同窓会の席で突然、頭からビールを五本もかけられた。現役東大卒で大手企業の部長になった男が、俺の履歴書も知らずに「俺の企業名聞いて驚いただろう」と得意げに笑う。あの日、俺が静かに会長席に座って待っていたのは、彼らへの復讐でも権力の誇示でもない。ただ一度だけ、「渡る君」と呼ばれた瞬間に、俺の中で何かが確実に変わった。会議の終わり、彼らが俺を追いかけてきて言った。「どういうことだよ、渡る君!…

同窓会の席で突然、頭からビールを五本もかけられた。現役東大卒で大手企業の部長になった男が、俺の履歴書も知らずに「俺の企業名聞いて驚いただろう」と得意げに笑う。あの日、俺が静かに会長席に座って待っていたのは、彼らへの復讐でも権力の誇示でもない。ただ一度だけ、「渡る君」と呼ばれた瞬間に、俺の中で何かが確実に変わった。会議の終わり、彼らが俺を追いかけてきて言った。「どういうことだよ、渡る君!...

同窓会の会場で、頭からビールをかけられた。しかも五本目だ。

目の前には、現役で東大に合格したと自慢してやまない落合いが、得意げな顔でビールの瓶をこちらに向けている。

「俺の企業名聞いて驚いただろう」

そう言い放つ落合いの勤め先は、全国展開する一部上場企業だった。この不景気の中、ずっと黒字を続けている優良企業だ。確かに驚きだった。

だが、それ以上に驚いているのは、同窓会の真っ最中にビールをかけられ続けている自分自身だった。

「あなたたち、いい加減にしなさい!」

俺が五本目のビールをかけられたところで、とうとう堪忍袋の緒が切れた。

「あら、玉ちゃん、俺じゃなくて渡る君の味方?」

「敵とか味方の問題じゃないでしょ。これはプロ野球の縮小会じゃないのよ。そんなにビールをかけたら、渡る君が帰れなくなっちゃうでしょ」

「あーあ、知らねえなあ。なあ、みんな」

そう言われて、俺はようやく周囲にほとんど人がいないことに気がついた。

俺の名前は加藤渡る。五十歳だ。

社会でやるべき使命を果たし終え、第一線から身を引いて、気ままに過ごしている。五十歳でそんな生活ができるのかと思われるかもしれないが、可能だと断言できる。

ただし、この年齢で悠々自適に過ごすためには、現役時代に相応の苦労が強いられたのも事実だ。遊びに行きたくても仕事が優先。休みたいと思っても仕事が優先。家庭を築きたくても、とにかく何においても仕事が第一と考えなければ、五十歳で悠々自適を楽しむことなどできなかった。

そんな俺のもとに、一通の葉書が届いた。裏面には「同窓会へのご招待」と書かれている。

「同窓会か。たまにはいいな」

俺は目を細め、出席の文字を丸で囲んでポストに投函した。

「会長、何かいいことがありましたか?」

デスクに頬杖をつきながら、同窓会へ心を馳せている俺を見て、秘書の川本が声をかけてきた。

「三十二年ぶりにね、高校の同窓会へ行くことになったんだよ」

「それ、日本国内の話ですよね?」

俺は大きく頷いた。

実は数年前、大学時代の同窓会の案内が届いたことがある。俺は懐かしくなって行くと返事をしたのだが、社の命運をかけた一大プロジェクトの承認業務があるため、思いとどまってほしいと川本に言われたのだ。それ以来、川本は俺が何かしらの集まりに出る時、必ず国内か海外かを尋ねるようになっていた。

「会いたい人もいるんだよな」

「ノスタルジーですか? いいですね。私もたまに行きますよ」

「行って、どんな話をするんだい?」

「やっぱり自慢話、じゃないですかね。あの手の席では、子供や孫の自慢話が多いと聞いたことがあります」

「じゃあ、俺が言っても気まずいだけかな」

「そうでもないかもしれませんよ。楽しんできてくださいね」

そうして迎えた同窓会の日。九月とは言え、まだまだ残暑が厳しい。俺はタクシーで会場となっている都心のホテルへと向かった。

車に揺られながら、俺は案内葉書をじっと見つめた。

実は、俺が会いたいと思っている人は、この同窓会で幹事を務めている深川玉という女性だった。高校時代はとても美人で頭が良く、それでいて気取らない性格のいい友達だった。彼女がどんな風に年齢を重ねているのか、見てみたいとも思う。

ホテルに到着し、シャンデリアが煌めくロビーを通り抜け、エレベーターホールへ移動する。幸い待機していたエレベーターに乗り、会場である六階を目指した。

到着したフロアで葉書を差し出すと、なんと俺が会いたかった人が受付に座っているではないか。

「えっ、渡る君、久しぶりだね」

「玉さん、今日はよろしく」

すると玉は立ち上がって、俺の前に立った。

「今までどこでどうしていたの? 誰もあなたの情報を持っていなくて、もう会えないのかと思っていたのよ」

「ああ、俺、大学から海外だったから。その、なんかごめん」

俺としては、しょっぱなから玉と会えたので、もう帰ってもいいかななんて思い始めていた。まだ人もそんなに集まっていないし、むしろ帰るなら今かなとも考える。

「渡る君、後でゆっくり話しましょうね」

「ああ、楽しみにしてるよ」

そう言われると、帰るに帰れなくなり、俺は受付を済ませて会場内へ足を踏み入れた。

円卓がいくつも並べられ、それぞれの席に名前が書かれている。俺は誰の隣なんだろうと自分の名前を見つけ、同級生の名前をチェックしたが、名前を見ても誰なのか思い出せなかった。

「この席、玉さんから遠いな」

俺はとっさに周りを見回し、誰も俺に注目していないのを確認すると、そっと名前を入れ替えて、玉の隣の席に何食わぬ顔で落ち着いたのだった。

開始時間が近づくと、外が騒がしくなってきた。おそらく受付のために行列ができているのだろう。俺はとりあえずスマホいじりに専念していた。

そんな中、「待ってくださいよ、落合いさん」という声が聞こえ、俺は背筋に寒気を走らせた。どこか媚びるようなあの声を、俺は高校時代に嫌というほど聞いてきた。それが卒業後三十二年経過してからまた聞くことになるとは、正直予想外だ。

俺の隣に、想像通りの二人の男が座った。

「あれ、人がいますよ、落合いさん」

「お、マジか。誰だよ」

「俺たちの輝かしいエピソードを聞きに来た人か?」

今度は偉そうな落合いの声が聞こえる。

俺は心から思った。玉が早く俺の右隣に座ってくれと。彼女はいつでも救いの女神だ。きっと今日も救ってくれるに違いない、と大きな期待を抱いた。

「おいおい、加藤君よ。なんで今まで同窓会に来なかったんだ?」

それはずっと海外を飛び回っていて、最近になって日本に落ち着くようになったからだ。そのことを言おうかどうか迷っているうちに、落合いが語り始めた。

「加藤君はさ、卒業式に来なかったよね。だから俺たちがどこの大学へ行ったか知らないよね。俺、現役で東大に合格したんだぜ」

「落合いさんの輝かしい経歴を聞けるなんて、加藤君はラッキーだね」

何がラッキーだ、と俺は内心毒突いた。そうだ。高校の同窓会と言ったら、この二人がセットで来るかもしれないと分かっていたはずなのに、どうして参加してしまったのだろう。やはり受付で玉の連絡先を聞いて、退散しておくべきだった。

後悔先に立たずとは、まさにこのことだなと俺はがっくりと肩を落とした。

そのうち、受付業務を終えた玉が俺の隣に落ち着いた。落合いは現役東大合格、斎藤は一浪で東大合格という自慢話を延々と聞かされ、俺は内心泣きそうだった。

そんな時、隣に来てくれた玉に俺は少しだけ心強くなった。だが、これはほんの序章でしかないのだと、玉が俺に耳打ちしてきた。

まあ、物騒な話は置いておくとして、料理が運ばれ始めた。乾杯の音頭を取るのはもちろん、現役で東大合格を果たした落合いだ。落合いの前に何か一言あるらしいのだが、隣の斎藤の落ち着きのなさと言ったら、一目瞭然の一言に尽きる。

なんと落合いが話をしようとマイクを手にした瞬間、斎藤が指笛を吹いたのである。

こいつ、もう飲んでるのか、と怒りを覚えたが、まだビールが注がれたグラスはテーブルの上に鎮座している。

「落合いさん!」

今度は名前を呼び、同時に拍手までしている。すると斎藤に釣られ、会場内からパラパラと拍手が送られ始めた。

なるほど。どうして落合いがなかなか話さないのか疑問だったが、この拍手を浴びたかったのか、と俺は心から呆れた。同時に、落合いと斎藤は社会でうまくやれているのかと心配になる始末だ。

「渡る君、くれぐれもビールには注意してね」

俺が呆れ顔で落合いの長いスピーチを聞いていると、また玉が耳打ちしてきた。

「それよりさ、玉さん、落合い君のスピーチってやけに長くない? さっきから気持ちよさそうに話すのは構わないんだけど、さっさと乾杯してくれないと、せっかくのビールがぬるくなってしまう」

会場内の時計に視線を移すと、もう彼是五分以上喋っていると分かる。

「いつものことよ。三十分は語るから」

「えっ、本当に?」

玉と話すため、俺が少し声を大きくすると、マイクを握った落合いが俺を睨みつけてきた。

「おい、お前ら。今は落合いさんのありがたい話の最中だぞ。静粛にしないか」

なんと落合いのみならず、斎藤までもが俺を睨みつけてくる。

「すみません。続けてください」

仕方なく俺がそう言うと、落合いは痛く気分を害したらしく、グラスを高々と掲げた。そして、普通に乾杯と言って、みんながグラスを触れ合わせる。

最初からこういう感じで行けばよかったのに。落合いも斎藤も、何を考えているのだろう。

「渡る君、食事が済んだらすぐに会場を出ましょう」

玉が真剣な顔で言ってきた。

「えっ、なんで? 俺、そんなに悪いことした?」

「したのよ。わけが分からないでしょうけど。私の言う通りにしていいわね」

俺は運ばれてくる料理を片っ端から平らげた。あまりに焦りすぎてビールで流し込むこともあったが、とにかく全力で食べることにした。隣の玉も、女性にしてはスピーディーに料理を平らげていた。

俺たちは必死で食べた。食べることに集中するあまり、会話を忘れるほど急いで食べた。

しかし、俺たちよりも落合いと斎藤が食事を終える方が早かった。

「なんてこと? 最悪だわ」

何がそんなに最悪なのか、と聞こうとしたその時、俺は頭から何か液体がかけられていることに気がついた。

会場中のあちこちから爆笑が起こる。「もっとやれ」と悪児を促す声すら響いてきた。

「渡る君、大丈夫?」

玉がすかさずハンカチで俺の髪を拭いてくれる。その時になってようやく、液体の正体がビールだということに気がついた。

「玉さんがビールに注意って言ってたのって、これのこと?」

「うん、残念ながら。これは女の勘なの。私たちの同窓生にはね、オレンジ電気関連で働いている人が結構いて、その人たちは落合い派って呼ばれているのよ」

「暴走族に派閥なんてあるの? それにオレンジ電気って何のこと?」

そんな話は聞いたことがないとばかりに声を張り上げれば、落合いが二本目のビールを俺の頭からぶっかけた。

「加藤君さあ、君、卒業してから行方不明だったけど、一体どこに行ってたんだよ。地方の山奥の大学か?」

「俺の頭にビールかけるの、やめてくれる?」

「はあ? お前、誰に物言ってんだ? 俺はな、現役で東大合格。今やオレンジの本社営業部長だぜ。そこいらの大学出た奴とは格が違うんだよ」

ようやくビールが途切れたと思えば、また次のビールを斎藤が落合いに手渡している。

「俺の企業名聞いて驚いただろう」

まあ、正直に言えば驚いた。オレンジ電気といえば、当初一部上場企業だし、全国展開で名を売っているし、この不景気の中、ずっと黒字決算を続けている優良企業だ。落合いがそんな会社に貢献しているなんて、意外だった。

「あなたたち、いい加減にしなさい」

俺が五本目のビールをぶっかけられていると、玉が切れた。

「あら、玉ちゃん、俺じゃなくて渡る君の味方?」

「敵とか味方の問題じゃないでしょ。これはプロ野球の縮小会じゃないのよ。そんなにビールをかけたら、渡る君が帰れなくなっちゃうでしょ」

「あーあ、知らねえなあ。なあ、みんな」

なんと、周囲にほとんど人がいないことに、俺はこの時ようやく気がついた。各円卓に一人から二人残っているが、あれだけいた他の同窓生は一体どこに消えてしまったのだろう。

「みんな別のホテルの会場へ集まっているのよ。このホテルはね、オレンジ電気系列なのよ。ここの予約だって落合い君の名前を使っているの」

つまり、落合いの点数稼ぎのために、俺はここでこうしてビールをかけられているわけか。全く、日本には本当にくだらない風習があるものだ。苦笑すべきか、呆れるべきか、判断に迷ってしまう。

「へい、渡る君。俺のサクセスストーリー、聞かせてやるぜ」

酒が入って機嫌に乗った落合いは、斎藤からのエールや、それ以外のオレンジ電気社員からの声援を受けて喋りまくった。大学時代の苦労話から出世までのサクセスストーリー、結婚に至った経緯、子供が優秀だという話、ありとあらゆる話を聞かされた。

俺にとって一番の衝撃は、落合いに嫁と子供がいるということだった。

翌日、俺は二日酔いで痛む頭を抱え、無理やり出社した。

昨日、合計六本ものビールをかけられた俺は、頭から爪先までぐっしょりで、とても帰れる状態ではなくなった。そんな俺を見かねた玉が急遽ホテルの部屋を取ってくれ、俺がシャワーを浴びている間、近所の激安洋服ショップで服とサンダルを買ってきてくれたのだ。

俺は玉の買ってきた服に着替え、改めて彼女と隣のホテルのラウンジへ行って、ゆっくりと飲みながら昔話に花を咲かせていた。

そして、俺は今日、家でゆっくりできるはずだった。出社の予定などなかった。

そんな俺に朝一番で電話をよこしたのが、川本だった。

「会長、急に呼び出してすみません」

「ああ、二日酔いか?」

「ああ、飲みすぎた」

「今日は、開発が押し進めているプロジェクトの最終承認のため、我が社の開発チームとオレンジ電気の営業チームが集まります」

「オレンジ電気だと」

しかも、今川本は「営業チーム」と口にした。俺は資料をめくり、オレンジ電気の参加メンバーの中に、落合いと斎藤の名を見つけ、腰を抜かしそうになってしまった。

「会長、どうかされましたか?」

川本によれば、これは我が社にとっても意義のあるプロジェクトで、開発チームはすでに開発に着手しつつあるとのことだった。

そこで俺も悩む。オレンジ電気は構わないが、あちらの担当メンバーに落合いと斎藤がいて、大丈夫なのだろうか。宴会だけ禁止しておけば、うちの社員がビールかけの餌食になることはないのだろうか。

先日は「悩むくらいなら実行しろ」という思いから、俺は同窓会へ行った。しかし、行動した結果がビールかけなのだから、しれっともならない。

俺は川本に頼んでプロジェクト関連の書類を全て持ってきてもらい、無心に読み漁った。二日酔いであることも忘れ、やっとの思いで書類を読み終えた俺は、真っ先に時計に目をやった。時刻は十時四十五分だった。

会長室に急遽置いたモニターで会議室の様子を見ると、今まさに落合いがプロジェクトについて説明しているところだ。俺はしばし彼のプレゼンを聞いていたが、やがてモニターの電源を落とした。

「会長、行かれるのですか?」

「ああ、川本君もついてきてくれ」

して、俺と川本は本ビル五階にある会議室を目指すのだった。

会議室前に到着すると、川本がドアを外側に開いてくれる。俺は泰然と歩き、自分の席を目指した。

「お、落合いさん?」

「あれ? 渡る君じゃないですか?」

気安く俺を渡る君なんて呼ぶな、と思いつつ、俺は無表情で会長席に座った。

「マジかよ。あいつ、座る椅子間違えてるよ。斎藤、教えてやれよ」

小さな声で喋っているつもりなのだろうが、二人の会話は会議室中に筒抜けだった。

「オレンジ電気の方々は初対面でしょうから、ご紹介します。弊社の会長である加藤渡です」

「加藤です。よろしくどうぞ」

ちらっと落合いと斎藤に視線を送ると、二人ともなんとなく震えているように見える。普段は東大卒だといばり散らしているのに、何が恐ろしいというのだろう。

「資料には全て目を通しました。この資料を作ったのはどなたですか?」

「落合い部長と斎藤君でないことだけは分かっていますので、安心して挙手してください」

すると、一番下に座っていた社員がおずおずと手を挙げた。斎藤が何か言おうとするのを、俺が遮り切った。

「あなたが作ったんですか? とても読みやすく、また分かりやすい資料でした。契約は成立です。ただし、あそこの二名はメンバーから外してください」

無事契約が成立し、資料を作成した彼をリーダーに抜擢したことで、俺の役目は果たしたかと思われた。だが、会議が終わるなり、落合いと斎藤が俺を追いかけてきた。

「どういうことだよ、渡る君! 俺たち、プロジェクトのキーパーソンなのになんで外れろとか言うんだよ!」

「お前、東大卒の実力、なめんな。俺たち二人をプロジェクトに戻せ!」

騒ぐ彼らを見ていた川本が、「この方たちとお知り合いですか」と聞いてきた。

「なんとか言えよ、渡る君。俺は東大卒だぞ」

口を開けば東大だ。なんだとうるさい二人に、川本も頭に来たらしい。

「お二方とも、加藤会長は主席でオックスフォード大学を卒業されています。確か東大の世界ランクは二十九位くらいでしたか。オックスフォードは一位です。その辺りのことをご承知おきください」

「ま、負けた……。この俺が、渡る君なんかに……」

そのうち二人が「クソ」「ちくしょう」と喚き始めると、警備員が来て厳重注意を行ったという。

俺は夕方になって初めて、オレンジ電気から抗議の電話が入っていたことを知った。

「なんで俺に黙ってたの?」

「どうせ俺への抗議でしょ。口に出せば、社長の織田は『すみません』と小さく詫びた」

抗議の内容は、「プロジェクトの最年勝社員をリーダーにされては困る」というものだった。

「あれ、あの彼、年勝だったんだ」

「会長、彼はまだ経験が浅くて……」

織田が言いかけるのを、手で制止した。

「織田君はプロジェクトの前貌の資料を全部読んだかい?」

「いえ、全部とまでは……」

俺は、会長室に会議室の様子をモニターで映しながら資料を読んでいたが、プレゼンをしている落合いが資料とは全く違う話をしていたので、彼には任せられないと判断したのだと話した。

「分かりました。私も勉強不足でしたね」

織田はそう言うと、会長室を後にした。

事態が落ち着いたある夜のこと、俺は玉に電話をしてみた。

「あら、渡る君、電話をくれるなんて嬉しいわ」

「それがさ、この前、オレンジ電気の二人が会社に来てね……」

そう話しているうちに、今度の休みの予定を互いに確認し合った。そして、どちらも予定がないと分かるなり、じゃあ会おうという流れになる。

同窓会で知ったのだが、玉はまだ独身だった。幸い、俺も独身だ。高校時代の憧れの人と、どんな関係が築けるだろうかと考えると、ワクワクするのだった。

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