小学校の卒業式の日、母が泣きながら私を呼びました。「お父さんの会社が倒産したの。ごめんね、大学は無理かもしれない」その日、私の未来は決まりました。弟を大学に行かせるため、高卒で働く道を選んだのです。ですが……入社二年目にやってきたエリート部長は、私を見るなりこう言いました。「高卒か。そんなクズがなぜこの会社にいるんだ」。毎日のように「無能」「ゴミ」と見下され、一時間で資料を作れと無理難題を押…

小学校の卒業式の日、母が泣きながら私を呼びました。「お父さんの会社が倒産したの。ごめんね、大学は無理かもしれない」その日、私の未来は決まりました。弟を大学に行かせるため、高卒で働く道を選んだのです。ですが……入社二年目にやってきたエリート部長は、私を見るなりこう言いました。「高卒か。そんなクズがなぜこの会社にいるんだ」。毎日のように「無能」「ゴミ」と見下され、一時間で資料を作れと無理難題を押...

「これが高卒の資料か。ゴミ同然だな。こんなものをよく恥ずかしげもなく出せたものだ。いつも困っているんです。資料もまともに作れない奴がいる意味なんてありませんよね」

俺は山崎徹、20歳の会社員。目の前で部長が、俺が一時間かけて仕上げた資料を笑い飛ばしている。名前は友長優一。うちの部署に最近異動してきたエリート部長だ。

高卒で働きに出たのには理由がある。父の会社が倒産し、家庭の状況が厳しくなった。大学受験を控えていたけれど、優秀な弟がいたから、俺は高校卒業後に働くことを選んだ。親は「奨学金を使えばいい」「母さんも仕事を増やすから」と言ってくれたが、俺は大学でやりたいこともなかったし、働いて親を支えようと思った。

そして佐々木商事に入社し、先輩たちに教わりながら仕事に励んできた。ところが二年目にして、大きな問題が勃発した。前の部長が入院したため、急遽やってきたのが友長部長だったのだ。

彼は有名大学を卒業したエリートらしく、学歴のない人間をゴミだと思っている節があった。初日から社員一人ひとりに最終学歴を聞き、「脳なしリスト」なるものを作っていた。俺も当然そのリスト入りだ。

「高卒か。こんなクズがいるとは思わなかった。だが、中卒じゃないだけ今は褒めてやるかな」

その日から、毎日が地獄になった。茶を入れろと言われて素直に入れたら「ぬるい」と怒られ、無能は掃除でもしていろとトイレ掃除の用具を渡された。部長の取り巻きである本田先輩も俺に仕事を押し付けて残業させ、自分はさっさと帰るようになった。抗議したかったが、余計に目をつけられるのが怖くて、言われるがままに耐えていた。

そんなある日、友長部長が言い放った。

「無能の仕事ぶりを見てやるよ。この資料をまとめろ。一時間だけ時間を与えてやる」

「今、別の業務をしているのですが……」

「俺に逆らうのか。何でもいいからさっさと作れ。文句があるのか?」

膨大なデータを前に、一時間とは到底無理な話だったが、俺は黙って頷くしかなかった。周りの社員たちが迷惑そうにこちらをチラチラ見ていた。

それから一時間後。何とか資料を仕上げて提出した。しかし部長は、ほんの少し目を通しただけで、冒頭のように笑い飛ばし、俺に資料を投げつけた。

「この出来の悪さが分からないなんてな。お前は会社に不利益しか生まん。今すぐ首だ」

「ちょっと待ってください。それだけで解雇なんておかしいじゃないですか!」

「お前みたいな高卒には、誰もいてほしいなんて思っていないんだよ。下から失礼しろ」

本田先輩も便乗する。

「部長のおっしゃる通りです。残業ばかりで役立たずの社員が邪魔だったんです」

周りは誰も俺を庇わない。部長の標的になりたくないのだろう。あんなに仲良くしてくれていた人たちも、今は遠巻きに見ているだけだ。人というものはないのかと悲しくなった。

「わかりました。お世話になりました」

俺は頭を下げ、荷物をまとめて会社を後にした。これから次の職を探さなきゃいけないのか、退職金はもらえるのか。足取りは重かった。

しかし、それから三十分も経たないうちにスマホが鳴った。ディスプレイには部長の名前。まだ何か言われるのかとげっそりしながら出ると、受話口の向こうから大声が飛び込んできた。

「俺が悪かった。今すぐ会社に戻ってきてくれ!」

あまりの急な変化に言葉を失っていると、部長は焦ったように続ける。

「怒っているのか? あれはほんの冗談だったんだ」

「どうして急にそんなことを言い出すんですか?」

「あの後、佐々木社長がいらして、俺が君にしたことを言及されたんだ」

どうやら、佐々木社長が俺がいないことに気づき、休暇かと尋ねたところ、友長部長が「高卒の無能だから、懲戒解雇にしました」と報告したらしい。本田先輩も「資料も作れない奴がいなくなって清々しますね」と付け足したという。それを聞いた社長は激怒したそうだ。

そもそも、解雇通知も用意せず、社長に報告もせずに勝手に解雇するなんておかしい話だ。俺が素直に従って出ていったのも良くなかったけれど。

「とにかく早く帰ってきてくれ。社長の怒りが頂点に達してしまう」

俺は電話を切り、会社に戻ることにした。

部署に入ると、友長部長が駆け寄ってきた。

「来てくれて助かった」

本田先輩も涙目ですり寄ってくる。二人は必死に取り繕い始める。

「本当にすまなかった。あれは冗談だって分かってるよな? 俺たちの……なんていうか、お前の成長を願っての試練みたいなものだったんだよ」

すると、奥から佐々木社長の叱責の声が飛んできた。

「友長君、本田君。何を言っているんだ。君たちはさっき、山崎君を無能だと首にしたと胸を張って言ったじゃないか」

「社長、あれは違うんです!」

「何が違うんだ。忘れたとは言わせんぞ」

二人は社長の鋭い視線に押され、黙ってしまう。社長は俺に向き直った。

「山崎君。君を解雇する気は私には全くない。友長君たちの言ったことは無かったことにしてくれ」

「ありがとうございます。これからのことを考えて不安だったので、本当に助かります」

俺が安堵した顔を見て、社長はさらに二人を叱った。

「こんなに安心しきっていると見ると、お前たちの言葉を本気にしたということだ。誰も冗談なんて思っていないぞ」

すると友長部長が逆ギレし始めた。

「そもそも、山崎君が社長の親族だって言ってくれなかったからこんなことになったんだ! 最初から教えてくれていたら、こんなことにはならなかった!」

実は、俺の母は佐々木社長の妹だ。俺が高卒で働くことを母が社長に伝えたところ、「うちに来ないか」と誘ってくれたのが入社のきっかけだった。入社時、面接は社長と幹部の一回だけだった。だが、社内や取引先には、俺と社長が親族だということは一切明かさない約束だった。社長と俺は、会社では赤の他人のように接していた。もし親族だと知られたら、俺に取り入ろうとする者が出て、仕事に支障が出るからだ。

佐々木社長も静かに言った。

「この会社の人間は誰も知らないし、今日初めて皆に話した。さっきトオル君が俺の身内だと話したのは、友長君と本田君が反省の色も見せずに、無能だの会社に不要だのと何度も言って、俺が怒っても聞き入れなかったからだ」

「社長が山崎君をかばう理由が本当に分からなかったんです。仕事ができないのになぜ彼を呼び戻せと……」

「どうして仕事ができないと判断した? 前の部長からも好評だったんだぞ。山崎君は高卒だ。その時点で能力は高が知れているでしょう」

「どんな理由があるのかと思ったら、そんなことか」

社長はため息をついた。友長部長はさらに食い下がる。

「学歴は大事でしょう!」

「部長の言う通りです。与えた仕事もまともにできないし、作る資料だってゴミ同然なんですよ」

本田先輩まで社長に臆せず啖呵を切った。周りの社員たちは、二人の無謀さに息を呑んでいる。

「資料というのはこれのことか」

社長はゴミ箱から紙の束を取り出した。それは確かに俺がまとめた資料だった。

「これを本当に出来の悪いものだと考えているのか?」

「もちろんです。一時間でこれだけのものしかできないなんてクズ同然ですよ」

「それだけの短い時間でまとめたのか? ならいいじゃないか。この資料、何ページあると思っているんだ? 数時間かかるものがたったの一時間でできたのなら、褒めるべきものだ」

社長は俺の資料を素直に褒めてくれた。二人は驚いた顔をしているが、周りは「当然だ」と言わんばかりの表情を浮かべている。膨大なデータから一時間で資料を作ったのだ。それを思い出せないのだろうか。

「そもそも、なぜそんなに短い時間で作ったんだい?」

「一時間で作れと突然言われたものですから、急いで作らないといけなかったんです」

俺が正直に説明すると、社長の表情が厳しくなった。

「もしかして、今まで同じようなことが多々あったんじゃないだろうな」

残業必須の仕事量を押し付けられたり、仕事終わりに掃除を任されたりしていたことを話すと、社長の怒りが再燃した。

「それはただのいびりではないか。部下に対して酷い行いをする社員は、この会社にはいらない」

つまり、社長は二人を解雇する意思を示したのだ。二人は青ざめて抗議する。

「待ってください! なぜそんなことを言うんです!」

「会社にとって不利益だとは思わないか? そもそも学歴は関係ないと私は前から話していたはずだ。高卒の方がどう考えても仕事に支障が出ますよね。いびりなんて人聞きの悪い」

「一人だけを集中的に攻撃していたんだから、どう考えてもいびりだろう。それに、学歴がどうのというのなら、私は中卒だから、君たちに気に入られることはないだろうな」

佐々木社長が自身の最終学歴を語ると、友長部長と本田先輩だけでなく、周りの全員の顔色が変わった。社長が中卒だったなんて、誰も知らなかったのだ。

二人は恐怖で顔を真っ青にしながら、勢いよく頭を下げた。

「申し訳ありませんでした!」

社長は深いため息をついた。

「謝罪したとしても、今までの行いが消えることはない。二人ともすぐに処分を下すから、そのつもりでいろ」

その後、友長部長は降格と移動を命じられた。別部署では下っ端として、厳しい上司に徹底的に教育し直されているという。学歴はあるが、頭が硬く、仕事の出来は全く役に立っていないそうだ。本田先輩は降格となり、以前俺に押し付けていた量と同じだけの仕事を毎日こなすことになった。連日深夜まで残業し、目の下にはくまができているという。

二人は周囲から煙たがられ、誰も話しかけなくなった。プライドが高い二人にとって、今の状況は相当辛いのだろう。

一方、俺はこの騒動以来、周りからの見る目が少し変わった。社長との関係を知った者もいて、少し仕事がしにくいと感じる瞬間もある。だが、俺は俺だ。いつも通りに仕事を続けている。

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