ママ友の夫がヤクザだと知った日、私は祖父の名前を口にした。彼女の顔色が一瞬で変わる瞬間が忘れられない。

ママ友の夫がヤクザだと知った日、私は祖父の名前を口にした。彼女の顔色が一瞬で変わる瞬間が忘れられない。

「謝る相手が違うわよね」

保育園のママ友・原田奈々が、私の夫・誠に車でぶつかったのは、まさに夕方の買い物帰りだった。軽く当たっただけなのに、奈々は病院代を払うどころか、警察に被害届を出すとまで言い放った。日頃からマウントを取りたがる彼女に、私は我慢の限界だった。

「奈々さん、あなたが注意していればこんなことにならなかったんでしょ? それなのに謝罪のひとつもなく、誠を責めるなんて許せないわ」

そう言うと、奈々はスマホを取り出し、誰かに電話をかけ始めた。彼女の夫はヤクザだという噂は聞いていたが、まさか本気で脅してくるとは思わなかった。

「もしもし、私。さっきママ友の旦那さんに車でぶつかったの。軽く当たっただけなのに、病院代払えとか警察に被害届出すとか言われて。あなたの力でどうにかしてよ」

電話の相手は奈々の夫・伊藤正也だった。どうやら「敵に回すとはいい度胸だ。徹底的に叩いてやれ」と言っているらしい。奈々は電話を切ると、満足そうに私たちを見た。

「うちの旦那はヤザなのよ。あなたたちがいくら騒いでも、一銭も払うつもりはないし、通報したら家族全員消すって言ってるわ」

私は一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。私は奈々の夫の背景を知っている。

「奈々さん、あなたの旦那さんは江口組の末端でしょ? うちの祖父は江口組の組長よ」

奈々の顔色が一瞬で変わった。私は祖父の名前を伝え、彼女の夫の立場がどれほど危ういかを指摘した。慌てた奈々は夫に確認の電話を入れるが、夫は「そんな偶然あるわけない」と取り合わない。しかし、私が祖父のフルネームを伝えると、夫は態度を一変させた。

「マジで組長の孫だってのか。今すぐ謝罪してなかったことにしてもらえ。このままじゃ俺がやばいんだ」

奈々は青ざめた顔で謝罪を始めたが、私は納得できなかった。彼女の謝罪は本心からではなく、祖父の立場を恐れているだけだと分かっていたからだ。誠は「もう許そうよ」と優しい言葉をかけるが、私は首を振った。

「誠さんの優しさは素敵よ。でも、あなたはいつも自分より他人を優先しすぎる。私にとってあなたは大切な人なのに、そんな風に扱われたら悲しいわ」

奈々は土下座までして許しを請うが、私は祖父に電話をかけた。祖父は異厳のある声で奈々の夫を詰め寄り、組からの追放を宣言した。奈々の夫は必死に謝罪するが、祖父の判断は固かった。

「お前はもうヤザとして終わりだ。孫に喧嘩を売ったんだから、強制追放は免れない」

奈々は涙ながらに私に縋った。「このままじゃ私たち家族は路頭に迷うわ。助けて」誠はまた「許してあげようよ」と言うが、私は祖父に警察への通報を提案した。祖父は「お前がそう言うなら」と追放を取り下げた代わりに、警察に委ねることを承諾した。

結局、奈々は逃走事故で100万円の罰金と、誠の治療費・損害賠償として2000万円の支払いを命じられた。奈々の夫も脅迫罪で逮捕され、1000万円の損害賠償を命じられた。夫婦は金銭的に追い詰められ、奈々は離婚を選び、息子たちと実家で暮らし始めた。奈々の夫は組に戻ったものの、毎日嫌がらせを受け、酒に溺れるようになった。

一方、誠は病院で軽い打撲と診断され、大事に至らなかった。私は病室で「ごめんね、迷惑かけて」と言う誠の手を握った。

「迷惑なんて思ってないわ。あなたは私にとって大切な人なの。だから、これからはもう少し自分のことも大事にして」

誠は微笑んだ。「俺、今までエミの気持ちを考えられてなかったね。気づかせてくれてありがとう」

今回の事故で、誠が無事で本当に良かった。心優しい夫と一緒にいられる幸せを噛みしめながら、私はこの人をこれからも支えていこうと心に決めた。

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