「バーバ,お母さんがお金ないって言ってるの◦新しい服買ってくれる?」——お盆の朝,小学1年生になったばかりの孫が,3年前に私が買ってあげたピンクのウサギの刺繍が入ったワンピースを着て玄関に立っていた◦サイズは明らかに小さく,裾は膝上まで上がり,袖もつんつるてん◦年収1000万円近い息子夫婦が,孫に新しい服の一枚すら買ってやれないはずがない◦不審に思った私は,息子たちの会話を偶然耳にしてしまう…

「バーバ,お母さんがお金ないって言ってるの◦新しい服買ってくれる?」——お盆の朝,小学1年生になったばかりの孫が,3年前に私が買ってあげたピンクのウサギの刺繍が入ったワンピースを着て玄関に立っていた◦サイズは明らかに小さく,裾は膝上まで上がり,袖もつんつるてん◦年収1000万円近い息子夫婦が,孫に新しい服の一枚すら買ってやれないはずがない◦不審に思った私は,息子たちの会話を偶然耳にしてしまう...

「バーバ、お母さんがお金ないって言ってるの。新しい服買ってくれる?」

その瞬間、私の中で何かが凍りついた。お盆の朝、玄関のチャイムと共に飛び込んできた孫の小学1年生になった愛らしい姿を見て、私は思わず頬を緩ませたはずだった。しかし、その小さな体を抱きしめようとした瞬間、私の手が止まる。この服、見覚えがある。ピンクのウサギの刺繍、袖口の小さな擦り切れ3年前、ゆアの4歳の誕生日に私が買ってあげたワンピースだった。サイズは明らかに小さく、裾は膝上まで上がり、袖もつんつるてんになっている。なぜ3年も同じ服を着ているのか。

息子の達也は年収800万円の大手企業勤務。嫁のさおりもパートで働いている。世帯年収は1000万円近いはずなのに。「ゆアちゃん、その服ずっと着てるの? 」「うん。お母さんが大事に着なさいって。」無邪気に答えるゆアの言葉に、私の胸がざわついた。

リビングから聞こえてきた達也の声が、私の疑念を確信に変えた。「母さん、今月も援助頼むよ。10万円でいいから。」当たり前のように援助を要求する息子。3年間、私は何を見過ごしてきたのだろうか。あの服が変わらない本当の理由を、今こそ突き止める時が来たのだ。

私は村上くみ子,68歳。市役所に勤め41年。間もなく定年退職を迎える身だ。10年前に夫を亡くしてから、女手一つで息子の達也を支えてきた۔その支援は決して小さなものではなかった。】

達也の大学4年間の学費、生活費で総額1200万円।就職してからも結婚資金に300万円. マイホーム購入時、頭金として800万円を援助した۔さらにゆアが生まれてからは毎月10万円の仕送りを続けている।もう8年になるから総額960万円。合計すると3000万円を超える額を注ぎ込んできたことになる।達也の年収800万円、さおりさんのパート収入も合わせれば世帯年収は1000万円近いはず。私は通帳を見ながら呟いた。「なぜこれだけの収入がありながら、孫に新しい服一枚買えないのか。」

思い返せば違和感はあった。去年のお盆も、その前のお盆も、ゆアはいつも同じような服を着ていた。成長期の子供なのに、靴も小さくなったものを無理やり履いている。「おばあちゃん、これからもよろしくお願いします。」さおりの甘えた声が聞こえてきた।私の援助は、本当にゆアのためになっているのだろうか。それとも、嫌な予感が私の胸を締めつけた।

その日の午後、私は達也たちと久しぶりに外食に出かけた。ゆアは相変わらず小さくなった服を着て、靴も明らかにきつそうだった。「ゆアちゃん、靴が小さくない? 」私が心配そうに尋ねると、さおりがすかさず答えた。「お母さん、子供の成長は早いからすぐにサイズが変わっちゃうんです。もったいないでしょう。」その言葉を聞きながら、私は駐車場に停めてある、真っ新な車に目をやった。レクサスの最新モデル。少なくとも700万円はする高級車だ。「新しい車を買ったのね。」「あ、これ前の車が古くなったから買い換えたんだ。」達也は得意げに答えた।古くなったと言っても、前の車もまだ3年しか乗っていなかったはずだ。

レストランで、さおりのバッグが目に入った。エルメスのバッグ,100万円は下らない高級品だ。達也の腕にはロレックスの新作が光っている。「いい時計ね。」「これボーナスで買ったんだ。自分へのご褒美ってやつ。」嬉しそうに時計を見せびらかす。その横で、ゆアが小さな声で言った。「バーバ、私ピアノ習いたいの。」「ゆア!

Thumbnail

」さおりが鋭い声で制した。「ピアノなんてお金がかかるでしょう।うちにはそんな余裕ないの。」私は耳を疑った۔700万円の車を買い、100万円のバッグを持ち、高級時計を身につけている夫婦が、子供の習い事の台がないというのか。「でもお友達のみんなは…」ゆアの目に涙が浮かんでいた。「比べちゃだめ。うちはうち,よそはよそ。」さおりの冷たい言葉に、ゆアはうつむいてしまった。私の胸が痛んだ。

帰宅後、私は達也の部屋で偶然、1枚の紙を見つけた。ゆアの小学校からの通知表だった。「給食費のお知らせ」3ヶ月分の給食費が滞納になっている。たった月額4500円の給食費すら払っていないのか।私は震える手で紙を置いた。

その夜,ゆアが私の部屋に来た。「バーバ,内緒の話していい? 」「どうしたの? 」「学校でね,先生に『ゆアちゃん,その服小さくない? 』って聞かれたの।恥ずかしかった。」ゆアの言葉に、私の心は張り裂けそうになった.

翌日、私は密かに達也のSNSをチェックしてみた。そこには衝撃的な投稿が並んでいた。「ハワイ旅行最高。ビジネスクラスで夕日からの旅」「沖縄の高級リゾート満喫中。スイートルーム最高。」「京都の死に絶え旅館で贅沢3Day。1泊10万円の部屋。」写真には達也とさおりの楽しそうな姿。しかしゆアの姿はどこにもなかった。投稿日を確認すると、全て私にお金がないと援助を求めてきた直後のものだった。コメント欄もひどいものだった。友人とのやり取りが残っていた。「また旅行か,金持ちだな。」「親が援助してくれるから余裕だよ。」「いいな।俺の親は渋いわ。」「うちの親に金出すから楽勝。言い方次第だよ。」私の目から涙がこぼれた◦怒りと悲しみが同時に込み上げてきた◦さらに調べると、さおりの実家への送金記録も見つかった◦毎月15万円。私からの援助金10万円に自分たちの金を足して、さおりの両親に仕送りしているのだ◦ゆアの服も買えないのに,さおりの実家には仕送り◦私は自分の愚かさに気づいた◦達也たちは私を完全に金ずるとしか見ていない◦そして最も許せないのは,罪のないゆアを利用していることだった◦

学校の連絡を見せてもらうと,そこには担任の先生からの心配するコメントがあった◦「ゆアさんの服装について,サイズが合っていないようです◦また学用品も古いものを使い続けています◦ご家庭で何かお困りのことがあれば,ご相談ください。」「先生も心配してくださっているのね。」私がつぶやくと,ゆアが言った◦「お母さんは先生には大丈夫ですって言ってた◦でも本当は…」ゆアは言葉を濁した◦この子は,親の異常さに気づき始めているのかもしれない◦これが年収1000万円の家庭の実態なのか◦私は深い溜め息をついた◦8年間で960万円◦その金は,ゆアのためには1円も使われていなかったのだ◦私の援助が,むしろこの子を不幸にしていたなんて◦

その夜,私は眠れずにいた◦達也たちの行動に対する怒りと,ゆアへの申し訳なさが入り混じって,胸が苦しかった◦

翌朝,達也が仕事に出かけた後,さおりが私に近づいてきた◦「お母さん,実は相談があるんです。」さおりの表情は深刻そうだった◦「私の両親が体調を崩してしまって,医療費がかかるんです◦申し訳ないんですが,今月は20万円援助していただけませんか? 」私は驚いた◦いつもの2倍の金額だ◦「20万円。そんな大金,急にどうして? 」「父が手術を受けることになって,保険が効かない治療なんです。」さおりは潤んでいた◦しかし,昨日SNSで見た彼女の実家への送金を思い出し,私は疑念を抱いた◦「ご実家のご両親,お仕事は2人とも年金暮らしでしょ? 」その時,さおりのスマートフォンが鳴った◦画面に表示された名前は「お母さん」◦さおりは慌てて電話に出た◦「もしもし。母さん,今ちょっと…」さおりは部屋を出ていった◦しかし,廊下から聞こえてきた会話の内容に,私は耳を疑った◦「うん,今月も15万円振り込むから。」「え,旅行いいよ◦温泉でも行ってきて◦お金の心配はしなくていいから。」手術,医療費,全部嘘だったのだ◦

さおりが戻ってきた時,私は冷静に訪ねた◦「ご実家のご両親,手術は大丈夫なの?

」「え,心配していただいてありがとうございます。」平然と答えるさおりの顔を見て,私の中で何かが切れた◦

その後,達也が相対して帰ってきた◦リビングで達也とさおりが話している声が聞こえてきた◦私は物影からそっと様子を伺った◦「母さんから金もらえたか? 」「まだよ◦20万円って言ったら渋ってる◦ケチ臭いな◦俺たちがどれだけゆアの世話で大変か分かってないんだよ。」私は息を飲んだ◦「ゆアのことを言えば,私がどれだけゆアを心配しているか知ってるくせに◦でももう少し演技しないと。」「ゆアの服がボロいの,さすがにバレそう。」さおりが言った◦「別にいいだろ。むしろ好都合じゃないか◦お金がなくてかわいそうって思わせれば,もっと金を引き出せる。」達也の言葉に,私は全身が震えた◦「ゆアを利用するのはちょっとかわいそうじゃない? 」「何言ってんだよ◦親が金ずるなんだから,孫を使って何が悪い◦利用してないだろ◦」「それもそうね◦ゆアには『バーバにおねだりしなさい』って言い聞かせてるし。」2人の笑い声が響いた◦私は壁によりかかり,崩れ落ちそうになった◦

その時,達也のスマートフォンが鳴った◦「ああ,山田か◦うん,今夜の飲み会な◦行く行く◦金大丈夫◦今月も親から巻き上げたから。」巻き上げた◦その言葉が私の胸に突き刺さった◦電話を切ったが,さらに衝撃的なことを口にした◦「そういえば,来月ゆアの誕生日だろ◦プレゼント何にする? 」「100均のおもちゃでいいでしょ◦どうせお金がないって言えば,お母さんが買ってくれるし◦」「そうだな◦去年もそれで5万円のプレゼント台もらったし。」私は去年,ゆアの誕生日プレゼント代として5万円を渡していた◦それが,100均のおもちゃに化けていたなんて◦「でも最近母さんも年だからな◦そろそろ遺産の話もしておかないと。」達也の言葉に,さおりが応じた◦「そうね◦退職金もあるし,金もかなりあるはずね◦全部で3000万はあるだろう◦家も売れば2000万◦合わせて5000万か◦早めに相続対策しないとね◦税金で持って行かれたら損だし。」まるで私がもう死んでいるかのような会話◦私は発狂を覚えた◦「とりあえず今は金ずるとして使えるだけ使おう◦ゆアを出しにすればまだまだいける◦『バーバお金がないの』って言わせれば,コロっと騙されるもんね。」2人の高笑いが続いた◦

私は静かに自分の部屋に戻った◦怒りを通り越して,もはや感情すら感じなかった◦ただゆアの無邪気な顔だけが頭に浮かんだ◦机の引き出しから,今まで達也に渡してきた援助の記録を取り出した◦教育費1200万円,結婚資金300万円,住宅資金800万円,毎月の援助960万円,合計3260万円◦これだけの金を渡してきて,帰ってきたのは「金ずる」「巻き上げる」「騙される」という言葉だけ◦そして何より許せないのは,ゆアを道具として使っていることだった◦純粋な子供を利用して金を引き出す◦これほど卑劣な行為があるだろうか◦私は決意した◦もうこの関係は終わらせる◦達也たちには,自分たちの行いの報いを受けてもらう◦そしてゆアは私が守る◦窓の外を見ると夕日が沈もうとしていた◦明日,全てが変わる◦私はそう心に誓った◦

その夜,私は一睡もせずに計画を練った◦もう容赦はしない◦達也たちには法的にも社会的にも完全に追い詰めてやる◦まず私は銀行の通帳を全て確認した◦今まで達也に送金した記録を一つ一つプリントアウトする◦3260万円◦この金を必ず回収する◦

翌朝,私は役所の同僚で弁護士の資格を持つ伊藤さんに相談した◦「くみ子さん,これは立派な詐欺罪に該当します◦お孫さんへのネグレクトも児童虐待です◦」「訴えることはできますか?

」「もちろんです◦録音もあるんですよ◦『金ずる』『巻き上げる』という発言は,詐欺の故意を証明する重要な証拠です。」伊藤さんは続けた◦「まず不当利得返還請求を起こしましょう◦虚偽の理由で金銭を騙し取ったことを立証し,全額返還を求めます◦」「全額返してもらえますか? 」「録音と証拠があれば勝訴の可能性は高い◦さらに精神的苦痛に対する慰謝料も請求できます。」私の中で復讐の炎が燃え上がった◦「それとお孫さんの件ですが。」伊藤さんの表情が厳しくなった◦「給食費を払わない◦適切な服を与えない◦これは明確なネグレクトです◦児童相談所に通報すれば,親権停止の申し立てもできます◦親権停止。祖母でも親権者変更の申し立ては可能です◦特に経済的虐待の証拠があれば,くみ子さんがゆアちゃんを引き取ることもできるでしょう。」私は即座に決断した◦「全部やります◦訴訟も,親権変更も。」

その日の午後,私は児童相談所に向かった◦担当の職員にゆアの状況を詳しく説明する◦3年間同じ服◦給食費の滞納◦にも関わらず親は高級車や海外旅行◦「これは明らかな虐待です。」職員は深刻な表情で記録を取った◦「すぐに家庭訪問をします◦場合によっては一時保護も検討します。」

次に私は達也の会社の人事部に連絡を取った◦「息子の達がお世話になっております◦実は重要なお話がありまして◦」私は達が会社に申請していた各種手当てについて調査を依頼した◦案の上,扶養手当てを不正に受給していたことが判明した◦私を扶養していることにして手当てを受け取っていたのだ◦「これは懲戒処分の対象です◦詳しく調査させていただきます。」人事部の声は冷たかった◦

夕方,私は不動産屋に電話した◦「息子夫婦が住んでいる家の名義を確認したいのですが,調べてもらえますか? 」調べてもらうと,私が頭金を出した家の名義は,私との共有名義になっていた◦「共有持ち分の売却は可能ですか? 」「可能です◦相手が買い取らない場合は競売にかけることもできます◦」私は霊然に微笑んだ◦家も取り上げてやる◦その後,私は遺言書を書き換えた◦達也への相続は法定相続分の最小限のみ◦残りは全てゆアに信託財産として残す◦さらに達夫婦の詐欺行為により精神的苦痛を受けたという文言も追加した◦

私は最後の準備として訴状の下書きを作成した◦「被告:村上達也,村上さおり。児童虐待◦被告らは窮迫に乗じて訴求人から金銭を詐取し,さらに実子に対する養育義務を怠り経済的虐待を行った◦請求額:不当利得返還請求3260万円,慰謝料500万円,養育費返還300万円,合計4060万円。」さらに私は達也の勤務先,さおりのパート先,そして近所にもこの事実を知らせる準備を整えた◦社会的制裁も与えてやる◦最後に,ゆアを引き取るための部屋の準備を始めた◦新しいベッド,勉強机,そしてたくさんの新しい服◦この子には本当の愛情を注いでやる◦「ゆアちゃん,もうすぐバーバと一緒に暮らせるからね。」私は決意を新たにした◦明日,達也たちの人生を完全に破壊してやる◦金ずるだと巻き上げる◦その代償がどれほど高くつくか,思い知らせてやる◦達也の会社での立場,社会的信用,家,財産,そして娘,全てを失うことになるだろう◦これが私を舐めた報いよ◦私は冷たく微笑んだ◦もう慈悲はない◦

翌朝,私は達也たちが朝食を摂っている時を狙ってリビングに入る◦手には停止書とその他の書類の束◦「おはよう母さん◦今日は機嫌がいいね。」達也が何も知らずに笑顔を向けてきた◦「え,とても気分がいいわ◦ところで大切な話があるの。」私は冷静に告げた◦そして援助停止書を机に置いた◦「何これ?

」達也が書類を手に取った◦読み進めるうちに顔色がみるみる青ざめていく◦「援助停止。どういうこと? 」「文字通りよ◦今日から一切の援助を停止します◦」「ちょっと待ってよ◦急にそんな◦」さおりが慌てて口を挟んだ◦「お母さん,私たちゆアのためにお金が必要なんです◦」「ゆアのため? 」私は霊勝を浮かべた◦そして録音機を取り出し,昨日の会話を再生した◦「親が金ずるなんだから,孫を使って何が悪い◦」「うちの親に金出すから楽勝◦」「巻き上げた金で飲みに行く◦」達也とさおりの顔が真っ青になった◦「これ全部録音してあるわ◦それからこれも見なさい。」私は達也のSNSの投稿をプリントアウトしたものを見せた◦海外旅行の写真,高級レストランでの食事◦そして「親から巻き上げた」というコメント◦「お母さん,これは…」「言い訳は聞きたくない◦それよりもっと重要な話があるの。」私は次の書類を取り出した◦「不当利得返還の訴状よ◦3260万円◦全額返してもらいます◦」「は,訴訟…」達也が声を震わせた◦「あなたたちはゆアのためと嘘をついて私から金を騙し取った◦これは詐欺よ◦刑事告訴の準備もしてあるわ◦」「そんな,親子の間で訴訟なんて◦」「親子? 」私は嘲笑した◦「私を金ずると呼ぶ人間が親子を語るの◦」「お母さん,お願いです◦訴訟だけは…」さおりが泣き始めた◦「まだ続きがあるのよ。」私は児童相談所への通報書の控えを見せた◦「児童相談所に通報済みよ◦給食費を払わない◦適切な服を与えない◦これは児童虐待◦規制が終わって家に帰ったらすぐに家庭訪問が入るはずよ◦」「虐待なんてそんな大げさな◦」達也が声を荒げた◦「大げさ?

じゃあなぜゆアは3年間同じ服を着ているの? なぜ給食費を払わないの? それは年収1000万円もあって子供に服も買えない◦でも自分たちは海外旅行◦これが虐待じゃなくて何? 」私は達也の会社の人事部からのメールを見せた◦「あなたの会社にも連絡したわ◦扶養手当ての不正受給について◦」達也の顔から血の気が引いた◦「不正受給…」「あなたは私を扶養していることにして手当てを受け取っていた◦でも実際は私から援助を受けていた◦これは重大な懲戒違反よ◦首になるかもしれないわね◦でも懲戒処分は免れないでしょうね◦」達也は膝から崩れ落ちた◦「とどめを刺すように,私は不動産の書類を取り出した◦「あなたたちの家◦私も共有名義になってるのよ◦頭金800万円出したから,その持ち分売却することにしたわ◦」「家まで…」さおりが泣き崩れた◦「お母さん◦そんな◦全部失ったら私たちどうやって生きていけばいいの?

」「知らないわ◦自分たちで稼いだお金で生きればいいでしょう◦」私は容赦なく続けた◦「あ,それからさおりさんのご実家にも連絡しておいたわ◦あなたが私から騙し取った金をご両親に送金していたこと◦」「実家まで…」その時,私のスマートフォンが鳴った◦弁護士の伊藤さんからだった◦「くみ子さん,書類の準備が整いました◦明日にでも訴訟を起こせます◦」「ありがとうございます◦予定通りお願いします◦」電話を切った私に,達也が懇願してきた◦「母さん,お願い◦全部撤回してくれ◦謝るから◦」「謝る? 今更◦」私は録音を再生した◦「金ずる,巻き上げる,騙せる◦これがあなたたちの本音でしょう◦謝罪なんて信じられるわけがない◦」「でもこのままじゃゆアが…」「ゆアの心配? 今更ね◦」私はゆアを呼んだ◦「ゆアちゃん,お父さんとお母さんは明日帰るけど,あなたはもう少しバーバの家にいない? 」「いいの?

やった! 」ゆアが喜ぶ姿を見て,達也は愕然とした◦「ゆ,お前…」「だってバーバの家の方が楽しいもん◦新しい服も買ってくれるって言ったし◦」無邪気なゆアの言葉が,達也たちの心を刺した◦私は最後通告を告げた◦「明日の朝,あなたたちは帰りなさい◦ゆアは私が預かる◦児童相談所とも相談して,正式に私が養育することになるでしょう◦」「親権を奪うつもりか◦」「奪う◦あなたたちが放棄したようなものでしょう◦給食費も払わない◦服も買わない◦それで親? 」達也たちは言葉を失った◦「訴訟の件,会社への連絡,全て帰ってから本格的に始まるわ◦覚悟しておきなさい◦」「お母さん,お願いです◦せめて訴訟だけは◦」さおりが膝をついて懇願した◦「3260万円買返せるの◦そんな体金じゃあ無理ね◦家を売って退職金も全部渡して◦それでも足りないでしょうけどね◦」私は冷たく言い放った◦これが私を金ずると呼んだ代償◦

その夜,達也たちは一睡もできなかったようだ◦翌朝,憔悴し切った顔で荷物をまとめていた◦「母さん,本当にこれでいいの? 」達也が最後に聞いてきた◦「え,これでいいの◦あなたたちが私にしたことをそのまま返しただけよ◦ゆアは幸せになるわ◦本当の愛情を注いでくれる人と暮らして◦」達也が出ていく時,私は見送りもしなかった◦ゆアは新しい服を選びながら嬉しそうに鼻歌を歌っていた◦玄関のドアが閉まる音が,達也たちの人生の終わりを告げているようだった◦

達也たちが帰ってから2週間が経った◦私の家はゆアの明るい笑い声で満たされていた◦「バーバ,見て◦新しいワンピースすごく似合うでしょう◦」ゆアがくるくると回りながら嬉しそうに服を見せてくれる◦クローゼットにはサイズのあった可愛い服がたくさん並んでいた◦「とても似合ってるわ◦今度はピアノ教室にも行きましょうね◦」「本当?

やった! 」ゆアの喜ぶ姿を見ていると,この選択が正しかったと確信できた◦

その頃,達也たちの状況は悲惨なものだった◦弁護士からの連絡によると,不当利得返還請求は私の全面勝訴が確定したという◦「録音証拠が決定的でした◦『金ずる』『巻き上げる』という発言は,詐欺の故意を明確に示しています◦」伊藤弁護士の報告を聞きながら,私は複雑な気持ちだった◦息子を訴えることに全く迷いがないわけではない◦でもゆアのことを思えば,これが最善の選択だった◦達也の会社からも連絡があった◦「扶養手当ての不正受給により,減給処分と3ヶ月の停職処分が下されたという◦さらに返還請求額は200万円を超えるそうだ◦信用を完全に失いました◦出世の道は絶たれたでしょう◦」人事部の冷たい声が達也の終わりを物語っていた◦家の共有持ち分の件も進んでいた◦達也たちには買い取る資金がないため,競売にかけることになった◦「お母さん,お願いです◦家だけは…」さおりから泣きながら電話がかかってきたが,私は取り合わなかった◦自業自得よ◦高級車を売って◦ブランド品も全部売りなさい◦それでも足りないでしょうけどね◦

児童相談所の調査も進み,ゆアの親権者変更の手続きが始まっていた◦ネグレクトの証拠は十分すぎるほどあった◦「お母さんが養育者として適切だと判断しました◦ゆアちゃんもお母さんとの生活を強く望んでいます◦」担当者の言葉に私は安堵した◦

ある日,ゆアが私に言った◦「バーバ,お父さんとお母さんもう会いに来ないの? 」「ゆアちゃんは会いたい? 」ゆアは少し考えてから首を横に振った◦「うん◦だっていつもお金がないって言うから◦バーバといる方が楽しい◦」子供の正直な言葉が全てを物語っていた◦達也からは何度も謝罪の電話がかかってきた◦「母さん,本当に悪かった◦反省してる◦だから訴訟だけは取り下げてくれ◦」「反省?

あなたが反省するのは私に対してじゃない◦ゆアに対してでしょう◦」「ゆアにも謝りたい◦合わせてくれ◦」「ゆアが会いたがったら連絡するわ◦でも今のところその気配はないわね◦」電話の向こうで達也が泣いているのが分かった◦でも情状はしない◦さおりの実家からも連絡があった◦「娘が大変なご迷惑をおかけして…」さおりの母親は平謝りだったが,私は冷静に対応した◦「ご迷惑? あなた方も私から騙し取った金を受け取っていたんでしょう◦それは生活が苦しくて? 月15万円も旅行にも行っていたそうじゃない◦」さおりの実家との関係も完全に断絶した◦

私は今,市役所の定年退職を控えて新しい人生設計を練っている◦退職金と年金,そして達也たちから返還される金額で,ゆアと2人十分に暮らしていける◦「ゆアちゃん,大きくなったら何になりたい? 」「お医者様◦人を助けたいの◦」「素敵ね◦バーバが全力で応援するわ◦」ゆアの夢を聞きながら,私は本当の幸せを感じていた◦振り返れば,私は長年間違った愛情を注いでいた◦金を渡すことが愛情だと勘違いして達也を甘やかし,結果的にゆアを苦しめていた◦でももう違う◦本当の愛情とは時に厳しく相手の成長を願うこと◦そして守るべきものをしっかりと守ることだ◦達也とさおりには自分たちの力で生きていってもらう◦それが彼らにとっても必要なことだろう◦人を金ずると呼び子供を顧みなかった報いはきちんと受けてもらう◦私の選択は世間から見れば残酷かもしれない◦実の息子を訴え,家を奪い,孫を取り上げた◦でもこれが正義だと信じている◦理不尽に屈してはいけない◦例え相手が家族でも,間違っていることには毅然と立ち向かうべきだ◦ゆアが大人になった時,この出来事をどう思うだろうか◦でも少なくとも彼女は愛情に包まれて成長できる◦それが私にできる最大の贖罪だ◦窓の外を見ると青空が広がっていた◦新しい人生の始まりを祝福するかのように◦「さあ,ゆアちゃん,お買い物に行きましょう◦今日は好きなものを選んでいいわよ◦」「本当?

バーバ,大好き! 」ゆアの笑顔が私の心を温かく照らした◦これが本当の勝利の形だ◦