兄の結婚式で、義理の姉になるはずの桃がニヤニヤしながら言った。「中卒の実力を見せて欲しいな。できるわよね?」私は日本語の原稿を破り捨てて、ありのままを話し始めた。でもそれだけじゃなかった。高級旅館で働き始めた私の前に現れたその女性は、私の人生をひっくり返す秘密を知っていた。桃のあの日の言葉が、全部つながった瞬間、私は声を失った。本当のことを知ったら、みんなの顔が変わる。あの日のスピーチで私は…

兄の結婚式で、義理の姉になるはずの桃がニヤニヤしながら言った。「中卒の実力を見せて欲しいな。できるわよね?」私は日本語の原稿を破り捨てて、ありのままを話し始めた。でもそれだけじゃなかった。高級旅館で働き始めた私の前に現れたその女性は、私の人生をひっくり返す秘密を知っていた。桃のあの日の言葉が、全部つながった瞬間、私は声を失った。本当のことを知ったら、みんなの顔が変わる。あの日のスピーチで私は...

「英語でスピーチ?聞いてないよ」

兄の結婚式、確かに余興でスピーチを頼まれた。でも英語でなんて一言も聞かされていなかった。

私がオロオロしていると、兄の結婚相手の桃がニタニタしながら嫌味を言ってきた。

「あら、伝えてなかったかしら?大丈夫よ。さらちゃん中学までは英語習ってたんでしょ?中卒の実力を見せて欲しいな。できるわよね?」

わかった。こうして私に大勢の前で恥をかかせようって魂胆だったんだ。

招待客たちも状況が理解できていないような顔で、ひそひそと私の方を見て話している。「何よ。早くしなさいよ」「中卒が英語話せるのかよ」と笑いながらヤジも飛んでくる。

もうこうなったらやってやる。

私は用意していた日本語の原稿を破り捨てた。そしてありのままを話し始めた。

「私は母子家庭で育ちました。母と兄との3人家族。裕福ではなかったけど、母と兄のおかげで毎日楽しく暮らしていました」

兄は毎回テストで満点近い点数を取ってくる。成績も申し分なし。それでいて勉強が大の苦手な私にも優しく接してくれて、完璧すぎる人だった。

私は兄と違ってテストは毎回赤点近い点数。保護者面談では毎回母の前で怒られた。でも私が先生に散々言われても、母は決して私を怒らなかった。

「大丈夫。勉強ばかりが大事じゃないよ。さらは優しくて元気な子。それだけで十分」

母と兄のおかげで、私は勉強ができない劣等感に苛まれることはなかった。

時が経ち、兄は名門国立大学に特待生として入学が決まった。私はなんとかギリギリで家から近い普通よりちょっと下の高校へ合格。無事に進学が決まり、リビングでお菓子を食べながら「お兄ちゃんすごいね」なんて話していた。

まだ肌寒いある日のこと。突然兄のスマホが鳴った。知らない番号だったらしく、そのまま電話に出た兄の表情は、話しているうちに曇っていく。

電話を切ると兄が一言。

「母さんが倒れた」

急いで病院に向かい、指定された病室へ入ると、ベッドに横たわり何本か管が出ている母がお医者さんと話していた。焦って息切れしている私たち兄弟を見た母は、微笑みながら手招きした。

「お母さん、大丈夫?!」

わけもわからず半泣きで母に飛びつく私に、母は笑って言った。

「さらったら大げさね。大丈夫。ちょっと頑張りすぎただけよ。母さん、こんなことで死なないわ」

母は女手一つで私たち兄弟を育てている。それがどれだけ大変か。仕事をいくつも掛け持ちして、基本的には家を開けていた母。ついに過労がたたったのだろう。仕事先で倒れてしまい、緊急搬送されたそうだ。

今まで深く考えたことはなかったけど、私たちは母の力だけで何不自由なくここまで生きてこられたんだ。これ以上母だけに負担を強いるわけにはいかない。

正直一番脈がないと思っていたところだったので、採用の電話が来たときは飛び上がって喜んだ。高級旅館って一体どんな人が泊まりに来るんだろう?住み込みってことは美味しいご飯が食べられるのかな?

そうして私は高級旅館で働き始めた。慣れないことばかりで失敗もしたけど、一生懸命働いた。

そんなある日、私は一人の女性を見つめてしまった。

「妹のさらちゃんね。緊張してるのかしら?」

その女性は私に話しかけてきた。知らない人のはずなのに、どこか見覚えがあるような気がした。

「っていうか、そもそもあんたたち本当に兄弟なの?兄弟にしては差がありすぎるじゃない?」

桃がこんなことを言ったのは、その日の夜のことだった。

「なかったかしら?」

その言葉を聞いたとき、私はすべてを理解した。

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