「無能はエレベーターを使うな」…

「無能はエレベーターを使うな」...

「無能はエレベーターを使うな」

息を切らし、汗だくで階段を登る女性社員を見つけた時、私は驚いて声をかけた。彼女は顔を上げ、私の姿を確認すると驚いた表情を浮かべた。

「社長……あ、いえ、階段を登っていただけです」

「何回から階段で上がってきたんだ?」

「えっと、1回です」

私は言葉を失った。このビルにはエレベーターが備わっている。それなのに、なぜ彼女は1階から階段を使っているのか。

「エレベーターの使用を禁止されているんです。なので、いつも階段を使っています」

エレベーターの使用禁止?私はそんな命令をした覚えがない。トイレで清掃をしていた男性社員も、会社の方針だと言っていた。私がいない間に、本社で何か異変が起きている。

私は急ぎ父に電話をかけた。しばらくして、父が会長室から私の元へやって来た。父もこの状況を全く知らなかったようだ。私たちはすぐに、本部長室へ向かった。

「相模本部長、入るよ」

父が声をかけると、部屋から「どうぞ」という声が聞こえてきた。中に入ると、相模本部長が立ち上がり、父に愛想笑いを浮かべて駆け寄ってくる。私は彼の第一印象から、胡散臭い人物だという感覚を抱いた。

「このおじさんはどなたですか?もしかして、新しく採用した中途採用者でしょうか?」

初対面にも関わらず、私を馬鹿にしたような口調に不快感を覚えた。父もさすがに怒りをあらわにした。

「こいつはずっと海外事業のために渡航していた私の息子だ。そしてこの会社の社長だぞ」

相模本部長は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに私に丁寧な挨拶をしてきた。私は今日見た光景について、彼に尋ねてみた。

「今日会社に来たら、トイレ掃除をする社員やエレベーターを使わずに高い階まで階段を登っている女性社員がいたんだが、相模本部長は何か知らないか?」

相模本部長は笑顔で答えた。

「清掃員を雇うとお金がかかりますし、エレベーターは使用すると電気代がかかるじゃないですか。経費削減ですよ。会社のためなんです」

経費削減だと?確かに無駄な経費を削減できれば会社のためになるが、清掃は欠かすことができない。毎年、清掃員を雇うための予算を組んでいたはずだ。それに、業務時間を削ってまで社員に清掃をさせるのは、社員のパフォーマンスを落とすだけだ。

私は確信をつく質問を投げかけた。

「君が経費削減と言って色々命令していた社員たちは、みんな高卒の者だったな。分かった上で命じていたのか」

相模本部長は目を輝かせ、息巻いて答える。

「さすが社長。そこまでお見通しとは。もちろん分かって命じました。高卒の無能に贅沢なんてさせられませんからね」

高卒の無能だと。信じられない発言だった。私は隣で拳を握りしめ、怒りに震えている父を見た。私はため息混じりに告げる。

「俺は高卒だし、父は中卒だぞ。中卒の父の前でそんなことを言うなんて、会長に喧嘩を売っているようなものだぞ」

相模本部長は青ざめ、泡を食い始めた。父は真っ赤な顔で怒鳴り散らした。

「高卒や中卒だと何が悪いって言うんだ。答えてみろ。君に迷惑をかけたのか?学歴なんて1つの指標でしかないじゃないか」

父は貧しい家庭で育ち、幼い兄弟たちを養うために進学を諦め、中卒で地元の工務店に入社した。必死で技術を習得し、自分の工務店を持つまでになった努力の塊だ。そんな父を侮辱するような発言は絶対に許せなかった。

相模本部長は何度も謝罪を繰り返したが、私は「許すのは難しい話だな。君の詳しい処罰に関しては、詳しく調査してその結果次第で下すことにする」と言い放ち、その場を立ち去った。

私は調査を開始した。全部署に対し、相模本部長から何かしらの被害を受けていないか聞き取りを行った。すると、高卒の社員たちから相模本部長から受けた被害が次々と出てきた。私が出会った社員以外にも、清掃の強制やエレベーターの使用禁止を課せられていた社員が多数いたのだ。さらに、強制的なサービス残業や休日出勤を命じられていた従業員がいたことも発覚し、事態の深刻さが浮き彫りになった。

これらの調査結果を父と他の役員たちに見せたが、誰一人として知らず、相模本部長の独断だったようだ。私は相模本部長の言動を、立場の弱い者を狙った悪質な行為であると断定し、解雇処分を決定した。さらに、私を含めた役員たちにも気づくことができなかった責任があると考え、給与カットの処分を下した。

同じことが起こらないように、社内規則を改定し、環境を整えた。海外に戻った私は、相変わらず忙しい日々を過ごしているが、相模本部長の一件以来、細かく父と連絡を取り合い、働く従業員たちを守ろうと気持ちを新たに仕事に打ち込んでいる。

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