朝8時、夜勤明けで帰宅すると、鍵が回らなかった。インターフォン越しに義母の声。「そのままの意味よ。お嫁さんは外で反省しなさい」 夫に電話をした。3コール目で出た声は、なぜか家の中から聞こえた。「俺も賛成したよ。1時間も外にいれば頭も冷えるだろう」 その日、私は「さようなら」と言って通話を切った。3年後、たまたま寄ったスナックで、あの日の夫の笑い声を聞いた。…

朝8時、夜勤明けで帰宅すると、鍵が回らなかった。インターフォン越しに義母の声。「そのままの意味よ。お嫁さんは外で反省しなさい」 夫に電話をした。3コール目で出た声は、なぜか家の中から聞こえた。「俺も賛成したよ。1時間も外にいれば頭も冷えるだろう」 その日、私は「さようなら」と言って通話を切った。3年後、たまたま寄ったスナックで、あの日の夫の笑い声を聞いた。...

鍵を変えられたのは、私が夜勤明けで帰宅した10月17日の朝8時だった。インターフォン越しに聞こえた義母の声は、異様にはっきりとしていた。「そのままの意味よ。お嫁さんは外で反省しなさい」

差し込んでも回らない鍵を握りしめたまま、私は門の前に立ち尽くした。スピーカーの向こうで笑い声が聞こえる。後ろで湯のみの触れる音がした。この時間に、この家に、誰かがいる。

夫に電話をかけると、3コール目で出た。「どうした」「家に入れないんだけど」「まず母さんに謝れば」

声が近い。あまりにも近い。

「あなたも知ってたの?」「ああ、俺も賛成したよ。1時間も外にいれば頭も冷えるだろう」

疲れ切った指先が、急に自分のものでなくなったような感覚に襲われた。私は門の柱に背中を預け、静かに言った。「そうですか。では、さようなら」

私はその一言を、挨拶のつもりで言ったのではない。

あれから3年、私は病院の名札を戻し、旧姓の桐生に戻って、偶然立ち寄ったスナックで酒を飲んでいた。カウンターの隅で、隣の親子の会話が聞こえてきた。「父ちゃん、最近調子いいよな。あの新しい鍵、使いやすいんだろ」

振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。あの日、家にいた男。私は静かに立ち上がり、店を出た。そして翌朝、弁護士事務所のドアを叩いた。

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