10年前、結婚式当日に姿を消した元婚約者が、今度は大物政治家の娘と結婚したと自慢しに現れた。「俺だけ勝ち組で申し訳ないね」と見下す彼に、私は言い返した。「おかげ様で10年前より随分出世させてもらったわ」。でも、彼は知らない。私が彼の対抗馬として選挙に立候補していることを。そして、彼が私に復縁を迫ってきた時、私は彼の妻の前で、彼のすべてを暴くことになるとは思ってもいなかった。 コメントで続きを読む

10年前、結婚式当日に姿を消した元婚約者が、今度は大物政治家の娘と結婚したと自慢しに現れた。「俺だけ勝ち組で申し訳ないね」と見下す彼に、私は言い返した。「おかげ様で10年前より随分出世させてもらったわ」。でも、彼は知らない。私が彼の対抗馬として選挙に立候補していることを。そして、彼が私に復縁を迫ってきた時、私は彼の妻の前で、彼のすべてを暴くことになるとは思ってもいなかった。 コメントで続きを読む

「実は大物政治家の娘と結婚したんだ。どうだ?すごいだろう?」

10年前、結婚式当日に姿を消した元婚約者のよしが、私の前に現れた。彼は得意げに鼻を膨らませ、私を見下すように言った。

「俺だけ勝ち組で申し訳ないね。」

「おかげ様で10年前より随分出世させてもらったわ。本当、あなたがいなくなってくれてよかった。」

私の言葉によしは軽蔑するように眉を潜めた。

「その年で独身祭りに一緒に来てくれる男もいない。小さな会社の管理職にしがみつくしかないお前がかわいそうだよ。」

「心配ご無用。私は幸せにやってるわ。この10年、いろんなことを乗り越えて、周囲の人たちに支えられながら必死にやってきた。私が築いてきた10年の重みを、あなたに軽く見られたくない。」

「まあ、せいぜい庶民の暮らしを楽しめよ。」

よしの傲慢さに呆れて、私は静かに彼を見つめた。

「村川孝一郎のそばにいれば、俺の将来も安泰ってもんだ。」

「え?大丈夫?」

この時、村川には政治の裏金問題に加え、複数の女性スキャンダルが浮上していた。

「何も心配いらないさ。あんな問題、政治家なら誰にだってある。」

「だけど選挙も近いし、致命傷になるんじゃないの?」

「お父さんの権力で噂は簡単に潰せるさ。」

よしは高笑いしているが、本当にそうだろうか。そこに事務所のスタッフが駆け寄ってきた。

「先生、準備が整いました。」

「分かったわ。ありがとう。すぐに行くから。」

よしはスタッフが着ているジャンパーを見て目を丸くしている。実は私は村川孝一郎の対抗馬として、今回の選挙に立候補したのだ。会社の経営をしながら地域の貢献活動に力を入れている中で、地元の有権者たちから立候補を促され、やれるだけのことをやろうと立ち上がった。一緒に活動してくれる仲間や支援者のおかげで、女性票を中心に着実に地盤固めを行っている。この日の祭りでは、私の演説会が予定されていたのだ。

「強力な対抗馬って、お前だったのか。」

よしは驚きを隠せないようで、言葉をつまらせている。私はよしを横目にステージに上がり、マイクを握った。

「皆様、お祭りを楽しんでますか?」

私の声が響くと、またたく間に大勢の支持者が集まり、取材に訪れていた報道陣までもがステージ周辺に集まってくる。

「裕子先生、頑張って!」

支持者たちの歓声に、私は手を振って答えた。よしを見ると、彼は群衆に押され弾き出されたようだ。15分間の演説を終え、支持者たちの大きな拍手の中、私はステージを降りた。そこに数分前によしにぶつかった子供が握手してくださいとやってくる。子供と握手をかわすと、母親が「応援してます。村川なんかに負けないでくださいね」と力強い励ましの言葉をくれた。その様子を見ていたよしが駆け寄ってくる。

「知らなかったよ。まさかお前がお父さんの対抗馬だったなんて。」

「だから何?」

「実は今回の選挙、お父さんが負けるんじゃないかって密かに噂されてるんだ。対抗馬の女性候補の勢いがすごいって。まさか裕子だったなんて。」

まさか私に立候補を取り下げろとでも言うのだろうか。私はかしげによしを見つめた。

「どうだ?これから俺と一緒に選挙を戦わないか?」

「それはどういう意味?」

「よりを戻そうって言ってるんだ。俺とお前なら確実に村川に勝てる。」

よしは私との復縁を求めてきたのだ。

「お断りよ。あなたとは10年前に終わったの。今更復縁だなんて笑わせないで。」

「そんなこと言うなよ。俺たちは愛し合った仲じゃないか。」

よしは問題の多い村川よりも私についた方が自分にとって有利だと考えたのだろう。都合よく手のひらを返すよしに呆れてしまう。

「あなたは村川孝一郎の秘書でしょ。これ以上私に関わらないで。」

「村川とは縁を切る。エミとも別れる。だからもう一度やり直そう。」

「お断りします。」

そこによしの妻エミが現れた。エミは前々からよしの浮気を疑い、GPSを仕掛けていたようだ。

「どういうことかしら?」

エミは鬼の形相でよしを睨みつけている。

「エミ、俺たちはやっぱり合わない。だから離婚しよう。」

「なんですって?そんなこと認められるわけないでしょ。」

エミはよしの言葉に怒りながら、私の方に視線を向けた。

「この女のせいね。この泥棒猫。」

「私は関係ありません。この人とは10年前に終わったの。今更よりを戻すなんてありえないわ。」

私が否定しても、エミは激しく詰め寄ってきた。するとよしはステージに上がり、マイクを手にしたのだ。

「皆さん、聞いてください。世間を騒がせている村川孝一郎の裏金問題は事実です。」

よしは大衆の面前で村川の不正の一部始終を暴露し始めたのである。

「女性問題、全て事実。村川孝一郎はそれを金で揉み消そうと画策しています。」

よしの暴露話に報道陣はカメラを向ける。

「僕は村川孝一郎と決別し、エミと離婚することを宣言します。」

よしの言葉に報道陣から質問が飛び交う。その一つ一つによしが答え、村川の闇は完全に世間に暴かれたのだ。

「あなた、何を勝手に。離婚なんて認めません。」

「いや、俺は裕子と一緒になるんだ。」

よしはエミとの離婚だけでなく、私と再婚すると宣言したのである。

「ちょっと、適当なこと言わないで。」

私がよしに反論する中、私の支援者であるハセベがエミにタブレットを提示した。そこにはよしから復縁を迫られ、きっぱり拒否をしている私の姿が映し出されていたのだ。

「あなた、裕子さんの方が選挙に勝てると思って裏切るつもりなのね。」

エミはよしに対し激しく怒りをぶつける。

「人聞きの悪いことを言うな。俺は村川の暴虐無人な振る舞いに嫌気がさしたんだ。大体、お前も俺のことを見下してたんだろう。」

よしは村川のみならずエミの不満も爆発させ、その場で罵倒を繰り返した。

「あなただってお父さんの権力を笠に着て好き放題やってたじゃないの。有権者からいくらもらってたか、私知ってるんだからね。」

「俺は全員の献金だ。何も問題ない。」

「嘘言わないで。融通を聞かせた見返りに現金を受け取っていたくせに。なんなら証拠だってあるわ。」

エミはよしに負けじと彼の不正の事実を暴露し返したのだ。その話によると、よしは村川の名を使い、多くの地元企業から便宜を図る見返りに現金を受け取っていたらしい。今回の選挙に関しても、村川に票を入れるよう地元の有力者を買収していたのだとか。二人の暴露合戦はその場にいた有権者たちに一部始終を目撃され、中にはその様子をスマホで録画するものもいた。

「あとは二人でゆっくり話し合って。」

私はその場を離れ、有権者との交流会に向かおうと歩き出した。

「ちょっと待ってくれ。」

「逃がさないわよ。」

よしは追いかけたかったようだが、エミがそれを許さない。それからしばらく二人の言い争いは続いたようだ。その後、交流会を終え会場を後にすると、後ろからよしが声をかけてきた。

「裕子、話を聞いてくれ。」

私は気づかないふりをしてそのまま歩き続けたのだが、よしは必死に追いかけてくる。

「裕子!」

よしは私に手を伸ばし、腕を掴もうとした。

「これ以上は暴行とみなしますよ。」

ハセベは強くよしに言い放つ。

「裕子と話がしたいんだ。裕子、頼む。俺とやり直してくれ。」

「お断りします。」

私が何度断っても、よしはしつこく私に復縁を迫ってきた。そこに一台のタクシーが止まり、ハセベが私に乗るように促す。どうやらよしから逃れるため気を回してくれたようだ。私はそのままタクシーに乗り込み、自宅へと戻ったのである。

翌朝、テレビでは夏祭りでの騒動が報じられていた。「秘書のご乱心」と面白おかしく報じているが、よしとエミの壮大なる暴露合戦により、村川孝一郎の社会的信用は地に落ちたのだ。村川は政治家としての立場も危うくなり、当選からは身を問われることとなった。報道を受け、警察が捜査に乗り出す。村川には増収益の疑いがかけられ、よしには斡旋利得処罰法違反の疑いがかけられた。警察の任意同行に応じた村川は「全てよしがやったことだ」と言い逃れているようだが、よしは「自身の行動も村川に指示され、仕方なくやったことだ」と反発を見せた。村川は裏切ったよしに激しく怒り、エミとの離婚を宣告し、よしは「願ったり叶ったりだ」と離婚届に応じたそうだ。

よしはその後も私の周りに現れた。離婚調停中だというのに、必死に私の周りをうろつき、復縁を求めてくる。

「頼むよ。俺には裕子しかいないんだ。」

「お断りよ。願いだからもうつきまとわないで。」

何度私が断っても、よしは一向に聞き入れなかったのだ。そして一ヶ月後、よしが私の自宅を尋ねてきた。

「一体何の用よ。」

「これを見つけたんだ。」

よしは得意げな顔をしながら、私の目の前に婚姻届を広げた。そこには私とよしの名前が記入され、証人欄にはお互いの両親がサインしている。

「こんなもの、どうして?」

「驚いただろう。だけど、これがあるってことは、俺たちの婚約は破棄されていないってことだ。」

よしが提示した婚姻届は確かに私がサインしたもので間違いない。しかしそれは10年も前のことで、書類が残っていたからと言って婚約が有効であるはずがないのだ。

「私たちの婚約は、10年前にあなたが結婚式をドタキャンしたことで破棄されているわ。」

「俺は破棄した覚えがない。」

「いくら婚姻届があるからって、10年前の日付じゃさすがに役所も受理しないわよ。それに、私はもうあなたと結婚する意思がない。」

私は冷静に答えた。

「それはどうだろうな。これを役所に提出して受理されたら、嫌でもお前は俺の妻になるんだ。」

よしはあからさまに私を脅しているようだ。

「勝手に提出したら、虚偽の届けで罰せられて、あなた逮捕されるわよ。」

「なんだって?」

「まあ、どうせ逮捕されるんだから、試しに提出してみたら?私は同意していないってはっきり宣言するけどね。」

よしにしてみれば、これ以上罪を重ねたくはないだろう。

「それより、10年前あなたが結婚式をドタキャンしたせいで、私が全額キャンセル料を支払ったのよ。私とよりを戻したいって言うなら、まずそのお金を清算するのが先じゃないかしら。」

「分かった。それは支払う。だから俺との結婚を受け入れてくれ。」

私はあえて何も返事をせず、よしを帰らせた。よしはよほど私とやり直したいのか、翌日にはキャンセル料の全額が私の口座に振り込まれていたのだ。その日の夜、よしから電話がかかってきた。

「お金を振り込んだ。これで結婚してくれるんだろう。」

「私は結婚するとは言ってないわ。それに、10年前の清算と結婚の約束は別よ。私はあなたとやり直す気はありません。」

私は改めて結婚の意思がないことを強調したのだ。

「そんな、お前は俺を騙したのか?」

「騙してなんかないわ。私は最初からずっと、あなたとの関係は終わったって言ってたはずよ。」

「くそ。このままで済むと思うなよ。」

よしは激昂し、暴言を吐きながら電話を切った。しかしよしがこのまま素直に引き下がるとは思えなかった。大事な選挙にトラブルは避けたいところではあるが、だからと言ってよしの要求に応じることなどできない。私はすぐにハセベに連絡し、対応を協議した。弁護士でもあるハセベであれば、よしが何か仕掛けてきたとしても対処できるだろう。私はハセベに絶対の信頼を置いている。ハセベとは数年前、地域のボランティアで知り合い、私の立候補を後押ししてくれた人だ。よしとの問題もハセベであればきちんと乗り越えていける。ハセベは「何かあれば法的措置も辞さない」と言い、決して屈してはいけないと私を励ましてくれた。

それから数日後、SNSに私の誹謗中傷の動画が流れた。「金返せ」「騙された」「詐欺だ」と攻撃的な言葉が並ぶ。発信のアカウントはよしのものだった。よしは私とやり直せないと分かり、今度は私の政治家としての未来を潰しにかかっているようだ。そのコメント欄には「失望した」「最低」と私への非難の声が並び、選挙事務所では問い合わせの電話が鳴りやまなかった。街頭演説に出ても、支援者から辛辣な声が飛びかう。選挙に当選することも危うくなり、私は頭を悩ませた。

「これは明らかな名誉毀損よ。」

「そうね。だけど、これにどう対抗すればいい?」

「相手がSNSで仕掛けてくるなら、こちらも同じ方法で反撃しましょう。」

ハセベはそう言うと、よしが私にしつこくつきまとっている動画や、私が受け取ったお金が10年前の結婚式のキャンセル費用だった証拠を公表した。動画はまたたく間に拡散され、私の味方が増え始めたのだ。しかしよしも黙っていない。今度は婚姻届を動画に撮り、私との婚約の有効性を訴えたのだ。SNSに投稿された婚姻届は記入日が隠され、一見今現在の出来事のようにも見える。

私はハセベに正式に依頼し、よしを名誉毀損で訴えることにした。それと同時にSNSで真実を明かしたのだ。カメラの前で10年前の裏切りや結婚式当日の混乱、その後の私の苦労を語っていると、苦しかった当時を思い出し、自然と涙が溢れてくる。それを見た人たちからは励ましの声が多数届いた。これにより世論は完全に私の味方となったのだ。

その後、裁判で私の訴えが認められ、よしには損害賠償の支払いが命じられた。同じ頃、よしとエミの離婚調停も決着を迎えたようだ。二人の離婚は一方的な裏切り行為によるものと判断されたようで、よしはエミに高額の慰謝料を支払うこととなった。同時に、よしとエミの間には子供がいたため、養育費の一括支払いが命じられたのだとか。

村川孝一郎はその後、議員を失職した。表向きは一連の騒動の責任を取るというものだったが、真相は裏金問題による逮捕が近づいているからだろう。時を同じくして、村川は党員資格も停止された。

二週間後、村川孝一郎は政治資金規正法違反として逮捕され、よしもまた斡旋利得処罰法違反で逮捕されたのである。警察の捜査により、よしが集めた政治資金を自身の懐に入れていたことも判明し、業務上横領の罪でも再逮捕されることとなった。その後の裁判でよしには実刑判決が言い渡され、合わせて行われた民事裁判によりよしの資産は差し押さえられ、彼は社会的信用と同時に全財産も失ったのである。

私はと言うと、一連の騒動のおかげで国民の強固な支持を獲得し、参議院選挙でトップ当選を果たし、国会議員としてのスタートを切ることができた。私の当選を誰よりも喜んでくれているハセベと結婚を視野に入れ交際することになり、今はお互いの距離を少しずつ縮めながら、穏やかに愛を育んでいる。ハセベはよしの件で悩んでいた私を精神的にも支えてくれ、10年前の屈辱も果たそうと私を鼓舞してくれた。そんな彼であれば、今後の政治活動でもきっと私の強い味方になってくれる。そう信じられた。ハセベと過ごす時間は私に安らぎを与えてくれ、私が私らしく笑っていられるのだ。彼と共に、私を支援してくれる人々の期待に答えられるように、この国を少しでもよくできるように、私はこれからも邁進していく。何があっても決して折れない、負けないと心に誓って、今日も笑顔で走り出していくのである。

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