「会計150万、支払いよろしくね」 義母はクスクスと笑いながら、私に高額な請求を押し付けてきた。 私たち家族は、義実家の人たちによって自宅の部屋に閉じ込められていた。私が息子を励ますために予約した高級寿司店に、義母と義姉たちが勝手に乗り込んだという。予約は明日だったのに、彼らは私の名前を使って今日の予約を横取りし、店内で好き放題した挙げ句、そのツケを私に払わせようとしている。…

「会計150万、支払いよろしくね」 義母はクスクスと笑いながら、私に高額な請求を押し付けてきた。 私たち家族は、義実家の人たちによって自宅の部屋に閉じ込められていた。私が息子を励ますために予約した高級寿司店に、義母と義姉たちが勝手に乗り込んだという。予約は明日だったのに、彼らは私の名前を使って今日の予約を横取りし、店内で好き放題した挙げ句、そのツケを私に払わせようとしている。...

「会計150万支払いよろしくね」
義母はクスクスと笑いながら、高額な請求を当然のように私に押し付けてきた。
「会計って、何のことですか?」
私は冷静に尋ねた。
「あなたが予約した寿司屋の会計よ。予約した人の責任として、ちゃんと払ってちょうだい」
「え? 寿司屋の予約は、明日ですよ」
その瞬間、電話の向こうの空気が凍りついた。

私はトマ、29歳。近所のスーパーでパートをしながら、2歳年上の夫・茂之と、6歳になる息子・一郎と暮らしている。
義実家は運送事業を営み、社長である義父と、茂之の姉・春彦が会社を支えていた。

茂之とは8年前、実家の父の紹介で知り合った。
当時から穏やかで物柔らかな彼に、私は次第に惹かれていき、交際から1年が経った頃、私の方からプロポーズした。
その後、義実家の敷地内に新居を建て、結婚生活をスタートさせた。
翌年には息子の一郎も生まれ、私は満たされた日々を送っていた。

しかし、義実家で暮らす義母と義姉の存在に、私は頭を悩ませていた。
元々2人は茂之のことをよく思っていない。
大学を卒業した茂之は、長男という立場でありながら義父の後を継がず、IT企業に就職した。
そのことが2人は気に入らず、「長男として恥ずかしい」と下げ擦っていた。
その影響で、私にも冷たい態度を取ってきた。

一郎が保育園に通い始め、私がパートを始めると、2人は「経済的に困窮している」と決めつけ、会うたびに嫌味を言ってくるようになった。
「パートしないと生活できないなんて、遠野家の人間として恥ずかしいわ。本当に情けないったらありゃしない」
実際は、茂之の収入だけでも余裕のある生活ができている。
それでも私がパートに出たのは、社会を知るためだった。
専業主婦として家にこもっていれば、視野が狭くなってしまう。
外で働くと世間の流れを身近に感じられ、私にとって学びの場となっているのだ。
しかし、義姉と義母はただの強がりとしか受け止めなかった。

2人が私たちを下げすのには、もう一つ理由がある。
結婚当初、私は実家の家業を「地方で古い工場を経営している」と説明していた。
実際には様々な事業を営んでいるのだが、真実は茂之だけが知っていればいいと、祖父が立ち上げ父が引き継いだ工場経営だと知らされたのだ。
そのことで2人は「私の実家は潰れかけの零細企業」と決めつけ、「財産目当てで茂之と結婚した」と見下すようになった。

同じ時期に結婚した義姉は、家を継がない茂之の代わりに会社をもらったと言い、義父の信頼を得た春彦がトントン拍子に出世していることを自慢してきた。
しかし、無用な争いを避けたかった私は、義姉の挑発にも義母の嫌がらせにも耳を貸さなかった。
茂之と一郎と共に、3人の穏やかな生活があればそれでいい。そう思っていた。

だが、私が悔しがる様子もなく気にしないことが面白くなかった2人は、一郎の成長と共に私への嫌がらせをエスカレートさせていった。

ある日、義姉が一緒に食事に行こうと誘ってきた。
いつもは見せない満面の笑顔で「家族としての親睦を深めよう」と言う。
義姉が笑顔を浮かべる時は、何か魂胆がある時だ。
分かっていたが、断ればさらに嫌味を吐きかけられる。
それが面倒に思い、私は誘いに乗って一緒に食事に出かけた。

義姉と義母、そして義姉の5人の子供たちと、義家が行きつけだというレストランへ向かう。
店に着くと、義姉の子供たちは口々に食べたいものを注文し始めた。
どれも豪華なお子様ランチばかり。
「一郎は何が食べたい?」
その直後、義母が一郎の前に1つの弁当を差し出した。
「低収入の家庭の子は、これで十分」
差し出されたのは、数日前に購入したスーパーの弁当だった。よく見ると賞味期限も切れている。
「こんなもの、子供に食べさせるわけにはいきません」
「お母さんがわざわざ買ってきてくれたものを、食べられないっていうの?」
「これだから貧乏人は。私たちと同じものが食べられると思うなんて、まさしい」
2人は、私と一郎を辱めるためだけに誘ったのだ。
「ママ、僕これでいいよ」
一郎は泣きそうな顔で私を見つめた。
しかし、賞味期限の切れた弁当など、大切な我が子に食べさせるわけにはいかない。
私は一郎を連れて、レストランを後にした。

茂之や私への攻撃であれば我慢もできる。
しかし、一郎にまで被害が及ぶことは許せない。
その夜、私は仕事から帰ってきた茂之に2人の仕打ちについて話した。
「許せない。一郎は何も関係ないじゃないか」
茂之はひどく怒り、2人に抗議してくれた。
それでも2人は反省の色を見せなかった。

それからも、私たちは義姉と義母の嫌がらせに耐える日々を送っていた。

ある日、パートから帰ると義母に「すぐに義実家に来なさい」と呼び出された。
何事かと思い一郎と共に義実家を訪れると、部屋中が散らかり、壁には様々な色で落書きがされていた。
「子供たちが散らかした部屋を、元通りにきれいしなさい」
「どうして私が。散らかした子供たちに掃除させればいいでしょう」
「まあ、なんて生意気なの? 嫁に来たんだから、文句を言わずに命令に従いなさい」
理不尽だったが、義母にそう言われては反発もしづらい。
結局その時は義母の命令に従い、部屋を片付けた。
しかし片付けた直後から、義姉の子供たちがまた散らかして回る。
「ちょっと、掃除が終わるまで大人しくしてて」
私が子供たちに注意すると、それを聞きつけた義姉が激しく抗議してきた。
「自分が無能なことを、子供のせいにしないで」
「でもこれじゃ、いくら片付けても霧がないわ」
「それをなんとかするのが、嫁の勤めでしょ」
ニヤニヤと笑いながら私を見つめる義姉に、言いようのない苛立ちを覚えた。
結局その日は、子供たちを別室に集め、清掃業者を呼んで部屋をきれいにしてもらった。

「低収入のくせに、無理しちゃって」
「生活に困ったからって、私たちを頼らないでちょうだいね」
2人は嫌味な笑みを浮かべながら、私を嘲っていた。

義姉たちと縁を切りたい。そう思ったが、義父や春彦のことを思うと簡単に絶縁も言い出せない。
どうしたものかと頭を悩ませながら、私は日々を耐えていた。

そんな中、一郎が小学校に入学する時期になり、実家の両親が祝いに駆けつけてくれた。
「一郎ももうすぐ1年生だ。これはじぃじとばぁばからのプレゼントだ」
父は一郎に、一郎の体と同じくらいある大きな箱を手渡した。
一郎が期待に胸を膨らませながら箱を開けると、中からランドセルが出てきた。
知り合いに、一郎のために特別に作ってもらったという。
「ママ、パパ見て! これすっごくかっこいいよ!」
満面の笑顔を浮かべる一郎を見て、私も茂之も誇らしい気持ちでいっぱいだった。

入学式の日、一郎は真っさらなランドセルを背負って嬉しそうに笑顔を見せている。
「僕、いっぱい勉強してパパみたいなパソコンのプロになる!」
一郎の言葉に、私も茂之も笑顔が止まらなかった。

しかし、その数日後、事件が起きた。
一郎が入学して間もない頃のことだ。
パートが終わり家に帰ると、少し先に帰っていた一郎がランドセルを抱えて泣いていた。
一郎が見せたランドセルには、油性ペンで無数の落書きがされていたのだ。
よく見ると、カッターで切られた後もある。
聞けば、学校からの帰りに義姉の子供たちにランドセルを奪われ、「貧乏人のくせに生意気だ」と落書きをされたという。
「やめて」と懇願する一郎に対し、義姉の子供たちは「弱者だからいいよね」と言い放ち、次々に落書きをし、挙げ句の果てにハサミやカッターで傷つけたのだ。

一郎の話を聞いた私は、怒りに震えた。
一歩間違えれば、一郎自身が傷ついていたかもしれない。
腹が立った私は、すぐさま義姉の元へ向かった。
「別に怪我したわけじゃないし。そんなに怒ることないじゃない。子供のしたことよ。ランドセルなら、また新しいのを買ってあげれば済むでしょ」
「そういう問題じゃありません」
「あら、お金がないあなたたちに、代わりのものを買う余裕なんてないか」
義姉は何ひびも反省せず、あろうことか子供の不祥事をとがめもせずに、私を嘲笑した。
「親として子供を教育するのは当然でしょ。悪いことをしたらきちんと反省する。そんなことくらい、ちゃんと教えてください」
「あの子たちが何をしたって言うの? 強いものが弱いものを支配する、当然のことでしょ」
義姉は、底辺にいる私たちが上流階級の自分たちに貶められて当然と言い放った。
その言葉に、私は怒りを通り越して呆れてしまった。
「今後、一切一郎に関わらないで」
私はそう言い残し、その場を後にした。

家に帰っても、一郎は元気をなくしたまま、汚れたランドセルを抱えていた。
「せっかくおじいちゃんが買ってくれたのに」
息子の気持ちを考えると、胸が締め付けられる。
「ランドセルはパパに頼んで、新しいのを買ってもらうわ。おじいちゃんもきっと分かってくれる。だから元気出して」
でも、一郎はよほど気に入っていたのだろう。同じランドセルはもう手に入らないと、大粒の涙を見せた。

翌日になっても一郎は落ち込んだまま。
「そうだ。今度の休みに、一郎が大好きなお寿司を食べに行きましょう」
一郎を励ますため、私は子供の頃から両親と通った老舗のお寿司屋さんを予約することにした。
「お寿司やった!」
一郎は大喜びしている。
「じぃじも一緒に誘っていい?」
「もちろんよ」
一郎の笑顔を見て、私はほっと胸を撫で下ろしていた。

数日後の当日、私は一郎と共に外出の準備をしていた。
「これで準備OKね」
出かけようとしたその時、いきなり部屋の扉が閉まったのだ。
開けようとしても、扉はうんともすんとも動かない。
「ママ、怖いよ」
意味の分からない状況に、一郎は戸惑いを見せている。
その時、部屋の外から義姉の声がした。
「回らない寿司なんて、貧乏人にはふさわしくない。あんたたちはここで大人しく指でも舐めてなさい」
一郎から話を聞いた義姉は、私たちを寿司屋に行かせないよう部屋に閉じ込めたのだ。
「ちょっと、ここから出して」
「いやよ。お寿司は私たちで美味しく食べといてあげる。帰って来るまで、そのままそこで大人しくしてなさい」
義姉は私の声を無視し、そのまま寿司屋へと向かってしまった。

嫌がらせにもほどがある。私は怒りに震えた。
その時、一郎が「ママ、トイレ」と体を揺らし始めた。
とにかくここから出なきゃ。
私はスマホを取り出し、茂之に電話をかけた。
幸い自宅近くにいた彼はすぐに家に帰ってきてくれ、私と一郎を助け出してくれた。
「あいつら、もう許さない」
茂之も2人のあまりの行動に怒りで手が震えていた。

しばらくして、義母から電話がかかってきた。どうやら義母も一緒に寿司屋に行っていたらしい。
「会計150万、支払いよろしくね」
クスクスと笑いながら高額な支払いを求めてくる義母に腹が立つ。しかし、私は冷静に対応した。
「会計って、何のことですか?」
「あなたが予約した寿司屋の会計よ。予約した人の責任として、ちゃんと払ってちょうだい」
「寿司屋への予約は、明日ですよ。今日は一郎と買い物に行く予定しかありませんでした」
「そんな嘘はいいわ。とにかくすぐにこっちに来て、支払いを済ませてちょうだい」
義母はそう言い放ち、電話を切ってしまった。

呆れながら、私は茂之と共に寿司屋へと向かった。
店に到着すると、店内には険悪なムードが漂っている。
聞けば、私の名前を語って乗り込んだ義母と義姉たち一家は、何をやっても責任は妻にあるとして好き放題しまくったらしい。
義姉の5人の子供たちは店内を走り回り、他の客にも迷惑をかけているというのに、2人は「子供がすることに文句を言うな」と平然と見て見ぬふりをし、店内に置いてある装飾品を壊しても一切謝らない。
そればかりか、店全体に醤油をかけ、ふすまにも落書きをし、破いて回ったのだとか。
その様子に腹を立てながらも、大将は私の身内だと我慢し、彼女たちの注文に答え続けた。
しかし、店をぐちゃぐちゃにされて黙って帰らせるわけにはいかない。大将は店の修繕費を請求することにした。
ようやく会計を求めた際、大将は壁の染みを抜くための特別な清掃費と営業保障を含めた150万円を請求したところ、義姉たちは「支払いは妻がする」と言い、私に電話をかけてきたというわけだ。

「ぼったくりの店を紹介するなんて、さすが貧乏人だわ。さっさと会計しなさい。私はもう帰りたいのよ」
2人は私に会計を催促してきた。
「私が予約していたのは、明日です。人の名前で勝手に飲食したものを、支払うことはできません」
「生意気なこと言わないで。あんたの子が、今日予約してるって言ったのよ」
実際のところ、最初はこの日を予約していた。
しかし、一郎から義姉の子供に予約のことを話したと聞き、急遽日付を変更してもらったのだ。
「子供から私たちが寿司屋に行くと聞いた義姉たちは、必ず私の名前を語って店を訪れ、好き放題するに違いない。そう確信していました」
「私たちを騙したのね。この罪は重いわよ」
義姉と義母は激しく怒り出し、私に支払いを強要してきた。

その時、店の大将が声を上げた。
「妻が支払う必要はない」
「さつ呼び捨てなんて、あんたたちそういう関係なの?」
義姉は淫らしい目で私と大将を見つめた。
「俺はさつきの叔父だ。そしてさつきは、大田黒グループの会長令嬢だ」
実は、私の父は日本屈指の巨大資本グループである大田黒グループの会長で、大将は父の兄、私にとって叔父に当たる人だったのだ。
「さつきの父親が経営している会社は、国の物流を支える中核だぞ」
「そんな嘘、誰が信じるのよ。ここにいるさつきは、パートに出なきゃ家計も回らない貧乏人よ。それのどこがお嬢様なのよ?」
義姉と義母は、大将が嘘をついていると決めつけた。
その様子に呆れた茂之は、スマホで義父に事情を説明し、店に来てもらうよう頼んだ。
「親父と兄さんも今から来る」
「それなら話が早いわ。お父さんに頼んで、こんな店潰してもらおうかしら」
2人はまだ事態が理解できていないらしい。強気な態度を緩めず、私たちを見下していた。
「こんなおっさんと関係を持って、自分がお嬢様だって嘘ついて虚しくならないの?」
「おじさんの話は本当よ」
「嘘おっしゃい。だったらどうしてパートなんかしてるのよ」
私はパートに出た理由を説明した。
しかし、2人はそれさえも嘘だと決めつけ、私が妄想癖があると嘲笑した。

その時、慌てた様子で義父と春彦が駆け込んできた。
2人は店に入るなり大将に深く頭を下げ、謝罪している。
その後ろには、私の父の姿もあった。
「ちょっと、何謝ってるのよ?」
「うるさい。大事な店に迷惑をかけて、お前こそ何を考えているんだ」
春彦は義姉のことを激しく叱責した。
「お前もだ。妻として、嫁として恥を知れ」
義父も義母のことを激しく叱りつけた。
「どういうことよ。私たちより茂之の言うことを信じるっていうの?」
「いい加減にしないか」
春彦は義姉たちを怒鳴りつけ、茂之が遠野の会社を救ったことを明かした。

実は、私が茂之と出会った頃、遠野は倒産の危機に直面していた。
創業当初から受け継がれてきた古いやり方が時代の流れについていけず、社員離れが起こったためだ。
それに加え、世界的な感染症の蔓延もあり、義父は廃業を覚悟したらしい。
しかしそんな中、茂之が会社のIT化を押し進め、職場環境の改善に成功したのだ。
さらに茂之は物流システムをDX化させ、遠野グループは見事V字回復したのである。
「茂君は天才エンジニアとして、グループを救った最大の功労者なんだ」
「そんな天才が低収入なんてありえないわ。あなたも騙されてるのよ」
は春彦の説明にも、義姉は納得がいかない様子だ。
「本当のことだ。茂がいなければ、今頃家族揃って路頭に迷っていた」
さらに茂之の働きかけにより、潰れかけた義父の会社は、私の父が会長を務めるグループに吸収合併された。
それにより、父の会社は安定した体制を取ることができたのである。
「茂にもさつきさんにも、足を向けて眠れない。それをお前たちは…」
義父はやりきれない思いを抱えていた。
「そんな話、信じられないわ。あなたの会社が吸収合併。それがこの薄汚いさつきの実家ですって?」
「私の娘が薄汚いですか? 随分と娘を可愛がってくれているようですね」
父は言葉こそ優しいが、その表情は怒りに満ちている。
「誰よ、あんた? 他人は口を挟まないで」
「お黙りなさい。この方はさつきさんのお父さんで、大田黒の会長だ」
春彦は私の父にも、2人の非を平謝りしていた。
「大事な娘を傷つけられては、私も黙っていられないな」
「申し訳ありません。しかし、間もなく他人になる2人です。どうかご容赦ください」
義父の言葉に、義姉と義母は困惑した表情を浮かべた。
「他人って、どういうことよ?」
「君と結婚して、遠野の名を守るため必死に働いてきた。だけど、もうお前とは限界だ」
春彦は義姉に数枚のコピー用紙を突きつけた。
どうやら、義姉の5人の子供たちと春彦のDNA鑑定書のようだ。
春彦によれば、義姉は複数の男性と不倫関係にあったという。
「子供たちが可愛くないわけじゃない。だけど、どう見ても僕の子供だとは思えなかった」
成長した子供たちは、誰一人として春彦と似ているものはおらず、おまけに血液型まで違う。
そのことを疑問に思いながらも、これまで真実を追求することはせず、実の子だと信じ込もうとしてきたらしい。
しかし、義姉の仕打ちは止まらず、功労者である茂之や私にまで嫌がらせを繰り返すようになった。
それを見かねた春彦は、ついに子供たちとの親子鑑定に踏み切ったのだ。
鑑定書には、5人の子供たち全てが春彦との親子関係を否定していた。
「君とは離婚する」
春彦は義姉に、記入済みの離婚届を突きつけた。
「いいわよ。でも、私と離婚して困るのはあなたの方よ」
義姉は悪びれる様子もなく、開き直った。
「彼は何も困らない。春彦君には、これからも会社のために働いてもらう。役員として、彼は私の右腕だからな」
「そんな。私と離婚したら、当然会社からも去るのが普通でしょ」
「いや、お前には愛想が尽きた。今この場で、お前を勘当する」
義父は義姉に、親子の縁を切ると宣言した。
「そんな、考え直してちょうだい。この子は私たちの大事な娘よ」
義母は泣きながら義父にすがった。
しかし、義父はそんな義母に対しても「お前もやりすぎたな」と、記入済みの離婚届を差し出したのである。
「いやよ。私は離婚するつもりなんてないわ」
義母は激しく離婚を拒んだ。
無理もない。これまで自分の力で働いたこともない義母は、義父に捨てられたら生きていくことさえままならなくなるのだ。
しかし義父は問答無用で、義姉と義母を家から追い出した。

その後、義父と春彦は優秀な弁護団を引き連れ、それぞれ離婚を成立させた。
当然財産分与などされず、クレジットカードも取り上げられ、持ち合わせていたわずかなお金だけで放り出された2人は、その後誰の子かも分からない5人の子供と共に小さなアパートに身を寄せたのだとか。
しかし、寿司屋に対する多額の賠償金とこれまでの浪費による借金を背負い、生活は困窮を極めていた。
その状況を打破しようと義姉は、底辺と見下していた清掃のパートを始めたようだが、誠実さのかけらもない彼女はすぐに首になってしまったらしい。
行き詰まった義姉は、その後関係を持っていた男性に「子供の父親として責任を取れ」と迫ったようだが、自分の子である確証がないからと、誰にも相手にされなかったのだとか。

ある日、子供の1人が私の元を尋ねてきた。
「お母さんが帰ってこない」
泣きながら訴え、もう何日も食事が食べられていないという。
事情はどうあれ、子供に罪はない。
そう思った私は、児童相談所に通報し、子供たちを保護してもらった。
その後分かったことだが、借金苦に陥った義姉は、子供たちを家に置いたまま失踪してしまったらしい。
そればかりか、義母も「他人のこの面倒を見る余裕はない」と、子供たちを見捨ててしまったのだ。
数日後、テレビのニュースでは、保護者遺棄の罪で義姉が逮捕されたと流れた。

ようやく平穏な日々を取り戻した私は、後日改めて父を誘い、家族で叔父の寿司店を訪れた。
「君のおかげで、うちのシステムも現場に馴染むものになった。改めてお礼を言う。ありがとう」
実は、茂之が開発中だった新しいシステムは、物流現場にとって作業の効率化を測れる画期的なものだった。
しかし、現場での率直な意見が聞き取りづらく、開発に苦戦していたのだ。
そこで私は、一郎が保育園に通うようになったタイミングでスーパーでパートとして働き始め、そこで感じた問題点を彼に報告していたのである。
茂之が開発したシステムは現場の作業が格段に向上したと評判になり、彼はその後独立を果たすこととなった。
今ではグループ傘下の社長に就任し、日々奮闘している。

一郎は小学校でたくさんの友達を作り、毎日笑顔で学校に通ってくれ、私の日常は満たされたものとなった。
時々、義姉と義母が去った義実家の家事も行いながら、義父とも円満な関係を続けている。
父は2人の働きを褒め、あれからもグループの一員として義父の会社を支えてくれている。

今日は義実家の庭で、家族揃ってのバーベキューパーティー。
私の両親と義父、みんなで楽しい時間を過ごしている。
たくさんの大人たちに囲まれ、満足そうに笑う一郎の笑顔が、私にとって何より嬉しい。
「そうだ。一郎にプレゼントがあったんだ」
父はそう言うと、新しいランドセルを一郎に渡した。
義姉の子供たちに傷つけられたあのランドセルとそっくりな、一級品のランドセルだ。
一郎は目を輝かせている。
「じぃじ、ありがとう」
一郎の嬉しそうな笑顔を見ていると、私まで嬉しくなる。
これからもこの笑顔を守っていく。そう心に誓いながら、頼もしい夫と素敵な家族と共に、明るい未来に向かって歩き出している。

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