「よくもまあ、のこのこと帰ってこれたわね、この尻軽女が。」
ある日、仕事から帰ると、家で待ち構えていた義母が突然、私の頬を思い切りひねった。
「一体、何なんですか?」
「あんた、男と車でラブホに入ったでしょう。」
そう言うと、義母は家の車にGPSを仕掛けていたことを明かした。
「よしが仕事に行ってるのをいいことに、男とホテルだなんて、なんて恥知らずな女なの。」
そこに、夫のよしも帰ってきた。
「よし、この女の浮気の証拠を押さえたわ。」
「はっ、これでもう言い逃れできないな。お前とは離婚だ。」
2人は私を罵倒し、離婚を要求してきた。
「そうですか。わかりました。離婚します。ただ、その前に見ていただきたい動画があります。」
私はパソコンを起動させ、ドライブレコーダーに録画された映像を映し出した。
「ちょ、ちょっと待て。」
「いいから、最後まで見れば分かるわ。」
それを見たよしは唇を小刻みに震わせ、明らかに動揺を見せていた。
ホテルに行っていたのは、私じゃなくて、よしでした。
私は岡田美咲、34歳。近所のホームセンターでパートをしながら、2つ年上の夫・よしと暮らしている。
よしとは5年前、知人の紹介で知り合った。出会った当時のよしは誠実そうで真面目な印象だったのだが、時より見せるおっちょこちょいな姿が私には無性に可愛く思えた。
その後、何度か2人で会うようになり、私たちは交際を始めた。よしはデートの度に自宅まで車で迎えに来てくれて、常に私のことを思いやってくれた。私はどんどん彼に惹かれていった。
交際から2年が経った頃、よしは普段は行かない高級レストランを予約し、私にプロポーズをしてくれた。
よしと一緒であれば、幸せな家庭を作っていけると信じて、私は結婚を決めた。
しかし、よしと一緒に暮らし始めてすぐ、私はこの結婚を後悔することになった。
よしは何かと義母の意見を聞きたがる。家を買うのも、スーツを選ぶのでさえ、必ず義母に意見を求めるのだ。
結婚したというのに、私の意見よりも義母の意見を優先するよしに、私は違和感を感じていた。よしが頼るたび、義母は私に電話してきては、「嫁なのに夫に頼られないなんて、かわいそうね」と嫌味を言ってくる。
考えてみれば、義母は結婚当初から私のことをよく思っていなかった。結婚の挨拶に行った時から、私を値踏みするように見つめ、よしにふさわしい嫁かどうかを見極めるように質問攻めにされた。
それでも、同居する予定もなく、ゆっくり時間をかけて義母との関係を築いていけるだろうと思っていた。
会社役員をしている義父は仕事が忙しく、義母の心の寄り所がよしだったのかもしれない。私と結婚するまでずっと実家で暮らしていたよしが、義母の元を離れることに寂しさもあるだろうと、私なりに義母の気持ちを推し量っていた。
しかし、義母は完全に私のことを敵だと思っていた。頻繁に家に訪ねてきては、私に嫌味を言う。掃除ができていないと言っては、「よしを病気にしたいのか」と攻められ、シャツのアイロンのかけ方までチェックされる。
それでも、私は言葉はともかく、義母が家事のやり方を教えてくれているのだと思っていた。
しかし、義母の指導は次第にひどくなっていった。私がうまくできないと手を叩かれ、足でお尻を蹴られることも少なくない。
そんなことが続くと、義母は本当に私のことが嫌いなのだとしか思えなくなった。
ある日、私はよしに義母のことを相談したのだが、彼は不機嫌そうな顔を見せた。
「母さんの言うことに従えないっていうのか。」
「そうじゃないけど、手を上げるのはやめてほしいの。」
「それはお前がいつまで経ってもちゃんとできないからだろう。」
よしは、義母を怒らせた私が悪いと攻め立てた。
「自分がちゃんとできないことを棚に上げて、母さんを悪く言うことは許さない。」
よしは何を言っても母を擁護するようなことしか言わず、私は相談したことさえも後悔した。
数日後、夕飯時に訪ねてきた義母は、その日の献立を見て顔をしかめた。
「よしにこんな質素な食事を食べさせているの?」
義母はテーブルに用意していた料理を一口食べると、すぐに捨ててしまった。
「こんな食事じゃ、よしがかわいそうだわ。」
義母はその場で別の料理を作り始めた。しばらくして帰ってきたよしは、母の料理に目を輝かせた。
「母さんの料理は最高だよ。美咲もこれくらい作れるようになれ。」
よしは普段は見せないような満面の笑みで、美味しい美味しいと義母の料理を頬張っている。その様子を見て、義母は得意気に笑っていた。
幼少期から食べ慣れた母の味が一番口に合うのは理解できる。しかし、だからと言って私の料理を全否定するよしに腹が立った。
「美咲の料理は味が薄いんだよ。これじゃ食べた気にならない。」
「だけど、あなたの健康のことを考えて作ってるのよ。」
「健康もいいけど、母さんみたいにもっと美味しいものを作ってくれ。」
よしは完全に義母の味方だった。
それからというもの、義母は度々夕飯を作りに訪れた。よしは義母のことを褒め称え、私が言っても義母とばかり話すようになった。
そればかりか、家事の全てを義母と比較され、できていないことばかりを指摘される。「母さんは完璧だ。妻としてできて当然」と言われる度、私の心は疲弊していった。
しかし、そんな中でも義父の悠太郎だけは私の味方をしてくれた。それほど会う機会はなかったものの、「よしのためによくやってくれている」といつも私を労ってくれていた。
その様子を義母は面白くなさそうに見つめ、私への嫌がらせをエスカレートさせていった。
よしに相談しても「母さんが正しい」というばかりで、私の話をまともに聞こうともしない。そんな日々が3年ほど続き、私はよしとの結婚生活そのものを考えるようになっていた。
離婚した方がいいのかもしれないと、何度思ったかわからない。しかし、その度にもう少しだけ頑張ってみようと思い直した。父が亡くなって以来、女手一つで私を育ててくれた母に余計な心配はかけたくない。母は私が結婚した直後に持病が悪化し、入院していた。
そんな母を悲しませたくなく、なんとかよしとの夫婦関係を改善しようと、私なりに努力を重ねた。
しかし、私の気持ちとは裏腹に、よしとの会話は減り、その頃から寝室も別にするようになった。仕事から帰ってきても無言で食事を取り、そそくさと自室にこもってしまう。私とは目も合わせようとせず、よしが口を開く時は必ず私に暴力を振るう時だった。
夫婦として限界なのかもしれない。そんなことを考えるようになった頃、よしの帰りが遅くなるようになった。
「どうしてこんなに帰りが遅いの?」
「仕事だ。」
よしはそれ以上何も話そうとしない。
「仕事って、こんな時間まで働かせるなんておかしいじゃない。」
「うるさい。男の仕事にちいち口を出すな。」
よしは怒りを現わにし、私に手をあげた。
しかし、よしが本当に仕事で遅くなるとは思えなかった。深夜近くに帰ってきたよしから、女性の香水の匂いがする。スマホは風呂に入る時でさえ手から離さず、どうにも様子がおかしい。
まさか、よしは浮気しているのではないか。私の中に疑念ばかりが浮かんでいた。それに加え、その頃からよしは生活費を入れなくなった。
「どうして生活費を入れてくれないの?」
「お前も働いてるんだ。それ以上必要ないだろう。」
よしは当然のように言い放ったが、私のパート代だけではとても生活の全てを賄えない。
「そんなの無理よ。結婚してるんだから、夫の責任をちゃんと果たしてちょうだい。」
「妻の責任も果たしていない。お前が何を偉そうに。お前の努力が足りないだけだろう。」
そう言うと、よしはまた私に暴力を振るった。
それからも、よしは些細なことで暴力を振るうようになり、私は何も言えなくなっていった。理不尽に殴られることが苦痛で仕方なかった。仕事から帰ってきたと思えば突然怒り出し、私に暴力を振るう。何度「やめて」と頼んでも、「お前が悪い」の一言で、よしの気が済むまで殴り続けられる。
そんな毎日に、私はうんざりしていた。
しばらくして、義母が訪ねてきた。眉間にしわを寄せ、不機嫌さを全面に押し出している。
「あなた、随分と無駄遣いをしているようね。」
「え? 何のことですか?」
「とぼけないで。よしから全部聞いてるのよ。よしが必死に稼いだお金を何だと思っているの?」
義母は、よしから嘘の報告を受けているようだ。
「私は無駄遣いなんてしていません。それどころか、生活費だって…」
「言い訳は結構。態度を改めないなら、よしとは離婚してもらいますから。」
義母は私が反論することを許さず、問答無用で非難した。私がいくらパート代で生活費を賄っていると言っても、義母は信じようとせず、よしの収入で遊んでいると決めつけた。
「よしはそんなこと一言も言ってなかったわ。そんな嘘までついて、一体どういうつもり?」
そう言うと、義母は私の頬をぶった。
「何するんですか?」
義母は不気味な笑みを浮かべながら、私を見下ろしている。
「パートに出てるっていうのも怪しいものね。まさか、あなた他に男でもいるんじゃないの?」
「そんなことあるわけないでしょう。」
義母は、私がパートに出ていること自体が浮気をしている証拠だと決めつけた。
「あなたの行動を監視する必要があるわね。」
そう言うと、義母はその日以来、毎日家に尋ねてくるようになった。明日は何時に帰ってくるのかと聞かれ、私が答えた時間を5分でも遅れると、帰った途端に怒鳴りつけられる。時間通り帰ったとしても、義母は私の体の匂いをかぎ、「今日も男と会ってたのね」と言いがかりをつけてくる。
ある日、義母がいる前で私のスマホが鳴った。女友達からランチの誘いだったのだが、義母はそれさえも男からのデートの誘いだと決めつけ、私のスマホもチェックするようになった。
私に自由など一切なく、毎日息が詰まる思いだった。
その様子を見ていても、よしは一切関心を示さない。そればかりか、私が義母に激しく詰め寄られているのを、ニタニタと笑いながら眺めていた。
よしと離婚しない限り、私に自由はない。重なるよしの暴力と義母の嫌がらせに、私は疲れきっていた。
そんな中、ある日私はパートの帰りによしの車を見かけた。仕事に行っているはずのよしが、こんなところで何をしているのかと疑念を抱きながらしばらく様子を見ていると、助手席から若い女性が降りてきた。女性は運転席に回り、窓越しによしとキスをした。
そのあまりにも自然な光景に、私はその場に立ち尽くしてしまった。やはり、よしは浮気していた。
しばらく前から気づいていたことではあるが、実際に目撃すると無性に腹立たしくなる。
家に帰っても、義母の言葉さえ耳に入ってこない。よしが浮気を認めたら、私はどうするのだろうか。よしが素直に謝るとは思えないが、万が一彼が誠実に謝ってきたら、許してしまうのではないかと自問自答を繰り返していた。
数時間後、よしが帰ってきた。夕飯を食べ、自室に戻ろうとするよしを呼び止め、問いかけた。
「今日、誰と一緒にいたの?」
「何のことだ?」
よしはいぶかしげに私を見つめた。
「あなたの車から若い女性が降りてきたわ。」
「お前の見間違いだろ? そんなことでちいち俺の貴重な時間を裂くな。」
よしはあくまで知らないと白を切る。
「あなたの車の助手席に、女の長い髪の毛があったわ。」
「時々部下を送り届けてるだけだ。それが浮気だと言いたいのか。」
言い逃れができると思っているよしに腹が立つ。
「あら、そう。部下とキスするのも仕事だって言いたいわけ?」
「キスなんてしていない。俺の浮気を疑うのは、お前が浮気しているからだろう。」
よしは自分勝手な理論を持ち出し、私の浮気を疑った。
「私のどこに浮気する時間なんてあるわけ?」
「本当に仕事に行ってるかどうかも怪しいもんだ。」
よしは不気味な笑みを浮かべ、部屋を出ていった。
それから2日後、義両親が揃って家を訪ねてきた。
「あなた、やっぱり浮気していたのね。」
「私は浮気なんてしていません。」
「黙りなさい。よしからちゃんと報告を受けているのよ。」
よしはまたしても義母に嘘の報告をしたようだ。
「あなたには離婚してもらいます。慰謝料もしっかり払ってもらうわ。」
「そうね。これまでの嫁としての分も合わせて、300万ってとこかしら。」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は本当に浮気なんて…」
私は同行していた義父の方に視線をやった。義父であれば、私の話を信じてくれると思った。しかし、義父は難しい表情を浮かべたまま、本を見ようとしない。
「美咲さんがよしを裏切っていたとは。君を信じていただけに残念だよ。」
「お父さんまで。本当に私は浮気なんてしていません。」
「しかしだな。竹松が君が若い男とホテルに行っているのを何度も見たって証言してるんだ。」
竹松とは、長年義父の専属運転手をしている男だ。
「何かの間違いです。私は本当に浮気なんてしていません。」
私は必死に否定したが、義父は30年もの間自分に仕えている竹松が嘘をつくはずはないと、私の反論を聞き入れなかった。
義父にも見放され、私は孤独に苛まれた。しかし、やってもいない浮気の慰謝料など支払うつもりはない。
「1ヶ月時間をください。私が浮気していない証明をしてみせます。」
「そんな証明できるわけないでしょう。」
「まあいいじゃないか。もしできなければ、よしとは離婚してもらう。いいね。」
私は自身の身の潔白を証明するため、行動を開始することにした。同時によしの浮気も明らかにすると決意した。
友人たちに頼み、よしを目撃したら動画を撮って私に送ってもらえるようにし、よしと同じ会社に務める知人にも協力を依頼した。
そして2週間後、休日出勤だと言って出かけたよしを、私は密かに尾行した。
自宅に帰ると、義母が待ち構えていた。
「よくもまあ、のこのこと帰ってこれたわね。」
そう言うと、義母は私の頬をつねり、鬼の形相で睨みつけた。
「一体何なんですか?」
「車でラブホに入ったでしょう、この尻軽女。」
そう言うと、義母は家の車にGPSを仕掛けていたことを明かした。
「よしが仕事に行ってるのをいいことに、男とホテルだなんて、なんて恥知らずな女なの。」
そこによしも帰ってきた。
「この女の浮気の証拠を押さえたわ。」
「これでもう言い逃れできないな。お前とは離婚だ。」
2人は私を罵倒し、離婚を要求してきた。
「分かりました。離婚します。ただ、その前に見ていただきたい動画があります。」
私はパソコンを起動させ、ドライブレコーダーに録画された映像を映し出した。
その映像には、私の車の前方でよしがレンタカーを借りる様子が映っている。
「ちょっと待て。」
よしは唇を小刻みに震わせ、明らかに動揺を見せていた。
「これが何だって言うんだ? 仕事で車が必要だったから借りただけだ。」
「最後まで見れば分かるわ。」
レンタカーを借りたよしは、途中で女性を拾い、カップルに人気のレストランに立ち寄り、その後は2人で買い物を楽しんだ。そして、そのままホテルへと入っていった。
自分の車だと女の痕跡が残ると思って、学習したつもり? GPSがホテルを示していたのは、私がよしを尾行していたからだった。
「ホテルに行ってたのは、私じゃなくて、よしでした。」
「違う。これは部下が気分が悪いって言うから休ませようと…男女の関係など一切ない。」
よしはこの後に及んでも、浮気はしていないと白を切った。
「清水ゆりさん、あなたの部下なのね。あなたたちは1年以上前から愛人関係にあった。」
「違う。」
友人たちの協力により、よしの浮気相手が会社の部下だということが分かった。よしとゆりは毎日のように行動を共にし、職場でも2人の関係を疑う声がささやかれていた。よしは生活費も入れずに、ゆりと過ごす日々を送っていた。
友人たちから送られてきた動画には、よしとゆりがレストランで食事をしているものや、手をつないで買い物をしているものなど、様々だった。よしとゆりは一目もはばからずキスやハグを繰り返し、誰が見ても浮気であることは一目瞭然だった。
「こんな動画が何だっていうのよ。こんなものいくらでも捏造できるわ。」
息子の浮気の証拠を見せつけられ、義母は激しく動揺している。
「これで、浮気しているのは私じゃなくて、よしだったって分かってもらえましたよね。」
「仮によしが浮気していたとしても、夫の浮気は100%妻に責任があるわ。」
よしの浮気が確定したというのに、義母はなおも息子をかばい続けた。
「確かに私にも責任があったかもしれません。だけど、だからって浮気していい理由にはなりませんよ。」
「あなたがもっとよしに尽くしていれば、こんなことにはならなかったのよ。」
あくまで私が悪いと非難し続ける義母に呆れてしまう。これでもまだよしをかばうのかしら。
私は友人の1人からもらった動画を流した。よしとゆりが会話している様子が映し出され、その中で2人は義母のことを「都合のいいATM」扱いしていた。
「母さんは俺の言うことなら何だって聞いてくれるさ。金だって、俺が言えばいくらでも出す。」
「それじゃあ、マンションの頭金も出してもらいましょうよ。」
「そうだな。その前に、また小遣いもらわなくちゃ。」
よしは私が無駄遣いをしているせいでお金が足りないと義母に小遣いをねだり、義母は何の疑いも持たずお金を渡していたそうだ。その金額が数十万であっても、義母は息子のためとお金を渡し続けていた。しかし、実際には義母が渡したお金は全てよしとゆりの交際に当てられていた。
「なんてこと、よし。これは一体どういうこと?」
義母はよしに掴みかかった。
「俺は困ってるって言っただけだ。勝手に金を渡したのはそっちだろう。」
「だからって、私のお金を何だと思っているの?」
義母とよしは互いに激しく罵り合っている。
「親子喧嘩をするのは構いませんが、私の話が終わってからにしてもらえませんか?」
私は呆れながら2人に向かって言った。
「大体、俺が浮気したのは、最初にお前が浮気したからだ。」
よしは私を睨みつけた。
「私はこれまで一度も浮気なんてしたことがないわ。」
「竹松が目撃してるんだ。今更言い逃れできるわけないだろ。」
よしは父の運転手である竹松の証言を盾に、私の浮気が間違いないと決めつけ、私の腕を掴んだ。そのまま手を振り上げ、私を殴ろうとしている。
「また殴るの?」
「浮気したことを認めないお前が悪い。」
よしが手を振り下ろした、その瞬間。
「お前たち、いい加減にしろ!」
義父が現れ、よしと義母を怒鳴りつけた。
「あなた、どうしてここに?」
「美咲さんは浮気なんてしていない。」
義父は竹松の証言を信じ、一旦は私の浮気を疑ったのだが、冷静になって考え、私が浮気しているとは思えなくなったそうだ。そこで念のため探偵を雇い、私の身辺調査を依頼した。しかし、いくら調査してもらっても、私の浮気は確認できなかった。
竹松の証言に疑いを持った義父は、自身の車に設置されたドライブレコーダーの映像を確認した。すると、竹松と義母が車内で抱き合っている様子が何度も記録されていた。
「お前と竹松は、そういう関係だったんだな。」
「ちょっと待って。これには訳があるのよ。」
映像を見せつけられた義母は、必死に抵抗してみせる。
「どんな言い訳があるって言うんだ? お前はこの30年、俺を欺き続けてきた。それは紛れもない事実だ。」
そう言うと、義父はよしとのDNA鑑定の結果を突きつけた。その鑑定書には、義父とよしの親子関係が認められないと記されていた。
「竹松が俺の運転手になったのは、お前の紹介だったからだ。職に困っていると言うから雇ってやったが、まさかあの頃すでに愛人関係にあったとはな。」
「違うのよ。あの時は本当に竹松が仕事に困ってて…」
「言い訳はもうたくさんだ。」
義父が竹松を問い詰めると、彼は義母との関係を認め、平謝りしていたらしい。竹松と義母は、義母が義父と結婚する以前からの仲だったそうだ。竹松は義母に将来を約束していたのだが、義母の両親が義父との結婚を進めてしまった。それでも竹松のことを忘れられなかった義母は、義父の運転手として雇い、関係を重ねていた。
「ええ、そうよ。あなたが仕事にかまけて私を見てくれなかったから悪いのよ。」
「俺の財産目当てに結婚して、竹松との子供まで育てさせておいて、その上…」
「あなたはお金に何の魅力があるって言うのよ。竹松は私を本当に愛してくれてたわ。」
開き直った義母は逆切れしながら、義父に掴みかかった。
「自分たちが浮気していることを隠して、何の罪もない美咲さんを追い込むとは。お前たちには愛想が尽きた。」
義父はよしと義母を厳しく叱責した後、私を疑ったことを謝った。
「今後、よしとは美咲さんが決めればいい。」
「私はよしとお母さんを告訴します。」
私はこれまでよしと義母に受けた嫌がらせや暴力に加え、よしの浮気の件も含めて民事訴訟を起こす意向を伝えた。よしと義母は「大げさだ」と激しく抵抗し、私のことを非難し始めた。
「訴訟がどれだけ大変なのか、お前は分かっていない。何も知らない世間知らずが大それたことをするんじゃない。」
「そうよ。一体、あなたが妻としてちゃんとしてれば、こんなことにはならなかったのよ。それを全部私たちが悪いみたいに言わないでちょうだい。」
2人は口々に私を罵倒し、訴訟を起こすなと脅した。
「お前たちの意見は聞いていない。」
義父の大きな怒声が部屋中に響き渡る。その声によしと義母は「ひっ」と声をあげ、その場で小さくなった。
「美咲さんが思うようにやればいい。俺が全面的に協力する。」
義父の力強い言葉が、私は嬉しかった。
その後、私はよしとの離婚を成立させた。そして、よしと義母を相手取り、民事訴訟を起こした。訴訟費用は義父が全面的に支援してくれた。
やがて裁判が始まり、私はよしの浮気の慰謝料と、これまで2人に受けてきた暴力や嫌がらせの慰謝料を請求した。よしと義母は「私に暴力を振った覚えはない」と反論したのだが、私は密かに家の中に仕掛けていた隠しカメラの映像を証拠として提出していた。その結果、よしと義母は私に対し、それぞれ慰謝料の支払いが命じられた。
しかし、よしは給与を全てゆりに貢いでいたため、貯金はほとんどなかった。そのため、よしは自宅と車を処分して、私に慰謝料を支払った。
その後、私はゆりに対しても慰謝料を請求する内容証明を送り付けた。ゆりの自宅が分からなかったため、会社当てに送付したのだが、このことで社内ではよしとゆりの不倫が問題視されることになった。
よしの会社は福祉関連の事業を行っており、家族愛が理念に掲げられている。そんな社内で不倫を行い、会社のイメージを損なわせたとして、よしは降格処分となり、ゆりは解雇を言い渡された。
その後、ゆりは故郷の両親に連れ戻され、よしとの関係も断たれたそうだ。
義母は義父に離婚を言い渡されたそうだが、義父は慰謝料を請求しない代わりに、財産分与もしなかったという。私への慰謝料の支払いで貯金を全て使い果たした義母は、義父に少しでもいいから財産分与してほしいとすがったそうだが、義父はそれを聞き入れなかった。
竹松は運転手を解雇され、慰謝料の代償として退職金も支払われなかったそうだ。
家をなくし、お金もなくしたよしと義母は、竹松の古いアパートに身を寄せ、3人で生活を始めたらしい。しかし、無職の竹松は再就職先も見つからず、よしの浪費癖も治らずで、生活はすぐに困窮していったようだ。3人は毎日のようにお互いを罵り合い、怒鳴り合う声が外に響き渡っていたのだとか。近所からの苦情が殺到し、ついにはアパートを追い出されてしまったそうだ。
その後、私は義父の紹介により、新しい職場の事務員として働くことになった。よしたちとの裁判中に母が亡くなったのだが、義父は母の葬儀も仕切ってくれ、私の新居まで用意してくれた。
その恩を返すため、私は週に何度か義父の家を訪れ、身の回りの世話をすることにした。
ある日、義父に呼ばれ、家に行くと1人の男性を紹介された。男性は正雄と言い、大手企業で働くエリート社員らしく、義父の会社とも円滑に取引をしているらしい。
「どうして私に紹介してくれたんですか?」
「美咲さんの再婚相手にどうかと思ってね。」
聞けば、正雄は数年前に妻を亡くし、それ以来ずっと1人でいるらしい。義父に私の話を聞き、是非会ってみたいと言ってくれたそうだ。
正雄は何があっても決して声を荒げることはしない。常に真摯な対応をしてくれる正雄に、私は惹かれた。
今は結婚を前提に交際をしている。新しい私の人生は、明るいものになりそうだ。



