあなたに払わせようとして、結婚を急いだんだと思うわ」

そこまで言ってやると、夫に反論する力はなかった。ソファーにどさっと腰を下ろすと、両手で顔を覆って震えている。ショックで泣いているのかもしれない。

「じゃあね。愛する朝美さんのために、これから一生頑張ってね」

そう言い残し、私は喫茶店を後にした。遠くで朝美が勝ち誇った表情で私に手を振る姿が見えた。私も力いっぱい手を振り返してあげた。

それから何度も夫から復縁を願う連絡が来たが、当然ながら断った。朝美が離婚に応じるわけないしね。まあ、その原因を作ったのは私だけれど。探偵事務所で7人の浮気相手の素性を調べてもらい、彼らと朝美の浮気写真を、奥様たち宛てに送付したのだ。

今では、あの二人は借金まみれで家も失い、やばい人たちにどこかに連れ去られたと聞く。でも、悪いことをしたとか、気の毒だなんて、これっぽっちも思わない。今、私は子供と一緒に実家に帰り、両親の助けを借りながら子育てと仕事に頑張っている。今後もし新しい縁が芽生えたら、その時はしっかり相手のことを見極められるように。

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