「どうだまみ?いい家になっただろう。これで家族仲良く暮らせるな。」
そう言って笑う夫・ゆたの顔を、私はただ見つめていた。私が里帰り出産で実家にいる間に、彼は勝手に家を三世帯住宅に増築し、義父と義祖母との同居を決めてしまっていたのだ。
「ローンもばあちゃんの介護も、全部お前に任せるからな」
その言葉で、私の中で何かが静かに凍りついた。ああ、これは私を都合のいい家政婦にするつもりなんだ。妊娠中で弱っていた私を狙い撃ちにしたかのようなこの仕打ちに、私は内心で冷たく笑った。
「私はタワに住むわ。もう引っ越しも完了してる」
私が放った一言に、ゆたは呆然とした。彼の頭には「タワに引っ越す」という選択肢など微塵もなかったのだろう。驚きと混乱、そして恐怖が混ざった表情が彼の顔に浮かぶ。だが、それが私の目的だった。
隣に座っていた義父の宮茂吉が、低く重い声を出した。
「まみに引っ越しってどういうことだい?三世帯住宅にしようと提案したのは、みつさんじゃないのか?」
義父の言葉には、威圧と責任転嫁がたっぷり込められていた。長年の経験で培ったその圧力は、普通の人なら黙らせてしまうだろう。でも、私はもう知っていた。この人たちのやり方を。
「お父さん、その話をしたのは確かです。でもそれは将来的な話でした。子供が大きくなってから増築するつもりだったのに、私に一切の相談もなく進めるのは納得できません」
義父の眉間に深いしわが刻まれる。私は揺がなかった。この場で断固として立ち向かわなければ、永遠にこの家族の言いなりになる。そう悟っていた。
ゆたがようやく口を開いた。悪びれる様子もなく、むしろ自分を正しいと思っている態度だ。
「お前は里帰り出産中だったから相談できなかったんだ。それに何事も早い方がいいだろう。だから俺が進めてやったんだよ」
「進めてやった」——その言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥に冷たい怒りが沸き上がった。私の意志も感情も、すべて無視して決めたことを「してやった」と言う。里帰り出産中でも、電話やメールで一言相談することはできたはずだ。しなかったのは、私の意見を聞く気がなかったからに決まっている。
「そんな大げさに考えるなよ。家族のために俺が動いたんだ。それだけのことだろう」
ゆたは笑みを浮かべていたが、どこかに焦りが見え隠れしていた。自分の計画が崩れ始めていることに薄々気づいているのだろう。だがまだ彼は自分が優位に立っていると思っているようだった。
私は静かにカバンから書類を取り出した。そしてゆたの前にそれを差し出す。
「はい。これにサインしてくれる?」
「なんだよこれ……離婚だなんて、冗談だろ?」
離婚届を渡した瞬間、彼の声に焦りが滲んだ。冗談で流そうとする態度の裏に、彼の動揺が見えて気持ちよかった。しかし、これで終わりではない。
「冗談?……あなたね、私は本気よ」
私がそう言った後、私はもう一つ手を打った。机の上にスマートフォンを置き、ある映像を再生する。目の前に映ったものを見て、義父とゆたの顔色が一瞬で変わった。
「今、家の中で何が起きているか知ってる?……これは私が設置した見守りカメラの映像よ」
義父が目を見開く。あのカメラの存在に気づいていないのは、二人だけだったのだ。何が映っているのか分かっているからこそ、二人は言葉を失っていた。私は続けた。
「ちょうど今、お父さんとおばあさんが私の部屋を漁っているわ。何を探しているのかな?」
ゆたが立ち上がる。だが、時すでに遅し。私はもう手遅れになる前に、別の準備を済ませていた。
「この映像は弁護士にも送ってあるわ。あなたたちが私の財産を横取りしようとしている証拠としてね」
部屋の空気が凍りつく。ゆたは唇を震わせたが、何も言えずにただ立っているしかなかった。義父も机に手をつき、うつむいたまま。
私は立ち上がり、ドアに向かって歩き出した。
「荷物はもう全部運び出したわ。私はタワで新しい生活を始める。あの家はあなたたちで好きに使いなさい。ローンも介護も、全部あなたたちでどうにかして」
その背中に向かって、義母の声が聞こえた。
「お母さん、もう帰るの?」
その問いかけに、私は振り返らずに答えた。
「ええ。もう二度と、この家には帰らない」
「お母さん、もう帰るの?」
その問いかけに、私は振り返らずに答えた。
「ええ。もう二度と、この家には帰らない」



