父の喜寿祝いで訪れた温泉のサウナで、ママ友に「100万円ちょうだい」と迫られた。断ると、サウナストーンに顔を押し付けられて火傷を負わされた。「夫は組員よ。逃げられないわよ」と脅されて支払いを了承した。ところが、父と合流した瞬間、彼女の夫の顔色が一変した。「ま、まさか…」と呟いたかと思うと、父が差し出した100万円を受け取ろうとした妻を必死に止めた。なぜ、父の顔を見て青ざめたのか。その理由を知…

父の喜寿祝いで訪れた温泉のサウナで、ママ友に「100万円ちょうだい」と迫られた。断ると、サウナストーンに顔を押し付けられて火傷を負わされた。「夫は組員よ。逃げられないわよ」と脅されて支払いを了承した。ところが、父と合流した瞬間、彼女の夫の顔色が一変した。「ま、まさか…」と呟いたかと思うと、父が差し出した100万円を受け取ろうとした妻を必死に止めた。なぜ、父の顔を見て青ざめたのか。その理由を知...

「100万円ちょうだい。払わないなら、痛い目に遭うわよ」

息子と同じクラスのママ友、白川ナミさんは、ニヤニヤしながらそう言った。父の喜寿のお祝いで訪れた温泉のサウナで、私は一方的にサウナ知識を聞かされていた。頼んでもいないのに。

私は支払いを断った。すると彼女は私の腕を掴み、サウナストーンに顔を押し付けた。熱さで皮膚が焼ける感覚が走る。何度も押し付けようとしてくる彼女から逃れるため、私はしぶしぶ支払いに応じた。

「私の夫は組員よ。逃げようとしたって無駄だからね」

彼女は得意げにそう言い、自分の分の会計まで私に押し付けて先に外へ出て行った。私は父と合流し、状況を説明した。父は少し考えて、「自分に任せろ」と言った。フロントで待つナミさん夫婦の元へ向かうと、彼女の夫は私の父を見るなり、顔色を真っ青に変えた。

「ま、まさか……近島たかし」

どうやら父は、私が知らないだけで、かなりの人物らしい。父が100万円を差し出すと、受け取ろうとしたナミさんを、夫が必死に止めた。

「このお金は受け取れません。今回は妻がすみませんでした」
「ちょっと、なんで止めるのよ!」
「この人は鹿島組の組長だぞ」

ナミさんは絶句し、血の気が引いていく。父は笑顔のまま、今度は盃を差し出した。鹿島組と角田組の縁を結ぶ証として。ナミさんは意味も分からずそれを受け取り、夫を連れて帰って行った。

数日後、父から連絡があった。「ナミさんの家を知ってるか」。父と一緒に彼女の自宅を訪ねると、ナミさん夫婦は父の登場に驚きつつも、出てきた。

「お前たち、盃を使ったな」
「えっと、頂いたお金ですよね。確かに使いましたけど」
「鹿島組と縁を結べないってことか?」

父の圧に、夫は土下座して謝罪するしかなかった。そして、「組長に相談して、明日改めて謝罪に伺います」と言った。翌朝、約束の時間になっても、白川夫婦は現れなかった。

父は静かに言った。「来なかったようだな。予定通り、事務所に行く」。私は父について行くことにした。事務所の扉を開けると、重たい空気が満ちていた。父の低い声が響く。

「昨日謝罪に来ると言っていたが、来なかったな。これはどういうことだ?」

白川夫婦は震えながら言い訳を始めたが、父の静かな口調は変わらない。

「実はな、お前たちが本当に反省したのか信じきれなくてな。部下に後をつけさせていたんだ」

その言葉に、夫婦の顔から血の気が引く。

「お前たち、裕子の顔に火傷させるだけでなく、俺の孫にまで手を出そうとしていたな」

その瞬間、ナミさんが開き直って叫んだ。

「そうよ。どうせ海外へ逃げれば、あんたの手も届かないでしょ。だから、あのガキ、裕子さんの息子も道連れにしようと思ったのよ」

息子を道連れに。その言葉で私は凍りついた。だが、その挑発的な笑顔は長くは続かなかった。背後で扉が音もなく開き、スーツ姿の男たちが無言で部屋に入ってきた。白川夫婦を取り囲むように立ち、逃げ場を塞ぐ。

「海外逃亡だと? 俺の目を盗んで、俺の娘に手を出して謝罪もなく、その上盃まで使い込んで、鹿島組を敵に回して逃げ切れると思ったのか」

ナミさんは青ざめた顔で叫ぶ。「謝るから許して。ごめんなさい」。夫も土下座したが、父の表情は変わらない。

「薄めだけでなく、愛する孫まで手にかけようとした以上、痛めつけるだけで済むわけがないだろう」

父は無表情のまま、二人を見下ろしていた。それから、何かを思いついたように口を開いた。

「何でもするって言ったな。100万円も返済してもらわないとだな。娘の治療費と慰謝料も。俺の紹介する職場で働いてもらおうか」

父がにやりと笑う。「マグロ漁船でどうだ? 5年くらい働けば支払いも終わるぞ」二人は必死に訴えたが、父の意思は変わらない。「子供の心配は必要ない。俺の方からお前たちの両親に話をしよう。お前たちに育てられるよりよっぽどいいだろう」

ナミさんは最後の一言で、他の道はないと悟ったのか、泣く泣く了承した。二人は父の部下に連れられ、部屋から出ていった。自分の子供を巻き込もうとした二人を、私は許せない。子供のためにも、これで良かったのだろうと思った。

それから1ヶ月後。火傷の痕は綺麗に治り、息子も元気に学校に通っている。ナミさんの息子さんは彼女の両親に引き取られ、学校も変わらず通っていると聞いた。唯一気になっていた子供のことが解決し、私は穏やかな日々を取り戻していた。

父から聞いた話では、二人は最初こそ文句を言いながら働いていたが、慣れない過酷な環境で疲れ果て、今では休憩時間に私への謝罪と反省をしているらしい。今更許す気にはなれないが、このまま反省してくれることを願う。

そんなことを考えていると、父が口を開いた。

「この間はあいつらのせいで楽しめなかったから、今度また一緒に行こう。次は裕子の夫と孫も一緒にな」

私は一瞬驚いたが、すぐに微笑んだ。

「うん。いいね。家族みんなで行こう」

静かな時間を取り戻した私たちは、これからも新しい日々を歩んでいく。今度こそ、サウナの熱が心を癒してくれることを信じて。

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