「あの文書はよくできていたもんだ。あんな紙切れ1枚で1人首にできるんだ」 まさか、自分の解雇を告げた親子が部屋でそんなことを話しているとは思わなかった。俺はドアの外に張り込んでいた。調子に乗っている岡島親子がボロを出すのを期待して。そして、その録音データが俺の無実を証明することになった。…

「あの文書はよくできていたもんだ。あんな紙切れ1枚で1人首にできるんだ」 まさか、自分の解雇を告げた親子が部屋でそんなことを話しているとは思わなかった。俺はドアの外に張り込んでいた。調子に乗っている岡島親子がボロを出すのを期待して。そして、その録音データが俺の無実を証明することになった。...

「あのな、俺に指図したことを後悔させてやってもいいんだぞ」

取引先からのクレームが何度も寄せられていた。同期の岡島高一郎は、誰に対しても見下した態度を崩さなかった。物を売ればいいだけっていうのは本当に楽だよね――そう言って、俺たちの仕事を嘲笑った。

ある日、俺はついに高一郎さんを注意した。仕事なんだから礼儀を忘れるな、誠意を見せろと。だが高一郎さんは「僕は誰よりも優れてるんだから」と鼻で笑うだけだった。

翌日、俺は岡島部長に呼び出された。部長は高一郎さんの父親で、息子を守るためだけに俺を詰め寄せた。

「君は全く誰の息子だと思って彼に口を聞いたんだ」

俺は反論した。高一郎さんの勤務態度の問題点を並べ立て、取引先からのクレームも伝えた。しかし岡島親子は聞く耳を持たず、会議は「もういい」の一言で終わった。

数日後、事態は思いもよらない方向へ転がった。総務に匿名の文書が届いたのだ。俺が取引先と組んで不正な請求をしているという内容だった。契約額を水増しして、その差額を着服していると書かれていた。

覚えも何もない。完全な虚偽だった。だが文書は社内に回り、メールでも拡散されていた。

俺はまた岡島部長に呼び出された。

「これは犯罪行為だ。君は犯罪者だ」

岡島部長は書類を突きつけ、退職を迫った。息子の高一郎さんも同調する。

「うちの父は今やめるなら表沙汰にしないつもりでいてやってるんだぞ」

俺は抵抗した。事実無根だと訴えた。だが岡島親子の勢いは止まらない。

「会社を貶める不利益を与えようとするやからは首で当然だ」

逃げ場を失った俺は、退職を受け入れた。

「分かりました。退職させてもらいます。今日限りでも」

岡島親子は嬉しそうに笑った。俺はその場を後にした。

翌日、荷物の片付けを命じられた。上司は止めようとしてくれた。だが岡島親子がいる限り、何をしても無駄だと思っていた。

そこに社長が顔を出した。

「大山百貨店さんから商談の予定が変更になったと連絡が来たんだが、何かあったのかね?」

大山百貨店との大型案件――俺が担当していた。契約が成立すれば50億の利益が見込める超大型案件だ。社長は何も知らされていなかった。

「その件でしたら三田さんが担当なんですが、昨日岡島部長が三田さんを解雇すると言いまして」

若手の後輩が声を上げた。社長の顔色が変わった。

社長はすぐに岡島部長を呼び出し、問い詰めた。

「君は一体何を知っていると言うんだ。三田君は今、大山百貨店との大型新規案件に取り組んでいる最中だぞ」

岡島部長は動揺した。俺が抱えていた案件を知らなかったのだ。それでも「この男は犯罪者ですから」と食い下がる。

その時、俺は一歩前に出た。

「申し開きと言いますか、私からも聞いていただきたい証拠があるんです」

俺はスーツのポケットからスマホを取り出し、録音データを再生した。解雇を告げられた直後、俺は部屋の外に張り込んでいた。調子に乗っている岡島親子がボロを出すのを期待して。

「あの文書はよくできていたもんだ。あの程度の完成度でいいなら楽なもんだね」
「あんな紙切れ1枚で1人首にできるんだ。まあこの後は領収書か契約書でもでっち上げてやればいいな」

岡島親子の声が流れた。文書は偽造であり、俺を追い出すための嘘だと自白していた。

岡島部長が飛びかかってスマホを奪い取ろうとしたが、上司と後輩に止められた。約10分の録音データが俺の無実を証明していた。

「許せんな。汚い真似を」

社長は岡島部長を睨みつけた。

「首にされるのは君だ。岡島君、それから君の息子もだ。今すぐ立ち去れ。処分は追って私から告げる」

岡島親子はその場で出社停止を言い渡され、荷物をまとめて会社を去った。

騒動から2週間後、岡島親子は社長の手で解雇された。会社は親子を訴える準備を進めている。業界内に悪評が広まった親子の行き先はないようだった。

俺は大山百貨店との商談を再開した。社長は深く頭を下げた。

「本当に申し訳なかった。そして本当にありがとう。君がこの難局を乗り越えてくれて、私も心底ほっとしている」

50億の案件は無事に成立した。百貨店サイドは俺の企画力を見込んで、別の案件も任せたいと言ってくれた。

全てが過ぎたことだ。大型案件が始まれば、何か起きるはずだと覚悟している。今の俺に大事なのは、何事にも誠実に仕事を完結させること。今後も懸命にやるべきことに取り組んでいきたい。

俺は今、心からそう思っている。

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