玄関を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、自分の荷物がゴミ袋のように乱暴に放り出されている姿だった。夜勤明けで疲れ切った体に、その光景はさらに重くのしかかる。
リビングからは、義理の嫁である和美の高い声が響いてきた。
「あら、聞こえたわよ。お母さんみたいな貧乏臭い人は、老人ホームにでも行けばいいのよ。月15万の年金でしょ? それって家賃分でしょ。これから私たちが住むんだから、お母さんは出て行ってよ。貧乏人。」
その言葉が、看護師として41年間必死に働き、この豪邸のローンを一人で支えてきた私の誇りを、泥で塗りつぶしていく。
夫も息子も、私がこの家を支える実質的な大黒柱であることを忘れているのだろうか。
「この家の品格が下がるのよ。さっさと出て行きなさい。」
勝ち誇った顔で笑う家族たちを見つめ、私は拳を強く握りしめた。そして、静かな決意を固めた。
「分かったわ。じゃあ、出ていくわ。でも覚悟しておいてね。」
20年前、この家を建てた時から、全ては間違っていたのかもしれない。
見栄っ張りな夫は、身の丈に合わない豪邸を欲しがった。案の定、夫の収入だけでは銀行の審査が通らなかった。
「お前の看護師免許を使え。信用があるだろ。」
当時すでにキャリアを積んでいた私は連帯債務者となり、月に15万円もの返済を背負うことになった。
それから20年、私は看護師として雨の日も嵐の日も必死に働いてきた。今も現場で命と向き合っていることが、私の誇りだ。だが、高額なローンを払うため、自分の服は安物で済ませ、化粧も最低限にするしかなかった。
そんな私を、息子はいつも軽んじていた。
「母さんって、いつもダサいよね。もっとマシな格好できないの?」
30歳を過ぎても、親に依存する息子。定年を間前にして、私を顎で使う夫。
「飯はまだか? 今日はコース回って疲れてるんだ。」
私を便利なATMとしか見ていない、身勝手な二人。私が自分の人生を削って稼いだ金で、彼らは贅沢に暮らしている。それなのに、彼らの目には、私の苦労は映っていない。
あの日、私は家を出た。
そして、私は動き始めた。


