あの日、最高の気分で迎えたハワイでの結婚式。純白のタキシードに身を包んだ孫の隣で、私は花嫁を待っていた。しかし彼女は現れず、代わりに現れた孫の義両親は、私たちを「貧乏人の孫が娘に相応しいわけがない」と笑い飛ばした。挙句の果てに「カノンは今頃、もっとふさわしい男とシャンパンを開けてるわよ」と見下してきたのです。婚約者に裏切られ、孫はその場で涙を飲みました。彼らが散々見下した「ただの年金暮らしの…

あの日、最高の気分で迎えたハワイでの結婚式。純白のタキシードに身を包んだ孫の隣で、私は花嫁を待っていた。しかし彼女は現れず、代わりに現れた孫の義両親は、私たちを「貧乏人の孫が娘に相応しいわけがない」と笑い飛ばした。挙句の果てに「カノンは今頃、もっとふさわしい男とシャンパンを開けてるわよ」と見下してきたのです。婚約者に裏切られ、孫はその場で涙を飲みました。彼らが散々見下した「ただの年金暮らしの...

ハワイの高級ホテルのラウンジ。抜けるような青空の下、輝く海を眺めながら、今日という日のために全てを捧げてきた孫の姿を、私は幸せいっぱいに見つめていた。純白のタキシードに身を包んだシ太は、最愛の女性・カノンさんと、この楽園で永遠の愛を誓うはずだった。

その幸せな幻想は、あまりにも残酷な言葉で粉々に打ち砕かれた。

「身のほど知れ。お前のような貧乏人の孫に、うちの娘はもったいないんだよ」

勝ち誇った笑みを浮かべる神父の母、三つ子。夫の正尾も、汚いものを見るような目でシ太を見下していた。カノンは式をすっぽかし、今頃は「もっとふさわしい相手」と別の場所でシャンパンを開けているという。

数ヶ月前まで、シ太とカノンさんは幸せの絶頂にいた。

若くして両親を事故で失い、私が一人で育て上げたシ太。彼は真面目で優しい、自慢の孫だ。彼が結婚したいと連れてきたカノンさんも、初めは控えめで可愛らしい女性に見えた。彼女の両親、田中夫妻が高圧的な態度を取るようになったのは、シ太が地元の工務店で働く普通の若者だと知ってからだ。それでもシ太は耐えた。「カノンを愛しているから、彼女の両親ともいつか分かり合えるはずだ」と。

そして、彼らが金を出せと要求した結婚式をハワイで挙げるため、身を削って働いた。好条件を全て呑み、費用も親族の旅費も、全てシ太が負担した。そんな彼の努力を、彼らは嘲笑っていたのだ。

「しつこいわね。二度と連絡してこないでちょうだい」
正尾はホテルのスタッフに言い放った。「おい、こいつらをさっさと追い出せ。不快だ」

しかし、スタッフは困惑した表情で私を見た。

そう、彼らはまだ知らないのだ。年金暮らしのただの老婆と見下していた私、山下せ子の正体を。そして、この高級ホテルすら傘下に収める、日本有数の巨大企業・山下グループの頂点に君臨するのが誰なのかを。

私はゆっくりとスマートフォンを取り出した。怒りで指先が熱い。シ太の流した涙の一滴一滴を、後悔という名の毒液に変えて、彼らに飲ませてやる。

「もしもし。私です。秘書室につないでちょうだい。それと、田中不動産との全取引を、今この瞬間から完全に停止させなさい」

私の声は、自分でも驚くほど氷のように冷たかった。物語はまだ始まったばかりだ。

シ太は、崩れ落ちそうな体を必死に支えて、私の方を向いた。「おばあちゃん、ごめん。僕のせいで… 」
何も謝ることはない。彼は立派にやってきた。一方で、私は田中夫妻を静かに見つめた。

「田中さん。その『山下』という名字に、何か心当たりはありませんか?」

秘書の佐藤からの連絡は速かった。田中正尾は、山下建設から下請けしていた大型プロジェクトで、指定された高品質な資材を使わず、安価な海外製品に勝手に切り替え、差額を着服していた。三つ子が経営するセレクトショップでも、偽ブランド品の販売容疑が浮上した。証拠は全て揃っている。

「会長、お待たせいたしました。日本との連絡、全て完了しております」

私は田中夫妻に宣告した。「あなたたちは、シ太からお金を奪うだけでは飽き足らず、彼の人生そのものを台無しにするつもりだった。それは決して許されることではありません」

しかし、彼らの悪巧みはまだ終わっていなかった。シ太がカノンに預けた結婚資金は、全て佐藤健一という男との遊興費に使われていた。そして、何より最悪だったのは、彼らがシ太に罪を着せようとしていたことだ。山下建設から請け負った工事での手抜きを、シ太が現場責任者としてやったことにしようと、偽造書類まで準備していたのだ。

私はその事実に、怒りで全身が震えた。彼らはシ太から全てを奪い、犯罪者に仕立て上げるつもりだった。

田中家を追い詰めるための最後の一手を考えていると、一人の女性が現れた。田中不動産で事務をしていた川田ゆいさんだった。彼女は、シ太の濡れ衣を証明する真実の工事記録を差し出した。「社長たちがシ太さんを陥れようとしているのを知っていました。でも、声を上げられなかった。でも、もう我慢できませんでした」

彼女もまた、田中家の犠牲者の一人だった。私は彼女に感謝した。これで全ての証拠が揃った。

ホテルから追い出された田中夫妻とカノンは、スイートルームで言い争っていた。しかし、そこに現れたのは、更なる絶望を告げる私と秘書の佐藤だった。

「田中不動産は、正式に破産手続きが開始されました。負債総額は15億円を超えています。あなたの会社の資産は全て差し押さえられました」
「あなたの宝石も、ドレスも、全てシ太さんが汗水流して稼いだお金で買われたものです。これらは全て回収されます」

田中一族は完全に崩壊した。

しかし、真の黒幕は別にいた。シ太の友人を装い、式に招待されていた弁護士の村上は、私に一通の封筒を差し出した。それは、私の次男であり、経営方針を巡って対立しグループを追放した息子・山下幸造が、田中家を裏で操っていたという証拠だった。彼は田中正尾を使って会社を混乱させ、株を買い占めて経営権を奪い返そうとしていたのだ。

「なんてことを… 。自分の息子が、実の甥を嵌めようとしていたなんて」

私たちは、カフェで優雅にコーヒーを飲む幸造のもとへ向かった。彼は私を見ると、卑屈な笑みを浮かべた。

「お袋、もう手を引けよ。俺がこの会社を継ぐべきなんだ。田中から盗ませた設計図で、株価は暴落し、俺は過半数の株を確保する手はずを整えた。勝ったのは俺だ」

しかし、シ太は静かに言った。「おじさん、あなたは田中さんが盗んだデータを本物だと思っているの?あの設計図は、田中さんが僕を陥れるために作った偽物だ。本物の設計図は、デスクにはありませんでした」

シ太は最初から気づいていた。田中正尾がパソコンを覗き見していることも、誰が裏で糸を引いているかも。だから、盗まれる場所に、わざと改ざんされたダミーデータを置いておいたのだ。

その言葉が終わる前に、カフェには警察官が現れた。「山下幸造さん、産業スパイおよび教唆の疑いで、任意同行をお願いします」

幸造は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

全てが終わったかに見えたが、村上弁護士が私に告げた最後の真実は、想像を絶するものだった。カノンは、田中夫妻の実の娘ではなかった。彼女は、私の長男の妻の妹の娘、つまりシ太の従妹にあたるというのだ。彼女の両親が亡くなった後、田中夫妻が遺産を狙い、身分を偽って彼女を引き取っていた。そして、山下家を乗っ取るための駒として育てていたのだ。彼女の歪んだ傲慢さも、夫婦によって長年かけてすり込まれたものだった。

彼らの罪は、想像以上に深く、そして残酷だった。

私はシ太を守った。彼こそが、この物語の真の主人公であり、すべてに打ち勝った誇り高き職人だ。

あの事件から3年後、再びハワイのホテルに私はいた。今度の気持ちは、純粋な喜びだった。シ太は、ハワイの伝統建築と現代建築を融合させる天才建築家として、世界中から注目される存在になっていた。そして、今日彼は、あの時私たちに証拠を届けてくれた川田ゆいさんと、再びこの地で結婚式を挙げようとしている。

彼は3年前と違い、自信に満ちた笑顔で、純白のタキシードを着こなしていた。彼の隣には、真っ直ぐな愛と信頼で彼を支えるゆいさんがいる。

式の裏口で、清掃員の制服を着た一人の女性がこちらを見ていた。かつてのカノン、今は「あ子」と名乗る彼女だった。賠償金のためにいくつもの仕事をかけ持ちしているその姿は、かつての面影もないほど疲れ果てていた。彼女はシ太に叫ぼうとしたが、シ太は静かに言った。

「人違いですよ。僕の知っているカノンという女性は、3年前にハワイの海に消えました」

シ太はゆいさんの手を引き、チャペルへと続く扉を開けた。オルガンの音が青い海と空に溶け込む。かつて涙で濡れた白いタキシードを着た孫は、今、最高の笑顔で最も大切な人と永遠の愛を誓おうとしている。

私は胸に手を当てて呟いた。誠実であることが、人生で一番の武器なのだと。

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