「あなたって、本当に信じられないほどバカなのね」
その言葉を聞いた瞬間、私は固まってしまった。口に運ぼうとしたペストリーの袋を握りしめたまま、廊下で立ち尽くした。
私の名前はローズ、35歳。市内の商社でシニアアカウントマネージャーとして働いている。3年前に夫と離婚し、田舎のコテージを手に入れた。夫は街暮らしを好み、私にその家を譲ってくれた。最初は売って都会のマンションでも買おうと思っていた。でも、家族が反対した。
「あの素敵な家を売るなんてできないよ、ローズ」
「そうよ、家族の憩いの場にできるじゃない」
母のジャネットと妹のエマがそう言った。父のロバートも頷いた。私は家族を大切にしてきた。両親は生涯懸命に働いてきたし、滅多に何も頼まなかった。だから、私は家を売るのをやめて、代わりに住宅ローンを組んで市内にマンションを買った。コテージにはセキュリティシステムも設置した。防犯カメラに警報装置、総額3000ドル。母には予備の鍵も渡した。母はとても喜んでいた。
それから3年間、その家は家族のたまり場になった。両親は週末に訪れ、エマはトレバーとロマンチックな時間を過ごし、祝日には全員が集まった。私はいい決断をしたと思っていた。家族が幸せそうで、それだけで十分だった。トレバーの両親もいくつかの集まりに参加するようになった。みんないい人たちに見えた。
ある火曜日の夜、母が電話をかけてきた。
「金曜日に大きな家族集会をあんたの家で開くのよ。みんな来るわ。来られる?」
「金曜は大事な会議があるの。遅くまで仕事かもしれない」
「それは残念ね。でも、仕事は大事だものね」
金曜の朝、上司から電話があった。取締役たちがインフルエンザにかかり、会議は延期になった。午後は休んでいいと言われた。私は思った。家族が私の家に集まっている。サプライズで行ってみよう。お気に入りのベーカリーでお菓子を買って、こっそり家に入ろうと思った。
玄関の鍵を静かに開け、忍び込んだ。リビングから笑い声が聞こえてくる。私は笑顔になった。みんな楽しんでいるんだ。そう思った瞬間、母の声が聞こえた。
「ローズって、本当に信じられないほどバカなのよ」
私はその場で凍りついた。まるで胃を殴られたような感覚だった。
「私たちが言うことは何でもやるのよ。まるで操り人形みたい。簡単すぎて困っちゃうわ」
父の声も続いた。「家を売らせなかった時のこと覚えてるか? 彼女は売ってマンションを買うつもりだったんだ。なのに、家族の思い出って悲しい話を聞かせたら、あっさり家を手放して住宅ローンまで組んだんだぞ。今じゃ私たちが好き放題使って、彼女がローンを払ってるんだからな」
「本当にあの子には度胸ってもんがないわね」と母。
エマの声も聞こえた。「聞いてよ、私、ローズに家賃の手伝いをよく頼むの。お金が足りないって電話すれば、毎回800ドルくれるのよ。ひどい時はもっと」
叔母のキャロルも笑いながら話す。「私は半年くらい前に、緊急の歯科治療で3000ドル必要だって言ったら、何の証明も見せずにすぐ振り込んでくれたわ。実際は新しいソファとコーヒーテーブルを買っちゃったけどね」
叔父のマイクは言った。「私は去年、車が故障したって言って1500ドルもらって、代わりに釣り船を買ったんだ」
私は吐き気がした。何年も、何度も、家族がお金に困っていると聞くたびに私は助けてきた。全部嘘だった。彼らは私を笑っていたんだ。
トレバーの父の声も聞こえた。「現金を持ってて、頼めばいつでも渡してくれる家族がいるってのは特別だよね。文句を言わない専用の銀行みたいだ」
「その通りよ」と母。「まさに歩くATMね」
「そういう状態を維持させなきゃな」と父に言われた。
「ちょうどいい話があるのよ」と母が続けた。「エマとトレバーが近いうちに婚約するでしょ。その時はローズに結婚式の費用を出させましょう。1万ドルか1万5千ドルは引き出せるわ。もっとかもしれない」
「どうやって?」
「家族のためにやるって言えばいいのよ。成功してる姉が、妹の完璧な結婚式のために協力するのは当然だって」
グラスのぶつかる音が聞こえた。
「お金持ちのバカ親戚に乾杯!」
「ローズ、いつでも尽くしてくれる贈り物に乾杯!」
私は静かに家を出て、車に乗り込んだ。震える手でエンジンをかけ、家を離れた。マンションに戻って、何時間も泣いた。彼らを問い詰めたい気持ちと戦いながら、待つことに決めた。彼らの計画を見届けるために。
2週間後、母から電話があった。
「エマとトレバーが婚約したのよ! あなたの家で婚約パーティーを開きたいの。いいでしょう?」
「もちろんよ、お母さん」私は演技した。
「ただね、少し問題があって… 素敵なパーティーにしたいんだけど、今お金がなくて。それでね、5000ドル貸してほしいの」
「そんなに? でも、今手持ちがないの。予期せぬ出費が続いてて」
「じゃあ、私たちが立て替えて、後で返してくれればいいわ。前に一度やってくれたでしょ?」
「それなら大丈夫そうね。必要なものを用意して。すぐにでも返すから」
「ありがとう、ローズ! あなたは本当に天使だわ!」
彼らは私が簡単に言うことを聞いたと思ったんだろう。何も変わっていないと確信していた。
2週間後、私は金曜の夜に鍵屋を呼び、家のすべての鍵を交換させた。家族はその前日に飾り付けをして帰っていた。私はその飾りを全部外し、黒いゴミ袋に詰めて家の隅に置いた。そして翌朝、母にメッセージを送った。
「ごめん、今日は風邪でパーティーに行けない。みんなにうつすと悪いから」
反応はそっけなかった。「わかったわ、お大事に」
それだけ。誰も心配しなかった。「来なくて正解」とすら思っていたに違いない。
午後2時、携帯が鳴った。母から。出なかった。父からも、エマからも、何度もかかってきた。20分後、メッセージが届いた。
「鍵が開かない!」
「鍵が変わってる!」
「どういうこと!?」
さらに30分放置してから、私は折り返し電話した。母は叫んだ。
「ローズ! みんな家の前に立ってるのよ! 鍵が通じないの! ケータリングも来てるのに!」
「変ね」と私は言った。「鍵、昨日替えたのよ」
沈黙。
「あなた、鍵を替えたの?」
「うん。1ヶ月前、お母さんが私のことバカって言ってるのを聞いたからね」
突然、母の声が甘くなった。「誤解してるわ、ローズ。そんなこと言うわけないでしょ」
「じゃあ、私が操り人形みたいに言うことを聞くって言ったのも、エマが毎月家賃を搾り取ってるって話も、キャロルが歯医者のお金を家具に使ったって話も、私は歩くATMだっていうのも、全部聞き間違いってわけ?」
「ローズ、あなたが女々しいでしょ…」
「言い訳はいいわ。あの日の会話、一言一句聞いたのよ。結婚式のお金を出させる計画もね」
「私たちはただの冗談で…」
「何千ドルも騙し取って、後ろで笑いものにして、それで冗談? よく言うわ」
「ローズ! あんた意地悪すぎるわ!」とエマが電話を奪って叫んだ。「飾り付けも全部やったのに! みんな来てるのに!」
「あの飾り付けなら、もう片付けたわよ。家の隅にゴミ袋に入れてあるから、持って帰って。早く私の敷地から出て行って」
「鍵を壊して入ってやる!」
「やめておきなさい。防犯カメラと警報装置があるのを忘れた? 何か壊したら警察を呼ぶわよ」
エマは泣き出し、母がまた電話に出た。
「ローズ、お願いだから話し合いましょう。5000ドルも使ったのよ!」
「それはあなたたちが私の言うことを無視して勝手に使ったんでしょ。私が断ったのに」
「家族でしょ!」
「そうね。それがむしろ一番ひどいことよ」
私は電話を切り、着信を拒否した。防犯カメラで、みんなが悔しそうに帰っていく様子を見た。エマは泣きっぱなし、トレバーは呆然としていた。
翌朝、私のマンションのドアを誰かが激しく叩いた。両親とエマが立っていた。父が勝手に中に入ってきた。
「よくも婚約パーティーを台無しにしてくれたな!」
「あんたのせいで!」とエマ。
「5000ドル返しなさい!」と母が絶叫した。私は笑った。
「使ったのはあなたたちよ。私を騙して払わせようとしたから」
母の顔が真っ青になった。「あんた…わざとやったんでしょ?」
「ええ。あなたたち、私のことバカだと思ってるんでしょ? でも、思ってたより賢かったみたいね」
父が前に出た。「謝罪と返金がない限り、私たちはもう口をきかない!」
私は微笑んだ。「完璧。こっちからも願い下げよ。もう二度と私のお金で遊ばないで」
「そんな真剣じゃないでしょ!」と母。
「真剣よ。もうあなたたちのような人種に一文も渡さない。さようなら」
私はドアを開けて、彼らを追い出した。
それから6ヶ月。私はあの田舎の家を売らなかった。代わりに不動産会社に委託して、休暇用の貸別荘として貸し出すことにした。その収入で住宅ローンも払っている。もう彼らに悩まされることもない。エマは先月、地元の小さな教会で質素な結婚式を挙げたらしい。私は招待されなかったし、贈り物も送らなかった。両親やエマは共通の友人を通じて何度か連絡を取ろうとしたが、完全に無視している。和解なんてする気がない。彼らが私のことをどう思っているか、あの日の会話でよく分かったから。
今の私は、あの頃よりずっと幸せだ。結局、彼らが思っていたほど、私はバカじゃなかったってことね。



