結婚して5年、夫と2人で自宅で仕事をしている私。義兄夫婦は会うたびに「ニート」と笑って馬鹿にする。義母を亡くした義父の面倒を私たちがみることを決めたら、義兄は「俺らは忙しいから」と拒否。それならと、私たちは義父と暮らすために家を建てた。なのに先日、義姉が突然こう言ってきたんだ。 「なんで3階のあの部屋にはドアがないの?」…

結婚して5年、夫と2人で自宅で仕事をしている私。義兄夫婦は会うたびに「ニート」と笑って馬鹿にする。義母を亡くした義父の面倒を私たちがみることを決めたら、義兄は「俺らは忙しいから」と拒否。それならと、私たちは義父と暮らすために家を建てた。なのに先日、義姉が突然こう言ってきたんだ。 「なんで3階のあの部屋にはドアがないの?」...

私はのぞみ、30歳。2歳年上の夫・修二と結婚して5年になる。修二とは職業は違うけれど、自宅に事務所を構えてそれぞれ仕事をしている。そんな私たちのことを、修二の兄・光高とその嫁は会うたびに馬鹿にしてくるんだ。

「家で仕事してるって、二人ともニートなのかしら」
「俺らみたいな大卒とは出来が違うから、大企業じゃ働けないんだろうな」

何度違うと言っても聞く耳を持ってくれないから、そのうち言い返すのをやめてしまった。私たちは一級建築士である修二が設計した家に、岐阜で3人で暮らしている。義父は20代で会社を起業し、若くして敏腕社長と呼ばれていた。その業界で知らない人はいないと言われる人物だ。

しかし、そんな義父を長年支え続けていた義母が、5年前の私たちの結婚式の直後に亡くなってしまった。大きな病気もなく、突然のことで誰もが驚いた。

義父はその頃から家に引きこもるようになった。仕事も手がつかず、部下に会社を引き継いで、社長だった義父は会長という立場で影から会社を支えることになった。義母の49日が終わった後、義実家が老朽化していることが発覚。義父はこの際だからと、リフォームではなく土地を売却することを決めた。義父は一人暮らしをすると言っている。

でも、義母がいなくなってから抜け殻のようになっている義父を、一人にはできない。修二が義兄夫婦に義父の今後について相談した。

すると義兄が軽い顔で答えたんだ。
「はあ。そんなめんどくさいこと、やめてくれよ。お前が父さんと同居すればいいだろう。俺らはお前たちと違って忙しいんだから、ごめんだぜ」

義兄が断ってきたので、私たちが義実家の土地を譲り受けて、義父と暮らす家を建てることにした。正直、義兄夫婦に義父を任せたくなかったから、さっさと身を引いてくれたことはとてもありがたい。義父は最初は「マンションでも借りるから大丈夫」と遠慮していたけど、私たちの必死の説得で同居を納得してくれた。

家が建つまでの間は少し狭かったけど、当時住んでいたマンションで義父と一緒に暮らした。ある日、修二の兄夫婦が家に遊びに来た。久しぶりに顔を合わせる兄夫婦は、相変わらず私たちを値踏みするような目をしている。

「ここが新居か。まあ、狭いけどな。お前たちの実力ならこんなもんだろ」

義兄がそう言って笑う。義父は「せっかく来たんだから、ビールでも飲んでいけ」と勧めた。すると、義兄夫婦は遠慮なく冷蔵庫からビールを取り出して飲み始めた。

義父が楽しそうに話している。久しぶりに義父の顔を見て、少し安心していると、突然、義姉がこんな言葉を口にしたんだ。

「なんで3階のあの部屋にはドアがないの?」

その瞬間、部屋の空気が固まった。

私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。3階の部屋にドアがない? そんなはずはない。修二が設計した家には、もちろんドアがある。何を言っているんだろう。

見ると、義姉はスマホを私に向けて何かを見せている。そこには確かに、私たちの家の3階の部屋の写真が写っていた。ドアのない部屋の写真が。

「これ、友達のスマホに回ってきてるんだけど。のぞみさんの家じゃないの?」

義姉は笑いながら言う。私は言葉を失った。その写真は確かに私たちの家の一部だけど、誰が撮ったのか、どうしてこんな写真が知り合いに回っているのか、まったく分からない。

修二も立ち上がって写真を見る。顔色が変わった。

「誰が撮ったんだ、これ」

義姉は軽く笑うだけ。

「さあね。でも、この部屋、本当にドアがないって話題になってるのよ。もしかして、隠し部屋? 何か秘密があるの?」

義兄も面白がって口を挟む。

「隠し部屋って、やっぱりニートの家は変なことをしてるんだな」

義父は黙ったまま何も言わない。私は何も言い返せず、ただその場で立ち尽くした。私たちの家のことを知る人は多くない。自宅で仕事をしていることや、建築事務所を開いていることは知られているけど、家の作りまで詳しく知っている人は…。

義姉はさらに追い打ちをかけるように言った。

「それに、修二さん、ちゃんと建築士の資格持ってるの? ドアがない部屋なんて、設計するか?」

修二は拳を固く握った。でも、そこで言い返したら、また「ニートが何言ってるんだ」と馬鹿にされるだけだと分かっていた。

義兄夫婦が帰った後、私は修二に聞いた。

「あの写真、どう思う?」

修二は首を振った。

「分からない。でも、あの二人が撮ったとは思えない。どこかから情報が漏れてる」

その夜、私は眠れなかった。あの写真が誰のスマホから出たのか、誰が私たちの家の中を見たのか、そして、なぜあの部屋にドアがないと言い出したのか。義姉の言葉が頭に残る。「何か秘密があるの?」

翌朝、私はカーテンを開けて3階の部屋を見上げた。確かに、あの部屋にはドアがない。いや、ドアはある。ドアはちゃんとある。ただ、義姉が見せた写真には、確かにドアがなかったように見えた。

修二に確認すると、彼も同じことを感じていた。

「写真を拡大してみたんだ。すると、ドアがあった場所に、妙な色の違いがある。もしかしたら、画像が加工されてるのかもしれない」

加工? 誰が、何のために?

「でも、もしそうなら、私たちに何か恨みを持っている人がいるってことだ」

修二はそう言って、自分のスマホを見つめた。私たちは、これまで誰かに恨まれるようなことをしただろうか。義兄夫婦のことは少し気になるけど、彼らがここまでするとは思えない。

数日後、義父が何か思い出したように言った。

「そういえば、最近、家の周りで見知らぬ人がうろついてるのを見たんだ」

見知らぬ人? 私と修二は顔を見合わせた。

「いつごろのことですか?」

義父は少し考えるようにして言った。

「一週間前くらいかな。こっちを見てすぐに車で走り去ったんだ」

もしかして、その人が撮影したのか? でも、どうやって私たちの家の中に入ったんだ。

そんな疑問を抱えながらも、私たちは日常を続けることにした。だが、次の週、今度は私たちの仕事用のパソコンがウイルスに感染していることが判明。修二の設計データがすべて暗号化された。修二は青ざめた。

「これは…誰かがやったんだ」

修二は設計データのバックアップを取っていなかったと言って、顔を両手で覆った。これから提出する大事なプロジェクトの資料がすべて失われた。私は必死にバックアップを探したが、見つからない。

ウイルスは私たちの家のネットワークから感染した。つまり、誰かが家の中に入って誰かが操作したか、何らかのリモートアクセスが行われたということだ。私たちは警察に相談しようとしたが、義兄が止めた。

「警察なんて呼ばなくてもいいだろ。どうせお前たちが何かやらかしたんだろう」

義兄は冷たい笑みを浮かべた。もしかして、この件、義兄夫婦が関係しているのか。いや、証拠はない。でも、義姉があの写真を見せてきたのは偶然ではない気がする。

修二は新しい設計資料も作れず、仕事が止まってしまった。収入が途絶える。私は自分の仕事で生活を支え続けたが、家のローンもある。義父も貯金を取り崩すわけにはいかないと言い出した。

そんな中、義兄夫婦からまた連絡があった。今度は直接会って話がしたいとのこと。家に来た義兄は、義父にこう言った。

「父さん、この家、売らないか? お前らが住むには広すぎるし、それに何か秘密のドアもないんだろ?」

義父は驚いた顔をした。

「何を言ってるんだ、光高」

義兄は笑った。

「不動産の価値が上がってるんだ。売ればいい金になる。のぞみたちに払う分はあるから、俺が買い取ってもいい」

私は思わず立ち上がった。

「何を言ってるの? この家は私たちが建てた家よ!」

義兄は肩をすくめた。

「父さんが土地の権利を持ってるんだろ。だったら父さんのものだ。父さんが決めることだ」

義父は黙ってうつむいている。何も言わないんだ。私は義父を見つめた。まさか、義父もこの家を売る気なのか? いや、そんなはずはない。義父は私たちと住むことを望んでいたんだ。

しかし、その夜、義父は私たちに言った。

「すまない。少し考えさせてほしい」

考えさせる? 私は呆然とした。義父が迷っている。

それから数日後のこと。私たちはついに犯人を特定した。修二がウイルスの痕跡を辿ったのだ。すると、アクセス元が義兄の家のIPアドレスであることが判明した。

修二の顔色が変わる。

「光高がやったんだ…」

私たちは証拠を揃えた。写真加工の解析も完了。義姉が見せた写真は、義姉自身が加工したものだった。さらに、義兄の会社の人間が私たちの家の見取り図を入手していたことも分かった。何らかのルートで、設計図が漏れていたのだ。

私は震えた。義兄夫婦は初めから、私たちを追い出すつもりでいたんだ。義父の土地と家を奪おうとしている。

修二は警察に通報した。証拠があるから、すぐに動いてくれるはずだ。警察が来る前に、私は義兄に電話をかけた。

「光高、知ってるよ。全部」

電話の向こうの義兄は、一瞬沈黙した後、笑った。

「何の証拠があるんだ?」

「たくさんある。写真加工の解析結果も、IPアドレスの記録もある。お前の会社の人間が設計図を送ったことも確認済みだ」

義兄の声から余裕が消えた。

「のぞみ、話し合おう」

「もう遅い」

私は電話を切った。その直後、警察官が私たちの家のドアをノックした。

あの日、義兄夫婦が家に来て写真を見せた時、確かに空気が変わった。あれがすべての始まりだった。私たちは故郷を追われるかもしれないと覚悟したが、最後は勝利した。ちゃんと証拠を突きつけ、義兄は会社を失った。義父も私たちの味方をしてくれた。

今、私たちは改めて義父と一緒に暮らしている。あの部屋のドアは、今もしっかりある。本当はドアがないなんてことは最初からなかったのだ。あれは義兄夫婦が私たちを貶めるための嘘だった。

義父は今でも妻を失った悲しみを抱えているけど、私たちが家族として支えている。あの日、義姉の質問がなければ、私たちは真実を知ることができなかったかもしれない。でも、今はもう大丈夫。

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