夕方、親族への挨拶を終えて実家に帰宅した私に、突然男が話しかけてきた。元夫の明だった。「どうしても伝えたい話があるんだ」そう言って彼が見せてきた動画には、今の夫とその母親が私の父から相続した80億円の遺産を奪い取ろうと企んでいる姿が映っていた。「あの女は私たちが優しくしたら何でも言うことを聞いてくれる」という言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れ去った。しかも彼らは私を海外旅行に追い…

夕方、親族への挨拶を終えて実家に帰宅した私に、突然男が話しかけてきた。元夫の明だった。「どうしても伝えたい話があるんだ」そう言って彼が見せてきた動画には、今の夫とその母親が私の父から相続した80億円の遺産を奪い取ろうと企んでいる姿が映っていた。「あの女は私たちが優しくしたら何でも言うことを聞いてくれる」という言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れ去った。しかも彼らは私を海外旅行に追い...

「離婚してからもう結婚はしない」そう心に決めていた私は、義母からの苛烈な嫁いびりに耐えかねて、ようやく元夫の明と離婚したばかりだった。

明は私が働いて稼いだお金で生活していたのに、離婚となると「慰謝料を払え」と主張してきた。結局、離婚調停に1年近くも費やし、私が義母に虐げられていた証拠がない以上、主張は通らなかった。

疲れ果てた私は、父が一人で暮らす実家に戻り、静かに暮らしていた。そんなある日、友人から現在の夫となるひとを紹介されたのだ。

彼は優しく、私が「結婚する気はない」と伝えても、「お父さんと同居しても構わない。好きにしていいから結婚してほしい」と言ってくれた。前回の結婚で義母との同居に苦しんだ私は、彼に確認した。

「あなたのお母さんと私はうまくやっていけるかしら?」

ひと は笑いながら言った。

「ともかが嫌なら、僕の母とは付き合わなくていいよ。挨拶程度で大丈夫だろう。」

その言葉に安心し、私はひととの結婚を決意した。実家で体調の優れない父の世話をしながら暮らすことを、ひとも義母のよし子も了承してくれた。よし子は元銀行員で、父の会社と取引があったこともあり、私の実家のことを知っていた。

結婚後、3人の生活が始まった。ひとは父にも優しく、私はようやく幸せを掴めたと思った。

しかし、その幸せは長く続かなかった。父の容態が急激に悪化し、医師から「もう長くはない」と告げられたのだ。落ち込む私をひとは支えてくれた。よし子も頻繁に見舞いに来てくれた。

ある日、病室から戻ると、扉の前でひととよし子が何か話し合っていた。

「そろそろ限界かしらね。」
「もう言ってほしいよ。」

私に気づくと、2人は慌てて話をやめた。よし子は急いで帰っていき、ひとは取り繕うように私に話しかけてきた。疑問に思ったが、父の容態が気がかりで、それ以上追求する気にはなれなかった。

そして数日後、父は帰らぬ人となった。私は悲しみで何も考えられず、葬儀はひととよし子がすべて取り仕切ってくれた。2人には本当に感謝していた。

葬儀も49日の法要も終わり、ひとの口から驚くべき提案がなされた。

「お父さんが残した財産は、元銀行員の俺の母さんに管理を任せるよ。その方がともかも安心できるだろう。」

父は複数の会社を経営しており、資産総額は80億円にも上るという。一人で管理しきれる額ではないと思った私は、ひとの提案を素直に受け入れた。

その日も親族への挨拶回りで家を空けていた私は、夕方帰宅したところで、不意に人影に話しかけられた。

「ともか、俺だよ。あだよ。どうしても伝えたい話があるんだ。」

元夫の明だった。警察から近づくなと言われているはずなのに、彼は私にスマートフォンの画面を見せてきた。

そこには、ひととよし子が話し合っている映像が映っていた。実家の中のようだ。

「計画通りうまくいったね、母さん。ともかはすっかり俺たちを信用しているから、80億円の遺産は俺たちのもんだよ。」
「あの女も単純で、私たちが優しくしたら何でも言うことを聞いてくれる。」

映像は続く。よし子が恐ろしい計画を口にした。

「ともかを海外旅行にでも追い出しているうちに、土地や建物の株の名義を私たちに変えてしまいましょう。」
「お父さんが80億の財産を持っていなければ、あんなバカ女なんかと結婚するわけないよ。」

私と結婚した理由が、父の遺産を奪い取るためだと知ってしまった。ひとへの愛情は、瞬時に怒りへと変わった。

私は明から動画をコピーしてもらい、何食わぬ顔で実家に戻った。すると、よし子がまだいて、満面の笑顔で私を迎えた。ひとはニヤニヤしながら言ってきた。

「ともかも葬儀で疲れただろうから、海外旅行にでも出かけてくればいいよ。後のことは俺と母さんでやっておくからさ。」

計画を知っている私は、吹き出しそうになるのを必死に堪えて、「お言葉に甘えてそうしようかしら」と答えた。

翌日、ひとが旅行の手配に出かけたのを確認してから、私は弁護士に連絡し、父から相続した遺産の管理をすべて任せた。

夕方、ひととよし子が帰宅した。弁護士が実家にいるのを見て、ひとは不機嫌そうに言った。

「なんで弁護士がいるんだよ。財産の管理は母さんがするから必要ないだろう。」

私はスマートフォンで動画を見せながら、はっきりと告げた。

「海外旅行中に財産の名義変更をしようと計画しているようだけど、そんなことさせないわよ。」

2人は顔色を変えて固まった。やがてひとは怒り出した。

「いつの間に隠しカメラを仕掛けていたんだ。俺たちを騙しやがったな。」

「隠しカメラなんて置いてないわよ。泥棒がたまたまあなたたちの会話を録音していたのよ。」

よし子も真っ赤な顔で怒鳴る。

「そんな都合のいいことあるわけないでしょ。その泥棒を連れてきなさいよ。」

そこで弁護士が冷静に口を挟んだ。

「撮影者は、窃盗の現行犯ですでに警察に捕まっています。」

明は私の通報によって、すぐに警察に逮捕されていた。自分で撮影した動画が証拠となり、言い逃れはできなかった。

80億円を奪い取る計画が露見した2人は、悔しさで何も言えずにいた。私は離婚届をひとに差し出した。

「計画では私が旅行から帰ってきたら離婚するようだけど、今離婚してちょうだい。」

決定的な証拠を突きつけられたひとは、しぶしぶサインした。よし子は叫んでいた。

「80億も手に入ると思って、お金をたくさん使ってしまったわよ。このままなら自己破産しなきゃならないわ。」

するとひとは、図々しくも言い出した。

「ともか、俺たちに1000万円くらいくれないか。」

呆れた提案に言葉も出なかった。私はすぐに2人を実家から追い出し、彼らの荷物をすべてよし子の元に送り返した。

その後、ひととよし子は自己破産したらしい。私は相続税を支払い、父が持っていた海外の別荘へ移住した。ここならセキュリティも万全で、私が海外にいることを知る者もいない。

父が残してくれた財産は、多くの騒動を引き起こしたが、おかげで私は優雅な海外生活を送ることができている。

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