契約を一方的に切られたのは、納品の日のことだった。いつも通り店の裏口にウナギを届けると、新社長の赤彦が書類も見ずに言い放った。「今月いっぱいで契約を終了します。コスト削減の方針なんでね」。15年間、木下さんの店に納め続けてきた国産の上質なウナギを、彼は一度も見ようとしなかった。老社長の木下さんが入院し、そのまま帰らぬ人となってから、わずか三週間後のことだった。
木下さんはいつも言ってくれていた。「か野さんのウナギがあるから、うちの味が成り立つんだ」と。親子ほどの歳が離れた職人と、納品業者としての信頼関係を築き上げてきた。他の店から有利な条件を提示されても、断り続けてきたのは木下さんの人柄に惚れていたからだ。葬儀の席で初めて顔を合わせた赤彦は、父の死を悲しむ様子もなく、事務的な挨拶だけを済ませた。「父の後をついで、私が新社長として店を引き継がせていただきます」と。
契約を切られた後も、俺はどうしても納得できなかった。木下さんが一代で育て上げた店の味を、赤彦が壊してしまう気がしたのだ。数日後、店の前を通りかかると、見覚えのある若い男が店の外で赤彦と話していた。東京の有名店で修行を積んだという料理人で、「うちでもウナギ料理を始めたい。いい仕入れ先を探していたところで、か野さんのウナギを見せてもらえませんか」と切り出してきたのは、赤彦の顔色を一瞬にして変えた。
コストばかり重視した新社長は、品質の軽視が店にとってどれほどの代償を生むかを知らない。俺はこの目で、その末路を見届ける覚悟を決めた。



