「親が同居するんだ。荷物はお前が全部片付けろ。余計なことは言うな」 引っ越し当日、夫が突然そう言い放った。義両親の前で、私は夫が勝手に決めたことを聞かされた。心臓はバクバクしているのに、なぜだか怖くはなかった。私は夫の嘘を暴くための準備を、とうに終えていたのだ。 「私が同居を提案したって言ったんだって?違うわよね、おとうさん、おかあさん」…

「親が同居するんだ。荷物はお前が全部片付けろ。余計なことは言うな」 引っ越し当日、夫が突然そう言い放った。義両親の前で、私は夫が勝手に決めたことを聞かされた。心臓はバクバクしているのに、なぜだか怖くはなかった。私は夫の嘘を暴くための準備を、とうに終えていたのだ。 「私が同居を提案したって言ったんだって?違うわよね、おとうさん、おかあさん」...

引っ越し当日、夫の拓斗は大量の荷物と共に言い放った。
「今日から俺の両親も同居な。荷物はお前が全部片付けろ。いいか?両親には余計なこと言うな。お前は夫の言うことを黙って聞いていればいいんだ。」

背後から現れた義両親は、何も知らない。夫が私に無断で同居を決めたこと。そして、あのことも。

「リカさん、ありがとう。よしから聞いてるよ。リカさんが同居を提案してくれたそうだね。」
「よしも幸せものね。リカさんのようなお嫁さんをもらって。」
「リカは本当にできた嫁なんだ。同居を提案してくれた時は嬉しかったよ。リカ、これからもよろしくな。」

そう言って夫は嘘を並べた後、先に義両親を新居の中へ案内する。そして私と二人きりになった途端、吐き捨てた。

「俺の荷物は丁寧に扱えよ。分かったらさっさと片付け始めろ。」

もうこんな夫に遠慮することもない。義両親の前で徹底的にぶっ潰してやろうじゃないか。

「片付けは無理だって。あなたの荷物、ここに一つもないから。」
「はあ?俺の荷物はお前に頼んでたよな。忘れたとは言わせないぞ。」
「うん。確かにあなたの荷物は送ったよ。でもここにはないの。」
「さっきから何言ってんだ?分かるように説明しろ。」

私の態度がいつもと違うことを察したのか、夫は怒りに任せて大声をあげた。私は強く意見することが苦手で、結婚してからも夫に従順だったと思う。夫が私を選んだのも、そんな性格が扱いやすかったのだろう。でも、もう夫の思うようにはさせたくない。私は夫の大声にひるまず、まっすぐ目を見た。

そこに、夫の大声を聞いた義両親が戻ってくる。
「どうした?よし、大声なんか出してご近所さんに迷惑になるだろう。」
「さっきまで何もなかったのに、急にどうしたのよ。事情を話してご覧なさい。」
「ごめん、ごめん。ちょっとびっくりして大きな声が出てしまったんだ。リカが俺の荷物を新居に送り忘れたみたいで。」
「そうなのか、リカさん珍しいね。しっかり者のリカさんが忘れるなんて。そんなこともあるわよね。大丈夫よ、リカさん。私たちも手伝うから、今からでも取りに行きましょう。」

「いえ、大丈夫ですよ。お父さん、お母さん。忘れたわけではないので。荷物は私の弟が送ってくれる予定です。」
「なんだ、エイ太君が運んでくれるのか?それを先に言えよ。」

夫は普段から弟と仲良くしているのもあってか、少し表情を緩めた。その表情を見て、この人は何も知らないと心の中で笑う。そして私は義両親に事実を伝えた。

「それよりも、お二人に謝らないといけないことがあります。私、同居はできません。よしは私が同居を提案したと言いましたが、私は同居のことを聞いていませんでした。」
「え、なんだって?」

何も知らなかった義両親は困惑した表情を浮かべる。本当に二人には申し訳ない。それもこれも、夫の身勝手のせいだ。義両親はわけが分からないまま夫に理由を尋ねた。
「よし、どういうことなんだ?お前が勝手に決めたということか?私たちを騙したということ?答えなさい、よし。」
「何言ってんだよ。俺が父さんと母さんを騙すわけないだろう。最近俺の仕事が忙しくてリカとの時間が少なくなってたんだ。だからリカは同居のことも忘れてしまったんだよ。リカはしっかり者のように見えて抜けてるところがあるからさ。」
「そんな大事なこと忘れるか?お前、嘘ついてないだろうな。」
「いやいや、嘘なんてついてないって。なあ、リカ。」

そう問いかける夫の顔は明らかに焦っていた。私が何も言えないと高をくっていたのだろう。即席で用意したであろう夫の言い訳はかなり苦しいもので、義両親は疑いの目を向けている。そんな義両親に、私は新たな事実を伝えた。

「残念ですが、よしは嘘しかついていません。私のことを本当にできた嫁と言っていましたが、家では毎日のようにののしられ、こき使われていました。断るごとに離婚をちらつかせて脅されてもいました。」
「はあ。そんなこと、わしや母さんは知らないぞ。おい、よし。どういうことだ?」
「待ってくれよ。なんでリカの話を真に受けるんだよ。リカが嘘をついている可能性もあるだろう。なあ、リカ、いい加減にしてくれよ。これから新居で家族仲良く暮らしたいと思っているのは俺だけか。」

私だって仲良く暮らしたかった。でも夫とはもう終わり。もっと早く行動に移すべきだった。私にあるのは、そんな後悔だけだ。もう一度夫の目をまっすぐ見て、私は口を開く。

「十一月二十二日、あなたはどこに行ってたの?」
「なんだよ急に。その日は出張に行ってた。場所は京都だ。これはリカにも伝えたはずだよな。」

その言葉を聞いた直後、私はスマホを取り出し、画像を映した状態で夫と義両親にかざした。そこには夫と女性が映っている。日付は十一月二十二日だ。

「ここに写っている場所は京都じゃないわ。あと、この女性は同僚でもないでしょう。よし、あなた、浮気旅行してたのよね。」

写真には東京タワーが映っていたので、義両親もすぐに理解をしてくれたようだ。一瞬で顔色が変わり、夫に冷たい視線を浴びせた。

「次から次へと、よし。いい加減にするのはお前だ。出張だと嘘をついて浮気だと?ふざけるな。」
「父さん落ち着けって。この人は同級生だよ。浮気相手なんかじゃない。それに画像はリカが捏造したかもしれないだろう。決めつけないでくれよ。」

義父は怒りで、義母は失望で体を震わせた。

「捏造したなんて、そっちの方こそ決めつけないで欲しい。私はただ事実を言っているだけ。夫は出張と嘘をつき、浮気相手と旅行に行った。それだけだ。」

夫はあくまで白を切るつもりのようだが、画像だけが証拠ではない。私はすでに夫を追い詰める準備を進めてきたのだ。それを証明してくれる人が、もうすぐやってくる。夫が地獄を見るのは、ここからだ。夫がまくし立てる中、新居の前に一台のトラックが止まった。その車から超心の男性が現れる。私の弟だ。

「エイ太君、ちょうどいいところに来てくれた。リカがいきなり変なことを言い出したんだよ。俺が浮気してるとか何とか。君なら俺を信じてくれるだろう。なんとか言ってやってくれ。」
「分かりました。それでは言わせてもらえますね。お兄さん、三百万円支払ってください。」
「三百万?エイ太君、どうした?君まで変なこと言って。」
「浮気の慰謝料三百万円払えって言ってんの。俺の姉ちゃんを傷つけたんだ。これでも足りないくらいだ。」

そう言って弟は一枚の書類を突きつける。それは慰謝料請求書だった。夫は弟の行動に理解が追いつかず固まった。仲良くしていたはずの弟がなぜ?そう言いたいのか、夫は弟を射るように見ていた。そんな夫に私が事情を説明する。

「エイタがあなたと仲良くしていたのは、浮気の調査をしやすくするためよ。さっき見せた画像も、エイタが隠し撮りしてくれたの。探偵事務所にも依頼してくれた。証拠なら山ほど用意できると思う。」
「嘘だろ?エイタ君、俺を騙してたのか?」
「あんたバカなの?俺は姉ちゃんを助けるために行動しただけ。騙していたのはあんたの方だろうが。いいか、よく聞け。姉ちゃんはあんたの所有物じゃない。ずっと尽くしてくれていたのに感謝もしないでこき使った。絶対に償わせてもらうが、それでも一生許すつもりはない。」

これまでの人生の中で、弟がこんなに激怒したのは初めて見た。弟に相談した時は怒りはあったものの、冷静に事を進めてくれた。だから今、弟が私のために怒ってくれている姿を見て、思わず涙がこぼれた。弟の姿に驚いていたのは夫と義両親も同じ。特に夫は、弟に追い詰められるとは夢にも思っていなかったようで、下唇を噛んで俯いた。ただ、夫は弟の言葉を受け止めるつもりはないようだ。とうとう開き直り、こんなことを言い出した。

「姉もバカなら弟もバカだな。俺の浮気相手は会社の社長令嬢なんだよ。それに俺は次期社長候補とも言われている。慰謝料三百万なんざ、速攻で払ってやるよ。俺が社長になったら真っ先にお前らを潰してやるからな。」

夫の辞書に反省という文字はないらしい。謝罪らしい謝罪もなく、口を開けばまくし立てるだけ。浮気相手が社長令嬢であること、あと夫が次期社長候補というのは本当のことだった。でも、そんなことは関係ない。だって夫はもう、すでに全てを失っているから。夫が金目当てで浮気をした。当然、それも私たちは知っている。そして夫が知らない事情も、すでに握ってある。私は深呼吸をして、とどめの一撃を放った。

「あなたの浮気相手、既婚者よ。ちなみに、あなたの荷物は浮気相手の実家に送ったわ。彼女、旦那さんと実家に暮らしているそうよ。これから面白いことになりそうね。」
「はあ?嘘だろ?」

浮気相手の両親と旦那さんにも夫の愚行は筒抜けだ。次期社長候補なんて笑わせてくれる?きっと夫は会社にもいられなくなるだろう。夫もすぐに状況を理解したのか、またも態度を一変させる。ニヤニヤとした表情で、ごまをするように話しかけてきた。

「あは、それを先に言ってくれよ。さっきの言葉は全部なし。俺が悪かったなあ。リカ、俺たちまだやり直せるよな。」

その言葉に目を丸くしたのは私だけではない。それもそうだろう。こんな身勝手な発言が許されるはずもない。夫は自分の首を締めていることにも気づかず、今までのことをなかったことにしようとしている。本当にバカな人だと私は呆れた。でも、私ももっとバカだと改めて思う。こんな人に尽くしていた。こんな人の言うことを聞いてしまっていた。間違えていたのは私も同じだ。だから私は、今日を機に変わろう。そう思い、私は夫に最後の言葉を伝えた。

「世の中にはね、取り返しのつかないことがあるの。ちなみにさっきまでの会話はボイスレコーダーに録音してあるから、これも浮気相手の実家に送っとくわね。」

そう言って突き放すと、夫がブルブルと震えながら膝から崩れ落ちた。義両親は首を横に大きく振る。弟も深くため息をついた。その後、夫は義両親から絶縁された。浮気相手の両親にも呼び出され、私が想像もできないくらい大激怒されたらしい。もちろん、浮気相手も両親に縁を切られ、旦那さんにも離婚を言い渡された。社長令嬢という肩書きがなければ何も残っていないようで、最後の最後まで泣きついていたそうだが、誰一人怒りを収まらなかったみたい。夫と浮気相手はお互いに責任をなすり付け合うことしかできず、結局別れてしまった。ここで二人が協力できていれば、彼らの人生も少しは変わったかもしれない。でも、私にとってはどうでもいいこと。後悔しながら生きていけばいいと思う。

義両親はと言うと、改めて私に謝罪をしてくれた。
「リカさん、本当に申し訳ない。わしらは君の悩みに気づくことができなかった。よしがあんな風になってしまったのも、親であるわしの責任だ。許してもらえるとは思っていないが、この通りだ。もし困ったことがあったら、いつでも相談してね。私たちにはそれくらいしかできないから。」

深々と頭を下げた義両親に、私はすぐに頭をあげるよう伝えた。私の味方になってくれた義両親には感謝すれど恨みはない。私は大丈夫。そんな思いで二人に笑顔を向けた。

夫と離婚した私は、新居で新しい生活をスタートさせた。隣には弟がいて、今でも私を支えてくれている。あの騒動の後、私は弟に感謝を伝えた。
「エイタ、本当にありがとう。」
「何言ってんだよ、姉ちゃん。俺たち家族だろ?家族が支え合うのは当たり前じゃないか。俺は姉ちゃんが困っていたら、どんな時でも助ける。だからいつでも頼ってくれよ。もうお姉ちゃんが傷つくところは見たくないからさ。」

弟は照れることもなく、爽やかな笑顔を向けてくれた。弟の言う通り、家族は支え合うものだと実感している。ただ、それは当たり前ではないと思うのだ。たとえ家族であっても、人を助けるということは案外難しい。だから私は、いつでも感謝の気持ちを忘れたくない。この気持ちはずっと変わらないだろう。

そして、私自身の新しい人生も始まった。長年続けた在宅ワークをやめ、会社に復帰することにしたのだ。結婚時に仕事を辞めさせられたが、元の会社に事情を話すと、快く正社員として迎え入れてくれた。久しぶりの通勤、久しぶりのオフィス。最初は緊張したが、同僚たちの温かい歓迎に、自分がようやく自由を取り戻せたことを実感した。仕事は大変だが、充実感があった。自分の収入で生活を組み立てていく。それは、結婚生活中には味わえなかった解放感だった。

あれから数年が経ち、私は今、充実した毎日を送っている。あの日、新居で夫の嘘を暴き、自分の人生を取り戻す決意をしたことは、間違っていなかった。たまに思い出すのは、あの日の義両親がくれた言葉と、弟の力強い笑顔。そして、二度と誰かの所有物にならないと誓った、あの日の自分の気持ちだ。

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