昇進の知らせに喜んだ孫娘が、飲み会からボロボロの姿で帰ってきた。「おじいちゃん、私、会社やめたい」そう泣き叫ぶ姿に、私は何が起きたのかと震えた。上司の部長は、孫娘の手柄を横取りした挙句、罰するどころか「お前は首だ」と偽の昇進で呼び出し、同僚たちの前でケーキをぶつけ、飲み物をかけ、嘲笑したという。笑いものにされた孫娘の屈辱を思うと、やり場のない怒りが込み上げる。私は静かにスマホを取り出し、ある…

昇進の知らせに喜んだ孫娘が、飲み会からボロボロの姿で帰ってきた。「おじいちゃん、私、会社やめたい」そう泣き叫ぶ姿に、私は何が起きたのかと震えた。上司の部長は、孫娘の手柄を横取りした挙句、罰するどころか「お前は首だ」と偽の昇進で呼び出し、同僚たちの前でケーキをぶつけ、飲み物をかけ、嘲笑したという。笑いものにされた孫娘の屈辱を思うと、やり場のない怒りが込み上げる。私は静かにスマホを取り出し、ある...

「昇進は嘘で、首だって」

俺の目の前で、ボロボロになって泣いているのは、親代わりに育てた孫娘の咲だ。この可愛い子を泣かせたのは、女子社員を玩具のように扱う部長の卑劣な罠だった。

激しい怒りが湧いてくる。大切な孫娘を傷つけた部長には、痛い目を見てもらわなければ。そして、この後、俺はある決断をする。部長は、自分の愚かな行為を後悔することになるが、もう何もかもが遅かった。

俺の名前は大代志介、60歳。18年前、俺の大切な娘が旦那と共に車の事故で亡くなった。

「さ、大丈夫だぞ。じいちゃんたちがいるからな」

娘夫婦の葬儀で、まだ何も分かっていない咲を優しく抱きしめた。これからは妻と共に咲を育てていこう。そう決意したのも束の間、16年前に妻が突然の病で娘夫婦の元へ旅立ってしまった。

以来、俺は咲を男手一つで育ててきた。

「咲、迎えに来たぞ」

中学生の時、部活動で帰りが遅くなった咲を、愛用の軽トラで迎えに行ったことがある。服も仕事先の作業着のまま。その際、咲はとても恥ずかしそうにしていた。

「ボロい軽トラで迎えに来ないでよ」

咲は思春期まっただ中だった。親が俺みたいなおじいさんで、さらに古臭い汚れた軽トラを友達に見られて、うまく説明できない羞恥心を感じたのだろう。

「す、すまない」

自分の気遣いの足りなさが申し訳なくて謝ると、咲は下を向き、罰が悪そうに俯いた。

「…迎えに来てくれたのは、ありがたいけどさ」

小声でお礼を言う咲。思春期で感情のコントロールがうまくできないだけで、母親譲りの優しい子なのだ。おかげで俺はそこまで苦労せず、咲を育てることができた。

「私、大学には行かないで働くよ」

高校1年生の秋、咲が進路相談をしてきた。俺は、大学に行かせるくらいの金ならあると伝えたが、咲は苦笑いを浮かべて言った。

「私、そんなに頭良くないし、大学に行って学びたいこともないしさ。でも、それよりも早く社会に出て働きたいの。自分の力でお金を稼ぎたい。それで初めてボーナスをもらったら、おじいちゃんと一緒にちょっといい温泉旅館に行きたいな」

嘘をついているように見えない。この子は勉強より仕事の方に興味があるのだ。

「分かった。この貯金は、咲が結婚した時に渡すよ」

「そ、それはありがたいんだけどさ、そんなに多くなくていいよ。おじいちゃんの老後のために取っておきなよ」

驚く孫娘の姿を見て、思わず笑ってしまった。俺は咲のためならなんだってできる。金を貯めることだって何も苦ではないし、咲の喜ぶ顔が見られるならいくらでも渡したいと思っていた。

しかし、世の中、金だけではどうしようもないことがある。

咲は高校卒業後、建設会社に就職。本社は都心にあるが、地元にも支社を持つ会社だ。咲は地元の支社で働き始め、慣れない仕事に苦労しながらも、4年も経てばすっかり一人前の社会人になった。

「咲、最近どうだ?」

休日、リビングでのんびり過ごしている咲に声をかける。最近、咲の帰りはかなり遅く、ゆっくり話せるのはお互い休みの日だけだ。

「うーん。ちょっと色々と大変かな」

いつもなら笑顔で「大丈夫」と返すが、今日は様子がおかしい。問いかけると、咲は困った様子で近況を教えてくれた。

咲は営業部に所属している。先日、大手企業との契約のチャンスを掴んだらしい。商談をまとめて無事に終わりそうなところで、思わぬ横やりが入った。

「咲の上司で営業部トップの池田部長だよ。『お前にはまだ早い』って言われて、次の商談には部長一人で行くことになったんだ」

池田部長は2年前に営業部の部長になったが、実力でなったわけではない。支社の専務の親戚で、コネで昇進したらしい。大した実力もなく営業部のトップになったが、今までは特に大きな問題もなかったという。ところが、入社4年目の咲が大きなチャンスを持ってきたことで、池田部長は欲をかいたのだろう。要するに、功績を横取りされたわけだ。

「要するに、功績を横取りされたってわけ。…社会に出ればこういう理不尽なこともあるよね。部長に逆らったところで、私にメリットはないし。平穏に過ごせるなら受け流すよ」

咲は俺よりよほど冷静だった。本人がそう言うなら、俺が出る幕はない。

「何か困ったことがあったら、じいちゃんに相談しなさい」

「今回は残念だったけど、今までの功績はちゃんと認められてるはず。これからが頑張り時だよ」

孫娘に元気をもらった俺は、今後はより一層仕事に励もうと決意した。……ところが、この日を境に、咲は徐々に元気を失っていった。

「大丈夫か?」

心配になり、何度も尋ねるが、「平気だよ」と弱々しい笑顔で返すだけ。やきもきしながら過ごしていたが、ある日、咲が久しぶりに明るい笑顔で帰宅した。

「池田部長から、来月、主任に昇進するって言われたの。来月、部でちょっと早めの昇進式を行うんだって。昇進式とは言っても、ただの飲み会だけどね」

「それは良かったな。久々に飲んじゃおうかな」

「おじいちゃん、当日はお迎え頼んでいい?」

俺は笑顔で頷いた。

「いいぞ。ボロの軽トラでよければな」

俺のこの発言に、咲は中学時代のことを思い出したらしい。

「もちろんいいよ。会社のみんなに『自慢のおじいちゃんと愛車だよ』って自慢するんだから」

いつの間にこんなに立派に育ったのだろう。咲はすっかり一人前だ。もう俺が心配して気にかける必要はないのかもしれない。けれど、まだ孫離れするのは寂しいので、できればもう少しだけ面倒を見させて欲しいと心の中でこっそり願った。

そして、昇進式当日。仕事が終わり、自宅でのんびり過ごしていると、咲から迎えに来て欲しいとメールが届いた。

「やけに早いな」

時刻は19時半。飲み会なら、これからが本番だろう。疑問に思いながらも軽トラを走らせる。指定された場所は、繁華街から少し離れた公園の前だ。咲はどこだろう。辺りを見渡していると、ゆっくり俺に近づいてくる人影を見つけた。

「昇進式はどうだった?」

笑顔で咲に近づくが、途中でぴたりと足が止まる。

「ど、どうしたんだ、その格好は?」

咲はボロボロの格好をしていた。スーツは何かの液体で汚れ、頭と顔にはクリームのようなものが付いている。咲は涙をこらえようと、ぐっと目元に力を入れていた。

「…昇進は嘘で、首だって」

「なんだと? 詳しい話を聞かせてくれ」

「いや、とにかく帰ろう。風呂に入って温まった方がいい」

咲を軽トラに乗せ、自宅へ急いで戻る。風呂から出てきた咲の目元は真っ赤だった。一人で泣いていたのだとすぐに悟った。俺は何も言わず、台所へ向かい、湯飲みに茶を注いだ。湯飲みを二つ持ってリビングに戻り、咲の隣にそっと腰を下ろして、一つを手渡す。咲は両手で湯飲みを包むように持ち、小さくお礼を言った。

しばらく、二人して黙ったまま座っていた。

「…この前、池田部長に大手との契約のチャンスを横取りされたって言ったでしょう」

「ああ、そうだったな」

「池田部長、とんでもないことをしていたの」

池田部長は咲を担当から外した後、単独で大手企業との交渉に臨んだ。功績をさらに大きなものにしたいと欲をかいた部長は、自社が有利になる形で独断に条件を変更したのだ。咲が担当の時点で条件はほぼ決定済みだった上、あまりにも池田部長に有利な条件だったため、相手は激怒し、契約は白紙撤回。しかし、池田部長はこれを全て咲のせいにした。

「私が暴走して、相手を怒らせたことになってたのよ」

咲は弁明の機会も与えられず、社内で孤立。そこに、池田部長から昇進の話を持ちかけられたらしい。

「『今回の件は俺から上層部に進言し、不問にしてもらった。お前には色々済まないことをしたな。詫びと言ってはなんだが、今までの功績を買い、お前を主任に昇進させるよう、合わせて進言しておいたよ。上層部は認めてくれた。お前の昇進は確実だ。部の社員を集めて昇進式をやらないか?』って、言われたの」

しかし、これは嘘だった。昇進を餌に咲の気をそらせて、証拠になりそうなメールや記録を削除し、改ざんしていたと、本人が咲に明かしたのだ。

「飲み会に行ったら、部長と取り巻きたちが待ってたの。部屋の扉を開けたら、急にケーキをぶつけてきて、それで呆然としている私に種明かししたのよ」

「な、なんでケーキをぶつけたんだ?」

「嫌がらせよ。『ぶつけたらもう証拠は全部消した。お前には何もできない』って、ニヤニヤしながら言ってきたの。私を馬鹿にしてみんなで楽しみたかったんでしょうね」

池田部長と取り巻きたちは、咲を指差して笑っていた。

「頭の上から飲み物もかけられたわ。私が『何するの』って抵抗したら、『冗談だろ』って言われた。あれが冗談? 私は何も面白くなかったわ。そのまま飛び出して、公園まで歩いたの」

咲は怒った声をあげるが、顔は悲しみに満ちている。涙を溜めた目で俺の方を見た。

「おじいちゃん、私、会社やめたい」

その瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。胸の奥底から、静かに、しかし確実に何かが燃え上がってくる。でも俺は表情を崩さず、咲を見つめた。

「もちろん、そんな会社やめていい。咲なら、次の職場はすぐに見つかるさ。生活費のことは心配しなくていいぞ。じいちゃんがどれだけ金を持ってるか、咲は知ってるよな? 前に見せた教育費用の通帳の額は覚えてるだろ」

俺が笑うと、咲も少しだけ表情を緩める。

「ありがとう。私、すぐ転職活動するね」

「それもいいが、少し待ってくれないか?」

「どうして?」

首をかしげる咲に、俺は笑みを深くする。ポケットからスマホを取り出すと、ある人物に電話をかけた。

「お、俺だ。お前の会社、全力で潰すからな」

次の瞬間、咲は目を丸くして俺を見た。

翌日、俺と咲は、ある人物が訪れるのを待っていた。朝10時、チャイムが鳴り、咲と共に玄関へ向かう。

「よく来たな」

俺が声をかけると、上等なスーツに身を包んだ相手が勢いよく頭を下げた。

「この度は、大変申し訳ありませんでした」

「まあ、とにかく入れ。玄関先でする話じゃねえだろ。お前も入れ」

俺は、スーツ姿の男性の後ろにいたもう一人の人物に声をかける。

「あ、はい」

今にも消えそうな声で返事をした人物を見て、俺の隣にいた咲が声を潜めて口を開いた。

「…昨日ぶりですね、池田部長」

我が家に訪れたのは、咲の上司である池田部長だ。そして、上等なスーツに身を包んでいるもう一人の男性は、池田部長の上司であり、支社のトップ、斎藤社長だ。

リビングに案内すると、二人は椅子に座ることなく、俺たちに向かってその場で土下座した。斎藤社長が真っ青な顔で口を開く。

「申し訳ございません、大城会長。まさか会長のお孫さんが、我が社で働いていたとは全く知らなかったんです」

俺は冷めた目で、斎藤社長と池田部長を眺めていた。

そう、俺はただのおじいさんではない。

「なんで俺に教えてくれなかったんだ? お前の身内が、地元二十数社のグループ企業の会長だって」

池田部長が恐縮しきった様子で咲を見る。俺は若い頃、上司に理不尽ないびりを受け、会社を去った経験がある。根っからの負けず嫌いだった俺は、上司を見返してやるという気持ちで会社を起こし、いつの間にか地元で強力な力を持つ二十数社のグループ企業のトップになったのだ。銀行や不動産、タクシー会社やスーパーマーケット、その他色々な業種の会社を経営している。咲の会社は全国に支社を持っているが、俺は地元のみ。しかし、地元では誰も逆らえないほどの強い力を持っているのだ。

昨日、俺は咲の目の前で斎藤社長に直接電話をした。

「お前の会社、全力で潰す」

「ち、ちょっと待ってください、大城会長。一体どういうことですか?」

手短に事情を話すと、斎藤社長は言葉を失ってしまった。

「ああ、明日、ご自宅に伺わせてください」

「俺が決めることじゃない。咲、どうしたい?」

俺と斎藤社長との会話を横で聞いていた咲は、短時間ではあるが事情を理解したらしい。

「おじいちゃんが大丈夫なら、来てもらってもいいよ」

「よし。オッケーだ。明日10時にうちで」

電話を切ると、咲は驚いた顔で俺に次々質問を浴びせてきた。

「おじいちゃんって、どこかの工場で働いてたんじゃなかったの? いつも作業着だったじゃん」

「グループ企業の一つに、農業関係があるんだ。これは土いじりが好きでな。会長ではあるが、大体そこで働いて汗を流してるんだよ」

俺は咲に詳しい事情を話していなかった。実は昔、娘がよからぬ連中に狙われたことがある。俺を脅して金を要求するつもりだったらしい。咲を同じ目に合わせたくないと考えた俺は、妻と話し合い、本当の姿を徹底的に隠すことにしたのだ。咲も俺の仕事に関して詳しく聞いてこなかったため、今の今まで奇跡的に隠し通せていた。

「すまない、咲。ずっと隠してて」

咲は最初驚いていたが、俺から事情を聞くと首を横に振って答えた。

「うん。別にそのせいで困ったことは一度もないし、それにちゃんと聞かなかった私も悪いよ」

先ほどの悲しそうな顔から一転し、少し笑って見せた。

「それにしても、いつも偉そうな支社長の慌てた声が聞けて、ちょっとだけスッキリしたよ」

どうやら、咲は俺が思っていた以上に強い子のようだ。

「池田部長にも、ちゃんと謝らせるからな」

咲は緩んだ表情を引き締めると、俺に向かって頭を下げた。

「ありがとう、おじいちゃん。お願いします」

そして、今日、目の前に顔面蒼白の二人が並んでいるというわけだ。

咲が、呆れた顔で池田部長を見た。

「池田部長、私が誰であろうと、あんなことをして許される理由にはなりませんよ」

言い返されて、池田部長がうつむく。斎藤社長が、恐る恐る口を開いた。

「大城さん、会長から電話で少しだけ話を聞いたけど、君の口から何があったか詳しく教えてくれるかな?」

「分かりました」

咲は、昇進式と偽って呼び出された件と、飲み会の席で何があったのか詳細に伝えた。合わせて、大手企業との契約のチャンスを奪われた件も明かした。

「部長は証拠を捏造したり削除しましたけど、相手の会社に残っている証拠には手を出せません。担当者の連絡先は知っています。その人にコンタクトを取り確認すれば、池田部長が一方的に条件変更を突きつけて相手を怒らせたことが分かるでしょう」

斎藤社長の顔に、怒りの感情が宿る。悪事がバレた池田部長は、青を通り越して白い顔色に変わっていた。

「咲の言う通り、相手が誰であろうと嘘をついて呼び出し、晒し者にするのはダメだ。どんな理由があろうとも、許される行為ではない」

俺が声をあげると、池田部長がびくっと体を跳ねさせる。

「おっしゃる通りです」

「斎藤社長、あなたにも責任がありますよ。このような問題のある人物を部長に据えるなんて」

斎藤社長は、うつむき、再び頭を下げる。

「面目次第もございません。全て、社長である私の責任です」

さっき咲は「偉そうな人」と言っていたが、斎藤社長はそれなりに仕事ができる人だ。二十数社の会長として何度か顔を合わせたことがあるが、いつも俺に対して礼儀を尽くしていた。咲が泣いて帰ってきた時は、本気で会社を潰そうと思った。あまり褒められたやり方ではないが、権力を持つ俺が動けば、会社をこの地域から追い出すこともできるだろう。しかし、今の斎藤社長は、心から反省しているのが表情から伝わってくる。

俺が咲に視線を移すと、咲は小さく頷いて答えた。

「私が問題視しているのは、池田部長の言動だから」

名前を呼ばれ、池田部長がヒュッと短く息を飲む。

「なあ、大城さん、悪かったよ。俺も心の底から反省してる。もう二度とあんなバカなことはしないからさ」

「『バカなこと』だと自覚した上でやったんですね。救いようがないですよ、部長」

咲が冷静に返すと、斎藤社長が続けて高らかに宣言した。

「池田部長の今後の処遇について、すぐに社内で検討します。大城さんにしたことは、許されない行為です」

「そうだな。他人の衣服を汚す行為は犯罪行為だ。咲がその気になれば、訴えることも可能だぞ」

池田部長が、青ざめた顔で咲を見る。

「訴えないですけど、それなりのバツは受けていただきたいです」

「厳しい処罰を下すと約束するよ」

斎藤社長の力強い声に、咲は納得した様子だ。

「では、これ以上は何も言いません。あとはよろしくお願いします、斎藤社長」

「お嬢様、お願いだ。俺の話を聞いてくれ」

「あなたの話なんて聞く価値もありませんし、時間の無駄です。自分の愚かな行為を心の底から後悔して、反省してくださいね」

咲がきっぱりと言うと、池田部長の顔に絶望の感情が広がった。どうすることもできないと悟ったのか、がくりと肩を落とした。

斎藤社長の行動は早かった。翌月には、池田部長の処分が決まり、社内に通達。部長は減給処分の上、総務部に移動となった。部下をかばっていた専務にも厳重注意が下され、取り巻きたちもそれぞれ厳しい処罰を受けたそうだ。池田部長は家庭も失い、憔悴しきった様子で働いていると、咲が教えてくれた。

「営業部は、別の人が部長になって、いい雰囲気になったよ。おじいちゃんのおかげだね」

咲はすっかり元気になり、今も同じ会社で働き続けている。転職するなら、俺のグループ会社を紹介しようかと言ったが、笑顔で断られてしまった。

「どんどん昇進して、池田部長を見返してやりたいの。私、おじいちゃんと同じで負けず嫌いだから」

俺が会社を起こした理由と同じだ。咲は母親譲りの優しさに加え、俺の負けず嫌いな性格も受け継いだらしい。少々心配ではあるが、咲の意思を尊重して、これ以上は何も手出ししないことにした。

「じゃ、行ってきます」

「お、気をつけてな」

元気よく出社する咲を見送る。さて、俺も仕事に行くか。いつもの作業着に着替え、軽トラに乗る。空を見上げると、今の俺の気持ちと同じように、雲一つない気持ちのいい青空が広がっていた。

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