体調を崩して寝込んでいた私の枕元から、銀行通帳と実印が消えた。翌日、義母から電話がかかってきた。「あんたの金で家買ったわよ。感謝しなさい」って。でも、その5000万円は義父の会社を救うための出資金だった。私は震える声で真実を告げた。電話の向こうで義母が絶句した瞬間、今度は玄関のドアが叩かれた。形相を変えた義父が飛び込んできて、「会社が潰れる!今すぐ金を返せ!」と叫んだ。だが、義母の口座からも…

体調を崩して寝込んでいた私の枕元から、銀行通帳と実印が消えた。翌日、義母から電話がかかってきた。「あんたの金で家買ったわよ。感謝しなさい」って。でも、その5000万円は義父の会社を救うための出資金だった。私は震える声で真実を告げた。電話の向こうで義母が絶句した瞬間、今度は玄関のドアが叩かれた。形相を変えた義父が飛び込んできて、「会社が潰れる!今すぐ金を返せ!」と叫んだ。だが、義母の口座からも...

電話が鳴ったのは、体調を崩して寝込んでいた昼下がりだった。義母からの電話だ。出た瞬間、信じられない言葉が飛び込んできた。

「あんたの金で家買ったわよ。」

「は?どういうことですか?」

「何言ってるの?偽体住宅の契約、私がやっておいたのよ。感謝しなさい。」

私は体調不良で寝込んでいる隙に、義母が私の通帳から5000万円を無断で引き出し、勝手に不動産の購入契約を結んでいたのだ。

「ちょっと待ってください。そのお金、私のじゃないんですけど。」

「はあ?あんたの口座に入ってたんだから、あんたのお金でしょうが。」

義母は悪びれる様子もなく、むしろ私に感謝を求めてくる。だが、私はその5000万円が、倒産寸前の義父の会社を救うための出資金だったことを告げた。

電話口から義母の声が消えた。義父の会社が経営難で、来週にも手形が不渡りになる可能性があること。義父が何度も私の会社に来て、土下座して出資を懇願してきたこと。全てを説明した数秒後、慌てた様子の義父が私の家に飛び込んできた。

「会社が潰れる!今すぐ金を返せ!」

しかし、義母の口座を確認すると、昨日まで確かにあったはずの5000万円が、後方もなく消えていた。

「お前が使ったんだろう!」

「違うわよ!」

二人の激しい言い争いが始まった。まさか、これが家族全員の破滅の始まりであったとは、その時は誰も知る由もなかった。

私は九里。38歳でアパレルブランドの代表を務めている。20代の頃に立ち上げた小さなブランドは、今では年商数億円にまで成長した。夫の友行は、義父が経営する精密部品加工の会社で営業職として働いており、周囲からは次期社長候補と目されていた。結婚当初は平穏な日々が続いていたが、ある日を境に状況が一変する。

義母が近所のスーパーの特売セールで他の客と喧嘩になり、転倒して足を骨折してしまったのだ。喧嘩は義母が一方的に仕掛けたものだったが、本人はそれを棚に上げて被害者ぶっていた。幸い経過は良好で短期間での回復が見込まれたものの、この怪我をきっかけに義母の態度が変わり始める。

「もう年だし、老後が心配だわ。同居してくれないかしら。」

突然の同居の申し出に、私と友行は顔を見合わせた。

「お母さん、急にどうしたんだよ。」

「だって不安なのよ。あんたたち夫婦なんだから、私たちの面倒を見るのは当然でしょ。」

その言葉に私は違和感を覚えたが、友行は何も言わずに黙っている。仕方なく私たちは同居の購入について検討を始めることにした。私は潤沢な個人資産を持っているので、資金面での心配はなかった。しかし、義母の傲慢な振る舞いや、義父の会社が深刻な経営難に陥っている現状に、私は漠然とした不安を抱えていた。

同居の話が本格化するにつれ、義母の図々しさはエスカレートしていく。ある日の午後、玄関のチャイムが鳴り響いた。モニターを確認すると、そこには満面の笑みを浮かべた義母の姿。私は嫌な予感を覚えながらもドアを開けると、義母は挨拶もそこそこに土足で上がり込んできた。

「あら、里美さん、いいスキンケア使ってるのね。ちょっと借りるわよ。」

そう言って勝手に洗面所に入り、私が大切にしていた数万円する高級美容液を、まるで自分のものであるかのように大量に手に取る。胸の奥で湧き上がる怒りを必死に抑えながら、私は何も言えずにその場に立ち尽くす。義母は当然のようにそれを使い込み、顔や首筋にたっぷりと塗りたくっていった。帰り際には、空になった容器を私の目の前で振りながらこう言った。

「なくなっちゃったから、新しいの買っておいてね。」

「でも、それお母さんが使ったんですよね。」

「細かいこと言わないの。家族でしょ。ケチねえ。」

呆気に取られる私をよそに、義母は意気揚々と帰っていく。その態度に苛立ちを覚えたが、波風を立てたくなくて黙っているしかなかった。

それからというもの、義母の訪問は週に何度も繰り返されるようになった。その度に洗面所の高級化粧品が減っていき、私の財布からも少しずつお金が消えていく。ある日、トイレットペーパーや洗剤などの日用品が大量になくなっていることに気づいた。さらに、私の実家から送られてきたブランド米まで、いつの間にか半分以上が消えていた。不審に思った私が義母に確認すると、驚くべき事実が判明する。

「ああ、あのお米ね。フリマアプリで売ったわよ。結構いい値段になったの。」

「え、売ったんですか?でも、それ私の実家から送られてきたものですよ。」

「だから何?どうせ余るんでしょ?有効活用してあげたのよ。」

「でも、お父さんのお宅にも同じものを送ってるはずですが。」

「あっちはあっち、こっちはこっち。家族なのにケチな人ね。」

その開き直った態度に、私は言葉を失った。しかし、義母との関係を悪化させたくない一心で、私はその場を何とか収める。だが、義母の行動はエスカレートしていくばかりだった。

ある日、友行が帰宅すると私に向かってこう言った。

「母さんが米を売ってたって、別にいいだろ。お前の実家は米農家なんだし。」

「でも、無断で持ち出して売るのはどうかと思うわ。」

「どうせ捨てるほどあるんだろう。そんなことでガタガタ言うなよ。」

夫までもが義母の肩を持つことに、私は深い失望を感じた。

それからしばらくして、さらに気になることが起こり始める。財布の中のお金が日に日に減っていくのだ。最初は自分の記憶違いかと思い、家計簿と照らし合わせてみる。しかし、何度確認しても明らかに計算が合わない。誰かが私の財布から現金を抜き取っているとしか考えられなかった。

「まさか友行が…いや、そんなはずない。」

疑いたくない気持ちと、現実を直視しなければならない恐怖が心の中で戦い合う。数日間悩んだ末、私は勇気を振り絞って友行の財布を確認する機会を窺った。ある休日の朝、友行がシャワーを浴びている隙に、リビングのソファーに置かれた彼の財布を手に取る。手が震えた。本当は見たくない。でも、確かめなければこの不安は消えない。私は震える手で財布を開いた。

そこには、見覚えのない高級レストランの領収書や、女性向けのアクセサリーショップのレシート。そして、私が渡しておいたお小遣いの金額とは明らかに釣り合わない大量の現金が入っていた。

これは、もしかして……

胸騒ぎを覚えた私は、もうこれ以上目を背けることはできないと決心し、探偵に友行の素行調査を依頼することにした。

依頼から数週間が経ったある日の夕方、探偵事務所から一通の封筒が届いた。厚みのある茶封筒を手に取ると、ずっしりとした重みを感じる。私はソファーに深く腰掛け、何度も深呼吸を繰り返した。開けたら、もう後戻りはできない。それでも、私は震える手で封を切り、中から取り出した報告書に目を通し始める。

一行、また一行と読み進めるごとに、私の顔から血の気が引いていくのが分かった。友行には愛人がいた。しかも半年以上前から関係が続いており、私が渡していたお小遣いも、私の財布から抜き取っていた現金も、全てその女性のために使われていたのだ。報告書には日付と一緒に細かく記録されており、友行の嘘が全て暴かれていく。仕事で遅くなると言っていた日は、実際には愛人とデートをしていた。出張と偽っていた週末は、温泉旅行に行っていた。添付された写真には、親密そうに寄り添う友行と若い女性の姿が鮮明に映っている。

信じられない。こんなことがあっていいの?

裏切られたショックで涙が溢れそうになったが、私は必死に感情を抑える。このままでは友行との結婚生活を続けることはできない。離婚を決意した私は、水面下で別居の準備を開始した。しかし、義母からは相変わらず毎日のように連絡が来る。

「家は見つかったの?早く契約しなさいよ。」

「まだ検討中ですので。」

「何をグズグズしてるのよ。私が老後不安なの分かってるでしょ。さっさと進めなさい。」

電話口から聞こえる義母の怒鳴り声。私はその催促を完全に無視し、離婚準備を着々と進めていった。

そんなある日の朝、目が覚めると体が鉛のように重かった。額に手を当てると、焼けるような熱さ。仕事の過労と精神的ストレスが重なり、私はついに体調を崩して寝込んでしまった。高熱が出て体が動かず、起き上がることすらままならない。朝食の支度をしようとベッドから出ようとしたが、立ち上がった瞬間に目の前が真っ暗になり、再びベッドに倒れ込む。そんな私の様子を見ても、友行は面倒くさそうに言った。

「じゃあ、俺仕事行くから。何かあったら連絡して。」

「うん。ありがとう。」

熱でぼんやりとした意識の中、私はベッドで横になっていた。すると、インターホンが鳴り響く。玄関のモニターを確認すると、そこには義母の姿があった。今は誰にも会いたくない。しかし、義母は何度もインターホンを押し続け、しまいには大声で叫び始めた。

「里美さん、開けて!お見舞いに来たのよ。」

仕方なく、私はよろよろと玄関に向かい、ドアを開ける。

「あら、本当に具合悪そうね。大丈夫?」

「すみません。今日はちょっと……」

「遠慮しないで。着替えとか用意してあげるわ。」

そう言って、義母は勝手に寝室に入り込んできた。嫌な予感しかしない。熱でフラフラしている私は、義母を止めることができない。

「はい、これ着なさい。汗かいてるでしょ?」

「ありがとうございます。」

義母は親切そうに振る舞いながらも、その目は部屋の中を物色するように動いている。私がうとうとし始めると、義母は小声でこう呟いた。

「ふふふ…チャンスね。」

その声に私はうっすらと目を開けたが、体が重くて起き上がれない。義母は私のバッグから財布を取り出し、中身を確認している。そして、枕元に置いてあったスマートフォンも手に取った。

「これも借りるわね。」

「何を……?」

「大丈夫よ。すぐ返すから、ゆっくり休んでなさい。」

そう言って、義母は私の貴重品を全て持って部屋を出ていった。私は意識が朦朧としていて、何が起こっているのか理解できないまま眠りに落ちる。

翌日、体調が少し回復した私は枕元を確認した。スマホがない。慌ててバッグの中を探すが、財布も見当たらない。さらに、クローゼットの奥にしまってあったはずの銀行通帳、実印、マイナンバーカードまでもが、全て消えていた。

どういうこと?まさか、お母さんが?

背筋が凍るような恐怖を感じた私は、すぐに友行に連絡しようとしたが、スマホがないので電話もかけられない。家の固定電話から友行の会社に電話をかけたが、彼は外出中で連絡が取れなかった。そして数時間後、義母から私の固定電話に連絡が入る。

「もしもし、里美さん、元気になった?」

「お母さん、昨日私の荷物を持って帰りましたよね。返してください。」

「ああ、それがね、いい報告があるのよ。」

その声は妙に弾んでいて、嫌な予感しかしない。

「あんたの口座にあった5000万円を使って、マンションの契約をしてきたわよ。」

「……は?今何て言いました?」

「だから、私があんたの代わりにマンションを買ってあげたのよ。感謝しなさい。」

「ちょっと待ってください。勝手に私の口座からお金を引き出したんですか?」

「何言ってるの?あんたがグズグズしてるから、私がやってあげたのよ。ありがたく思いなさい。」

私の怒りと困惑をよそに、義母は得意げに笑っている。

「それって犯罪ですよね。」

「犯罪?何大げさな。家族のためにやったことでしょ。」

「でも、そのお金、私のじゃないんです。」

「はあ?あんたの口座に入ってたんだから、あんたのお金でしょうが。」

私は震える声で、その5000万円の真実を告げた。

「あのお金は、お父さんの会社に出資するつもりだったんです。」

電話口で、一瞬義母の声が途切れた。

「出資?何を言ってるの?」

私は深呼吸をしてから、冷静に事実を告げていく。義父の会社が経営難で、来週にも不渡りを出す可能性があること。義父が何度も私のところに来て、土下座して出資をお願いしてきたこと。私は当初、義父の要求を断っていた。自分で起こした会社の失敗を他人に頼ろうとする姿勢が気に入らなかったからだ。しかし、義父は毎日のように私の会社を訪れた。従業員の前で何度も何度も土下座を繰り返し、「どうか助けてください」と懇願し続けた。その姿があまりにも哀れで、そして、義父の会社が倒産すれば連鎖倒産で取引先にも多大な迷惑がかかると知り、私はしぶしぶ出資を決めたのだ。その準備金として用意していた5000万円を、義母が勝手に引き出して使ってしまった。

「あのお金がなければ、お父さんの会社は来週確実に倒産します。」

「そ、そんな…聞いてないわよ。」

「でも、もう手遅れですよね。お母さんが使ってしまったんですから。」

電話を切った直後、突然玄関のドアが激しく叩かれる音が響いた。どんどん、という尋常ではない叩き方。私は驚いて玄関に向かうと、ドアが勢いよく開き、義父が転がり込むように入ってきた。彼のワイシャツは汗でびっしょりと濡れ、髪は乱れていた。普段はきちんと整えている髭も無精髭のまま。こんなに取り乱した義父の姿を見るのは初めてだった。

「会社が潰れる!今すぐ5000万円を返してくれ!」

形相を変えた義父が、息を切らせながら私に詰め寄る。その目は充血していて、睡眠も取れていないのだろう。

「お父さん、落ち着いてください。」

そう言って椅子を勧めるが、義父は座ろうともせずに私の肩を掴んだ。

「落ち着いていられるか!」

義父の顔は真っ赤で、額には大粒の汗が流れている。その姿を見て、私は改めて事態の深刻さを実感した。

「頼む。なんとかしてくれ。あと1週間で手形の決済日なんだ。」

「でも、もうお母さんが引き出してしまって……。すぐに返してもらってください。」

そう言って、義父は慌てて電話をかけ始めた。

「お前、通帳を確認しろ!」

電話の向こうから、義母の慌てた声が聞こえる。数分間の沈黙の後、義母が何かを叫んでいるのが聞こえた。しばらくして、義父の顔色がさらに悪くなった。

「は?金がない?」

義母の口座から5000万円が消えているという。昨日まで確かにあったはずの預金が、一晩で後方もなく消えた。

「お前が使ったんだろう!」

「違うわよ!」

二人の激しい言い争いが始まる。義父は義母が嘘をついていると決めつけ、義母は必死に否定する。その様子を見ながら、私の頭の中である可能性が浮かび上がってきた。

まさか、友行がまた何かしたんじゃ……

嫌な予感がする。彼ならやりかねない。私は震える手で自分のスマートフォンを取り出し、友行のSNSアカウントを確認してみた。画面を開いた瞬間、目に飛び込んできた写真に、私は息を飲む。そこには、真っ青な海をバックに、愛人らしき女性と親密そうに肩を抱き合う友行の姿。二人とも満面の笑みを浮かべていて、まるで新婚旅行のようだ。高級リゾート地の豪華なプールサイドで撮影されたその写真は、どう見ても数十万円はかかっているであろう旅行。そして、キャプションにはこう書かれていた。

「臨時ボーナス最高!久しぶりの海外旅行、めちゃくちゃ楽しんでます。最高の彼女と最高の時間!」

投稿日時を確認すると、今朝。つまり、友行は今、日本にいない。

「お父さん、友行さんに連絡は取れますか?」

「さっきから何度も電話してるが、つながらん。今朝から無断欠勤だ。」

私は義父にスマートフォンの画面を見せた。

「これ、友行さんのSNSです。」

「何?!海外旅行だと?」

画面を見た義父の顔が、怒りで歪む。

「あのバカ息子が!」

どうやら友行は、義母が私の口座から引き出した5000万円を、義母の口座からさらに自分の口座へ移していたらしい。そして、愛人と一緒に海外旅行へ逃げたのだ。

「ちょっと、友行が私のお金を盗んだってこと?!」

電話口から義母の金切り声が響く。

「お前が人の金を盗んだんだろうが!」

「私は里美さんのためを思って……!」

「黙れ!お前のせいで会社が潰れるんだぞ!」

義父母が激しく言い争う声を聞きながら、私は静かに口を開いた。もう隠す必要もない。全てを明らかにする時が来たのだ。

「お父さん、実は……友行さんと離婚します。」

「え……?」

義父の動きが止まる。電話口の義母の金切り声も、一瞬途切れた。

「友行さんには愛人がいるんです。それに、私の財布からお金を盗んで、その女性に貢いでいました。」

私はバッグから探偵の調査報告書を取り出し、義父の前に置いた。厚みのあるその報告書には、友行の不貞行為の証拠が克明に記録されている。デートの日時、場所、会話の内容、そして二人が高級ホテルに出入りする写真まで。義父は震える手でその報告書を手に取り、ページをめくり始めた。一枚、また一枚とページが進むごとに、義父の顔色が青ざめていく。報告書を見た義父は、深いため息をついた。

「すまない。本当にすまない。」

「謝らないでください。悪いのは、お母さんと友行さんです。」

「だが、私の息子と妻が、お前にこんなひどいことを……。」

義父の体が小刻みに震えている。長年経営してきた会社が倒産の危機に瀕し、息子は愛人と逃亡し、妻は他人の金を勝手に使い込んだ。義父にとってこれ以上ない絶望的な状況だろう。私は少しだけ義父に同情したが、それでも義母と友行を許すことはできなかった。

数日後の早朝、成田空港の到着ロビー。海外から帰国した友行は、愛人の女性と手をつなぎながら笑顔で入国ゲートをくぐった。大きなスーツケースを引きながら、旅の思い出話に花を咲かせている二人。友行はまだ何も知らない。自分を待ち受けている現実を。

「いやあ、最高の旅行だったな。また行こうぜ。」

「うん。次はモルディブがいいな。」

そんな会話を交わしながら到着ロビーに出た瞬間、私服警察官たちが友行を取り囲んだ。

「工藤さんですね。窃盗の疑いで逮捕します。」

「は?何言ってんだ?人違いだろ!」

慌てて逃げようとする友行だが、複数の警察官に抑えつけられ、その場で手錠をかけられた。愛人の女性は悲鳴をあげて逃げていく。

「ちょっと待てよ!俺は何もしてない!」

必死に抵抗する友行だが、警察官たちは淡々と彼を連行していった。

そして同じ日の昼過ぎ、義母の自宅にも警察が訪れた。

「何よ!私は何もしてないわ!」

「水野さん、偽造及び窃盗の疑いで逮捕します。」

「そんな!里美さんのために家を買ってあげようとしただけなのに!」

「被害者の九里さんから、あなたが無断で通帳と実印、マイナンバーカードを持ち出し、本人になりすまして5000万円を引き出したという被害届が出ています。」

「家族なんだから、別にいいじゃない!」

「それは犯罪です。」

最後まで自分の罪を認めようとしない義母も、強制的に連行されていった。

警察署での取り調べで、友行と義母は互いに責任をなすりつけ合った。友行は「母親からもらった金だ」と主張し、自分は何も悪くないと繰り返す。一方の義母は「全て息子が計画したことで、自分は騙されただけだ」と訴えた。親子で見苦しい言い争いを繰り広げる二人の姿は、まさに因果応報。今まで他人を騙し、傷つけ、利用してきた報いが、こうして自分たちに帰ってきたのだ。その様子は後日、警察から私にも伝えられた。

「親子でこれだけ言い分が違うのも珍しいですね。」

「そうなんですか。」

「奥さん、旦那さんとは離婚されるんですか?」

「はい、もう決めています。」

「そうですか。大変でしたね。」

その言葉に、私は少しだけ目頭が熱くなったが、すぐに気持ちを立て直す。ここで泣いている場合ではない。やるべきことは山積みだ。

一方、義父は約束手形の決済日を迎えた。しかし、5000万円は戻ってこず、会社の資金繰りは完全に行き詰まった。決済できなかった手形は不渡りとなり、義父の会社はあえなく倒産が決定する。義父は長年ワンマン経営で会社を支配してきた。古参の社員が少しでもミスをすれば「使えない奴だ」と罵倒し、「代わりはいくらでもいる」と脅しをかけてきた。取引先に対しても横柄な態度を取り続け、「うちと取引できるだけありがたく思え」と高圧的に振る舞っていた。そのため、社内外問わず人望はゼロ。倒産の危機が訪れた時、義父は必死に資金調達を試みた。取引先に頭を下げ、銀行に融資を懇願し、知人にも助けを求めた。しかし、誰一人として手を差し伸べる者はいなかった。

「今まで散々馬鹿にしてきたくせに、困った時だけ助けてくれとは虫が良すぎる。」

「今の経営状態では、これ以上の融資は難しいですね。」

「あなたは今まで、誰かを助けたことがありますか?」

冷たい言葉ばかりが返ってくる。自分が今まで蒔いてきた種が、こうして刈り取りの時を迎えたのだ。

「本当にすまなかった。」

会社の清算手続きを終えた義父が、私の会社を訪ねてきた。その顔は憔悴しきっていて、以前の傲慢な態度は微塵も感じられない。

「お父さん、これからどうされるんですか?」

「家も手放すことになった。妻とは離婚する。もう、何もかも終わりだ。」

「そうですか……」

「お前には本当に申し訳ないことをした。友行のことも、妻のことも、私の教育が悪かったんだ。」

深々と頭を下げる義父。私は複雑な気持ちで、その姿を見つめていた。

それから数ヶ月が経過した。友行と義母の裁判が始まった。法廷には多くの傍聴人が詰めかけ、この親子の事件に注目が集まっていた。友行と義母はそれぞれ有罪判決を受けさせる。友行は窃盗罪で懲役2年、義母は偽造及び窃盗罪で懲役3年。二人とも控訴が棄却され、刑務所での生活を送ることになった。裁判の過程で、二人の見苦しい本性が公の場で明らかになっていく。友行は法廷でも愛人との関係を自慢げに語り、反省の色を全く見せなかった。

「被告人は反省していますか?」

「別に悪いことしたとは思ってないっすね。金が欲しかっただけっす。」

その発言に裁判官は呆れ果て、上場酌量の余地なしと判断された。義母も同様だった。法廷では「息子のためにやってあげたのに」と被害者面を続け、最後まで自分の罪を認めなかった。

「里美さんは嫁なんだから、義母の私に従うのが当然でしょう。」

「被告人の主張に、法的根拠はありません。」

「おかしいわ。家族なんだから。」

その身勝手な主張は当然受け入れられず、厳しい判決が下された。

刑務所に入った二人だが、そこでの生活も決して楽なものではなかった。友行は若さゆえに先輩受刑者から目をつけられ、入所初日から厳しい洗礼を受けた。毎日のように雑用を強いられ、「新入りのくせに生意気だ」と因縁をつけられる。食事の時間も自分の分を先輩たちに取られてしまい、いつも空腹に耐えなければならなかった。愛人からの手紙を唯一の楽しみにしていた友行。最初の1ヶ月は週に何度か手紙が届き、彼はそれを何度も読み返していた。しかし、次第に手紙の頻度が減り、2ヶ月目には月に一通程度。そして服役から3ヶ月後には、完全に音信不通になる。不安になった友行が何度手紙を書いても、返事は一切来なかった。後に弁護士を通じて知ったところによると、彼女は友行が逮捕された直後、すぐに別の男性と付き合い始めていたという。その事実を知った友行は、独房で一晩中泣いていたらしい。

義母は高齢であるため、刑務所の重労働についていけず体調を崩すことが多かった。毎朝6時に起床し、清掃や洗濯、法務作業などをこなさなければならない。若い受刑者たちは何なくこなす作業も、67歳の義母にはあまりにも過酷だった。腰痛や関節痛に苦しみながら、それでも規定のノルマをこなさなければならない。作業が遅れると看守から厳しく叱責され、時には独房に入れられることもあった。刑務所で他の受刑者に自分の正当性を訴えたが、誰も相手にしてくれない。

「私は悪くないのよ。嫁のためを思ってやったことなのに。」

他の受刑者たちは冷ややかな目で義母を見るだけ。むしろ「うるさいばあさん」として煙たがられ、食堂でも誰も隣に座ろうとしなくなった。完全に孤立した義母は、夜な夜な独りで涙を流していたという。

一方、義父は会社清算後、全ての財産を失った。自宅も売却し、今は小さなアパートで一人暮らしをしている。離婚した義母からは慰謝料を請求されたが、支払う余裕などない。義母の弁護士から何度も督促状が届いたが、義父は無視し続けた。就職活動を試みたものの、年齢と会社倒産の経歴が災いして、どこも雇ってくれない。ハローワークに通い詰め、毎日何十件もの求人に応募した。しかし、面接に呼ばれることすら稀で、呼ばれたとしても「70歳の方は……」と断られる。時には履歴書を見た瞬間、「あ、結構です」と門前払いされることもあった。かつて自分が社長として多くの求職者を門前払いしてきたことを思い出し、「これが因果応報というものか」と自嘲する。ようやく見つけたのは、深夜のコンビニエンスストアでのアルバイト。時給は最低賃金で、若いアルバイトたちからも軽く扱われる日々が始まった。初出勤の日、義父は緊張しながら制服に袖を通した。

「この年齢でアルバイト店員として働く日が来るとは、夢にも思わなかった。」

「すみません。このレジの使い方を教えてもらえますか?」

「はあ?またさっき教えたばっかりじゃないですか?」

「申し訳ない。」

「使えないな、マジで。」

かつて社長として多くの社員を顎で使っていた義父が、今では若者にため口を聞かれる立場。その屈辱に耐えながら、彼は生活費を稼ぐために働き続けるしかなかった。近所では「あそこの会社、倒産したらしいよ」「社長の奥さんと息子、刑務所に入ったんだって」という噂が広まり、義父は外を歩くのも辛くなった。かつての取引先や知人に偶然出会うと、皆が目を背けて通り過ぎていく。誰も声をかけてくれない。孤独と屈辱の日々が続く中、義父は何度も自分の人生を振り返った。

「もっと誠実に生きていれば、もっと周りの人を大切にしていれば、もっと息子と妻を正しく導いていれば……」

しかし、全ては手遅れだった。

一方、私の会社は順調に成長を続けていた。誠実な経営と優れたデザインが評価され、海外の有名百貨店との独占契約を取り付けることに成功。パリ、ニューヨーク、ロンドンの一流デパートで私のブランドが展開されることになった。以前は比べ物にならない勢いで売上が伸び、従業員も50人から200人規模にまで増えた。新しいコレクションの発表会には、国内外から多くのバイヤーやメディアが集まった。会場は満席で、立ち見の人々までいる盛況ぶり。フラッシュが焚かれる中、私はステージに立ち、マイクを手に取った。

「この度は弊社の新コレクション発表会にお越しいただき、誠にありがとうございます。」

会場は拍手に包まれる。かつて義母や夫に苦しめられていた日々が、まるで遠い昔のことのように感じられた。友行との離婚も無事に成立し、慰謝料と財産分与も受け取った。彼が愛人に貢いでいた分を取り返すことはできなかったが、それでも十分な金額だった。私は新しいスタートを切り、仕事に打ち込む日々を送っている。

ある日、会社に一通の手紙が届いた。差出人は友行。刑務所からの手紙だった。中には反省の言葉と復縁を懇願する内容が綴られていた。

「本当にすまなかった。刑務所で毎日反省している。出所したら、もう一度やり直したい。待っていてほしい。」

私はその手紙を読み終えると、何の躊躇もなく破り捨てた。もう二度と、あの人たちに関わることはない。私の人生は、これから先もっと輝いていくのだから。義母からも同様の手紙が何度か届いたが、全て開封せずに破棄した。彼らがどんなに後悔しても、どんなに謝罪しても、私の気持ちが変わることはなかった。

自分の人生は自分で切り開く。誰かに依存するのでもなく、誰かに騙されるのでもなく、私は自分の足でしっかりと大地を踏みしめ、前を向いて歩き続けることを誓った。

そして数年後、私は新しいパートナーと出会い、再婚することになる。彼は誠実で優しく、私の仕事を心から応援してくれる人だった。結婚式には、かつて私を支えてくれた従業員や取引先の人たち、そして義父も招待した。義父は式の最中ずっと涙を流していた。

「里美さん、本当におめでとう。幸せになってくれてありがとう。」

「お父さんも、お元気で。」

「ああ。お前の幸せな姿を見られて、少し救われた気がする。」

その後、義父とは年に数回連絡を取り合う程度の関係が続いている。彼は今も小さなアパートで一人暮らしをしながら、コンビニでアルバイトを続けているという。友行と義母は刑期を終えて出所したが、二人とも私に近づこうとはしなかった。いや、近づけなかったと言うべきか。友行は出所後、どこの会社も雇ってくれず、日雇いの仕事を転々としている。愛人はもちろん彼の元には戻らず、今では別の男性と結婚して幸せに暮らしているらしい。義母は刑務所での重労働で体を壊し、出所後は介護施設で暮らしている。離婚した義父からの援助もなく、年金だけでは生活できないため、生活保護を受けているという。二人とも、かつての傲慢な態度はどこへやら、ひっそりと誰にも顧みられることなく孤独な日々を送っている。

自業自得とは、まさにこのことだ。友行と義母が私に何をしたか。そして、その報いとして彼らが何を失ったか。私は今、心から幸せだと断言できる。新しい夫と共に築く温かな家庭。年々成功を続ける会社。信頼できる従業員や取引先との関係。全てが、私の誠実な生き方が引き寄せてくれたものだと思う。私は幸せな結婚生活を送りながら、時々あの日々を思い出す。そして、二度と誰かに私の人生を脅かされることはない。私の人生は、私のものだから。

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