雪の降る夜、16年前に助けた迷子の少女が、今の職場の新人として目の前に現れたんです。あの日、交番で別れてから音信不通だったのに、なんと同じ会社で再会するなんて。彼女は「お兄ちゃんのことは、あの日からずっと好きでした」と告白してきました。でも当時の私は、年の差を理由に彼女を振ってしまった。それなのに、8年ぶりに彼女が社会人として目の前に現れて、昔と同じ笑顔を見せてきた時、私はどうすればよかった…

雪の降る夜、16年前に助けた迷子の少女が、今の職場の新人として目の前に現れたんです。あの日、交番で別れてから音信不通だったのに、なんと同じ会社で再会するなんて。彼女は「お兄ちゃんのことは、あの日からずっと好きでした」と告白してきました。でも当時の私は、年の差を理由に彼女を振ってしまった。それなのに、8年ぶりに彼女が社会人として目の前に現れて、昔と同じ笑顔を見せてきた時、私はどうすればよかった...

雪がチラチラと降り始めた夜、俺は駅に向かう道で足を止めた。その光景が、どうしてもあの日を思い出させる。16年前の雪の日、俺はまだ受験を控えた中学生だった。塾からの帰り道、積もった雪の中をスニーカーで歩きながら、早く家に帰りたい一心で交差点に差し掛かった。すると街灯の下で、なにか黒っぽい塊がうずくまっているのが見えた。

近づいてみると、それは小学低学年くらいの小さな女の子だった。肩を震わせて泣いている。膝からは血が出ていた。雪で転んだのだろう。俺は持っていたハンカチをその傷に巻いてやった。泣きじゃくる女の子に「どうしたの?」と聞くと、「お家に帰る道が分からなくなっちゃったの」と小さな声で言った。

知らない人についていくことを警戒する女の子に、俺は近くの中学の制服を見せて「怪しいものじゃない」と伝えた。すると、ようやく安心したように「私はもも子」と名乗ってくれた。俺はもも子を背負って、交番まで歩くことにした。背中で「お兄ちゃんはどこに行ってたの?」と聞くもも子に、塾で勉強してきたこと、受験が近いことを話した。「お兄ちゃん、休まないでくれてありがとう」と言うもも子の言葉が、なぜかずっと心に残った。

交番で警察官に引き渡し、もも子の母親が迎えに来るまで見届けて、俺はその日帰った。それから数年、俺は高校に合格し、大学へ進学した。あの日のことはたまに思い出したが、もう会うことはないと思っていた。

大学生になった俺は、駅前のレンタルショップでバイトをしていた。ある日、棚の整理をしていると、列の向こうから視線を感じた。振り返ると、制服姿の女子中学生が立っていた。「あの、もしかしてあの時のお兄ちゃん?」と。それは、あの雪の日に助けたもも子だった。中学3年生に成長したもも子は、俺を見て笑った。「いつか会ったらお礼を言いたかったの」。それからもも子は頻繁に店に来るようになった。受験生だというので、俺は数学や英語を教えることになった。カフェで、週に何度も。もも子は俺を見る目が徐々に変わっていくのを感じた。だが、大学生の俺にとって、中学生のもも子はやはり妹のような存在だった。

受験が終わり、もも子が合格を報告してくれたその日、彼女は言った。「私、お兄ちゃんのことが好きです。助けてくれた日からずっと」。俺は驚いたが、気持ちは嬉しかった。それでも、まだ中学生のもも子に年上の自分が応えるのは違うと思った。「ごめん。妹みたいな存在なんだ」と断った。もも子は涙を拭いながら、「もう会わない方がいいよね」と言って、その場を去った。それからもも子は本当に店に来なくなった。

時は流れ、俺は31歳になった。課長に昇進し、今年の新入社員を迎えることになった。オフィスで新入社員たちが並ぶ中、最後のひとりに目が留まった。見覚えのある顔。「高田もも子です」。23歳になったもも子が、そこに立っていた。8年ぶりの再会に、心臓がバクバクした。もも子は俺に敬語で話し、よそよそしい態度を取ったが、その日の仕事後、声をかけると昔のように笑った。彼女は大学を卒業し、俺と同じ会社を選んだのだという。「あの日、振られてから、ずっとあなたを追いかけてきた」。そう言うもも子の目は、昔と変わらず真っ直ぐだった。

仕事を終え、一緒に帰る道すがら、もも子が突然言った。「課長はもう忘れちゃいましたか?私が8年前に告白したことを」。俺は「忘れないよ」と答えた。もも子は「あの時は子供だったと思う。だから振られて当然だった」と笑った。そんな話をしながら雪の降る夜道を歩いていると、もも子は空を見上げて言った。「雪が降るたびに、お兄ちゃんに会いたいって思い出してた」。俺も同じ気持ちだった。そして、俺はようやく自分の気持ちに気づいた。もう、もも子は妹じゃない。大切な女性だ。

「もも子、俺と付き合ってくれないか」と伝えると、もも子の目から涙が溢れた。「私、16年もあなたのこと待ってたんだよ」。俺はもも子をぎゅっと抱きしめた。寒い冬の日だったが、心は温かかった。

二人の関係はすぐに周囲にバレた。だが、大きな噂になることもなく、みんな温かく見守ってくれた。両親に報告すると、双方から「早く結婚しなさい」と言われた。あの雪の日の出会いがなければ、今の二人はなかった。結婚式で、白いドレスを着たもも子が俺の耳元で「これからは、ずっと一緒にいようね」と言った。俺たちは、あの雪の日から始まった16年の物語の続きを、これからも紡いでいく。

Thumbnail