塾の駐車場で、見知らぬ高級車の妻に突然「それなりの給料じゃないとこの塾は無理よね。一般人は入れないと思うけど」とバカにされた。息子を迎えに来ただけなのに、中古車に乗っていることを見下され、挙げ句には「貧乏人は大変ね」と言われた。私は冷静に一言だけ返した。「そうですね。なので会社の経費削減であなたのご主人を解雇させていただきます」。彼女は笑ったが、私がその夫の名刺を見た瞬間、すべてが繋がった。…

塾の駐車場で、見知らぬ高級車の妻に突然「それなりの給料じゃないとこの塾は無理よね。一般人は入れないと思うけど」とバカにされた。息子を迎えに来ただけなのに、中古車に乗っていることを見下され、挙げ句には「貧乏人は大変ね」と言われた。私は冷静に一言だけ返した。「そうですね。なので会社の経費削減であなたのご主人を解雇させていただきます」。彼女は笑ったが、私がその夫の名刺を見た瞬間、すべてが繋がった。...

「それなりの給料じゃないと、この塾は無理よね。一般人は入れないと思うけど」

塾の駐車場で、見知らぬ派手な女性にいきなり嫌みを言われた。最初は何を言っているのか分からなかった。私は息子を塾に迎えに来ただけなのに。

「一般人とはどういうことですか?」

そう尋ねると、彼女は私を頭の先から足の先まで見下すように眺めて言った。

「あなたみたいな人のことよ。中古車でお迎えに来るなんてかわいそう。貧乏人は大変ね」

私は思わず呆れてしまった。確かに私の車は高級車ではない。しかし、しっかりメンテナンスをして、大切に乗っている愛車だ。それを「中古車」の一言で片付けられ、怒りを通り越して、ただただ虚しさが込み上げてきた。

価値観が全く合わない。話にならない。そう思ってやり過ごそうとした。

しかし、彼女は懲りずに続けた。自分の夫が会社役員で高収入だということ。この車は一千万円したこと。そして、私が「会社員です」と答えたことを聞くと、鼻で笑いながら言った。

「会社員? あなた本当に正社員で働いてるの?」

彼女の名前は竹神と言った。私の名前を名乗ると、彼女は自分の夫の名刺を差し出してきた。その名刺には、見覚えのある会社の名前が書かれていた。それは私が勤めている会社だった。

「私もここの社員ですが」

そう伝えると、彼女は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐにまた嘲るような表情に戻った。

「あなたいらっしゃいよね。貧乏人はボロい車しか乗れなくて大変ね」

私は静かに言い返した。

「そうですね。本当に大変です。なので、会社の経費削減であなたのご主人を解雇させていただきます」

彼女は何を言っているのかと怒鳴り散らした。しかし、私は続けた。

「その立派な高級車はいつ頃購入されたのですか?」

彼女は胸を張って答えた。

「今年の一月に一括で主人が購入したの。一千万円よ」

その答えを聞いて、私は確信した。私は彼女に告げた。

「ご主人には、会社の売上を自分の通帳へ横流しした疑いがかかっています」

実は、私は社長から密命を受けていた。経理から竹神の金の流れに不自然な点があるという報告が上がっていたのだ。売上の金額が見込みより少ない。社長は以前から竹神を怪しんでいて、私に調査を頼んでいた。

今日、私は社長に息子のことを相談した。息子が通う塾の名前を口にすると、社長は一瞬驚いた顔をした。

「竹神の息子もその塾に通っているらしいんだ。なんとか竹神の家族と接触を測れないだろうか」

それが社長からの依頼だった。偶然にも、その相手がこの女性だったのだ。

「実は私、会社の部長なんですよ。横領が事実であれば、この車も社長に返さないといけないかもしれませんね」

彼女はわなわなと震えながら、「嘘ばっかり言っている! 訴えるわよ!」と叫んだ。

「嘘じゃないですよ。今、社長があなたのご主人を呼び出しています。信じないなら電話してみましょうか」

私はその場で社長に電話をかけ、スピーカーにした。

「もしもし、社長。北沢です。竹神さんの奥さんと会っていますが、何か伝えたいことはありますか?」

「おう、北沢部長か。竹神の奥さんと会っているのか。彼女に言っておいてくれ。竹神を問い詰めたら、やっと横領を認めたよ。彼は今日で解雇だ。車も返すように言っておいてくれ」

電話を切った後、青ざめた顔の竹神夫人に私は続けた。

「聞きましたね。これが真実です」

彼女は言葉も出ない様子だった。私はそのまま、自分の息子の話を始めた。

昨夜、泣き腫らした目をした息子から、なんとか聞き出した話だ。息子はこの塾に来るたびに、ある生徒から「貧乏人はこの塾に来るな」と言われていたらしい。息子はそれを我慢していた。心の中で悔しい思いをしながら、泣くまいと必死に堪えていたのだ。

私は怒りを込めて言った。

「うちの息子は私立の小学校から大学までの一貫校に通っています。名前を言えば、きっとあなたも知っている学校ですよ」

その学校の名前を告げると、彼女は目を見開いて驚いていた。

「あの優秀な学校に通っているなんて……」

「私自身は東大卒です。それを知った人は、私のことを羨ましいと言ったり褒めたりしますが、それが何になるというんですかね。私は学歴だけで物を見る人間が嫌いです。そして、常日頃から目立たず、つましく暮らしていくことを大切にしています。妻も私のそういう考えに共感してくれて、そんな生活を楽しんでくれています。息子にも、自分の学歴などを自慢することがないようにと、常日頃言い聞かせています」

「貧乏人とからかうようなひどい言葉を投げかけていた生徒の名前を聞き出しました。竹神君の名前が出ましたよ」

彼女はさらに驚いた顔をした。

「今日、あなたとお話をしてとても納得しました。息子さんには、あなたの教育が行き届いているんですね」

私は精一杯の嫌味を込めて続けた。

「残念ですが、あなたのご主人は間違いなく首になります。自慢ばかりしていると足元を救われますよ。子供さんの教育にも良くないと思います」

そう言って、呆然と立ち尽くしている彼女を横目に、私は塾の入り口へ向かった。

ちょうど入り口から出てきた息子は、私の顔を見るなり、顔を輝かせて走ってきた。

「お父さん、迎えに来てくれたんだね。ありがとう」

息子の笑顔を見ると、何とも言えない温かい気持ちになれた。

「今日はどうだった? あいつに何か言われたか?」

「今日も同じようなことを言われたけど、僕はもう泣かないよ。あいつの言っていることは間違っているって思うんだ。僕には応援してくれるお父さんとお母さんがいるし、本当はあいつもかわいそうな人間なんだよ」

たった一日で、辛い出来事を乗り越えようとしている息子に、私は愛しさが一層募った。

「偉いな。お父さんはお前を泣かすやつは許さないから。その子の親に言ってやったぞ。お前はいつも通り、堂々としていればいいんだ」

息子は心から安心したような顔をして言った。

「本当にありがとう、お父さん」

私は続けた。

「これから大人になっても、いい人間に会うと思う。時には嫌なことが起こったり、間違ったことを言う人間もいるさ。だけど、お前はお前の信じる道を行けばいいんだ。そして、自分がされて嫌なことは、他の人にしてはいけない」

「お父さん、僕はもちろんそうするつもりだよ」

息子は屈託のない笑顔で私を見た。そんな楽しい会話をしながら家に着くと、妻が慌てて玄関にかけ寄ってきた。

「お母さん、ただいま」

「お帰りなさい。あなたもお疲れ様」

妻が安心した声でそう言うと、息子を抱きしめた。私の長い一日が過ぎていった。

その後、竹神は正式に解雇された。横領した金で買った車は当然、会社に没収された。風の噂では、家族で竹神の地元の田舎に引っ越したらしい。刑事事件にはならなかったが、田舎では噂はすぐに広まる。結局、職にも就けずに年老いた両親の世話になっているそうだ。

今日も少し遅い時間に仕事を終えて家に帰ってきたが、妻と息子がまだ寝ずに待っていてくれた。私は妻が準備してくれた夕食を食べながら、息子の話を聞いていた。塾で親しくなった友達のことだ。

「お互いに勉強を教え合ったり、ゲームの話をしたりするんだ」

以前泣いていた息子とは別人のように、のびのびと塾に通っている。嫌がらせをしてくる子がいなくなったことで、塾が楽しい場所になったようだ。

妻は「あなた、本当にありがとうね」と笑顔を私に向けた。

私はこれからも家族を守っていくぞと、心に誓った。

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