パーティー会場の真ん中で、テレビでよく見るあの社長夫人が、私の会社を見下してこう言い放った。「貧乏会社はこのパーティーには呼んでないはずよ。会場を間違えたんじゃない?」Tシャツにデニムという格好の私は、周りのスーツやドレス姿に囲まれながら、必死に招待状を探した。だが彼女は、私の会社がこの大企業の全物流システムを構築していることなど、微塵も知らない。「オタクのような弱企業なんか手を引いてもらっ…

パーティー会場の真ん中で、テレビでよく見るあの社長夫人が、私の会社を見下してこう言い放った。「貧乏会社はこのパーティーには呼んでないはずよ。会場を間違えたんじゃない?」Tシャツにデニムという格好の私は、周りのスーツやドレス姿に囲まれながら、必死に招待状を探した。だが彼女は、私の会社がこの大企業の全物流システムを構築していることなど、微塵も知らない。「オタクのような弱企業なんか手を引いてもらっ...

パーティー会場の喧騒が、一瞬にして静まり返った。金髪の巻き毛を揺らし、真っ赤なドレスを纏った村山リツ子が、私の隣に立って高々と宣言したのだ。「貧乏会社はこのパーティーには呼んでいないはずよ。会場を間違えたんじゃない?」周りの視線が一気に私に集中する。彼女はテレビでよく見るあの自信に満ちた笑顔を浮かべたまま、私の会社を見下すように言い放った。「うちのような一流の大企業のパーティーによくもそんなよれよれの服で来れたものね。なんだか汗臭そう。まさか無断で入り込んだんじゃないでしょうね。」

私は必死に招待状を取り出そうと鞄を漁った。「そんなことありませんよ。招待状もあります」と訴えかけるが、彼女は鼻で笑うだけだ。「本当かしら?その招待状も偽物なんじゃないの?あなたみたいな貧乏会社の人がパーティーにいると会社の品が落ちるのよ。本当迷惑だわ。」

品が落ちる?私の頭の中で何かが切れた。確かに私の会社は無名だ。だが、誰にも負けない立派な仕事をしているという誇りがある。ここまで言われて、我慢する必要はないだろう。

「そこまでおっしゃるのであれば、今後の取引は中止させていただきます。」

私の言葉に、彼女はますます楽しそうに高笑いを響かせた。「あら、そう。オタクのような弱企業なんか手を引いてもらって構わないわよ。どうぞ、どうぞ。」そして、勝ち誇ったようにパーティーの中心へと戻っていく。

私は彼女の背中を見送りながら、すぐに会社へ電話を入れた。俺の会社を貧乏だとバカにするなら、思い知らせてやる。この物流会社の全業務を支えるシステムは、私の会社が開発したものだ。それに気づいた彼女が、後でどんな顔をするのか見てみたいものだ。

1時間後、パーティー会場には社長夫人の泣き叫ぶ声が響き渡ることになった。

私の名前は小池俊明。子供の頃から理系の勉強が得意で、大学ではコンピューターの情報処理を専門に学び、さらに高度な研究をするために大学院へ進んだ。そして、大学院の友人たちと「今しかできないことに挑戦しよう」ということになり、在学中にITのベンチャー企業を立ち上げた。最初は遊び感覚だったが、始めたからには会社を成長させたかったし、得意の情報処理能力を活かせるのが楽しくて、次第にのめり込んでいった。

勉強と企業経営の両立は簡単ではなく、利益もほとんどなかったが、有意義な時間だった。しかし、卒業が近づいたある日、一緒に起業した友人が「卒業したらあの会社はどうする?」と尋ねてきた。「このまま続けるよ」と答えると、友人は申し訳なさそうに俯いて言った。「お前はそう言うと思ったよ。でも悪いけど、俺は一般企業に就職しようと思っているんだ。その方が安心だからね。」

友人の言葉におじ気づいたが、引き止めることはできなかった。結局、卒業を機に仲間のほとんどが会社を去り、私は一人残って会社を続け、社長になった。

それから数年が経ち、世間的にはまだまだ無名だったが、少しずつ取引先も増え、スタッフも雇えるようになった。経営が安定してきたのは、地道な努力の積み重ねの結果だと思っている。

そんなある時、一通の封筒が会社に届いた。金色の分厚い豪華な封筒には、取引先の中でも一際大企業である大手物流会社の50周年パーティーへの招待状が入っていた。社員たちは興奮気味に「すごいですね。会場は一流ホテルですよ」と盛り上がったが、私が普段から服装に無頓着なことを知っている彼らは、いたずらっぽく笑いながら「社長は何を着ていくんですか?」と尋ねてきた。

私は普段着で会社に行き、社員たちの服装も自由なのが一種の社風のようなものだった。パーティーの案内にも「気軽な服装で」と書いてあったので、いつも通りTシャツにデニムという格好で家を出た。

ホテルに着くと、入り口はパーティーに参加する人々で溢れ返っていたが、男性は全員スーツ、女性は色とりどりの華やかなドレス姿で、私だけが明らかに浮いていた。「なんだ、みんな随分気合い入ってるじゃないか」と内心焦りつつも、受付にいたいつもの担当者が私に気づき、笑顔で声をかけてくれた。「いえ、そんなこと気にする必要はありませんよ。社長はいつものその服が似合っていますよ。服装は本当に自由ですから、どうぞこのままお入りください。」

その言葉に励まされ、私はそのままパーティーに出席した。最初は周りの華やかな雰囲気に居心地の悪さを感じたが、パーティーが進むにつれて、いつしか自分の服装のことなど忘れていた。

しかし、私の考えは甘かったのだ。パーティーが中盤に差しかかった頃、入り口付近が何やら騒がしくなり、一人の背の高い女性が入ってきた。胸元が大きく開いた真っ赤なドレスを纏ったその女性は、満面の笑みで次々と会場の人たちと挨拶を交わしていく。彼女は有名な物流会社の役員で社長夫人の村山リツ子だった。やり手の女性役員としてマスコミにも頻繁に取り上げられ、テレビにもよく出演しているので、私もすぐに分かった。

彼女は会場を見渡すと、私を見つけてつかつかと歩いてきた。そして、私の横にぴたりと立ち、じろじろと上から下までなめ回すように見つめた。

「あなた、そのおかしな格好。どちらの会社の方かしら?」

私は会社名と社長であることを告げたが、彼女は聞いたこともないといった様子で、さも呆れたような表情を浮かべた。「そんな会社、聞いたこともないわね。貧乏会社はこのパーティーには呼んでないはずよ。会場を間違えたんじゃないの?」

確かに私の会社は無名で、彼女の会社よりは貧乏かもしれない。しかし、随分な物言いだ。周りの人が集まってきて、私たちを取り囲み始めた。テレビで見かけるリツ子さんを見ようとしている人も大勢いる。私は鞄の奥にしまい込んだ招待状を探したが、彼女は待ちきれないといった様子で言い放った。「もう結構よ。あなたみたいな貧乏会社の人がパーティーにいると、うちの会社の品が落ちるのよ。本当迷惑だわ。」

品が落ちる? 何を言っているんだ。品がないのはあなたの方じゃないか。さっきまでこの場を無難にやり過ごそうと思っていたが、もう馬鹿らしくなってきた。私は頭に来ていたが、それでもなんとか冷静さを保とうとした。「それは飛んだご迷惑をおかけしましたね。品が落ちるとおっしゃるのであれば、うちのシステムなんて使いたくないでしょう?」

「ええ、そうね。貧乏会社のシステムを導入しているなんて、うちの社員は何を考えているのかしらね。後で注意しなくっちゃ。」彼女はそう言って笑った。

私は彼女が本気で私や私の会社を馬鹿にしているのだと理解した。そして、静かに宣言した。「では、御社の物流システムはうちの会社で構築したものですので、今日限りで一切手を引かせていただきます。」

「あら、そう。オタクのような弱企業なんか手を引いてもらって構わないわよ。どうぞどうぞ。」彼女は涼しい顔で返してきた。私の言葉の意味を理解していないのだろう。

「じゃあ、本当にいいんですね。重大事項なので確認しますが、よろしいんですね?」

「はあ、しつこいわね。あんたの貧乏会社がどうしようが、うちのような大企業は痛くも痒くもないのよ。どうぞご勝手に。」彼女はため息をつき、いかにも面倒くさそうに言った。「全く、どこの馬の骨とも分からない奴のせいで、せっかくのパーティーが台無しだわ。」

そう言い残して彼女が立ち去ると、私はすぐに会社へ連絡を入れた。「もしもし、ちょっといいかな? 急ぎなんだけど。」俺の会社を貧乏だとバカにするなら、思い知らせてやる。私の会社は一流の大企業ではないが、世の中のためになる立派な仕事をしている。無名でも社員が少なくても、それが私の誇りだ。

その後、パーティーは何事もなく進んでいった。そして、リツ子さんが壇上に上がって挨拶を始めた時、突然スタッフが彼女に駆け寄り、何か耳打ちした。すると、リツ子さんの表情がみるみる青ざめていくのが会場の隅にいる私にもはっきり見えた。

「皆さん、お騒がせして申し訳ありません。実は、我が社の全システムがダウンして、全ての業務が現在ストップしてしまいました。」

動揺した様子で彼女が事情を説明する。私はさっきの電話で、会社のスタッフにこの物流会社のシステム利用を停止させていたのだ。この物流会社のシステムは私の会社で開発したもので、我が社にとって最大の取引先でもある。大手企業ほど業務はシステム管理に依存しているから、こうして全ての業務が簡単に停止してしまう。

リツ子さんはスタッフたちと困惑した様子で携帯で連絡をしたり、顔を見合わせてひそひそと話したりした。そして、壇上から私の方を見て、はっとしたような表情を見せると、慌ててステージを降りて駆け寄ってきた。

「あなたがさっき言ったことは、本当なんですね。失礼はお詫びしますから、システムを元に戻してくれませんか?」

さっきまでの傲慢な態度とは打って変わった、哀れな表情だ。「おかしいですね。うちみたいな貧乏会社は役に立たないんでしょう?」私は勝ち誇ったように言った。

「私は何も知らなかったのよ。早く復旧しないと…」彼女はすがるように言うと、膝から崩れ落ちた。

「今更遅いですよ。システムは完全にダウンしていて、復帰不可能です。」私はにやりと笑って言った。「さっきは勝手にしろと言ったじゃないか。俺の会社が無名だからと言ってバカにするから、こうなったんだ。」

リツ子さんが必死で詫びる中、一人の男性がやってきた。上質なスーツを着た、物腰丁寧な男性だ。どこかで見たことがあるような気がしたが、すぐに思い出せない。リツ子さんが顔を上げて泣き出すと、私は彼が物流会社の社長だと気づいた。

「子、大丈夫か?」社長は泣き崩れるリツ子さんの手を取り、心配そうに顔を覗き込んだ。私はリツ子さんには頭に来ていたが、この上品そうな社長は無視できなかった。

私は社長に、自分の会社のシステムのこと、さっきリツ子さんと揉めたこと、そして物流システムを停止したことを説明した。

「そうでしたか。うちの妻がそんなことを…。本当に失礼なことをしました。急にシステムが停止するなんておかしいと思っていたところです。」

社長は黙って最後まで話を聞くと、頭を下げ丁寧に謝罪の言葉を口にした。システムが停止しているというのに落ち着いた態度に、私は関心した。大企業の社長ともなると、大きなアクシデントにもこれほど落ち着いて対応できるものらしい。

「リツ子、お前は言わなくていいことまで言ってしまう悪い癖がある。人の上に立つ人間なのだから気をつけなさい。役員でもあり夫人という立場でもあるのだから、会社の尊望にも関わることだ。」

社長はさっきまでの落ち着いた口調とは打って変わって、厳しくリツ子さんを叱責した。リツ子さんは項垂れたまま泣いている。少しは反省しているのだろうか。

「それで、早速ですが、急いでシステムを復旧してもらえないでしょうか。弊社の損害だけならば自業自得と言える。だが、システムダウンにより短時間とはいえ、取引先に迷惑をかけてしまっている。」

社長の言葉に、私は考え込んだ。大手の物流システムがダウンするということは、日本中の物流が滞ると言っても過言ではない。リツ子さんを見返してやろうとシステムをダウンさせたが、関係のない多くの人を巻き込んでしまった。そして、この物流会社は我が社にとって大切な取引先でもある。このシステムを停止すれば、我が社も大きな取引先を失うことになり、お互いに大きな損失だ。

「本当に申し訳なかったと思っています。損害がさらに広がる前になんとか復旧してもらえないだろうか。それとも、すぐに復旧できないのですか?」

時間が経つにつれて、社長にも焦りが見えてきた。もう復旧ができないとリツ子さんに言ったのは真っ赤な嘘だ。私は決心した。これ以上システムの停止が長引いても、誰にも得がない。

「もしもし。ああ、俺だよ。さっきの物流システムだけど、早急に復旧させてほしい。」

会社に電話をして復旧の指示を出すと、数分後にはシステムは復旧し、業務は再開された。私はパーティー会場を後にした。

後日、物流会社の社長から連絡があり、リツ子さんが役員を辞任したという話を聞いた。あのシステムダウンの影響で全業務がストップし、莫大な損害を受けることになった。リツ子さんはそのことに責任を感じ、深く反省した上でのことだという。

社長は電話の向こうから、あの落ち着いた口調で丁寧に説明してくれた。「立つ子は役員で社長夫人とは言っても、実際は経営には関わってはいませんでした。全て人任せにしていて、役員とは名前だけのものだったのです。ですから、あの物流システムがどれほどの役目を担っているかも分かっていませんでした。あなたの会社のことも何も存じ上げなかったので、あのパーティー会場で失礼なことを言ってしまったのです。」

社長はそう言うと、また私に謝罪をし、その後今後の取引の話に入った。おかしな話だが、社長は謝罪をするのが本当に上手だ。こんな風に謝られたら、つい何でも許してしまいそうになる。あのパーティーで社長と出会えただけでも、行った価値はあったと思えた。

そして、もう一つ。私が「気軽な服装で」という言葉の意味を知らなかったばかりに、大変な目に遭ってしまったことも反省しなければならない。もしあの時、意味を調べていたら、リツ子さんと揉めることもなかったかもしれない。私は昔から勉強ばかりしていて、こういうことに疎いところがあった。これからは世間のことも勉強して、この小さな会社を誰もが知っているような大きな会社にしよう。そう心に誓った。

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