家に帰ると、私は真っ先に夫のタケハルが玄関に立っているのを見た。あれだけ嘘をついて出張だと言っていたのに、新幹線で帰ってくるなんて。私は唇を噛んだ。旅先で撮った写真を何度も見返して溜息をついたのは、ほんの一時間前のことだ。
「おかえりなさい」
私は、なるべく平静を装って声をかけた。夫の後ろには、私の両親と義両親が立っている。夫は部屋に入るなり、その姿を見て顔色を変えた。
「え、なんで?なんで親父たちがここにいるんだ?」
答えずに、私はリビングを指さした。テーブルの上に、ばさりと写真の束を置いた。
「義父さん、これを見てください」
夫は写真を何枚か手に取り、青ざめた。写っているのは、私が知らない女性と腕を組む夫の姿だった。
「あの、これは……」
「私、貴方にお盆の予定を聞いた時、『ごめん、お盆は出張だ』って言ったわよね。でも、会社にはもう確認した。お盆は全員休みだって」
夫は言葉を失い、写真を破り始めた。私はそれをじっと見つめた。
「破っても無駄よ。コピーはもうたくさんあるから」
「だから、これは、ただの……」
「‘ただの’って何?この女性、私が独身の頃、合コンで知り合ったリコさんよ。私とあなたを紹介してくれた人。もう結婚してるって聞いたけど、どうなの?」
夫は何も言えず、俯いた。
「私、ゴールデンウィークの後から、探偵に調べてもらってたの。あなたが旅行中、スマホばかり見て、ロクに家族と過ごさなかったから」
私は、義母にも、夫の両親にも、すべてを話した。夫がリコさんと不倫をしていて、リコさんは既婚者で、旦那さんの友人でもあること。リコさんは子供を望まないから、夫に「貴方の子供が欲しい」と迫ってきたことも、探偵の報告書で分かっていた。
義父は怒りで声を震わせた。
「お前、娘と孫に何をしてるんだ!」
夫は床に座り込んだまま、言い訳を繰り返す。私は、娘を守るために最後の一歩を踏み出した。
「離婚するわ。娘は私が育てるから」
私は離婚届をテーブルに置いた。
「これにサインして」
「急に何言って……!あいつはただの遊びだ!」
「遊び?じゃあ、あの女性と二人で泊まったホテルは?レシートも写真も残ってるのよ」
夫は言葉をなくし、渋々と言った様子で離婚届を書いた。私はそれを確認すると、冷たい声で言った。
「ありがとう。これからは、あなたのことは二度と信じない」
後日、夫からメッセージが届いた。
『リコの旦那に告げ口したのお前か。向こうから慰謝料請求された。もう金がない。貸してくれ』
私は即座にブロックした。もう、この男に振り回されることはない。
あれから三年が経った。私は独り立ちして、実家のそばで住み始めた。娘は義両親にも可愛がられて、毎日笑っている。夫はあれ以来、何をしているのか知らない。けれど、私はもう過去を振り返らない。娘と二人、今度こそ幸せになるんだ。



