「俺の立場が分かってるのか? お前みたいなブスが何をしたって無駄だ」 夫がそう言って、鼻で笑った時、私は静かにスマホの録音ボタンを押した。三度の浮気を許した後、四度目の裏切りが発覚した夜。産後も、妊娠中も、我慢に我慢を重ねてきた私を、ただの無職の女だと見下す夫。しかし彼は知らなかった。かつて第一線で働いていた私が、この日のために積み重ねてきたものがあることを。 「離婚するよ」…

「俺の立場が分かってるのか? お前みたいなブスが何をしたって無駄だ」 夫がそう言って、鼻で笑った時、私は静かにスマホの録音ボタンを押した。三度の浮気を許した後、四度目の裏切りが発覚した夜。産後も、妊娠中も、我慢に我慢を重ねてきた私を、ただの無職の女だと見下す夫。しかし彼は知らなかった。かつて第一線で働いていた私が、この日のために積み重ねてきたものがあることを。 「離婚するよ」...

「ブス嫁が悪い。お前が反省しろ。」

その言葉を聞いた瞬間、私はすべてを悟った。三度も浮気を許してきたこの男は、永遠に変わらない。

妊娠中も、娘のために何度も目をつぶってきた。なのに啓介はまた同じことを繰り返した。問い詰めた私に向かって、彼は鼻で笑いながら吐き捨てたのだ。

「お前みたいな女がいるから俺が外にいくんだろ」

その瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れた。ああ、この人は一生変わらない。私や娘を守る気など、最初からなかったのだ。

「お母さん、もういいよ。あんなお父さんなんていらないから」

ミキの一言が、私の背中を最後に押した。その夜、私は決意した。もう我慢しない。もう許さない。この結婚を終わらせる。

夫は自分が優位に立っていると思っていた。社長の息子という立場、収入、肩書き、「無職の女が一人で生きていけるわけがない」と私を見下し続けた。だが彼は何も知らなかった。

私が水面下で準備していたことも、彼の浮気と金の使い込みの証拠がすべて揃っていたことも、そして最後に待っている本当の地獄の存在も。

元キャリア組の私が本気を出せば、こんなものなのよ。最後に笑うのは私なのだ。

私、里見は結婚前まで第一線で活躍するキャリアウーマンだった。数字に強く、判断は素早く、部下からの信頼も厚かった。将来を嘱望される存在だった。だが啓介との結婚を機に、その立場を自ら手放すことになる。

「家のことは女がやるものだろう」

それが啓介の当然のような指示だった。彼は大手企業の社長である父を持つ。その看板だけで将来の役員候補とされていた。だが実務能力は乏しく、責任ある判断を自分で下した経験もない。それでも口癖のようにこう言うのだ。

「俺の立場が分かってるのか?」

義母はそんな息子を無条件に肯定した。啓介は義母から激しく甘やかされて育った。夫婦喧嘩が起これば、義母は当然息子の味方をし、事情も聞かずに私を責めた。

「はあ、喧嘩なんてくだらないわ。そんなの啓介が正しいに決まってるわ」

息子は絶対的な存在で、嫁はそれに従う側。それが義母の考えだった。

やがて二人の間に娘ミキが生まれる。私は我が子を胸に抱き、幸せに包まれた。

「自分の子供って、本当に世界一可愛いのね」

そう言いながら、娘の小さな手を握った。だが義母は吐き捨てるように言い放った。

「なんだ、女の子か。使えないわね。男の子じゃないだなんて」

その言葉に、義父が険しい表情で静止した。

「お前は何を言ってるんだ? まずは元気に生まれたことを喜べ。それに見ろ、可愛い女の子じゃないか。里見さん、お疲れ様」

義父は守ってくれたが、私はこの家で生きていく厳しさをはっきりと悟った。

私が妊娠したと知った時、啓介は表向きこそ喜んでくれた。

「そうか。よかったな」

しかしその目には、一家の大黒柱としての責任を背負う覚悟は見えなかった。不安を感じながらも、私の妊婦生活はそれどころではなくなる。体調が安定せず、つわりに苦しんだ。そんな私を気遣うこともなく、啓介の帰宅は日に日に遅くなっていく。

「啓介、今日も遅いな。そんなに仕事が忙しいのかしら」

そしてその裏で、啓介は最初の裏切りに手を染めていた。

啓介の浮気が発覚したのは、ミキを出産して間もない頃だった。産後の体も心も回復しきらない時期。置きっぱなしにしていた啓介のスマートフォンが光った。そしてそのスマートフォンに、女性らしきアイコンと共に怪しいメッセージが表示される。

「昨日の夜は楽しかった。次はいつ会えるの?」

それは決して仕事の連絡ではなかった。

私は手が震えた。産後間もない体に、その衝撃は重くのしかかった。しかし娘のためにと思い、私はその日のことを飲み込んだ。

「ミキのために。これで最後にしてほしい」

そう伝えると、啓介はしょげながらも「分かった」と短く返した。だが、小心者の彼はその言葉に固まっていた。

「な、何のことだ?」

挙動不審な様子だった。しかし、その場では何も責めず、私は我慢を選んだ。

それからも啓介の浮気は続いた。二度目、三度目。そのたびに義父が啓介を叱り、私はまた許した。義母は「嫁の我慢が足りない」と言い放ったが、義父は啓介を睨み続け、そして口を開いた。

「ミキの教育資金を使って、一体何をしたんだ?」

家のお金にまで手を伸ばしていたのだ。それでも私はまだ離婚を選べなかった。娘のために。この家を守るために。私は自分のキャリアも、尊厳も、少しずつ削りながら耐え続けた。

だが三度目の浮気が発覚した時、私はもう限界だった。今度こそ、啓介と正面から向き合おうと思った。

「もう許さない。離婚する」

今度は泣かなかった。怒りさえも静かだった。

「はあ? 何言ってんだお前。無職のお前が娘を連れて生きていけるわけないだろ。どうせ実家に帰るしかないんだろ? それとも慰謝料でも取るつもりか? 笑わせるな」

彼は私の決意を嘲笑った。無職の女が何をできるというのか。彼は確信していた。私は何もできないと。

「俺の立場が分かってるのか? 俺の父は社長だぞ。お前ごときが何をしようと、潰されて終わりだ」

その言葉に、私は静かに微笑んだ。

「分かってるわ。あなたの立場も、あなたの父の力も。だからこそ、私は準備してきたの」

啓介は意味が分からず、困惑した表情を浮かべた。

数日後、私は弁護士事務所にいた。手元には分厚い資料の束。啓介の浮気の証拠、写真、メッセージ、そしてクレジットカードの利用明細。彼が私の貯金まで使い込んでいた証拠も揃っていた。

「この資料があれば、離婚は確実に進みます。財産分与も、慰謝料も、十分に確保できるでしょう」

弁護士はそう告げた。

私は結婚する前、東京の大手企業で働いていた。産休育休を経て復帰するつもりだったが、啓介の強い希望で退職した。だが、私は退職する前に、自分名義の口座に少しずつお金を移していた。将来に備えて。直感で、いつかこの日が来ることを知っていたのかもしれない。

あれから一年。私はミキを連れて、この家を出た。啓介は、義母は、怒り狂った。

「よくもやってくれたな、裏切り者!」

「お前みたいな女は、どこに行っても幸せになれないわ!」

その言葉を背中に受けながら、私はミキの手を握って歩き出した。

今、私は小さなアパートで新しい生活を始めている。ミキは新しい学校にも慣れ、楽しそうに笑う。あの家にいた頃よりも、ずっと。

あの日から、私はもう何も怖くない。これから娘と二人で、ゆっくりと歩いていく。
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