「お前が10年間アフリカへ行ってくれ。」社長のその一言で、同僚の柳田の顔が真っ青に変わった。数分前まで、俺の企画書を盗んだと嘘をつき、俺を嵌めて解雇に追い込もうとしていた男が、今度は自分が窮地に立たされている。俺は高卒で、柳田は名門大学卒。入社以来ずっと見下され、嫌がらせを受け続けてきた。今回の企画書コンペで、柳田は俺のUSBを盗んで自分の企画書を提出した。そして俺の引き出しにUSBを仕込み…

「お前が10年間アフリカへ行ってくれ。」社長のその一言で、同僚の柳田の顔が真っ青に変わった。数分前まで、俺の企画書を盗んだと嘘をつき、俺を嵌めて解雇に追い込もうとしていた男が、今度は自分が窮地に立たされている。俺は高卒で、柳田は名門大学卒。入社以来ずっと見下され、嫌がらせを受け続けてきた。今回の企画書コンペで、柳田は俺のUSBを盗んで自分の企画書を提出した。そして俺の引き出しにUSBを仕込み...

「よし、それなら君が10年間アフリカへ行ってくれ。」

社長の言葉に、同僚の柳田は目を丸くして固まった。

「え?アフリカってどういうことですか?」

「君が彼の一任プロジェクトを引き継いでくれるのだろう?」

「そうですけど……けど、えっと……」

柳田は青い顔をして、どもりながら言葉を絞り出した。俺をうまく嵌めていい気になっていたのが嘘のようだ。「高卒の仕事くらい全て引き継ぎます」なんて、人を見下し自信満々に言っていたのはどこの誰だったか。卑怯なことをするからこんなことになるんだ。

俺の名前は大橋。部品の生産を行っている会社で働いている。

子供の頃、俺の家庭は裕福とは言えず、他の家庭と比べると明らかに貧しい家だった。同級生がみんな持っているゲームを買ってもらえなかったし、旅行に行った記憶もない。しかし、それでも俺は家族が大好きだった。父さんと母さんが俺のために必死に働いてくれていることが分かっていたからだ。家族3人で仲良く暮らして、俺は十分に幸せだった。

高校在学中、俺は就職で働くことを決めた。父さんも母さんも「気を使わないで大学に行けばいい」と言ってくれたが、早く自立したかった。高校を卒業し、就職してからは真面目にコツコツと働いた。大学卒の人より年齢も若く、経験も少ないからこそ、周りの人に認められようと思ったのだ。

その結果、先輩にも認められて、色々な仕事を任せてもらえるようになっていった。俺はこの仕事と職場が好きだ。ただ唯一、同期の柳田と一緒に働くことが悩みの種だった。

柳田は名門大学を卒業していた。高卒の俺でも名前を知っている大学だ。そんな柳田は、入社当初から俺を馬鹿にしてきた。

「へ、お前高卒なの?低学歴にも程があるだろう。」

ほぼ初対面の俺に向かって鼻で笑いながら言ってきたのが、柳田との最初の出会いだった。それからも柳田の俺を馬鹿にする態度は変わらず、ずっと馬鹿にされ続けている。

俺が必死に働いているのは、そんな柳田を見返してやろうという気持ちもあってのことだ。正直言って、柳田は仕事ができるタイプではない。それでいて自分はすごいと自慢して、プライドばかりが高い。

「俺はお前と違って名門大学を卒業しているんだぞ。俺に早く追いつけるように。」

そう言っていつも俺に上から目線だ。実際、入社当初は先輩や上司からも名門大学卒と一目置かれてちやほやされていた。しかし、本格的な業務が始まると、柳田は簡単なこともできず、よく先輩に怒られるようになった。

俺は怒られている柳田を見ても馬鹿にする気もなく、自分も気をつけようと思うくらいだったが、柳田は違う。

「大橋、この前作ってくれた資料すごく良かったよ。丁寧で分かりやすい。」

「本当ですか?ありがとうございます。」

こんな風に先輩に褒められると、その後俺が1人になった時を見計らって、わざわざ嫌みを言ってくるのだ。

「お前あんま調子乗んなよ。生意気なんだよ。高卒のくせに。」

なんでそんなことを言われなくちゃならないんだ。最初はそんなことを言われるたびに嫌な気分になり気にしていたが、次第に相手にしても仕方がないと気にしないように心がけるようになった。

しかし、1年前のある出来事で柳田との不仲は悪化してしまう。大きなプロジェクトチームに俺が選ばれたのだ。

「大橋君はいつも頑張っているし、他のみんなも大橋君に参加してもらいたいと言っているんだ。」

そう言って上司に指名してもらったのだ。柳田はこのことが相当気に入らなかったのか、上司に納得がいかないと訴えていた。

「どうして大橋が選ばれたんですか?納得がいきません。」

「大橋君の日頃の仕事ぶりを見て決めたんだ。さっきも言ったが、他のみんなも納得している。」

「いや、でも大橋は高卒ですよ。どうして名門大卒の俺じゃないんですか?」

「確かに君は名門大学を卒業している。それはすごいことだが、仕事への取り組み方、そして何より本人の適正も見て決めたことだ。」

柳田は自分が選ばれるべきだと必死に訴えたが、上司にきっぱりと却下されてしまう。プライドの高い柳田にとって相当苦痛な出来事だったのだろう。それから柳田の嫌がらせもエスカレートしていった。

時間が経てば柳田の気も収まっていくと考えていたが、そんな俺の考えは甘く、一向に嫌がらせはなくならなかった。時には仕事の妨害をされることもある。少し席を離れている間に、メールを勝手に消されてしまったのだ。しかもそれは急に入った会議のメールで、気づかなければ会議に参加できないところだった。先輩がたまたまその会議の話をしてくれて気づくことができたのだ。

最初は柳田がやっていると決めつけるのは良くないと思っていたが、柳田が俺のパソコンを触っているのを見てしまった。確信した俺は、柳田にやめるよう言ったこともある。

「柳田、俺のパソコンを勝手に触ったり、メールを消すのはやめてほしい。」

柳田を必要以上に責めないよう、落ち着いて俺は話した。しかし柳田は鋭い目つきで俺を睨みつける。

「はあ?何言ってんの?そんなことはしてない。自分のミスを俺のせいにするのはやめろ。」

認めて謝罪するどころか、そんなことはしていないと逆切れを始めたのだ。

「ちょっと褒められたからって調子に乗ってんじゃねえよ。」

「調子に乗ってなんかいない。仕事の妨害をされると取引先にも迷惑がかかる。」

俺は怒りを抑え冷静に話すが、柳田は怒鳴りつけてくるだけだ。

「俺が名門大卒だからって妬んで変な言いがかりをつけるなよ。」

しまいにはそう言ってその場から立ち去ってしまった。

何を言っても伝わらないと思った俺は、ほんの一瞬でも席を立つ時は必ずパスワードを入れてロックし、消されないようにした。それからはパソコンを触られることはなくなったが、電話の折り返し連絡を報告されないなど、嫌がらせはなくならなかった。

この時も取引先が不思議そうに俺に連絡をくれたことで発覚した。

「大橋君、さっき他の方に電話をしてと伝えてもらうよう頼んだんだけど、申し訳ございません。もう一度かけていただいてしまって。」

身に覚えのないことを言われた俺は、なんとか誤魔化して大慌てで謝罪をした。柳田の嫌がらせだとは取引先には言えず、少し濁す。

「はは。いいんだよ。君のことだから忘れているとは思ってなかったけど、少し不思議に思ってかけただけだから。」

取引先の方はそれほど気にした様子もなく笑ってくれた。これまで信頼関係を築けていたのだと少しほっとする。しかし、このようなことが続くともっとたくさんの方に迷惑をかけることになると頭を悩ませる。

車両形態にかけてもらうように徹底するなど、できることは全部やって柳田に仕事の妨害をされないようにした。こんなことに悩んで時間を使うなんて実にもったいないことだ。どうして俺がこんな思いをしなければいけないのかとも思ったが、俺にできることは今まで通り真剣に仕事に取り組み、周りの人に信頼してもらうことだけだ。そう考えて仕事と向き合った。

そんなある日のこと、俺と柳田は部長に会議室に呼ばれた。

「3億になる案件をどちらかに任せたい。」

部長は真剣な顔で俺たち2人を見ながらそう言った。俺も柳田もまだそんな大きな仕事はしたことがなく驚いてしまう。

「2人にはそれぞれで企画書を作成してもらって、いい方を担当者として選びたいと思っている。」

俺は思いもよらない話を聞いて体に力が入る。隣の柳田も俺と同じように驚きながらも体に力が入ったのが分かった。部長が会議室から去っていくと、柳田が俺に向かって口を開く。

「変なことして俺を落とし入れようとするなよ。」

俺は心の中で「どっちがだよ」と思いながらも言葉には出さなかった。

「お前が今まで低能のくせに調子乗って生意気を言ってたことを証明してやるよ。」

柳田はいつになく強気な口調でそう言ってくる。

「俺もこんなチャンス逃すわけにはいかないよ。正々堂々と戦おう。」

俺は真剣にそう伝えたが、柳田はそんな俺を鼻で笑いながらその場を離れてしまう。散々ひどい嫌がらせをしてきた柳田には絶対に勝ちたいと思った。実力を柳田に認めてもらうことができれば嫌がらせがなくなるかもしれないとも考える。

俺はその日から今まで以上に気合いを入れて仕事に取り組んだ。

数日後、俺より一足先に柳田が部長の元に行き企画書を提出した。

「企画書を保存したUSBが見当たらなくてどうなるかと思った。なんとか仕上げられてよかった。」

部長に提出した直後、柳田が自席に戻りながらそんなことを言い出した。独り言のように言っているが、声の大きさが独り言の大きさではない。まるで周囲に聞こえるようにアピールしている感じで、それを聞いた周囲の人も不思議そうにしている。俺も少し不思議に思ったが、俺も早く提出しなければと、あまり柳田のことは考えないようにした。

別の案件が立て込んでいた俺は、その翌日になってしまったが、無事に部長に企画書を提出することができた。あとは結果を待つだけだと少し心が軽くなる。

次の日、俺と柳田は部長に再び会議室に呼ばれた。こんなに早く決まったのかと不思議に思ったが、部長の顔は強張っており、怒っているようにも見えた。何事かと思いながらも俺たちが椅子に座ると、部長が2つの企画書を目の前に置いた。

「2人の企画が全く同じ内容だった。」

「え、どういうことですか?」

言っている意味が分からず、思わず聞き返してしまう。

「こっちが聞きたい。似ている案を出したとは言えないほど全く一緒だ。」

俺たちは目の前の企画書を見る。すると本当に部長の言った通り全く同じものだったのだ。俺が驚いていると、先に柳田が口を開いた。

「なんだこれ?おかしいです、こんなの。」

その声に部長は頷く。

「疑いたくないが、これはどう見てもどちらかが相手の企画書を盗んだとしか思えない。正直に話してくれないか。」

部長は強張った顔で俺たちを交互に見ながら低い声でそう言う。俺は驚きで何と言ったらいいのか分からず言葉が出ない。

「部長もご存知の通り、僕が先に完成させて提出しました。こんなこと言いたくないですが、大橋が盗用したんだと思います。」

もちろん俺はそんなことは知っておらず、柳田が嘘をついていることは分かっている。しかし柳田の表情は真剣そのもので、俺の目から見ても真実を語っているように見えた。名演技に驚き感心してしまうほどだ。

「柳田君はそう言っているが、大橋君はどうかね?」

部長に聞かれたが、俺が言えることは1つしかない。

「僕は盗用してません。自分で考えた企画書です。」

俺は冷静に真剣に部長の目をしっかり見て答える。先に柳田にそんなことを言われてしまったが、俺は真実を言うしかない。

「部長、彼は嘘をついています。俺を落とし入れようとしているんだ。」

そう言って1人で騒ぐ柳田。

「実は企画データを保存したUSBが見当たらないんです。大橋のデスクを探させてもらえませんか?」

柳田は張り切った口調で部長にそう提案する。そういえば企画書を提出した時にUSBがなくなったとかなんとか言っていたな。俺もその言葉には聞き覚えがあった。誰もが聞こえるような大きな声で言っていたからだ。柳田のUSBを見た覚えも触った覚えもないが、俺はすごく嫌な予感がした。

部長も柳田の提案に賛成し、俺たちは3人で俺のデスクに向かう。部長が俺のデスクの引き出しを開けると、ゴソゴソと中を探る。その様子を嫌な緊張を覚えながら見つめていると、引き出しの奥から見覚えのないUSBが出てきた。

「それです。僕のUSBです。」

柳田がUSBを見て声を張り上げて言う。俺は慌てて首を横に振った。

「僕はこんなの知りません。」

俺は必死に部長を説得しようとするが、部長は呆れた顔で俺を見た。

「USBが出てきたのに君のそんな話が信じられるわけない。まさか手柄のために手段を選ばないやつだったなんて。」

柳田はわざとらしくみんなに聞こえるように大きな声でそう言って俺を非難した。俺はその場で部長に自宅待機を命じられる。こんな事態に全く納得ができないが、潔白を証明するのは難しいと感じた。

どうすることもできず、俺はそのまま言われた通りに帰宅する。家に着いた俺は気落ちして何もする気になれず、そのままベッドに倒れ込み、先の見えない今後にについて頭を悩ました。だがそんな中で、とあることを思い出しスマホを手にする。これだけはしておかないとと思った俺は、ある人へ「これ以上力になれないかもしれません」と謝罪のメールを送った。

「すみません。」

何度も謝罪の言葉を繰り返しながら、その夜はいつしか眠りに落ちたのだった。

翌日、俺は会社からの電話で叩き起こされた。社長が事実を確認したいとのことで会社に呼び出される。俺が到着すると、間もなく社長もオフィスフロアにやってきた。

「もう一度話を聞かせてくれるか?」

社長がそう言うと、部長が今回のことを最初から説明する。

「そうか。それで柳田君のUSBが大橋君の引き出しの中にあったのか。」

「実際に入っていたことはみんなで確認しましたし、間違いありません。」

「しかし、僕は企画書を盗用はしていませんし、USBも触っていません。」

俺は社長にもやっていないことをきちんと訴える。社長は少し困ったように考えている。

「君の言い分は分かった。だがUSBが出てきてしまった以上、何もなかったことにはできない。」

そう言って俺の処分についての話になる。

「大橋君はとても仕事ができて、私も信頼をしていました。抱えている仕事もたくさんあります。」

部長はそう話し始め、俺のこれまでの実績や1年前から重要な案件を抱えていることを社長に説明する。

「大丈夫ですよ。高卒の仕事くらい自分が全て引き継ぎます。」

そこで柳田が自信満々にアピールする。

「こんなことをした大橋君とはもう怖くて働けません。厳しい処分を与えるべきだと思います。」

俺への厳しい処分を訴える柳田に向かって、社長が口を開いた。

「なるほど。確かに柳田君が彼の仕事を全て引き継げるというのならば、会社としても遠慮なく厳しい処分を下せるな。」

「任せてください。」

柳田の返事を聞いて社長が1つ大きく頷く。

「よし、そこまで言うなら君が10年間アフリカへ行ってくれ。」

「え、アフリカ?」

社長の言葉に柳田は目を丸くして固まった。

「そうだ。彼が1年前から携わっている一任プロジェクトも当然引き継いでくれるのだろう?」

「そうですけど……けど、えっと……」

柳田が引きつった笑みを浮かべてあたふたする。どうやら柳田は何も分かっていなかったらしい。

実は俺が選ばれた大きなプロジェクトとは、アフリカへの事業進出だった。俺は貧しい家庭で育った経験から、昔から世界の貧困問題などに興味があった。その中でアフリカについても勉強していたのだ。その知識を買われて、そのプロジェクトに選ばれていた。柳田はそんなことは知らず、大きなプロジェクトというだけで奪おうとしていたようで、中身を知って慌てている。

「え、そんなアフリカなんて……」

さっきまでの勢いはどこへ行ったのかと思うほど動揺しているようだった。

「私が力を入れている事業でね。そんなに自信を持っているのならば、頼もしい君に任せようじゃないか。」

社長が満面の笑みで柳田に言う。

「そ、それならば、罰として大橋が行くのがふさわしいです。」

すると今度はそんなことを言い出した。社長も、さっきまで俺の仕事を全部引き継ぐと豪語していたのにそんなことを言い出す柳田に少し不思議そうだ。

するとその時、同僚の1人が俺たちのところに近づいてきた。

「あの、すみません。少しお話があります。」

この同僚は仕事もできて周りからも頼りにされているが、あまり面識もなくそんなに喋ったこともない。何を言うのかと思いながら耳を傾ける。

「先ほどからUSBがどうのという話が聞こえてきたので、少し気になることがありまして。」

「なんだ?遠慮なく言ってくれ。」

「はい。実は企画書提出の前日の、人が少なくなったオフィスで、柳さんが見慣れないUSBを自分のパソコンに差しているのを見ました。」

同僚の告白に一同がぎょっとする。

「それは本当に企画書提出の前日だったのか?」

「はい。柳さんが企画書を提出した際、USBがなくなったと大きな声で言っていたので、きちんと覚えています。」

同僚は冷静に淡々と話す。

「柳田さんのUSBを見たことがあったので、いつものと違うなと思いまして。」

その同僚は柳田と席が近いため、どんな見た目のUSBを使っているのか分かっているのだろう。

「なくしたと言っていたので新しいものかとも思い、あまり気にしないようにしていたのですが、あの前日に使っていたUSBを、それから柳さんが使っているのをいつも見てません。」

部長も社長も少し顔を強張らせながら真剣に話を聞いている。その隣で俺ははっとして、鞄を探り、中から1本のUSBを取り出した。

「もしかしてそれって、これじゃないか?」

「あ、それだと思います。」

俺は他の人のUSBと紛れないように、あえて人があまり使わなそうな色のUSBを使っている。それで同僚の記憶にも残っていたのだろう。俺は同僚の返事を聞いて、そのUSBを社長たちに見せた。

「これは僕のUSBです。提出した企画データが入っています。」

同僚と俺の言葉を聞いて、社長と部長が鋭い視線を柳田に向けた。

「いや、あの、もう1つあるんです。普段は自宅で使ってるやつで同じ色なんですよ。あの日はそれを持ってきていて、そのことを言っているんだと思いますよ。」

柳田が苦しい言い訳を必死に言っている。それに社長は少し考え込んだ後、口を開いた。

「分かった。USBの接続履歴を調べよう。そしてどっちが嘘をついていたかはっきりさせよう。」

社長の発言に、柳田の顔はだんだんと青ざめていき、言葉をなくしていた。すぐさま専門家を招いて調査が行われ、俺のUSBから企画書データが柳田のパソコンへ転送されていたことが発覚した。一方、盗まれたとされた柳田のUSBは俺のパソコンへの接続履歴がない。これで全て柳田の嘘だったことが判明し、俺の企画書を盗用したのは柳田だったと全員が知ることとなった。

「君がこんなにも卑怯な人間だったとは知らなかったよ。」

「いや、違うんです。」

「何が違うと言うんだ。」

ここに来てなおも言い訳をしようとする柳田を部長が一喝する。なんて往生際が悪いんだ。呆れつつ柳田を見つめていると、そこに先輩が近づいてきた。普段色々と相談に乗ってくれている仲のいい先輩だ。

「すみません。この際なのでご報告したいことがあります。実は以前、柳田君が大橋君のパソコンを触りメールを削除していたことを相談されました。」

俺はこの先輩だけには柳田の嫌がらせのことを相談していた。その時もすぐに上司に話そうと言ってくれていたが、きちんとした証拠もないから言わないでいいと俺は答えていた。そんな俺を思って、一瞬でも席を立つ時はしっかりパソコンをロックしろと助言してくれたのもこの先輩だった。

「なんだと?」

先輩の話に部長が顔を真っ赤にして柳田を睨む。

「これは一度しっかりと調査をしなければいけないようだな。」

「そんな、盗用したのは認めます。すみませんでした。ですから調査しないで欲しい。」

「これはますます怪しいぞ。」

社長の言葉に柳田は小さくなった。その後、社長の指示で社内調査が行われ、俺にしてきた数々の嫌がらせが発覚した。俺が正直に全てを話したのはもちろん、同僚の中にも何人かの目撃者がおり、この際だからとみんな知っていることを打ち明けてくれた。確実な証拠がなくて今まで声をあげることができなかったと、俺へ謝罪をしてくれる人もいた。そして俺への嫌がらせも盗用も全てがバレてしまった柳田は、解雇処分となった。

柳田がいなくなった翌日、俺は社長室を訪ねた。

「すぐに決めつけて判断せず、最後まで俺の言うことに耳を傾けてくださってありがとうございました。社長のおかげです。」

俺は社長へお礼を伝えに行ったのだ。

「君にいなくなられては私も困ってしまうからな。君から『これ以上力になれないかもしれません』なんてメールが来た時は驚いたよ。」

社長が俺の顔を見て笑う。自宅待機を命じられた後、俺が謝罪メールを送ったのは社長だった。

俺が社長個人の連絡先を知っていたのは、俺の父と社長が幼馴染みだからだ。俺も幼い頃から何度も会って遊んでもらっていた。社長との距離が近くなったのは、学生の時、俺が貧困問題やアフリカについての勉強を始めたことがきっかけだった。社長は会うたびに色々なことを教えてくれ、逆に俺が学んだ知識について聞いてくれた。知識が深いことに社長は感心してくれていた。

「アフリカへの事業進出の手助けをしてくれないか。」

高校3年生の冬、進路について考えていた俺は社長にそう声をかけられた。突然そんなことを言われた時は本当に驚いたが、就職で働くことを考えていた俺にとっては嬉しい話だった。俺も社長の話を聞いて社長の会社に興味を持っていたのだ。そうしてこの会社へ入社した。

だから社長には今回の件に限らず、本当に感謝し、恩を感じている。その恩を返すために俺にできることは、これまで以上に会社のために尽力すること。これからも周りの人に信頼してもらえるように真面目に仕事をしていこうと思う。

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