「うっ……なんだこの匂いは」
週末のポンポコ商店街。人混みをかき分けながら、俺は思わず鼻を押さえた。双子の娘たちを連れて昼食を探していたところだった。
俺の名前は浜崎フ太、33歳。空気清浄機メーカーの社長をしている。特に匂い除去の機能には絶対の自信があり、特許も取得済みだ。販売メーカーから機能を増やしてほしいと何度も頼まれたが、全て断ってきた。機能を足せば足すほど、一番の売りである消臭性能が落ちるからだ。
定時で帰り、休日はきっちり休む。それには理由があった。4歳の双子の娘たちがいるのだ。保育園に通うせなとレーナ。1歳の頃に離婚した元妻は、俺が仕事ばかりで構ってくれないと不倫し、その相手との子供までできていた。俺は娘たちから母親を奪う決断をした代わりに、絶対に幸せにする誓いを立てた。
そんな毎日の中、最近の悩みがあった。保育園の先生に「お友達とあまり話さない」と言われたことだ。いつも2人だけで遊んでいて、馴染めていないらしい。小学生になって大丈夫か、不安だった。
だから休日は精一杯、娘たちの希望を叶えるようにしていた。
「せな、レーナ、次の日曜日はどこに行きたい?」
「うーん。この前動物園は行ったしな」
「遊園地はその前に行ったよね」
「どこでもいいよ。気に入ったならまた行けばいい」
「じゃあ、ポンポコ商店街!」
まさか商店街を選ぶとは思わなかった。それでも2人が行きたいと言うなら、連れて行くだけだ。
そして当日。商店街の入り口に着いた瞬間、俺は完全に舐めていた自分を反省した。人、人、人。日曜日の商店街は予想以上の混雑だった。
「たくさん人がいるね。迷子になりそう」
「しっかり手を繋いでな」
そう言いながら歩き始めたのだが、ふと異変に気づいた。
「うっ……な、何なんだこの匂いは」
強烈な臭気が鼻を突いた。何かが腐ったような、生ゴミのような、そんな異臭。これがこの商店街の通常の状態なのかと疑いたくなるレベルだった。
「いらっしゃいませ」
臭いの発生源と思われる店に、娘たちがするすると入っていった。店内には天使のような女性が1人いるだけで、お客さんは誰もいない。それなのに、せなとレーナはすっと席に座った。
「ねえ、2人とも、この匂いは平気なのか?」
2人は顔を見合わせて、こう言った。
「パパ、あのね……この匂い、わかる人にしかわからないんだって」
「お店の人が言ってたの。パパはわかる? それともわからない?」
俺は一瞬、言葉を失った。この異臭を感じているのは俺だけなのか? それとも、娘たちは俺に何かを伝えようとしているのか?
「ちょっと待て、その話をもう少し詳しく聞かせてくれないか?」
俺は店の女性に、娘たちが言った言葉について尋ねた。
――その答えが、俺の想像をはるかに超えるものになるとは、この時はまだ知らなかった。



