映画が終わって照明がついた瞬間、周りはカップルだらけで気まずかった。「あのさ、俺たちもさっきの主人公みたいになれないかな」と帰り道で言ったら、彼女は足を止めて「こんな私でいいの」と小さく言った。中学時代、学年で一番美人で人気者だった小玲子。同窓会で再会した彼女は、離婚を経験して面影を残しながらも別人のようにふくよかになっていた。女子たちの心ない噂話が聞こえる中、俺は思わず「俺たち、付き合って…

映画が終わって照明がついた瞬間、周りはカップルだらけで気まずかった。「あのさ、俺たちもさっきの主人公みたいになれないかな」と帰り道で言ったら、彼女は足を止めて「こんな私でいいの」と小さく言った。中学時代、学年で一番美人で人気者だった小玲子。同窓会で再会した彼女は、離婚を経験して面影を残しながらも別人のようにふくよかになっていた。女子たちの心ない噂話が聞こえる中、俺は思わず「俺たち、付き合って...

映画はちょうど主人公たちが抱き合うところで終わった。スクリーンが暗くなり、照明がふわっと灯る。周りはカップルだらけで、少し気まずかった。俺たちは同級生で、友達以上恋人未満の関係をここ数ヶ月続けている。映画の余韻に浸りながら帰り道を歩いていると、俺はふと言った。

「あのさ、俺たちもさっきの主人公みたいになれないかな」

え、と彼女は足を止めた。それから少し黙って、こんな私でいいの、と小さく言った。

俺の名前は愛曽大毅。どこにでもいる平凡なサラリーマンだ。学生時代はお調子者で、お笑い芸人になるなんて夢もあったが、その夢は文化祭のステージで披露しただけで終わった。現実の毎日は地味で、大して面白い趣味もない。自転車に乗るのは趣味と言えたが、実のところ通勤の手段に過ぎなかった。

そんなつまらない日常を送っていたある日、知らない番号から着信があった。

「もしもし」

「ああ、もしもし。愛曽か。俺、中学の同級生の横島だけど」

「おお、横島。久しぶり。元気だったか」

「相変わらず地元でやってるよ。お前は東京でバリバリやってんのか」

「ああ、まあなんとか」

「何年ぶりだよ。十年以上会ってないよな。それで、久しぶりに同窓会を企画しようと思ってさ。ちょうど三十歳の節目だし、みんなに会うのも成人式以来だろ」

確かに、上京してから地元の友達に会うことはほとんどなくなっていた。

「いいね。会いたいよ」

そう返事をしながら、俺は同級生たちの顔を頭に思い浮かべた。すると、ふと一人の女の子を強烈に思い出した。中学時代、学年で一番美人で頭が良くて有名だった小玲子。性格も良くてみんなの人気者で、片思いしている男子は何人もいた。そのうちの一人が俺だった。

当時の俺は、自分なんかが手の届く存在じゃないと思って、一度も声をかけることはできなかった。玲子は成人式には来ていなかったはずだ。あの頃のままの、少女の面影を残した玲子を想像しながら、俺は同窓会を心待ちにした。

同窓会はホテルの大広間で開かれた。どれくらい集まるのかと思っていたが、ざっと二百人はいたんじゃないかという賑わいだった。みんな着飾って、顔も変わっているから誰が誰だかわからない。

「おお、横島。連絡ありがとうな」

「お前の連絡先だけ分からなくて手こったぜ。お前は実家の家業を継いだんだっけか」

「ああ、毎日畑に出てるよ。結婚して、一人子どももいる」

「そうだったのか。おめでとう」

近況を報告し合い、懐かしい話で盛り上がっていると、突然場内がざわめき出した。女子たちがひそひそと噂話をしている。入り口の方を見ると、ドレスを着たふくよかな女性が辺りを見回していた。俺は最初、誰だか思い出せなかった。

「あれだよ。昔美人で人気だった小玲子。びっくりだよな。あんなに変わっちまってさ」

「え、玲子ってあの玲子か」

俺は驚いて彼女をもう一度見た。俺の知っている玲子は、スラッとしたスタイルの良い、どちらかと言えば華奢な女の子だった。しかし三十歳になった彼女はぽっちゃりと丸みを帯びて、まるで別人のような姿になっていた。

「玲子、結婚してたけど離婚したらしいよ」

「え、マジで。それでショックで太っちゃったのかな。あんなにスタイル良かったのに」

「玲子みたいな子でも離婚しちゃうんだね。男を見る目がなかったのかしら」

女子たちは好き放題言いたいことを言っている。俺は離婚という言葉に反応してしまった。結婚しているかなと思っていただけに、まさか離婚まで経験しているとは思わなかった。

ひそひそ声はだんだん大きくなり、明らかに本人に聞こえているだろうというほどになっていた。玲子は連れもいないのか、一人でうつむいたまま顔を赤くしていた。

「私なら来ないなあ。体型変わっちゃって何言われるかわからないじゃない」

「玲子って誰と友達だったっけ。友達もいなくなったのかな」

ひどい言い草に、俺は心が痛んだ。確かに玲子はふくよかになっていたが、柔らかい顔立ちや雰囲気は昔のままだ。むしろ癒されるような安心感さえ感じた。どうしようもなくおどおどしている玲子に、俺は近づいていった。

「久しぶり、玲子」

「えっ」

「えっと、俺、愛曽。覚えてる」

「ああ、愛曽君。うん、思い出した。変わってないね」

そう言ってニコッと笑う玲子の顔は、中学の頃と変わらずとても可愛らしかった。俺はほっとした。

すると、他の男子たちが話しかけてきた。

「お、愛曽じゃん。久しぶり。東京行ってからすっかり姿見せなかったじゃん」

「ああ、うん。久々に戻ってきたよ」

俺は隣の玲子を気にしながら返事をした。すると、その男子の一人が玲子を見て失礼なことを平気で言った。

「え、もしかして玲子、お前どうしたんだよ。昔はすげえスリムじゃなかったか」

俺は勢いよく言った。

「俺たち、付き合ってるんだよ」

周りが一瞬静まり返り、次にざわめきが広がった。「え、愛曽君じゃない」「玲子が彼女なの」「うそ、なんでああいう感じがタイプだったんだ」

一番驚いているのは玲子だった。

「え、あ、えっと」

俺は玲子の肩を抱いて言った。

「人の彼女の見た目をそんな風に言わないでくれよ。俺は今の玲子が好きなんだから」

「お、悪い。まさかお前らが付き合ってるとは。愛曽は東京に行ったんじゃないのか」

「そうだよ。東京で偶然彼女に再会してさ。運命の出会いってやつ」

俺は自分の口からぽろぽろ出てくる嘘に、自分でも驚いていた。そんな俺を見て、横島が口だけ動かして「どういうことだよ」と言っていた。

同窓会が終わり、大勢いた同級生たちは立ちまちばらけて帰っていった。俺は横島に捕まり、さっきのことの真相をしつこく問い詰められた。

「お前、なんであんな嘘ついたんだよ。まさかただのノリじゃないだろうな」

「ああ、バレた」

「おいおい、お前、後でどうなっても知らないぜ」

「まあ、同級生にはまたしばらく会わないかもだけどさ」

横島は心配していたけれど、俺は別に嘘をついたことを後悔していなかった。すると後ろから玲子が声をかけてきた。

「愛曽君、ありがとう」

「いや、こっちこそ変な嘘ついてごめん」

「ううん、助かった。私のこと何言われても仕方ないって思ってたけど、やっぱりみんなから言われるとちょっと傷ついてたし。話題を変えてくれて、すごく嬉しかったわ」

そう言われて、俺は気恥ずかしかった。玲子が傷つくのを見ていられなかったのもあるが、単純に俺に気づいてほしくて話しかけたのもある。ただの下心と言えば下心だった。

「あ、じゃあ俺帰るな」

「え、おい」

横島は俺たちの空気を読んで、さっさと帰ってしまった。

「愛曽君、東京にいるんだね。実は私も今東京なの」

「え、そうだったんだ」

俺のとっさの嘘も、嘘ではなかったらしい。俺と玲子は笑い合った。明るくケラケラ笑うところも、昔の玲子と全然変わっていない。俺は一人、あの頃と同じときめきを感じていた。

「じゃあ私もそろそろ帰るわね。本当にありがとう」

玲子はそう言って片手をひらひら振りながら帰ろうとした。

「あ、待って。あのさ、せっかくだから東京でも会わないか。ほら、俺まだあんまり知り合いがいなくて、話し相手が欲しいんだ」

苦し紛れにそう言ってみたが、玲子は不思議そうな顔をした。

「ああ、うん。私でよければ相手するわよ。これ、私のLINE」

俺たちはこうして連絡先を交換した。その日のうちに色々聞いてみると、住んでいるところも二駅ほどしか離れていないことが判明した。俺たちは次の休みに時間を合わせて会うことになった。

その日、俺の前に現れたのはジャンパースカートを着たカジュアルなスタイルの玲子だった。

「お、同窓会の時とは全然違うね」

「同窓会はちゃんとした格好じゃないとね。でも普段はこんな感じよ。楽なのが好きなの」

カジュアルでリラックスした感じの玲子も可愛らしくて、俺は好きだった。

「じゃあ早速、美味しいものでも食べに行くか。事前に玲子がこの町のグルメに詳しいって言ってたから、案内頼んでおいたんだ」

「うん、よろしくお願いします、先輩」

俺は先を急ぐ玲子に早足でついていった。

「この辺は路地裏におしゃれで美味しいお店があるんだよね」

「よくこんなとこ知ってるなあ」

「今はSNSの時代でしょ。どこにお店を構えたって、人気のあるところにはお客さんが来るのよ」

玲子が案内した店で、俺たちは美味しいカフェを食べた。

「私、食べるのが好きだったけど、学生の時はスタイルをキープしたくて我慢してたの。だからストレスも溜まってたと思う」

「そうなんだ。食べるのはいいことじゃん」

俺たちは昼ご飯が終わると、また別の店でおやつを食べた。俺の腹ははち切れそうだった。

「聞いていいか分からないんだけどさ。なんで前の旦那と離婚したの」

俺は思い切って、聞きたかったことを聞いた。

「そうよね、気になるわよね。前の旦那とは職場恋愛だったの」

玲子はスイーツを食べ終わって、ストローでアイスコーヒーを飲みながら話してくれた。

「お互い気も合ったし、盛り上がって付き合って、すぐに結婚しようってなったわ。若かったのね。でも結婚する前から彼の浮気癖はなんとなく知ってたの。それでも好きだったし、結婚したら変わるかなって思って、目をそらしてたのよね」

結婚してからも彼の浮気はどんどんエスカレートするばかりで、玲子は誰にも相談できず、一人で我慢するしかなかった。

「それで暴飲暴食すれば少しはすっきりするってことに気づいて、そこから毎日食べる日々が始まったの。元々食べるのは好きだったから、どんどん加速しちゃって、気づいたらこんな体型になってたの」

俺は玲子の話を聞きながら、元旦那への怒りがふつふつと湧き起こった。

「で、旦那には呆れられて捨てられちゃったってわけ」

「そんなのは玲子が悪いんじゃなくて、旦那の方だろう」

「私の見る目がなかったのよ。結局あの人は私の見た目が好きで、そうじゃなくなった私に用はないって感じだったのかな」

すっかり落ち着いて話している玲子と対照的に、俺は手が震えるほど怒りを抑えるのに必死だった。

「俺から見たら、正解だよ」

「え」

「いや、そんな外見しか見てないやつなんて、何の価値もないやつだよ。おまけに浮気症なんて、本当に最低だ」

俺は自分を落ち着かせようとコップの水を一気に飲んだ。

「ねえ、もしかして愛曽君、怒ってる」

玲子は笑いをこらえながら言った。

「だって、玲子にそんなことするやつが許せなくて」

「愛曽君って優しいのね。私以外の人が怒ってくれるのって、こんなに嬉しいんだ。ありがとう、私のために」

俺は急に恥ずかしくなって下を向いた。なんだか俺だけが玲子への気持ちを膨らませているようだった。

俺たちはそれから頻繁に会うようになった。ほとんどは玲子の行きたいというカフェ巡りで、食べている時間の方が多かったが、俺は美味しそうに食べる玲子の顔を見るのが好きだった。

そのうち俺たちは食べるだけのデートではなく、映画に行ったり遊園地に行ったり、俺の趣味に付き合わせてサイクリングに行ったりもするようになった。

「せっかくだから、私も自転車買っちゃおうかな」

玲子のノリがいいところも、俺が好きなところだった。

「いいね。俺が一緒に選んであげるよ」

気づいたら俺たちは、毎週末会うのが当たり前になっていた。玲子は昔と変わらず周りの人に優しかった。お年寄りには必ず席を譲るし、小さな子が泣いていたら声をかけてなだめてあげたりする。そんな玲子に、俺はますます心惹かれていった。

俺と自転車で出かけるようになってから、玲子は少しずつ体型がスリムになったような気がする。でもやっぱり食べることは大好きだから、俺は玲子にどんどん美味しいものを進めた。

「もう、せっかくダイエットできそうなのに」

「いいんだよ。俺は玲子が美味しそうに食べるのを見るのが好きなんだから」

俺たちはもう付き合っていてもおかしくないほど、デートのようなものを繰り返していた。俺はある日、決心して玲子に告白しようと思った。

映画が終わり、玲子が言った。

「映画面白かったね。周りはカップルばっかりでちょっと気まずかったけど」

「うん。あのさ、俺たちもカップルってことにしちゃだめかな」

「どういう意味」

「だから、その、俺と付き合ってほしい」

玲子は驚いていたけれど、すぐににっこりと笑ってくれた。

「嬉しい。私もそうなったらいいなって思ってた。でも、こんな私だから、私からはなかなか言えなくて」

「なんでだよ。俺、昔玲子に片思いしてたんだ。気づいてなかっただろう」

「うん、全然知らなかった」

「まあ、学年の人気者だったからな。話しかけたかったけど、俺には高嶺の花だと思って声をかけられなかった。卒業してもそれだけは後悔してたんだ。それで同窓会で会えて、嬉しかった」

「そうだったの。私はあの日、一人で心細くて、みんなからも陰口叩かれちゃって、やっぱり帰ろうかなって思ってたところに、ヒーローみたいに大毅君が現れてくれたの。みんなの前であんな風に守ってくれて、かっこいいって思っちゃった。それから密かに大毅君いいなって思ってたから、こうやって会えるようになって、すごく嬉しくて」

「マジか」

俺は玲子にも気持ちを持ってもらえていたなんて、なんてラッキーなんだと思った。

「こんな私でよければ、よろしくお願いします」

「こんなじゃないよ。俺はこの玲子が好きなんだ。玲子がぽっちゃりしようが痩せようが、玲子が楽しそうにしてるなら、それが一番いいよ」

「ありがとう、大毅君」

俺たちは映画の中の主人公たちみたいに、抱き合った。こうして俺たちはついに彼氏と彼女になった。まさかあの同窓会でついた嘘が本当になってしまうとは、お互いにこれっぽっちも思っていなかった。

俺と玲子は少しでも一緒にいたくて、お互いのアパートを引き払い、マンションを借りて同棲を始めた。玲子は料理も上手で、いつも美味しいご飯を作ってくれる。お互いいつまでも健康でいようと話し合い、ヘルシーな和食が多くなった。休みの日は二人でサイクリングを続けている。もちろんたまにはカフェ巡りも行くのだが、そんな健康的な生活を続けているうちに、玲子の体型はどんどんスマートになっていった。無理なダイエットではないので、見た目もとても自然で美しいスタイルになった。

あの同窓会から二年後、俺たちは二人で三十二歳の同窓会に参加した。玲子は元のモデルみたいな体型に戻り、またしても周りのみんなを驚かせていた。

「え、嘘。あれが玲子。二年前に来た時は太ってたよね」

「ダイエットしたのかな」

女子たちはまた言いたいことを言っている。

「マジかよ。あれ昔の玲子のまんまじゃん。くそ、俺も二年前に声かけとくんだった」

「おいおい、人の奥さんのこと何だと思ってるんだよ」

俺はみんなの前でそう言って、玲子の横に立った。

「え、奥さんって嘘だろ。お前ら結婚したのか」

「うん、実はそうなの」

「そういえばあの時、付き合ってるとか言ってたもんな。なんだよ、この幸せ者が」

みんなは今度は拍手をして祝い出した。

「おめでとう。こう見ると、なんかお似合いね」

「やったな、愛曽。俺はあの時から二人はこうなるんじゃないかと思ってたぜ」

横島は調子に乗って俺に向かってウインクしてきた。

「気持ち悪いな、やめろよ」

俺は横島をどつきながら照れ隠しをした。

そう、俺たちはあれから交際を続け、めでたく入籍したのだ。俺は中学の頃の初恋の相手を、見事お嫁さんにもらうことになった。今でも玲子はたくさん食べるし、美味しいお店を見つけるのも大好きだ。しかし昔みたいに暴飲暴食をしなくなったせいで、健康的な体型を維持している。まあ、俺は玲子が大好きだから、別にスタイルなんてどうでもいいのだが。

「行ってらっしゃい」

「今日のお弁当は豚の生姜焼きと味噌フライだよ」

「めちゃくちゃがっつりだな。ありがとう。行ってきます」

こうしていつまでも玲子と幸せな生活が続けていけるよう、日々感謝を忘れずに生きていこうと思う。

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