「お見合いをしませんか?」無表情の社長が突然言い放った。その翌日、俺は左遷を言い渡された。もう辞めるしかないと思った。でも、指定されたお見合い会場で待っていたのは、なんと社長自身だった。「あなたの恋人になってほしいんです」と彼女は言った。偽りの恋愛が、会社の陰謀と真実の愛を暴いていくとは、その時は知る由もなかった。私は彼女を守ると決めたが、その先に想像もできない仕掛けが待っていた。…

「お見合いをしませんか?」無表情の社長が突然言い放った。その翌日、俺は左遷を言い渡された。もう辞めるしかないと思った。でも、指定されたお見合い会場で待っていたのは、なんと社長自身だった。「あなたの恋人になってほしいんです」と彼女は言った。偽りの恋愛が、会社の陰謀と真実の愛を暴いていくとは、その時は知る由もなかった。私は彼女を守ると決めたが、その先に想像もできない仕掛けが待っていた。...

「左遷だってさ。」突然部長に告げられたその言葉に、俺は一瞬言葉を失った。確かに最近の成績は振るわなかった。やる気を失い、結果も出せずにいた。だから左遷と言われても反論はできなかった。だが、それを告げられたのは、社長に勧められたお見合いの前日。俺はもう会社を辞めようと決意した。

俺の名前は中尾カト。28歳。食品メーカーで営業をしている。つい数ヶ月前まで、毎月上位の成績を残し、将来を期待される若手社員だった。だが、新社長が就任してから、状況は一変した。旧病の前社長に代わり、その一人娘である音羽薫(おとわかおる)が社長に就任したのだ。彼女は非常に美しい女性だったが、無表情で一度も笑わず、社員に無理難題ばかり押し付ける。営業部には「来月の売上を3倍にしろ」と命令し、達成しても「そう」の一言。社員のやる気は削がれ、会社の雰囲気は最悪だった。

そんな中、俺は突然社長室に呼び出された。「お見合いをしませんか?」耳を疑うような提案だった。社長は無表情のまま、「あなたを気に入った女性がいる。会ってほしい」と言う。断ることもできず、お見合いを受けることになった。そして、その前日に左遷の話が舞い込んだのだ。部長は「社長命令だ。田舎の工場に行けと言われている」と悔しそうに話した。俺はこれを機に会社を辞める決意を固めた。

お見合い当日、俺は高級レストランに足を運んだ。緊張しながら個室に入ると、そこにいたのは意外な人物だった。社長本人だ。「どうして社長が?」と尋ねると、社長は「あなたのお見合い相手は私です」とさらりと言い放った。そして、驚くべき告白をした。「実は、私の恋人になってもらえませんか?」

彼女の話によると、両親が頻繁にお見合い話を持ち込んでくるのが煩わしく、「恋人がいる」と言えば諦めてくれると思ったらしい。そのための偽の恋人役を頼みたいというのだ。俺は困惑しつつも、「左遷される人間が社長の恋人なんて」と皮肉を言った。すると、社長はきょとんとした顔で「どうして私があなたを左遷するんですか?ありえません」と返してきた。そして、俺の手を握り、「会社を辞めないでください。あなたを守ります。その代わり、1ヶ月だけ私の恋人をしてほしい」と懇願した。

こうして、俺は社長と同居しながら偽の恋人を演じることになった。最初は戸惑いもあったが、一緒に暮らすうちに彼女の素顔を知ることになる。会社では無表情で冷酷な社長も、家では明るく笑い、美味しい料理を作ってくれる。そんな彼女を見て、俺は次第に惹かれていった。

ある夜、俺は彼女に尋ねた。「どうして会社でも笑わないんですか?」彼女は寂しそうに笑い、「社長としての威厳がないから、父に『会社では笑うな』と言われたんです。無表情でいれば、社員は勝手に怖がってくれると」と明かした。会社の皆に嫌われていることを知りながらも、会社をまとめるために自分を殺している彼女の姿に、俺は胸を打たれた。

そんな中、ある疑惑が浮上した。廊下で部長が社長を口論しているのを目撃したのだ。「お前なんて誰も信用していない。さっさと社長の椅子を譲れ」と部長は言い放っていた。その光景を見て、俺は違和感を覚えた。その後、社長に確認すると、驚くべき事実が明らかになる。なんと、部長が「社長命令」と偽って無理難題を押し付けていたのだ。部長は社長の評判を落とし、自分が社長の座を狙っていた。俺を左遷しようとしたのも、部長の陰謀だったのだ。

俺は社長を守ることを決意し、再び仕事に打ち込んだ。すると、みるみる成績が上がり、トップに返り咲いた。焦った部長は、社長を貶めるために捏造していた「社長命令」をストップし、事態は沈静化したかに見えた。だが、俺は部長の悪事を暴くための証拠を集め始めていた。

そして、部長が出張から戻った日、社員総会が開かれた。社長は社員の前で、これまで部長が捏造していた音声データを再生した。「自分が社長にふさわしい」と自賛する声、無理難題を提案する声、社長を侮辱する言葉の数々。すべての社員が部長の本性を知り、瞬く間に部長は孤立した。部長はその場で膝から崩れ落ちた。

その後、部長は解雇され、会社は平和を取り戻した。俺と社長の1ヶ月の期限もあっという間に過ぎた。偽の恋人は終わるはずだったが、お互いに気持ちが芽生えていた。彼女の実家を訪ね、前社長に本当の気持ちを打ち明けた。「今は本当に薫さんが好きです。お付き合いを許してください」と。前社長は最初こそ怒ったが、最後には「娘をよろしく頼む」と笑顔で握手をしてくれた。

あれから数年が経ち、俺と薫さんは今も一緒にいる。彼女は今では社員にも笑顔を見せるようになり、会社はより良い方向へ進んでいる。そして、俺はこの物語を振り返るたびに思う。あの日、左遷の知らせを受けた時、人生が終わったと感じたけれど、それは新たな始まりだったのだと。

Thumbnail