私は結婚式当日、白無垢で置き去りにされた。式の五分前、ようやく繋がった電話の向こうで、夫になるはずの男はゲラゲラと笑っていた。「結婚式は嘘です。俺と結婚できなくて残念でした」と。会社の同僚たちの宴会の映像を見せられ、私は笑いものになった。彼からの告白もプロポーズも、すべて罰ゲームだった。目の前で涙を流した私の動画まで、宴の肴にされていた。恥ずかしさと怒りで消えたいと思ったその時、静かに見てい…

私は結婚式当日、白無垢で置き去りにされた。式の五分前、ようやく繋がった電話の向こうで、夫になるはずの男はゲラゲラと笑っていた。「結婚式は嘘です。俺と結婚できなくて残念でした」と。会社の同僚たちの宴会の映像を見せられ、私は笑いものになった。彼からの告白もプロポーズも、すべて罰ゲームだった。目の前で涙を流した私の動画まで、宴の肴にされていた。恥ずかしさと怒りで消えたいと思ったその時、静かに見てい...

式の五分前、私は震える手で電話を握りしめていた。新郎の竜太からは何度電話しても返事がなく、新郎側の参列者も、職場の上司や同僚も、誰一人として会場に姿を現していない。招待状を送ったはずの人たちが、全員いないのだ。

「もしもし、竜太?今どこにいるの?もう始まるよ!」

焦る私に、電話の向こうから聞こえてくる竜太の声は、なぜかやけに楽しそうだった。周りはガヤガヤと騒がしく、何かの宴会の真っ最中のようだ。不審に思っていると、突然ビデオ通話に切り替えられた。画面に映ったのは、結婚式に来るはずだった上司や同僚たちが、酒を片手に笑い合っている姿だった。

「結婚式は嘘です。俺と結婚できなくて残念でした。本気にしてたのか?」

竜太がそう言うと、後ろにいる連中がどっと笑う。まさか、私が着ている白無垢は、ただの恥をかくための舞台衣装だったのか。竜太からの告白も、交際も、プロポーズも、すべてが同僚たちとの罰ゲームの延長だと言う。彼は私とのデートやプロポーズの瞬間に撮った動画を仲間たちに見せ、それを肴に宴会を開いていたのだ。

「お前、全然気づかないんだもん。俺みたいな住む世界の違う人間と、少しの間だけでも夢を見られて幸せだっただろ。感謝しろよ」

竜太はさらに追い打ちをかけるように、自分の本当のフィアンセだと紹介した女性を映した。それは私も知っている、同じ部署の女性社員だった。二人は抱き合い、見せつけるようにキスをする。周りからは拍手と歓声が湧き上がる。どうやら、私以外の全員がこのことを知っていて、私が馬鹿にされているのを影で笑っていたのだ。

恥ずかしさと怒りで、私は言葉を失った。今すぐここから消えてしまいたい。そんな気持ちで俯いていると、静かに見ていた父がゆっくりと前に出て、携帯電話の画面越しに、宴会の中心にいた部長に話しかけた。

「やあ、久しぶりだね。私の顔を忘れてしまったか?」

その一言で、画面の向こうの空気が一変した。部長の顔色が、みるみる青ざめていく。

「しゃ、社長…?どうしてここに…?」

そう、私の父は、この会社の社長だった。社長の娘として特別扱いされるのが嫌で、私は父に頼み込み、その事実を隠して一社員として入社したのだ。人事部のごく一部しか知らない事実を、私は今まで黙ってきた。だからこそ、皆は私がただの地味で大人しい社員だと思っていた。

社長がこの場にいると知った瞬間、宴会的な雰囲気は一瞬で凍りついた。さっきまでゲラゲラと笑っていた連中が、全員、総白痴の顔で固まっている。父はそれでも怒りを収めず、部長に言い放った。

「もう後の祭りだよ。君たちの部署は閉鎖だ。業績は悪化の一途を辿っていたし、元々考えていたことだが、今回の件で決断できた。部署の閉鎖に伴い、君たちは全員解雇だ。もう明日から出社しなくていい」

さらに、父は切り出す。この部署では、部長が横領した金で社員たちを毎晩のように飲み食いに連れ回していたことが、秘かに行われた調査で発覚していたのだ。取引先との接待や飲食代として水増し請求もしていた。みんな、必死で仕事をしているふりをしていただけ。忙しそうに見えて、実際の活動は報告の半分もなかったのだ。

私だけが、ただただ一心不乱に仕事に打ち込んでいた。それが、逆に情けなくなってくる。

竜太は解雇された後、すぐに私に連絡をよこしてきた。

「俺たち、もう一度やり直さないか?俺とお前の中だろ?頼むよ。謝るからさ」

私が社長の娘だと知って、態度を一変させ、泣きついてきたのだ。人のプライベートな動画を拡散して笑いものにしておいて、よくそんなことが言える。私は言ってやった。

「許してほしかったら、あなたも自分の動画を拡散しなさいよ。謝罪動画の1つでも投稿したら、考えてみてもいいわ」

プライドを捨てた竜太は、その日のうちに謝罪動画を上げてきた。だが、私は冷たく言い放った。

「あら、誰が許すなんて言った?許すも許さないも私が決めることよ。謝罪するのは当たり前でしょ。それに、許したからってあなたと一緒になるつもりは、これっぽっちもないけどね」

そう言って、私は竜太の連絡先を消した。結婚式当日の、あの屈辱と怒り。自分の人生を切り開くのは自分自身だと、私はようやく学んだのだ。引っ込み思案で、人の言いなりだった昔の自分に教えてあげたい。

今の私は、父の会社の別の部署で、自分の力で働いている。社長の娘であることは隠さなくなったけれど、周りは私を一人の人間として認めてくれる。素敵な仲間たちに囲まれ、今日も私は笑顔で過ごしている。

Thumbnail