「給料上げないと全員やめる」――新入社員のリーダー格・佐々木が、12人分の退職届を私の机に叩きつけた。研修4日目の朝、一流大卒のエリートたちは、スーツは脱ぐわ、研修中はスマホを触るわ、挙句の果てには「おっさん、学校じゃあるまいし」と私を呼び捨てにしたんだ。私は30歳、高卒で12年働いてきた総務部の主任。彼らが「どうせコネ入社だから甘く見てくれ」と神部長が言うのを聞いた時、我慢の限界を超えた。…

「給料上げないと全員やめる」――新入社員のリーダー格・佐々木が、12人分の退職届を私の机に叩きつけた。研修4日目の朝、一流大卒のエリートたちは、スーツは脱ぐわ、研修中はスマホを触るわ、挙句の果てには「おっさん、学校じゃあるまいし」と私を呼び捨てにしたんだ。私は30歳、高卒で12年働いてきた総務部の主任。彼らが「どうせコネ入社だから甘く見てくれ」と神部長が言うのを聞いた時、我慢の限界を超えた。...

4日目の朝、俺は会議室で新入社員たちを待っていた。研修も3日を終え、疲労はピークに達していた。一流大学を出たばかりの12名。その中のボス的存在・佐々木が全員分の退職届を手に、俺の前に立った。

「給料上げないと全員やめる。これ、受け取って」

俺は一言、放った。

「本当に残念な話だが、そもそも君たちは研修期間中に首になってますが」

その瞬間、会議室の空気が凍りついた。

俺の名前は宮本。30歳。大手広告会社の総務部で働いている。高卒で入社して12年目だ。今は総務部の主任を任されている。

幼い頃から絵を描くことが好きだった。父は外資系企業で働き、母はパート勤務。一人息子として育った俺は、幼稚園の頃から集団生活に馴染めず、いつもクレヨンを持って絵を描いていた。それは小学校に入っても変わらなかった。

同じく絵が好きな幼馴染のケトがいた。家も近く、一緒に花や教室の窓から見える風景をノートに描いたりした。他のクラスメイトがゲームに夢中になる中、俺はどこか浮いている子どもだった。

父は仕事の関係で英語を使うことが多く、俺も自然に英語に興味を持ち、英会話教室に通っていた。高校生になる頃にはビジネス英語まで話せるようになり、父とよく英語で会話を楽しんだ。父はそんな俺を喜ばせてくれた。

高校2年のある日、父が突然の交通事故で亡くなった。病院に駆けつけた時、父はもう話せなかった。母の号泣する声を聞きながら、俺はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。葬式にはケトも駆けつけてくれた。

小さくなった父の骨壷を抱え、俺は手を合わせた。涙が止まらなかった。

母はしばらく落ち込んだが、やがてパート先で正社員として働き始めた。俺は母の姿を見て、大学進学を諦めることにした。ケトも家庭の事情で大学には行かないと言った。

高校3年の進路選択の時期、ケトと将来の話をした。求人情報を見ていると、今の広告会社が目に留まった。広告会社なら、得意な絵の才能を活かせるかもしれない。ケトも同じ会社の面接を受けたいと言い、二人とも内定をもらった。

ケトとはその頃からずっと幼馴染だ。ケトは祖父の死去を機に、祖母が住む隣町へ引っ越していったが、会社までの電車は一緒だった。着慣れないスーツに身を包み、気持ちを新たに出社した。

たまたま二人は同じ総務部に配属された。上司もいい人ばかりで、パソコンが得意な俺たちはコツコツ資料整理をこなしていった。入社して5年目には会社は大きくなりビルへ移転。やがて大手広告会社へと成長していった。俺の絵の才能は特に発揮されることはなかったが、会社は海外との取引も始めていった。

入社して10年が過ぎた頃、営業部から英語の書類を任されたり、海外からの電話が入ったりするようになった。英語が話せる俺が海外担当になり、30歳で総務部の主任を社長から任された。

しばらく新入社員は入っていなかったが、今期から12名の新卒が入社すると人事部から連絡があった。神部長から「宮本君、今回の新入社員は一流大卒だ。研修期間は1週間だが、担当を宮本君に任せたい」と言われ、俺は引き受けることにした。これが、すべての始まりだった。

研修1日目、会議室で概要説明を始めようとした時、佐々木という社員が声を上げた。

「ああ、スーツなんて堅苦しくて着てられねえ。みんな上着脱ごう」

女子社員も「暑い暑い」と同調して上着を脱ぎ始めた。俺は言った。

「一応会社ではスーツを着ておくのが常識だよ。きちんと着てください」

「はあ。おっさん、学校じゃあるまいし」

おっさん呼ばわりされる俺。それでも堪えて言った。「君たちから見ればおっさんかもしれないが、俺には苗字がある。せめて社内では宮本と呼ぶように」

「いいじゃん、おっさんはおっさんなんだから。それに大学時代は学生服さえ着てなかったのに」

「それこそが社会人だよ。マナーとして上着を着るように。営業に配属になればお客様とも会うかもしれない。マナーとして上着を脱ぐわけにはいかない」

「今は研修期間だからいいじゃねえの? 」

「いや、そのための研修期間でもある」

「はあ、そんな細かいこといいじゃん」

12名は誰一人として上着を着なかった。

仕方なく俺は会社概要の説明を始める。が、全員が雑談を始める。

「これは会社の大切な内容だ。雑談はやめて真面目に聞くように」

一応静かにはなった。しかしホワイトボードで説明を始めると、ほとんどの新入社員がスマホを取り出した。

「スマホは一旦置いてください。大切なことはノートにメモを取ってください」

「ノート? どんな時代だよ。スマホに宮本さんの声を録音するだけでいいじゃん」

「そうだよこんな時代になんでノートなんだよ」

「私そもそもノートなんて持ってきてないし」

仕方なく、ノートを持っていないという女子社員にはコピー用紙を渡した。なんとか1日目は終わった。

2日目、今度は総務部の清掃を任せた。

「掃除道具の場所を案内するので全員ついてきてください」

掃除道具を配ると、佐々木がまた言う。

「もうやってらんねえよ、俺たちみたいなエリートが掃除」

「そうだぜ、俺たちは一流大学出なんだぜ」

「どのようなエリートであっても、自らコーヒーをこぼすこともある。社員食堂で食べ物をこぼせば自分で片付ける。職場を清潔に保つのは常識だよ」

「はいはい、やればいいんだろ」

適当にモップをかけ、デスクを拭く。使い終わった掃除道具を投げ捨てるように置く。

「使った掃除道具はきちんと綺麗にしてから片付けてください」

「そんなの掃除のおばちゃんがやってくれるだろう」

俺は呆れ果てた。

3日目、社員専用のパソコンを並べ、分厚い資料を配ってデータ入力をさせる。パソコン操作は得意なようで、カタカタとキーボードを叩く音が響く。が、雑談をしながらだ。

「業務内の分からないことの相談は自由だが、プライベートな会話は禁止だよ」

「はい、終わりました」

「俺も終わった」

「私も」

「じゃあ次の資料を配る。資料はいくらでもある」

「終わったのに、休憩させろよな」

「休憩は午前10時と昼、午後3時と決まっている。それまではない」

「はいはい、やればいいんだろ」

10時休憩、全員手洗いに行ったり電話をしたりしていた。スマホの音が鳴りっぱなしだ。

昼休憩、俺はケトを誘って近くのカフェへ行った。ケトが「顔色悪いぞ、どうしたんだ? 」と聞いてくる。

「新入社員たち、一流大卒だそうだが、全く一般常識がなくてさ。スーツの上着は脱ぐわ、雑談はするわ、まるで俺が小学生の担任みたいだよ」

「それは大変だな」

「元変わってくれよ」

「それは無理だな」

愚痴を聞いてもらい、午後の業務に戻る。が、昼休憩からスマホがそのままだったようで、メールの着信音が鳴り響く。尚且つパソコンを打ちながらスマホを触る。

「皆さん、今は業務中です。使用のスマホは禁止です。それから音はサイレントにしておいてください」

「はあ、病院じゃねえんだからさ、休憩時間ぐらいいいじゃん?

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「佐々木君、まず言葉遣いから直そうか。一応俺は目上でもあるし、主任だ。せめて敬語で話してほしいんだが」

「もう細かいことばかりやってらんねえよ」

「あまり文句ばかり言うのなら、田さんに言うよ」

「ん? 田さん? 田部長のことかな? 」

「そうだよ」

「そっか、一応全員今日は資料を仕上げておいてくれ。俺は少し席を外すので」

俺は田部部長の元へ走った。

「田部部長、少しご相談があります」

「ん?

どんな話だ? 」

「新入社員のことで少し」

「なるほど、じゃあ少し王設で聞こうか」

王設で俺は新入社員たちの言動を伝えた。すると田部部長は言った。

「内密にしていたんだが、実はあの12名は俺の大学時代の同窓会で会った親御さんの子供たちなんだよ」

「俺に就職先を頼まれてな」

「え、部長、それってコ入者じゃないですか? 」

「まあ、そうなるな」

「そうでしたか。世代が違うのもあるのですが、なかなか文句だらけで困ってるんですよ」

「まあ、俺の紹介だからその辺は甘く見てやってくれ」

「いや、本当にひどいんです。まず敬語も使えません」

「それなら僕ちょっと社長に相談させていただきます」

俺は田部部長にそう言い切って、すぐ社長室へ向かった。会議室にも総務部にも防犯カメラがついている。俺は社長に全てを打ち明け、新入社員の行動の動画を見てもらった。

「これはひどいな」

「まさか神部長のコ入者だったなんて」

「今回の新入社員の応兵差は常識外だ。全員首だ。神にはわしから言っておく」

俺はほっとした。

その日の研修は資料作成だったが、俺がいない間にサボっていたようで、提出された資料が少なすぎた。

そして4日目、新入社員たちを営業部に連れて行き、1人ずつ紹介した。」

「佐々木です、よろしく」

全員がそんな感じだった。

その後全員を会議室へ戻した。

そして皆が席に着いた瞬間、佐々木が全員から何かを集め出した。やがて、その書類を持って俺の元に来た。

「退職届だ。会社の規則があまりにも厳しすぎるよ。給料を上げないと全員やめる、これ受け取って」

俺は一言、放った。

「本当に残念な話だが、そもそも君たちは研修期間中に首になってますが」

「え、首? 」

全員の顔が真っ赤になる。そして立ち上がり、総務部へ向かって走り出した。12名が田部部長に詰め寄る。

「田さん、首ってどういうことですか?

「そうですよ、宮本さんに首だと言われたんですが」

俺は内線で社長を呼んだ。田部部長が俺に向かって言う、「宮本君、全員首とはどういうことだ? 」

「それは社長からお話がありますので」

しばらくして、社長が総務部に現れた。

「おい、神、コ入者とはどういうことだ? わしは何も聞いておらん」

「それに今回の社員のマナーはまるでなっていない、こんな社員にこれから会社にいられるとわしが困るんだよ、だから全員を首だ」

「あ、あの社長、これには理由がありまして」

田部部長が震えながら言う。そこへ佐々木が再び口を挟む。

「社長さん、会社の規則が厳しすぎます、これなら給料を上げてください」

「君の名は? 」

「佐々木です」

俺は佐々木がそう言った後、社長に全員からの退職届を渡した。

「ふんむん、佐々木君たち、君たちはまだ研修期間中だ、わしは研修中の君たちの態度を見せてもらっている、あのような態度では給料どころか会社にいられるとこちらが困る、退職届は預かった、自主退職してくれてありがとう、全員が私物を片付けて帰りなさい」

佐々木たちは背中を丸めて、総務部を出ていった。

翌日の朝から、田部部長の席の電話が鳴りまくった。どうやら新入社員の親御さんたちからの電話のようで、部長が謝っている様子だわいっ。俺はスマホを録音モードに変えた。

午前中は電話の嵐だった。そして午後から、いきなり何名かの来訪。「田部部長呼べ」と受付で叫ぶ声が聞こえてきた。新入社員の親御さんたちだ。俺はすぐ社長室へ行き、防犯カメラの動画をスマホに録画し、社長に渡した。

社長が騒がしい受付に現れる。

「これは何の騒ぎかね」

「神君、あの新入社員の親御さんたちです」

「12名全員の退職届はわしが預かったか?

「あの、それが就職先を紹介してもらったのに、と親御さんたちが辞めさせるのは酷過ぎると、復職を申し出られまして」

「なるほど、じゃあこの動画を親御さんたちに見てもらおうか」

社長は研修中の社員たちの様子を、親御さんたちに見せ始めた。総務部の全員も、親御さんたちも、あ然となる。

「いや、このような一般常識もない新入社員はこちらからお断りしようかと思っておったんですがね、退職届は確かにわしが受け取りました、今回はお引き取りください」

真っ青な顔の親御さんたちは、社長に土下座して謝り出した。

「今からどこも面接がないんです、何とぞ」

「いや、うちでなくても中途の会社もあるはずですがね、これ以上ここにおられると業務妨害になります、皆さんどうか顔をあげてお帰りください」

親御さんたちは背中を丸めて帰っていった。

俺は大きなため息と共に、ほっとした。

その後、社長が真っ赤な顔で田部部長に向かった。

「当社ではコ入者は禁止しておる、神、お前も知っているはずだ、それを分かっていて大学の同窓会とやらで、当社が少しばかり大企業になったからといい格好でもしたかったのか」

「ん、し、社長、決してそんなつもりでは、彼らが一流大卒と聞いておりましたので」

「いくら一流大卒であろうが、一般常識も知らないような社員は要らん、それに勝手なコを使った神は会社の規則を破った、君は今すぐ広格処分とする、もう一度平社員として頑張りたまえ、これは社長命令だ」

そう言われた神部長は、冷や汗を流しながらデスクを片付け、平社員の席に移動した。

その後のこと、神部長、いや神さんは給料が下がり、奥さんに離婚されたようだ。また、ケトの話では、あの12名の退職した社員はまだ新しい就職先も決まらず、アルバイトをしているらしい。

一流大学を出ていても、たとえ世代が違っても、社会人としてのマナーを、アルバイトでもしっかり学んでほしいと俺は思った。研修期間は結局3日で済んだが、俺にとって本当に疲れた3日間だった。

それから後のこと、社長が俺の履歴書をもう一度見てくれたようで、絵を描くことが好きだと書いていたことを知り、俺は社長から海外から依頼されている広告のデザインを任されることになったんだ。俺はケトのことも社長に紹介して、ケトと一緒にデザインの企画を練るようになった。そのデザインがクライアントから認められ、俺とケトは社長から企画部の部長と課長として働けることになった。

俺たちは今、好きなことを仕事にできて、毎日充実した日々を送っている。