「下請けは用済みです。間違いだからお引き取りを。2度と式をまたないでくださいね」 元請けの部長にそう言われ、俺は門前払いを食らった。俺を馬鹿にしてきたのは元請けの部長だ。自分は俺より偉いと勘違いしているらしい。失礼すぎる勘違い部長には制裁が必要だ。この後、部長は自業自得の結果に陥り、地獄を見ることになる。…

「下請けは用済みです。間違いだからお引き取りを。2度と式をまたないでくださいね」 元請けの部長にそう言われ、俺は門前払いを食らった。俺を馬鹿にしてきたのは元請けの部長だ。自分は俺より偉いと勘違いしているらしい。失礼すぎる勘違い部長には制裁が必要だ。この後、部長は自業自得の結果に陥り、地獄を見ることになる。...

「下請けは用済みです。間違いだからお引き取りを。2度と式をまたないでくださいね」

元請けの部長にそう言われ、俺は門前払いを食らった。俺を馬鹿にしてきたのは元請けの部長だ。自分は俺より偉いと勘違いしているらしい。失礼すぎる勘違い部長には制裁が必要だ。この後、部長は自業自得の結果に陥り、地獄を見ることになる。

俺の名前は内藤、43歳。社員30名の小さなシステム会社で働き、開発部の部長を務めている。大企業のような知名度はないけれど、安定した経営ができるレベルには売上を維持している。

毎日目が回りそうなほど忙しい。そんな中、開発部に新しい仕事の依頼が来た。

「大手企業の新工場で生産ラインを統合管理する制御システムの開発を頼みたいんです」

営業部長が突然大きな仕事を持ってきたのだ。うちの部署は現時点でギリギリの状況だが、今回の仕事は我が社の評判を上げるチャンスでもある。相手は業界ナンバー3の会社だ。提示された報酬もかなり魅力的だった。

「わかりました。やりましょう」

今回の案件は俺が主導で進めることになった。重要で難易度が高い内容だったのも理由だが、すでに大量の仕事を抱えている部下たちにこれ以上負担をかけたくなかったのだ。

心配した部下たちは自分たちもサポートに入ると言ってくれた。いい部下に恵まれて幸せだなと思う。しかし、嬉しい気持ちはそう長くは続かなかった。

初めての打ち合わせの日。担当者が挨拶も兼ねて我が社を訪れた。

「営業2課で部長を務めております。上田と申します」

「内藤です。お願いします」

事前にメールや電話で短いやり取りはしていたが、こうして顔を合わせるのは今日が初めてだった。

「社員数は何名ですか?」

突然の質問に俺は驚きつつも即座に答える。

「ちょうど30名です」

「新工場は我が社の重要な案件です。本社のシステムで新工場の心臓部を動かせるでしょうか?」

上田部長の物言いに引っかかるものを感じる。こちらを試すような言い方だ。

「精一杯させていただきます」

「精一杯ね」

小声だったが、残念ながら俺は地獄耳だ。部長の馬鹿にしたような声はしっかり耳に届いた。

その後も部長は表向きは丁寧な口調で俺や会社を貶した扱いし続ける。

「ご希望に添える仕事をさせていただきます」

俺は気づかないふりをして笑顔で答える。もはや隠すつもりもなくなったのか、上田部長は鼻で笑って返した。

「こちらが契約書です。本社で確認の上、次回の打ち合わせの際に捺印とサインをお願いいたします」

俺が差し出した契約書も碌に確認せず、薄ら笑いを浮かべながら鞄の中にしまう。

「では失礼します」

上田部長は最後まで馬鹿にしたような笑みを浮かべ、我が社を後にした。

契約は無事に締結となったが、開発が始まって1ヶ月が経った頃、問題が起こった。

「生産ラインのレイアウトが変更になりまして、仕様変更をお願いします」

突然上田部長からそんな連絡が入ったのだ。追加費用がかかる対応だったので請求書を用意して上田部長の会社へ向かった。

だが、部長は眉を寄せ、請求書の受け取りを拒否する。

「最初から変更可能な範囲で設計をお願いしたつもりですが、手間と費用がかかったのはそちらの実力不足でしょう。全く。だから零細企業に依頼するのは反対だったんだ」

上田部長は独り言のように呟き、俺や会社を馬鹿にする言葉を吐く。

俺は拳を強く握り、部長の嫌みを受け流すしかできなかった。

その後も部長の仕様変更は続く。その度に俺やサポートの社員たちは設計を修正し、対応に追われるはめとなった。

結果、当初の見積もりより工程が2割もプラスになり、追加費用も予算の範囲内で対応するのが難しくなってきた。

この段階に入り、俺は我が社のトップである横沢社長に呼び出される。

「内藤君、この案件は利益がちゃんと出るのか?」

追加費用の請求を突っぱねられていることは横沢社長にも説明済みだ。しかし、相手が元請けなので社長も強気に出られない。

「申し訳ございません」

頭を下げ、こう続けた。

「正直に申し上げますと、このままでは利益はほんのわずかです。相手が追加費用の支払いに応じてくれず」

「上田部長か。あの人の噂は聞いてるよ」

横沢社長がため息をつきながら俺の知らない事情を教えてくれた。上田部長は2年前にあの会社に転職してきたそうだ。業務が上田部長の親戚で、そのコネで転職し、ちょうど開いていた営業2課の部長に就任したらしい。

「前の会社で部下の功績を横取りしたという噂を聞いている。それがバレて居づらくなり、あの会社に転職したらしい。かなり癖のある相手だ。君も苦労しているだろう」

気遣うような横沢社長の言葉に申し訳なさが募る。同時に、上田部長が俺を馬鹿にする理由が分かった気がした。我が社は小さな会社なので、うわべだけで判断した相手から「大したことがない」という認識を持たれることがある。上田部長も我が社の規模だけ見て舐めてくるのだろう。さらに今回は下請けとしての契約だ。

下請けは都合のいい飯の種という間違った認識を持っている人は少なくない。上田部長もその手のタイプで、俺を使い捨てにしようとしているのだろう。

「ご心配をおかけしてすみません。システム改修は最後まで続けます。仕事を途中で放棄した会社という評判を広めないためにも」

しかし、社内にはすでに嫌な空気が漂っている。横沢社長の指摘に俺は昨日のことを思い出していた。今まで献身的に支えてくれた部下たちが、度重なる仕様変更に疲れて俺に改善を申し出てきたのだ。

「残業ばかりでみんな疲れきっています。部長、なんとかしてください」

上田部長の相手と目の前の仕事で精一杯で、部下たちが疲弊していたことに気づかなかった。俺は上司失格だと昨日反省したばかりだ。

「今後部下に残業はさせません。もう会社にも部下にも迷惑はかけられません。俺が全責任を負って1人でやります」

もはや道はこれしかない。俺の決意を受け取った社長は頷いて返したが、最後まで心配そうな顔で俺を見ていた。

ただでさえ多かった俺の仕事はさらに増え、碌に家に帰れない日が増えていく。

俺の苦労も知らず、上田部長は好き勝手に振る舞い続けた。ある日、上田部長が我が社に打ち合わせに来た際、話し合いを終え自社に戻ったかと思いきや、我が社の女性社員に無理やり迫ろうとしていたのだ。

「今夜少し付き合いませんか?」

「困ります」

人のいない廊下の角の向こうから話し声が聞こえてきて、片方が上田部長だと気づいた俺は慌てて駆け寄った。

「社員への個人的な接触はご遠慮いただけますか?」

2人の間に割って入ると、上田部長は驚いた顔をした後、不機嫌そうに顔を歪める。

「下請けのくせに何様のつもりですか?」

「女性に無理やり迫ることに下請けも元請けも関係ないでしょ。部長は既婚者でしたよね。奥様にバレると困るのでは?」

「俺を脅すつもりか?」

上田部長の敬語がなくなる。

「いいえ、そんなつもりは」

「零細企業は社員の教育も碌にしてないのか?元請けを脅すなんてただのチンピラじゃないか。俺に舐めた態度を取ったこと、絶対に後悔させてやるからな」

言い捨て、上田部長は俺たちの前から立ち去った。女性社員にはお礼を言われたが、不安が募る。上田部長は何かするつもりだ。そんな確信が不安と共に俺の胸の中に生まれた。

この一件以降、上田部長の横柄な態度はさらに悪化していく。

辛い状況だったが、なんとか制御システムを完成させることができた。新工場の竣工式の1週間前、俺の元に招待状が届く。中身を確認しながら、ようやくここまで来たかと安堵の息をついた。

そして竣工式当日。一張羅の上等なスーツに身を包み、竣工式の会場の新工場へ向かったが、俺を待っていたのは上田部長による門前払いだった。部長は工場の入り口でわざわざ俺が来るまで待っていたらしい。

「下請けは用済みです。間違いだからお引き取りを。2度と式をまたないでくださいね」

薄ら笑いを浮かべる上田部長を前にして、俺は心の底から呆れ果てていた。他人への嫌がらせに時間を割く暇があるなら、自分の仕事を頑張った方がよほど建設的だ。しかし、部下の仕事を横取りして功績を出してきた上田部長は、努力するということができないらしい。

「わかりました。では失礼します」

まともに相手をするだけ時間の無駄だ。そう判断した俺は踵を返し、上田部長の前から立ち去る。一張羅のスーツで来た自分が少し馬鹿らしく思えた。部下たちの疲れ果てた顔が頭の中に次々と浮かんでくる。だが、怒りより先に頭は冷静に動いていた。

やるべきことは決まっている。

俺は大人しく自分の会社に戻るのではなく、ある場所へ向かってまっすぐ歩いていった。

翌日、会社で仕事をしていた俺の元に1本の電話が入った。携帯の画面に表示されているのは上田部長の名前だ。

「もしもし」

「今からそっちに行くからな」

一方的に告げられ、電話を切られる。上田部長の声にはどこか焦りが滲んでいた。

来ると言われたからには無視できない。俺は急いで会議室を手配し、上田部長の到着を待った。30分後、上田部長は1人ではなく複数の人を連れて我が社にやってきた。

「我が社の法務担当と、新工場を統括している村岡だ」

予想より大物が出てきたなと内心で驚きつつ、表面上は冷静に対応する。

「システム開発担当の内藤と申します。どうぞおかけください」

全員座ったのを見届けると、村岡専務が口を開いた。

「内藤さん、今回の件についてこちらとしても看過できません。どういうことかきちんと説明していただけますか?」

低く落ち着いた声だったが、その目は鋭く俺を見据えていた。

俺から切り出した。

「説明とは何でしょうか?」

「とぼけるな。うちの会社にこんな書面を送ってきただろう」

上田部長が机の上に1枚の書類を叩きつける。俺が昨日のうちに作成し、メールと郵便の両方で通達したものだ。内容は正式納品の保留。正式納品には上田部長の検収作業が必要だ。しかし、上田部長から検収作業が完了したという通達はなかった。さらに、度重なる一方的な変更と費用の不払い、我が社への正式な謝罪がなかったことを理由に、正式納品を保留すると通達したのだ。

「内藤さん、今回の件は行き過ぎではないですか?」

村岡専務が重ねて問いかけてくる。

「契約には納品に関する規定が記載されています。上田部長からは検収終了の通達はなく、検収書にも署名をいただいておりません。法的に納品は未完了です」

上田部長の会社の法務担当が少し顔をしかめつつも、俺の言う通りだと頷く。

「さらに、書面に仕様変更の件についても書きましたが、こちらをご覧ください」

俺が提示したのは仕様変更に関する詳細な記録だった。日付と内容、仕様変更にかかった工程や費用など、分かりやすく丁寧にまとめている。

「合計450万円以上の費用が未払いです」

法務担当者が記録に目を通し、ぎょっとした顔になる。俺にマイナスの感情を向けていた村岡専務も中身を確認して驚いた様子だ。そして、疑惑の目で上田部長を見る。

「仕様変更は相手側の虚偽だと言っていたが」

「上田部長から送られてきたメールのログもありますが、見ますか?」

印刷したメールを専務に見せると、村岡専務がうろたえる。

「私に嘘をついていたのか?」

「ち、違います。メールは捏造です。こいつがそれっぽく見えるように作ったんですよ」

俺は黙ってノートパソコンを取り出す。そして、上田部長から送られてきたメール画面を専務に見せた。メールのログを見せた瞬間、上田部長の顔色が変わる。俺はそれを見て、ようやく終わりが見えたと感じた。

「あなたが送ったメールを消しても、こちらの送信履歴は消せません。それと、村岡専務に話しておかなければならないことがあります。入ってきて」

会議室の外へ呼びかけると、女性社員が入ってきた。先日上田部長に無理やり迫られた人だ。

「この社員は上田部長から関係を迫られました。私がそれを止めると、『下請けのくせに何様だ』と侮辱する発言をしてきたのです」

「そ、そんなことを俺はしていない」

これに対し、女性社員が強い口調で言い返す。

「上田部長は嘘をついています。はっきりと断ったのに無理やり迫ってきて、恐怖を感じました。監視カメラにも映ってますよ」

「なんだと?それは本当か?」

焦った様子で上田部長が立ち上がる。俺はため息をつきながら口を開いた。

「今の部長の言動、自白しているのと同じですよ。ちなみに、監視カメラは会社の入り口にしか設置していません」

上田部長が呆然としたような表情になった。村岡専務は部長を睨みつけている。もはや専務は完全にこちら側だ。法務担当者も冷めた目で部長を見ている。

ここで俺はとどめの言葉を放った。

「契約書に書かれている通り、システムの著作権は我が社にあります。納品前のシステムをどうするかは我が社の自由です。こちらのシステム、すでに別の会社が独占でライセンス契約を結ぶことが決まっています」

「なんですって」

村岡専務が驚きの声をあげる。昨日、俺が新工場から直接向かったのが、業界1位で上田部長の会社のライバル社だ。担当の森さんと俺は業界の交流会で初めて顔を合わせた。アルコールも提供される交流会で、森さんは上司から無理やり飲まされ、顔面蒼白状態で壁にもたれかかっていたのだ。

「これに座ってください。水も持ってきました。ゆっくり飲んでくださいね」

俺は近くにあった椅子とペットボトルの水を森さんに渡す。

「助かりました。お名前の名刺をいただけますか?改めてお礼をさせてください」

その場で名刺交換し、相手が大手企業の社員と知り少し驚いたが、森さんは約束通り後日我が社にわざわざお礼を言いに来た。そこから森さんとの交流が始まる。我が社が小規模ながら確実な仕事をすると知った森さんは、いつか一緒に仕事をしようと持ちかけていた。話をしていく中で、上田部長の会社の新工場のために開発した制御システムが転用できることを知っていた俺は、門前払いを受けてすぐ森さんに連絡したのだ。

「なるほど。これは確かに使えますね。是非うちに使わせてください」

そして、森さんと俺はその日のうちに覚書に署名をした。

俺から話を聞いた上田部長は、目も口も開きっぱなしだ。村岡専務と法務担当者は頭を抱えている。

ここで上田部長がはっと我に帰り、俺を指差しながらこんなことを言ってきた。

「お前、ライバル社に乗り換えたってことか。そんなの違反行為だ。訴えてやるからな」

「契約書に書かれている通り、システムの著作権は我々にあります。御社のライバル社と契約した件は一切問題ありませんよ。訴えるならどうぞご自由に」

上田部長がぐっと言葉を飲み込む。額には大量の汗が滲んでいた。

「ちなみに、どの契約書にも瑕疵担保条項は入れてるんですよ。うちみたいな零細企業が身を守るためには必要なことでしてね。上田部長には内容を確認していただいた上で契約書に同意のサインをしていただいたと思っていましたが」

村岡専務が上田部長を見る。部長はしどろもどろになりながら口を開いた。

「そ、そんな重要な条項、事前に通達するのが普通だろう」

「契約書の中身を隅々まできちんと確認することも普通では?仕事が忙しかったからそんな暇がなくて、それが本当に言い訳になると思っているのだろうか。忙しいなら法務に確認してもらうこともできたはずです」

法務担当者が首を振って答える。

「我が社にとっても重要な契約だったため、法務部で中身を確認することを提案していました。しかし、部長から『そんなの必要ない。すでにサインしてしまった』という返答がありまして」

上田部長の怠慢が露見した瞬間だった。

「要するに、うちは御社の制御システムを使えないということか」

村岡専務の言葉に俺は頷いて答える。

「残念ですが。システム開発を改めて発注するか、別の会社に依頼してください。ただし、未払いの追加費用については請求するので、きちんと支払いをお願いします」

「それはもちろん。我が社の評判にも関わることだ。ここまでかかった費用は全額支払う。上田部長、君とはゆっくり話をする必要があるようだ」

村岡専務の冷たい声に、部長の体がびくりと揺れる。

そして、俺の方を勢いよく見たかと思うと、この後に及んで自分の保身しか考えていない発言をした。

「なあ、頼むよ。システムはうちで使わせてくれ。料金は払うって、全部も言ってるだろう。この件はそれで手打ちにしような。いいだろ」

「無理です。システムは別の会社が使います。1つ気になったのですが、上田部長、俺や会社に1度も謝ってないですよね。自分が悪いと思っていない。何をしたのか自覚してない証拠です」

俺からの指摘でようやく気づいたらしい。はっとした表情になった部長が慌てて頭を下げるが、今更謝ったところで無駄だ。

「昨日、俺がライバル社へ向かう前に謝っていたら、こんなことにはなりませんでした。全てあなたのせいですよ」

そんな上田部長が力なく椅子に座る。

「厳しい処分が下されるだろう。覚悟しておくように」

村岡専務の厳しい言葉も、上田部長には届いていないようだ。完全に光を失った目でぼんやりと床を見つめていた。

この後、村岡専務により内部調査が実施される。俺の証言が全て事実だと認められ、上田部長は責任を取る形で会社を去ることになった。システムが使えなくなったせいで新工場の稼働が大幅に遅延し、上田部長には相応の罰が下されたのだ。

数日後、俺は部下たちを会議室に集めた。

「追加費用の全額回収が決まった。みんなのおかげだ。ありがとう」

疲れ果てた顔で踏ん張り続けてくれた部下たちが、ほっとしたように顔を見合わせる。その表情を見て、俺はようやく肩の荷が下りた気がした。

どんな相手でも礼儀を持って接し、証拠を積み重ね、備えを怠らない。それが結局、自分と仲間を守ることになると学んだ案件だった。

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