「もうあんたみたいなのは2度と来なくていい」
そう言ったのは、生産管理部の部長・大島だった。特許機械の修理のために呼ばれた会社の玄関先で、俺は初対面の相手にいきなりそう宣告された。隣では課長の矢野が青ざめ、部長に謝罪を促していたが、大島は腕を組んだまま聞く耳を持たない。
「2度と来なくていい、か……」
俺は直前に浴びせられた言葉を思い返した。『随分若いな』『下受けでも技術者は技術者だ』——散々な態度だった。俺は40歳で、アメリカ本社から派遣された熟練技術者だ。10年間の海外勤務で、これまで数々の現場を乗り越えてきた。だが、この部長の前では何を言っても無駄だった。
俺は我慢の限界に達し、口を開いた。
「……一層、言う通りにしてやろうか」
そう呟いた瞬間、場の空気が凍りついた。俺の中で何かが決定的に切り替わったのを感じた。
今回の仕事は、自動車部品メーカーの製造ラインを止めている精密溶接ロボットの修理だった。納期が迫る大口顧客を抱え、取引先は焦っている。専門的な知識を持つ技術者は限られていて、俺に白羽の矢が立ったのだ。事前に送られてきたデータを確認し、原因には当たりをつけてあった。おそらく3時間ほどで復旧できる。そう踏んでいた。
だが、現場に着くなり、出迎えたのは部長の大島の横柄な態度だった。
名刺を差し出しても、受け取ろうとしない。作業着に着替えてきたことに難癖をつけるように、じろじろと値踏みするように見てくる。まるで、ここに立っていること自体が気に入らないとでも言うように。
我慢して作業場へ向かおうとしたその時、矢野課長が小声で言った。
「申し訳ございません……部長は何か勘違いされているようでして」
すると、大島が振り返って噛みついた。
「お前、まさか俺のせいにしたいのか?」
「そんなつもりは……」
「お前もあんな若造の肩を持つのか? 一体どっちの味方なんだ?」
そのやり取りは、場所を移して社長の前でも続いた。社長は大島を睨み、問いかけた。
「それで、どうなんだ? 実際、大島部長は無断で特許機会を操作したのかね?」
その一言で、俺はようやく見えた。この故障の真の原因は、機械の中にあるのではなく、この会社の中にあるのだと。部長・大島の何かが、今回の修理を妨げている。俺はその証拠を掴みに行くことに決めた。修理という名目で、機械の操作履歴を確認すれば、隠された何かが明らかになる——その瞬間、俺は工具箱を握りしめ、工場の奥へと足を踏み入れた。



