「そんな簡単に住めると思ってんのか?」――目の前のヤンキーたちが、俺に向かってそう吐き捨てた。
でも、俺は冷静に「すみませんでした」とだけ返した。すると彼らはさらに苛立ち、距離を詰めて睨みつけてくる。その時、一人が気づいた。「お前、もしかして東京から消えたっていう伝説のヤンキー、富長ってやつじゃないか?」
俺は富長孝太。今は真面目に働いているが、昔は知る人ぞ知る最強番長だった。高校時代、売られた喧嘩は全て買い、都内のヤンキーたちは誰一人として俺に勝てなかった。歩くたびに周りが道を開け、皆が息を呑む。完全に調子に乗っていた。
だけど、ある時から何もかもが虚しくなった。倒しても倒しても残るのは空虚だけ。同級生の女子たちは俺に近づこうともしない。彼女が欲しくても、到底無理だった。自分が嫌でたまらなくなり、俺は突然高校を辞めた。
ちょうど父の転勤が重なり、家族で地方に引っ越すことになった。環境をリセットしたかった俺は、親について行くことにした。誰も俺を知らない場所で、普通の高校生としてやり直したい。そんな思いがあった。
転校先で俺を知る者は誰もいない。腕っぷしの強さは封印し、真面目で平凡な高校生になる。友達も極力作らず、休み時間は自分の席で小説を読む。地味で目立たない存在として過ごす時間は、意外と快適だった。
だが、クラスのギャルたちは俺のことを指差して、こそこそ話しているのが聞こえた。「あいつまた一人で本読んでるよ。近づきたくないオーラがすごいし、キモい」「陰キャすぎて視界に入れたくない」。言いたい放題だったが、俺は気にしなかった。陰キャのふりして学校に通うことは、自分で決めたことだから。
「ねえ、これだけ言われても何も言い返せないんだよ。情けなさすぎるわ」
彼女たちはさらに続ける。「もういいじゃん、みゆ。それよりさ、昨日のドラマ見た?」――俺は無言のまま、ただ本のページをめくっていた。
かつて最強のヤンキーだった俺は、もうどこにもいない。それでいいと思っていた。守るべき彼女なんていないし、彼女いない歴年齢の俺は、何も言い返せない。その日々がずっと続くと思っていたのに――。


