「奥さん、この家、盗聴されてますよ」
修理業者の言葉を聞いた瞬間、汗の種類が変わった。カンカン照りの外に立っているのに、背中がぞっと冷たくなった。
「え…盗聴って…」
業者は真剣な表情でうなずいた。
「盗聴機をつけると、テレビとか固定電話の調子がおかしくなることがあるんですよ。テレビの不調はいつ頃から始まりました?」
私は必死に記憶をたどった。確か、最初に異変を感じたのは、姑に浮気を疑われた直後だった。
私は半田直子。どこにでもいる専業主婦だ。夫の大輔とは結婚して3年ほどになる。出会いは職場で、中途採用で入ってきた大輔の教育係になったのが私だった。波長が合うと思った。仕事以外でも会うようになり、交際して結婚した。ここまでの数年、問題といえる問題はなく、幸せに暮らしていた。
しかし、そんな結婚生活に転機が訪れる。大輔の長期出張が決まったのだ。私はプロジェクトリーダーを任されていたこともあり、簡単に仕事を移すことができない。そのため、私は一人暮らしを始めることになった。
「俺も月に1度か2度は帰れるようにするし、両親や大和にはお前の様子を見てくれるように頼んでるからさ」
大和は大輔の幼なじみで、つい最近地元から私たちの家の近くに引っ越してきていた。私も3人で何度か食事をしたことがあるので顔見知りだ。義両親ともそれなりに仲がいい。だから気にかけてくれることはありがたいのだけど、それと一人暮らしの不安はまた別じゃないかな。
数日後、早速私の家を訪ねてきたのは義両親だった。義母は勝手に冷蔵庫を開け、煮物などが入ったタッパーを次々と詰めていく。
「大輔がいないのに家事をするのも面倒でしょ」
義母が完全な善意からこういったことをしてくれているのは分かる。しかし、勝手に冷蔵庫を漁られるのは好きではなかった。内心早く帰ってくれないかなと思いつつ、「お気遣いありがとうございます」と作り笑顔で答える。
正直、思ったよりも寂しくない。大輔のいない一人暮らしが、むしろ快適かもしれない。初日こそ寂しさを覚えたが、3日も経てば人と生活を共にしない自由さを感じるようになっていた。
だが、そんな心情を知らない義両親は、その後も休日になると家にやってくる。特に義母は平日の夜でもお構いなし。来るたびに冷蔵庫に残った食材を使って料理をした。しかも大量に。私には食べきれるわけがない。けれど、冷蔵庫に残った料理を義母に見せるのは忍びない。そのため、限界の限界まで食べ、どうしても食べられない分は義母にバレないよう処分するようになった。義母の作った料理を捨てる罪悪感。そんな無駄な気遣いと食べ過ぎのせいで、私の胃腸はすでに弱り始めていた。
ストレスの種はこれだけではない。義母は私の使っているカバンや服を勝手に持ち出してしまう。
「これ、借りていくわね」
そう言ってから帰ってきたものは未だない。もちろん義母に悪意がないことは理解している。けれど、だからと言って何も思わないほど器は大きくない。極めつけに、合鍵まで作ったのだ。
「これなら直子さんが帰ってくるのを待たなくても料理ができるでしょ」
そう笑顔で言う義母には、私の気持ちが分からないのだろう。仕事から帰宅すると、誰もいないはずの家に明かりがつき、鍵が開いているということが、一体どれほどの恐怖を与えるのか。
そんなストレスフルな私の数少ない救いは、大和に義母の愚痴を聞いてもらうことだった。大和も義両親と同じように私を気にかけてくれている。ただ義母と違ったのは、必要以上に世話を焼かないこと。時折連絡をくれ、「ご飯でも食べに行かない?」と言ってくるくらいだ。
本来なら、夫の幼なじみとはいえ男性と二人きりでの食事など断っていただろう。けれど、今はとにかく義両親以外の話し相手が欲しかった。それに、わざわざ外食しなくても、家には義母が勝手に作り置きした料理が山のようにある。だから私は大和から連絡が来た時は家に招くようになったのだ。義母の料理を一緒に処理しながら愚痴をこぼすことで、ストレスを解消していた。
何度か食事を共にし、私の中で大和は夫の幼なじみから友人に変わり始めていた頃だ。大輔から「大和と仲良くしてくれるなんて嬉しい」と言われていたこともあり、男女の友情も悪くないと考えるようになっていた。しかし、そのせいで思いもよらない誤解を生むことになる。
ある平日の夜、私は大和と家で食事をしていた。義母の愚痴を話していると、玄関の扉が開く音がした。突然のことにお互い驚き構える。そして、リビングに現れたのは義母だった。
「不審者じゃなくて良かった」
そう安心する私とは裏腹に、義母の顔は強張っていた。義母は私を睨みつけ叫ぶ。
「この浮気者!大輔がいなくなった途端に浮気するなんて、とんでもない!」
義母の剣幕に私は再び驚かされると同時に、事態を理解する。確かにこの状況は浮気を疑われても仕方がない。大和との間にやましいことなど何ひとつない。それどころか、大輔から大和と仲良くなることを進められたのだ。しかし、そんなこと義母にとっては知ったことではない。
「違うんです!彼は大和さんと言って、大輔の幼なじみなんです!私が一人で心配だからって、大輔がお願いしてきてもらっているんです!」
私の説明に大和も弁明する。
「そうです。お久しぶりです。大和です。小学生の頃何度かお家にもお邪魔させてもらいました。覚えていらっしゃいませんか?」
そう尋ねるも、義母は「やかましい!」と聞く耳を持たない。説明すればするほど怪しく見え、義母は怒りをあらわにする。義母はスマホで何度も私たちの姿を写真に収め、ヒステリックに叫んだ。
「あんたがこんなにろくな人間だとは思わなかったよ!今度大輔と一緒に離婚届けを持ってきてやる!慰謝料を払う準備をしなさいよ!」
そうして義母は私の家を去った。まさか大和と義母の面識がこんなにも薄かったとは誤算だった。
その日以降、義母も義父も私の家にやってくることはなくなった。義母が家に来なくなりストレスは軽減されたのは間違いない。だけど、その原因はあまりいいものではない。誤解を解こうと連絡しても、着信拒否をされたのか応答してもらえない日々。
もう自分ではどうしようもないと悟った私は、大輔に相談することにした。
「なるほど。俺も大和のことを伝えておけばよかったよ。悪かった。俺から連絡して誤解を解いておくよ」
「本当にごめんね。お願い」
私は深く反省した。そして決意を固めて言った。
「大和さんともう会わないでおこうと思うの」
やはり悪いことをしてなくても、私の意識の甘さがこんなことを招いたのだ。それが最善の対応だと思ったけれど、大輔の反応は違った。
「それは逆じゃないかな」
「え?」
「だってさ、お前が一人なのはやっぱり不安なんだよ。それにこれで疎遠になれば、それこそ後ろめたいことがあるんじゃないかと思われかねないよ。だからこれからも大和と仲良くしてほしいんだ」
大輔がそう言うならそれでいいのかな。私は心に引っかかるものを感じつつも、大輔の言葉に従うことにした。
数時間後、義母の元に大輔から電話がかかってきた。義母は私のことをけなしながら伝えると、大輔は「お前のことを悪く言うな」と言った。そして、大和が幼なじみで、大輔のために私の家にいたと説明した。息子である大輔が納得している以上、義母の立場からはもう何も言えない。
それでも義母には一つだけ疑問があった。
「今はただの友達で済んでいるかもしれないけど、この先本当に直子さんと大和君が関係を持つことだってあるかもしれないのよ。男女の友情なんてのは、寂しさに付け込まれて簡単に壊れるんだから。それでも仲良くさせていいの?」
少し間を置いて、大輔は言った。
「いいんだよ。大丈夫。俺は大和と直子を信じてるから」
この言葉の真意を知るのは、まだ先のことだった。
数日後、義両親が私の家にやってきた。
「謝罪をさせてほしいの」
義母はそう言って、大輔に怒られたことを話し、私にひどい言葉をかけたことを謝った。
「あと、家に来るのも迷惑だったみたいね。大輔から聞いたわ」
私は「そんなことはない」と言えなかった。実際、義母に悪意はなくとも、あの図々しさにストレスを感じていたのは事実だ。何はともあれ、私は浮気の疑いを晴らすことができ、一応義母と仲直りすることができた。
もうこれからの一人暮らしは何も問題がないはずだった。だが、義母の頻繁な訪問がなくなってから、それに変わるように大和が家を訪ねてくる頻度が増えた。大輔からのアドバイスや問題が解決したこともあり、私はそのことに関して特に何も思っていなかった。
しかし、いつからか大和の態度に変化が生じ始める。最初は些細なことだった。
「最近さ、テレビの調子が悪いんだよね。ノイズが入って画面がぐちゃぐちゃになったりする時があるんだ」
「じゃあ、たまには映画でも見ようよ。俺、映画が好きでさ、家に何本かブルーレイ持ってるんだよね。今度おすすめ持ってくるよ」
私は少し戸惑いを覚えた。なんか距離を詰めようとしていないか?浮気疑惑の一件以来、私はこういったことに敏感になっていた。しかし、大和を無下にするのも良くないかと思い、承諾してしまった。
その考えは間違いだった。大和は映画を見る際、ぴったり横に座り、肩に手をやってくる。その時点で、失敗したなと私は思った。大和は明らかに私を、大輔の奥さんではなく女として見始めている。この日以来、食事の際も必要以上にお酒を進めたり、怒られないギリギリのボディタッチをしてきたり、泊まってくれないかと言ってきたりするようになった。
ああ、やっぱり勘違いさせちゃったのかな。私は反省した。浮気疑惑の後も仲良くするというのは良くなかったのだ。そのため、それとなく大和の手を払いのけたり、やんわり誘いを断ったり、大輔の名前を出すことで距離を取るように務めた。だが、それでも大和は私に手を出そうとするのをやめない。
何度か繰り返され、さすがにうんざりした私は、ある日触れようとしてきた大和を強く払いのけて言い放った。
「しつこいんだけど、やめてって言ってるでしょ!」
慌てた私に驚き、大和は固まってしまう。
「大輔に頼まれて私のことを心配して家に来てくれてるのはありがたいと思ってる。だけど私は大輔の妻なの。それでなくても浮気疑惑をかけられて大変だったんだから。とにかくしつこく触らないで。家にも泊まろうとしないで。はっきり言って気持ち悪いのよ」
やんわりした断り方では大和が本気にしてくれないことを私は分かっていた。だから申し訳ないと思いながらも、徹底的に拒絶した。さすがの大和も、ここまではっきり言えば私が嫌がっていることを理解した。
「ごめん。お前もなんだかんだ喜んでるんだと思ってたよ。じゃあ俺、帰るね」
そう言って大和は家に帰っていった。これで良かったはずなんだ。私は大和の落ち込んだ顔を頭から払拭するよう、強く思い込んだ。
その翌日のことだ。私が仕事に行こうと準備をしていると、大輔から電話がかかってきた。こんな時間に電話をかけてくるなんて珍しい。不安を感じながら電話に出る。
「直子、お前、何てことしてくれたんだ!よくも大和のことを傷つけたな!話は聞かせてもらったぞ!」
大輔は確かに「話は聞いた」と言った。なら攻められるべきなのは私ではなく、大和の方だろう。しかし大輔はその後も私を責める。
「大和はお前のために時間を割いてきてくれてたんだぞ!それなのに、どうしてあいつを傷つけるようなことが言えるんだ!」
だんだんと大輔の態度に腹が立ち、私は反論した。
「だって、嫌だって言っているのに私のことを触ったりしてきていたのよ!」
「触らせておけばいいじゃないか」
私は耳を疑った。
「あなたは他の男に自分の嫁が触られてもいいって言うの?」
「それは暴論だ!俺は大和を傷つけたことに怒ってるんだ!」
話し合いは平行線のまま。このままでは仕事に遅れると思った私は、強引に電話を切ることにした。もう大輔が何を考えているのか分からない。大輔にとっては、嫁よりも友達の方が大事なのだろうか。
仕事中も頭の中は大輔のことでいっぱいだった。考えれば考えるほど気分は落ち込み、まるで仕事が手につかない。ほとんど業務が進まないまま定時を迎えた。帰宅すると、一人暮らしを始めて一番の孤独を感じた。両親も大和さんも来ない。大輔から毎日のように来ていた連絡も止まってしまった。もしかして本当に私の考えが間違っていたのだろうか。そんなはずはないとネガティブな思考を振り払い、テレビでも見て気分転換しようとする。だけど、すぐに思い出した。そうだ、今テレビの調子が悪いんだった。そろそろ業者に頼まないとな。
数日後、仕事が休みだった私は、いい加減テレビを直そうと業者の人を家に呼んだ。業者が故障原因を調べるべくテレビの様子を見始めてすぐのこと、作業をする人の顔色が変わった。そして、「ちょっと外で話しましょうか」と言われる。業者に調べてもらった結果、私の部屋には盗聴機以外に小型カメラが数台取り付けられていた。
まさか義母が仕掛けた?いや、ありえなくはない。だって合鍵も持っているから、私に気づかれずに侵入することは不可能ではないだろう。誤解が溶けたふりをすることで油断を誘い、義母は浮気の証拠を掴もうとしたのではないか。私はそう考えた。業者は「外さずに警察に相談した方がいいかもしれない」と言ったが、私は「外してください」と告げた。それほどまでに、私は義母が犯人であるという確信があった。
翌日、私は仕事を休んで義母を呼び出した。私はこれまでの恨みつらみを込め、義母を激しく攻め立てる。
「お母さん、私はまさかここまでするとは思っていませんでした!盗聴器に隠しカメラなんて、そこまで私が浮気する人間だと思ってたんですか?これは人権の侵害ですよ!私は浮気をしましたか?それどころか、私に手を出そうとしてきた大和を徹底的に拒絶しました!それなのに大輔には怒られるし、もう何が何だか分からないんだけど、一体私は何を責められているの?」
義母は慌てた様子で尋ねる。
「何を言っているの?私はカメラなんて仕掛けていないわよ!」
義母は本当にカメラや盗聴器のことを知らないようだった。しかし、私は犯人は義母だと決めつけ、「とぼけないでください!」とさらに激怒する。私は先日外してもらった盗聴器とカメラを義母の前に並べ、「これでもまだ何も知らないって言うんですか!」と叫んだ。
義母は戸惑いながらも弁明する。
「直子さん、本当に私じゃないの!そうだ、警察に相談しましょう!指紋が見つかれば、犯人が誰なのか分かるかも!」
私は内心では「知らぬ存ぜぬを決め込んで」と悪態をついていたが、それと同時にわずかな疑問を持ち始めていた。もしかして、本当に義母が何も知らないのなら…。
「分かりました。じゃあ警察を呼んで、はっきりさせましょう」
そう思い、私がスマホを手に取った瞬間、玄関の扉が開く音がした。大和が来たのかと思い、義両親をリビングに残し玄関へ向かう。しかし、玄関に立っていたのは大和だけではない。大輔までいた。
「なんで今日は仕事じゃないの?どうして直子がいるんだよ」
大輔の反応を見る限り、義両親が呼んだわけではないらしい。
「それはこっちのセリフよ。大輔こそなんでいるの?帰ってくるなら連絡ぐらいくれてもいいのに」
そう尋ねられた大輔は「いや、それはその…」と目を泳がせていた。そして無意識なのか、両手に持つバッグを大切そうに抱えた。その瞬間、私は何か怪しいと感じ、そのバッグをひったくろうとした。大輔も力を込めて引き止める。お互い逆方向に力を加えたせいか、ファスナーの部分がちぎれ、鞄の中身が勢いよく飛び出した。床に散らばったそれは、私がつい最近目にしたものの数々。小型カメラと盗聴器だった。
「大輔がカメラを仕掛けたの!?」
考えるよりも、私は叫んでいた。あまりにも犯人の正体が予想外すぎたため、パニックになり、考えていることが全て口から出てしまったのだ。
「カメラを仕掛けた犯人はお母さんだと思ってた!もし違ったら、次点で大和か、お父さんか…!」
私の叫んだ言葉に、リビングで待っていた義両親はいても立ってもいられず、玄関までぞろぞろとやってくる。義母も義父も「どうして大輔が…」とつぶやき、大輔も「どうして母さんたちが…」と戸惑っている。
私は義母に頭を下げた。
「お母さん、ついさっきまでのことを謝らせてください。カメラを仕掛けていたのは大輔だったんです」
「そんな、どうしてそんなことを?」
私と義母が大輔を問い詰める。しかし、大輔は義両親がいると分かったせいか口を固く閉じ、一切何も言わなくなってしまった。大和はどうすればいいのか分からないのか、キョロキョロしている。そんな時間が1時間ほど続いた頃、しびれを切らしたのは、なんと義父だった。
「こんなのは無駄時間だ。直子さん、あんた大輔とこの先どうしたい?離婚したいか?」
義父の言葉に、大輔は「離婚だけは…」と焦りを見せる。
問われた私は考えた。カメラを仕掛けたのは、間違いなく大輔だろう。嫁の行動を監視するような人と、この先も一緒にいられるだろうか。いや、私にはできない。覚悟を決めて私は答えた。
「はい。離婚したいです」
大輔は「そんなこと言わないでくれ」と言ったが、私はその言葉に反応しない。義父も同じように無視し、あるものー書類ーを取り出した。
「これは、大輔が単身赴任先で浮気している証拠だ」
義父は全てを話し始めた。義母が私の浮気を疑い大輔に連絡をした時、義父もこっそり話を聞いていたが、大輔が妙に落ち着いているのが気になっていた、と。
「男というものは、初婚の独占欲の塊だ。なのに、嫁が一人で暮らす家に、いくら信用している幼なじみとはいえ、男がいることを良しとできるか?普通ならできないだろう。もしや大輔は『普通ではない状態』なのではないか、と思ってな。そう、大輔が浮気をしているという状態だ。嫁に対する関心が薄れていれば、この状況も気にならないだろう。そして私は興味半分で探偵を使って調査し、大輔が浮気をしている証拠を掴んだのだ」
義父は話を続ける。
「この浮気がただの遊びで、大輔に隠し通す覚悟があったのなら、直子さんには悪いが私もこんな風にばらすつもりはなかった。まあ、そういうわけだ。これで直子さんは大輔と離婚することができるだろう。あ、そうだ。もう一つ気になっていたことがあったんだ」
そう言って義父は調査結果を見ながら大輔に言う。
「大輔、お前の浮気相手の『トミ』とかいう女な。ここにいる『大和』とかいう男の彼女らしいんだが、お前は知っていたのか?」
私は頭が混乱していた。私に対してカメラを仕掛けたのは大輔。その浮気相手は大和の彼女。そして大和は私に手を出そうと。そこまで考えて、私は答えにたどり着いた。
「大輔、もしかして大和とお互いのパートナーを交換しようとしたの?」
大輔はずるい真似をしていたようで、その場にうなだれた。そして、私に問い詰められて、全てを話した。
大輔には昔から特殊な性癖がある。それは、自分のものを他人に持て遊ばれることに興奮するというものだった。そのことを自覚したのは高校生の時で、大輔は大和にだけそのことを打ち明けた。ちなみに大和は女を抱ければ何でもいいという、女性を下に見た思想を持っている。だから大和は大輔に「お互いの彼女を交換しよう」と提案したのだ。それから二人に彼女ができる度、あの手この手を使って自身らの欲望を満たした。
だが、そんなことをいつまでも続けられるわけがなく、大輔が結婚してからはさすがにその性癖も鳴りを潜めざるを得なかった。だけど、大輔に長期出張の辞令が下り、チャンスが訪れてしまう。私を誰かに持て遊んで欲しかった大輔は、大和に連絡を取った。そして話をすると、大和も乗り気になった。自称インフルエンサーだった大和は住む場所を縛られることもなかったため、すぐに大輔の近所に引っ越すことができたというわけだ。
カメラや盗聴器は、大輔が私と大和の行為を見るために設置した。しかし、業者が入って取り除いたため、突然音も映像も途切れ、慌てた大輔が新しいものに取り替えようと、私に連絡もせず平日を狙って家に戻ってきたというわけである。
大輔は土下座して言った。
「確かに俺は他の人に比べて特殊な趣味を持っているのは事実だ。でも、直子のことを愛しているのも本当なんだよ。心の底から愛しているからこそ、別の男に持て遊ばれた時、本気で興奮できるんだ。だから頼む。離婚だけは勘弁してくれ」
私は足元に土下座する大輔を見て思った。世の中には常人には理解できない思考を持つ人もいるのだろう。そしてそれは決して悪いことではない。悪いことではないのだが、私に同意を求めなかった時点で、あんたのやってることは同意のない行為と変わらない。犯罪者なのよ。
「後でカメラと盗聴器の件を警察に届け出るつもりだったから、この部屋の音声も映像も全部撮ってる。自白した証拠が全部残ってるんだから。人のことを盗み撮りしたくせに、自分が撮られていることには気づかないんだね。とにかく、あんたとは離婚するし、警察にも被害届を出させてもらいます」
私がそう言うと、大輔は「そんな…」とおめおめ泣き出した。義母は大輔の肩を持ってやりたいようだが、一体何と言って擁護すればいいのか分からないようだった。義父も「このバカが…」とつぶやいてからは口を覆って何も喋らなかった。大和はいつの間にか家から逃げていたが、その姿も映像に残っているので何も問題ない。私はこのバカ二人の人生を終わらせる覚悟を決めた。
後日、私と大輔の離婚は無事に成立した。大輔は慰謝料の他に、被害届を取り下げてもらうための示談金を支払うことに。義両親も今回の一件で大輔を勘当することに決めたようだ。また、大和も私に示談金を支払った上、このことがどこからか漏れてSNSで盛大に拡散される始末。そのため、ただでさえ落ち目のインフルエンサーだった彼は、数少ないファンでさえ彼の元を去り、ネットでも現実でも姿を見なくなる。
私は慰謝料や示談金のおかげで貯金にもだいぶ余裕ができたので、優雅な生活を送り始めた。今度誰かと結婚する時は、普通の思考を持った人がいいなと強く思ったのだった。



