昭和27年創業の古い工場。そこへ大手アパレル・吉沢の新社長が乗り込んできたのは、葬儀の日だった。
「おい、その挨拶は何だ?これからは俺が社長だぞ。もっと低く頭を下げろ」
先代社長の葬儀だというのに、息子の達也は周りの社員に怒鳴り散らし、まるで式の段取りを指図するかのような態度だった。担当者の持田さんが気まずそうに教えてくれた。あの男性が新社長だと。先代は温厚で、うちのような小さな工場にも丁寧な人だった。親子とは思えないほどの違いに、俺は不安を覚えた。
二週間後、毎月の商品点検の日。やってきたのは持田さんではなく、達也社長だった。彼は工場を見渡すなり、こう言い放った。
「なんて古臭い工場だ。ここは博物館か?こんなところでうちの商品を作っているなんて信じられない」
俺が建物は古くても技術は確かだと説明しようとすると、彼は鼻で笑った。
「値段の割に納品量が少ない。コスパが悪いんだ。親父も何を考えてこんな貧乏工場と契約していたのか理解に苦しむよ」
そして、一方的に契約終了を告げた。持田さんが反対したために首にしたと聞き、俺は言葉を失った。俺が必死に訴えても、達也社長は愉快そうに笑うだけだった。新しい工場は最新設備で格安、俺の工場とは正反対だと言い放ち、帰っていった。
数日後の夕方、工場に残っていると持田さんが訪ねてきた。彼は新しい契約先が無名の新会社だと教えてくれた。何か企んでいるようだと。そして、彼はある提案を持ちかけてきた。俺は迷わず了承した。
それから一ヶ月後、工場に達也社長から電話がかかってきた。
「おい、いつもと同じものが作れないんだ。どうしてくれる!」
新しい工場では、うちの布と同じものが作れないらしい。うちの布は特殊な製造方法で、特許も取得している。薄くて軽くて丈夫、通気性も良い最高級品だ。コストがかかるから納品量は減るが、吉沢の先代社長はその品質に惚れ込んで契約したのだ。達也社長は何も知らずに手放した。
「今更教えることなんてありませんよ。一方的に契約を終了したのはそちらでしょう」
そう言って電話を切ったが、翌朝早く、達也社長が札束を持って工場に押しかけてきた。
「この金をくれてやる。これで水に流して、もう一度契約してやる。ありがたいと思え」
必死の形相で再契約を迫る達也社長に、俺は冷たく告げた。
「私どもはすでに他社と契約しました。もう吉沢と仕事はできません」
「なんだって?あの清本と契約したのか?そんなはずは…」
清本はアパレル業界の大手で、吉沢のライバルだ。持田さんの兄が社長をしていて、彼の紹介で視察に来てくれたのだ。うちの技術を評価してくれて、すぐに契約が決まった。さらに、持田さんの姪っ子がデザイナーで、海外のファッションショーでうちの布を使ったドレスを発表した。それから、うちの工場には海外からも注文が殺到するようになった。
達也社長は手のひらを返して頭を下げ、しつこく契約を迫ったが、もう遅い。俺は彼の手を振り払い、工場から追い出した。
その後、吉沢は製品の質が下がり、売上は激減。人員整理を余儀なくされ、首にされた社員の告発で所得隠しも発覚した。社長職を追われ、最終的には清本に買収されて、会社の名前は消えた。社員たちは清本の下で安心して働けるようになった。持田さんも元気に兄の元で働いている。俺の工場には、新しい顧客と、新しい未来が広がっていた。



