「お父さんの面倒を見るのはお前だ!」突然の電話で始まった、夫の姉との壮絶なバトル。義父の引っ越し先を押し付けられ、私たち家族の平穏が崩れ去る――。月3万円の提示で始まった交渉の行方、そして義父が選んだ意外な結末とは?家族のエゴが絡み合う、痛快ホームドラマが今始まる。

「お父さんの面倒を見るのはお前だ!」突然の電話で始まった、夫の姉との壮絶なバトル。義父の引っ越し先を押し付けられ、私たち家族の平穏が崩れ去る――。月3万円の提示で始まった交渉の行方、そして義父が選んだ意外な結末とは?家族のエゴが絡み合う、痛快ホームドラマが今始まる。

「お父さんが急にうちのマンションに来たんだけど。父さんの引っ越し先がお前の家だって。俺もさっき知ったんだよ。すごい迷惑なんだけど、今から一人で来てよ。近くに義父もいるだろうに」

エミカは大声で訴えた。だが、私は呆れた様子で返事をした。

「なんで俺が父さんが勝手に出ていくって決めたんだ? 」

「それはお兄ちゃんたちがお父さんを責めたからでしょ」

「何を? ちょっと薬を飲ませたぐらいで、それだけで老人を追い出すなんて酷すぎるわ」

エミカもこちらが決別した理由は知っているようだ。だが、その事実を知ってもなお父の肩を持つとは恐ろしい。薬を飲ませたぐらいという言い方からして、似たような倫理感の持ち主なのだろう。昔から無責任な父に苦労させられたのは私も同じはずなのに。

私は大きくため息をついて、エミカに言い返した。

「白上なのは、今まで問題から逃げてきたお前だろう」

「どういう意味よ」

「何でも長男の俺に丸投げして楽しようとしてきたくせに。母さんたちが離婚して実家を片付ける時だって、お前は手伝おうとしなかったじゃないか。大きい実家の処理は大変で、当時は連日かま出されていたんだぞ」

「でも、私だって仕事があったんだから」

「しかし、エミカが姿を見せたことは一度もなかった。彼女の私物もたんまりあったのに、まとめてこっちに送ってと指示されただけだった。あれをしたのかどうか、文句を言われたこともなかったな」

「完全に人任せなくせに、口だけは挟んでくる。かとは対局的な無責任さだと言える」

「仕方ないでしょ。仕事で忙しかったんだから」

「仕事で言い訳が通ると思っている辺り、同じ穴の無だな」

私はエミカに厳しく言った。

「それだけじゃない。お前、父さんから仕送りしてもらってるんだってな。ならば、音として面倒を見るべきだろう」

「どうしてそれを……」

「実は知らなかったんだが、エミカは実家を出てからもずっと生活費として仕送りをもらっていたらしい。セキュリティがしっかりした賃貸に住みたいとか、物価高だから苦しくてとか、そんな理由を並べ立てて。成人して働いているのに、親から金を絞り取ろうとするなんて」

離婚後は義父が毎月5万ほど送金しているそうだ。だが、エミカはこれだけ言及されても、自分のわがままを通そうとした。

「やっぱり無理。私だって働いてるのよ。パートで楽してるお兄ちゃんが面倒見ればいいじゃない」

「どうして決縁者の俺たちじゃなく、司法なんだよ。これは俺たち家族の問題だぞ」

「それに、お兄ちゃんだって子育てやこっちの家事で忙しいんだ。便利に使おうとするな」

私はしっかりと私たち家族を守ってくれている。その姿に安心して、彼にここは任せようと口を挟まなかった。

エミカの言い分は確かにわかる。彼女も私と同様の幼少期を送っているはずなので、義父に対して思うところがあるだろう。未だに続けている父からの仕送り請求も、もしかしたらエミカなりの復讐なのかもしれない。

それでも、こちらだって娘を守るために必死だ。私は事前に妻と話し合って決めた提案を彼女に提示した。

「父さんと一緒に住むのが大変だってのもわかる。そこでだ。俺たちからも多少の生活費を毎月送るから、黙って引き取ってくれないか」

「生活費? 」

エミカの様子が変化する。私が1月3万でいいかと言うと、彼女はしばらく黙り込んだ。おそらく頭の中で目まぐるしく計算しているのだろう。

長い沈黙の後、エミカの声が響いた。

「それなら仕方ないわね。きっちり振り込んでよ」

「ああ、わかった」

「父さんも生活費として毎月10万はもらうからね。それならいてもいいわよ」

「ほ、本当か?

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ずっと近くで話を聞いていたのだろう。スマホの向こうから、義父の小さく喜ぶ声が届いた。

私たち家族から3万円。プラス父からも10万円。計13万円で、現在の仕送り5万円よりもはるかに多くの不労収入が得られると、エミカは判断したのだ。

交渉はうまくいった。電話を切った後、私は安心したように息を吐き出す。

「あいつが単純なやつでよかったよ。月13万で父さんと暮らすのは大変だぞ」

「きっとすぐに値をあげるわね」

「さ、今のうちに次の段階に移りましょう」

こうして私たちは、今後怒り得るだろうトラブルに対処するため動き始めた。

案の定、事件は起きた。3ヶ月ほど経った頃、ギフトエミカが我が家にやってきたのだ。私は慌てて娘を2階に避難させ、大人しく待つよう言いつける。

リビングに入ると、双方あった様子でそれぞれ私たち夫婦に訴えてきた。

「こいつはちっとも過剰しない。その上、俺のことを臭いだのうるさいだの、もう顔も見たくないって言いやがるんだ」

「私は働いてるって言ってるでしょ。暇なお父さんが家事をすべきよ。こっちだって一緒に住みたくないわ」

2人の相性はとてつもなく悪かった。当然こうなるだろうと見通していた私たちは、用意した書類をダイニングテーブルの上に差し出した。

「なんだこれは? 」

「介護の必要ない高齢者でも入れる施設や賃貸マンションをいくつかピックアップした。父さんはこの中から好きな物件を選んで、1人暮らしを始めてくれ」

すると義父の顔がしかめつらになり、エミカの表情はパッと晴れた。

「いいわね。そうしましょう」

「施設だと? 俺はそんな年じゃない。勝手に話を進めるな。しかもどれも狭くて貧弱な物件ばかりだ」

「70歳はもう高齢者だよ。それに1人で暮らすには十分な広さだろ。部屋が多いと賃貸も高いし、贅沢なんかできないさ」

ここまで面倒を見てやらねばならないのは腹正しいが、それも仕方のないことだと割り切る。介護が必要でなくても入れる施設や高齢者用マンションを探し、彼に提供する。それが1番問題なく収まりの良い形なのだと私たちは考えた。

物件探しにはなかなか時間がかかる。元気な70歳の男性が入れる施設はそれなりに高額だし、賃貸マンションだと高齢者の1人暮らしを断られるところも多かった。だから義父がいない間に集中的に情報を収集し、取り揃えた。月3万を提示してまでエミカに押し付けたのは、この時間を得るためでもあったのだ。ただ、3ヶ月も持たないとは思わなかったが。

プライドの高い義父は、1人暮らしを渋った。

「1人暮らしで一体誰が俺の面倒を見るんだ」

「自分でするに決まってるだろう。掃除に選択くらいならできるって、同居の際にもおっしゃっていたじゃありませんか」

実際に家事をしたことはそんなになかったけれど、という嫌みを飲み込んで、私もにっこりと微笑んだ。もうこちらが義父を引き取る意思はないと伝わったのだろう。義父はがっくりと落ち込んだ。そして隣に座るエミカをちらりと見る。

「なあ、エミカ。姉ちゃん通ってくれないか」

「こうして私がお父さんも、いい加減自立してよ」

娘にも拒絶され、彼は面目を失った。これ以上子供たちにすがれないと察したのか、書類を力なく書き集める。

「分かった。この中から選んで契約すればいいんだろう」

義父は立ち上がり、とぼとぼとリビングから出て行こうとする。ドアのところに手をかけ、最後にこちらを振り向き、捨て台詞を吐いた。

「ああ、白上な子供たちだ。もう勘弁してくれ。俺の人生に関わらないでくれ」

負け犬の遠吠えにも聞こえるのは気のせいだろうか。バタンと扉が閉じられると、途端にエミカがウキウキとした声を出した。

「お兄ちゃん、ありがとう。これでお父さんから解放されるよ」

「あ、マジだるかった」

何もせずとも兄が解決してくれる。そう思っているエミカに対し、私は冷たい態度を示す。

「父さんが選んだ物件の保証人は、お前がなってくれよな。俺は断るから、よろしく」

「どうしたのよ。私がお前のマンションから父さんが引っ越すんだから、続けて面倒を見るの当たり前でしょ」

やや乱暴とも受け取れる私の言葉に、やはりエミカは反発した。

「そういうのは長男が得るのが当然でしょ。お父さんの保証人なんて絶対にやりたくないからね」

断られることが分かっていた私は、冷静に対処する。

「長男だから当然って。昔からそう言って何でも押し付けてきたよな。でもさ、俺もいい加減疲れたんだ」

ため息をわざとらしくつき、私はさらに続けた。

「父さんとの同居を告げた時だって、当たり前って顔して心配の声もなかった。こっちの様子を伺うことも一切しなかったよな」

「だって、喜んで引き取ったのかなって思ったのよ」

「あんな父親を前向きに引き取れると本気で思っていたのか。同じ子供時代を過ごしたお前だって、うう感じてただろ。俺の負担になってるって」

そこでエミカは無言になる。つまり肯定しているのだ。

彼女は私に面倒な父親を押し付けたと自覚しているのに、知らないふりをした。私も妹の冷たさに気づいていて、わざと見ないようにしていたに違いない。しかし、限界が来てしまった。

私は少しも力になろうとしなかったエミカを甘やかすのをやめた。

「俺はもう協力しない。父さんが何か言ってきたら、お前が対処してくれ」

「そんな……」

「それが嫌なら金を返せよ。3万円を3ヶ月分、9万円を今すぐにさ」

エミカがぐっと肩をすくめる。痛いところを突かれたといった反応だ。

「今すぐとか、ちょっと無理……」

「無理って、9万もないの? 」

純粋に疑問に思って口を開いた私に、エミカは顔を赤くして反論した。

「うるさいわね。あんたに関係ないでしょ」

「俺の妻をあんた呼ばわりするな。お前のことだ」

「入った金はすぐに使ってるんだろ。今住んでるマンションだって、お前の給料に見合ってないもんな」

「な、何よ。仕方ないでしょ。何かといろいろあるんだから」

どうやらエミカは散々金使いが荒いようだ。だから社会人になっても親に仕送りを頼んだり、お金目当てで義父を住ませたりしたのだ。だが、9万すらの貯金もない生活など、綱渡りではないだろうか。心の声がつい口から出てしまう。

「呆れたわ。エミカさんが父を非難する資格は、ちっともないみたいね」

エミカに睨みつけられたが、今回の騒動を経て私も強くなっている。私はエミカに一歩も引かず、きっぱりと自分の考えを告げた。

「私は他人なので、そちらの家族問題には口を出しません。ただ、娘にまで危害を及ぼしたお父さんに関わる気も一切ないです。保証人はそちらでどうにかしてくださいね」

妻を含めた私たち家族を頼るなと牽制の意を込めて伝える。エミカはしばらく怖い表情をしていたが、しびれを切らして席を立った。

「分かったわよ。保証人、私がすればいいんでしょ?

お父さん、退職金だってあるし、問題ないだろうから平気よ」

やっと白旗をあげたようだ。私は妻とこっそり目くばせをして、勝利の嬉しさを分かち合う。

「それもそうだな。じゃあ、エミカよろしくな」

「ふん、もうお兄ちゃんなんて知らないからね」

「こちらも義父同様よ。大してダメージにもならない台詞ね」

そう言ってエミカは出ていった。嵐が過ぎ去ったような静寂が私たちを包む。

「無事に話が済んだな」

「ええ。あとは父さんが物件を選んでくれるだけね」

そして、私はそっとつぶやいた。

「それにしても、保証人には代行サービスもあるってこと、エミカさんは知ってるのかしら? 」

保証人になれというこちらの要求が思った以上に効果があったので、正直驚いていた。賃貸契約の保証人代行サービスを使えば、彼女も義父に関わらずに済むだろう。さあ、あの様子だと怪しいな。でも、それぐらいネットで調べたら出てくるんだから、さすがに分かるだろう。エミカには反省してもらえればそれでよかった。あとは彼女次第だと静かに見守っていると、リビングの扉がまた動く。2階から娘が降りてきた。

「おじいちゃんたち、帰ったの? 」

「サラ、ごめんね。1人にさせて」

「うん。大丈夫。でも、もう眠いや」

気がつけば時刻は夜の8時。娘が目をこするのを見て、私も疲れから眠くなってきた。

「じゃあ、早くお風呂に入って寝ちゃおうか」

「うん」

可愛い娘の笑顔が広がる。隣に立つ夫も、また長年悩んでいた義父とエミカへの不満を解消できて笑っていた。

3日後、義父は引っ越し先を要介護でなくても入居できるサービス付き高齢者用マンションに決めた。スタッフが常駐し、食堂もあるのでそこにしたようだ。やはり1人では暮らせない人なのだと呆れたが、正しい判断だとも思う。しかし、この選択によりエミカの負担が大きくなった。保証人の彼女はスタッフからの連絡窓口となり、対応に追われることになる。

義父のわがままっぷりは施設でも顕在のようで、電話があるたびに連絡を受けた。他の入居者とトラブルを起こしたり、スタッフと一悶着あったり。その度にエミカは電話を受け、疲弊する。夫からこの話を聞いた時、またしても私は呆れてしまった。

「エミカさん、結局代行サービスを使わなかったのね」

「あいつに教えたら、知らなかったってさ。来月から父さんに話をつけて利用するって言ってた」

「ま、いい人生の勉強になったな」

今回のことで彼女はだいぶ懲りたらしい。教えた際には、夫に初めて謝罪の言葉を漏らしたという。

「まあ、エミカはそれでいいとして、問題は父さんだよな。施設でも他の入居者やスタッフから嫌われているらしい。いつも1人でいるそうだ」

「そうなのね。夫は顔を見せに行かないの?

「正直、あんまり乗り気じゃないな。言っても、どうせ文句を言われるだけだろうし」

答えた彼の表情を見れば、もう行く気はないのだろうと感じ取れた。己のわがままのせいで家族や友人からも見放され、施設内でも孤立する義父。彼の末路はあまり幸せではないようだ。

義父が歩んだ人生の答え合わせが、今まさに行われている。

「夫、お疲れ様」

労いの声をかけると、夫も「ありがとう」と微笑みに答えた。

こうして無事、義父との同居を完全に解消できた私たちに、安らかな日々が戻る。娘は元気に幼稚園へ通い、夫も張り切って仕事に出かける。私もパートや家事に忙しい生活の合間、息苦しさのなくなった家の中で、のんびりとくつろげた。もう義父の気配を感じなくて済む。それだけで心は穏やかだ。

最近では、騒動に協力してくれた義母が時折り我が家にやってくるようになったので、娘も楽しそうだ。こちらを気遣ってくれる彼女の距離感は心地よく、義母なら同居してもいいかなと思えるようになった。しかし、実際に口にしたら笑って遠慮されてしまった。

「ちょうどいい距離っていうのが人にはあるのよ」

「それもそうですね」

なんとなく断られる気がしていた私も苦笑する。家族にだって、守るべき距離や配慮しなければならない場面はある。そのことを忘れなければ、きっと良い家庭をこれからも築いていけるだろう。