冬の夜の話だ。あの夜のことを、わたしは今も胸の奥で抱えたまま生きている。指先から血の気が引いていく感覚、ドアの向こうで温かい灯りが消える瞬間、そして腕の中の小さなふたつの命。
わたしはエロインとエズラを産んだばかりだった。文字通り、ほんの十日しか経っていなかったんだ。
外は吹雪いていた。雪が窓に叩きつけられて、家の中までその音が聞こえてくるような夜。赤ん坊ふたりを抱えたまま、わたしは玄関の前に立っていた。一応は道着を羽織っていたけれど、それだけじゃ何も守れないことは、骨の髄まで凍る寒さで嫌というほどわかっていた。
少しだけ、あの日々を遡って話させてほしい。
わたしには、夫のダルトンに言っていないことがあった。いや、正確には言っていなかったことが、たくさんあった。建築家としてのキャリアを、わたしは「レン・アシュフォード」という別名で築いていた。二十代で建築の学位も持たずに始めた仕事だったから、本名を出した瞬間に人々が興味を失うと思ったんだ。それで、匿名のまま最高のインテリアデザイナーのひとりになっていた。
オデッサって知ってる? 高級住宅街の雑誌に必ず載ってる、あの名前。広告を一切打たず、写真撮影も断り続けている、謎めいた創業者。そう、それがあの事務所の名前で、その隠れ蓑の向こうにいたのが、他でもないこのわたしだった。
結婚する前から、わたしはもう十分な資産を築いていた。ダウン代の七割は、隠していた貯金から出した。でも、ダルトンにもダルトンの母親のコンスタンスにも、その話は一切しなかった。自分の価値はお金じゃないって、本当に純粋に、そう思いたかったんだ。愛する人に、資産のために愛されたくなかった。
ダルトンと出会ったのはあのガラパーティだった。彼が面白いことを言って、わたしが大声で笑ったら、ケータリングのスタッフから注意された。本当に楽しかった。でも、いつも心のどこかで思っていたんだ。「ダルトンは、もし自分が何も持っていなかったら、それでも選んでくれるだろうか」って。
そしてコンスタンスは、わたしが何をしても許せなかった。最初から嫌っていた。招待客の前で貯金がないことを揶るんだり、居眠りしているふりをして無視したり。わたしは彼女の意地の悪さを笑ってやり過ごしていた。家の登記がふたりの連名でも、はっきりした資産が自分の方に七割もあると知ったら、彼女が何を言うかは想像がついていたから。
妊娠がわかって、双子だとわかって、ダルトンは喜んだ。優しかった。でも、出産予定日が近づくにつれて、少しずつ態度が変わってきた。名前の話をしても、うわの空の返事が返ってくるようになった。お腹が大きくなって、性的な関係を終わりにしたあたりから、彼は仕事だと称して遅く帰ってくるようになった。
サブリナ・ヴォス。今思えば、あの警鐘を最初に鳴らすべきだった女性だ。ダルトンの部下として入ってきて、仕事だと称して何度も家に呼ばれるようになった。気づかないはずがなかった。わからないふりをするのに必死だったと言ったほうが正確だろう。傷つくのが怖くて、あえて見ようとしなかった。
十二月、陣痛が始まった。三十六週での出産だった。十一時間もの難産の末、ふたりの小さな人間がこの世に生まれた。エズラは最初に生まれて、物静かで、じっと観察しているような赤ん坊だった。そしてエロインが続いた。しわだらけで、泣き声が一番うるさい子だった。
病院のベッドで、わたしはボロボロだった。全身が痛んで、涙で目の周りが腫れ上がっていた。それでも、ふたりを腕に抱えた瞬間、この世のすべてが報われたような気がした。わたしの人生はこの子たちのためにあるんだって。
家に帰っても、双子の世話で寝る間もない日々が続いた。産後のうつだったんだと思う。夜中にふたり同時に泣き出して、自分も泣きながらあやした日も何度もあった。でも、ダルトンは何も言わなかった。わたしの憔悴に気づいても、何も。代わりに、彼がわたしのことを気にかけるふりをして、早く戻りたがるのは、いつもサブリナのところだけだった。
十日目。あの日、わたしは最悪の現実を偶然見つけてしまった。
ダルトンは買い物に出かけていた。赤ん坊が寝ている隙に、と思って。わたしはリビングで給餌の準備をしていると、共有タブレットの画面がチカチカと光っているのに気づいた。食料品の買い物リスト用に置いてあるタブレットの、その通知欄に、サブリナの名前が見えたんだ。
「来週には産後の診察も終わるわ。そしたら、いつでも始められる」
画面をタップして、メッセージを開いた。同期されたデバイスに、ダルトンとサブリナの会話が映し出されていた。メッセージは数えきれないほどあって、あの夜の授乳中の会話も、ダルトンの「退屈だ」という言葉も、妊娠中も関係を続けるための言い訳も、全部、そこにあった。
「妻がどのみち妊娠で使えなかったんだ。隠すだけ無駄だろ」
その言葉が、わたしの胸に刺さった。切り裂かれるような痛みだった。
次の朝、ダルトンを問い詰めた。エズラにミルクを飲ませながら、できるだけ冷静に、こう聞いたんだ。「サブリナって人が送ってきたメッセージを見た。これは何?」
彼は一瞬、視線をそらした。迷っているようにも見えた。それから肩を落として、こう言った。
「知ってたよ。いや、イヴ、知ってたんだ。双子のことがわかったとき、もう無理だと思ったんだ。この関係は、ずっと前から終わってたんだよ。ごめん。今はもう、正直になろう」
「終わってた?」と、わたしは繰り返した。「生まれたばかりの赤ん坊がふたりもいるっていうのに?」
「いいか、複雑なんだ。もう決めたことだ」
「わかった」
そう言うのが精一杯だった。問い詰める勇気も、もはや泣き喚く元気も残っていなかった。ただ、ああ、そういうことなんだ、と理解した。三年前のあの夜、ドアの外に立って、誰も迎えに来ないと思ったあの瞬間から、この結末は決まっていたんだって。
そして、事件はその夜、午後九時に起こった。
コンスタンスが現れた。赤ん坊の世話を手伝うと言って。でも本当は何のためか、わたしはもう知っていた。彼女は自分から始めたんだ。「イヴ、話があるの。ここで二人きりで話してもいいかしら? ダルトンは今夜は外よ」
「ええ、どうぞ」
わたしにはさほど驚きがなかった。彼女は三年前から、この瞬間を狙っていたんだ。
「あなたのことは、最初からよく思っていなかったわ。ダルトンには、あなたよりもふさわしい人がいるのよ。お金だって、地位だって、何も持っていないくせに、あなたが子どもだけは産んだからって、それを道具にこの家族にしがみつこうって言うの?」
「わたしが、道具に?」と、わたしは問い返した。
「あなたは何も持っていないわ。ただずる賢いだけ。ダルトンがかわいそうだから、離れてほしいの。裁判でも何でも起こしてきたら、サブリナがいるっていう証拠だって、公の裁判の記録で開示していただくからね。あなたは家も子どもも失うわよ。それだけの話よ」
そこで、ドアが開いた。ダルトンが立って、サブリナの手を握っている。何か言いかけて、母親の言葉を聞いて、その場で固まっていた。
「ちょうどいいところに」と、コンスタンス。「イヴがね、あなたと離婚したいんだって。どんなにいい条件を出しても、この家を出て行かないって言うのよ」
ダルトンが見たのは、泣き腫らしたわたしではなく、床だった。言うべき言葉を求めているようでもあった。でも決して、真実を話そうとはしなかった。彼はただ言ったんだ。「イヴ。父さんの言う通りだ。家を出てくれ。この家にいても、誰も幸せになれないだろ」
「ダルトン」と、わたしは言った。「今なら、まだやり直せる。この三日間のことは、間違いだったってことに――」
「終わったんだよ」
その一言は、何より重く冷たかった。
そして、コンスタンスが言った。「もういいでしょう。荷物をまとめる時間はあげるわ。でも今夜中に、この家を出て行ってもらうわよ」
「今夜? 赤ん坊がふたりもいるのに?」
「あら、ご自分のお子さんでしょ? 行くところがないって言うなら、警察に通報するわよ」
彼女がドアポストのところに立った。三年前のあの夜、わたしが立っていた場所に。わたしはそこをじっと見つめていた。あの吹雪の夜、自分が裸足で立っていた場所だ。そして、何も言わずに玄関に向かった。コートを羽織り、適当なスニーカーを履き、まだ目も覚めない赤ん坊ふたりを抱えた。
振り返りもせず、わたしはあのドアの外に出た。背中の後ろで、ドアが閉まる音がした。
家の中には出ておいで、という言葉もなく、夫というには程遠い男の影もなかった。通りに出ると、冷たい十二月の空気が、まだ眠っている肌を刺すように襲ってきた。産後の縫合が効いている体に。わたしは、震える腕の中のエロインの頭に唇を押し当て、エズラの頬に自分の頬をくっつけて、言ったんだ。
「しっ、しっ、大丈夫だから。ママがついてるから。絶対に、絶対に、大丈夫だから」
その夜の寒さだけは永遠に忘れない。けれど、その寒さの中で、ふと頭の中にある言葉が浮かんだ。三年前も同じことを思った。今度こそ、もう二度と、外に置き去りにはさせないって。
朝が来るまで、数時間。わたしは病院の明かりを目指した。思っていた通り、まだ朝の診察は始まっていなかったけれど、知っている誰かがいた。そして、緊急用の連絡先でもある、隣町の実家ではなく、ただただ安全な場所を探した。車のシートに赤ん坊ふたりを寝かせ、ユニバーサルアダルトエデュケーションの支援寮のような場所ではなく、夫の暴力から逃れてきた女性のためのシェルターにたどり着いた。
そこで、わたしは初めて、口を開いた。三年前には言えなかった言葉で、そしておそらく、生まれてこの方、誰にも話したことのない、すべての真実を。
「わたし、仕事に戻れます。離婚届を出してくれるなら、この一件は、なんとか口を閉ざします」
シェルターのソーシャルワーカー、プリヤは、疑わしそうな顔をした。
「ダウンタウンの高額物件で、何を?」と、彼女は言った。「あなたには、まず自分自身とこの子たちのための家を見つけることを考えたほうがいい」
「わかってる。でも、まずはこの一件を終わらせてほしいんです。向こうの弁護士に伝えて。こちらの条件を受け入れるまで、保育料の負担はしないって。慰謝料は求めない。ただ、養育権は共有ではなく、わたし単独で。会わせることも、向こうに育てる選択肢も渡さないって」
プリヤが眉をひそめ、ノートパソコンを開いて打ち込んだ。それから数日かけて、銀行口座を開き、新しい住所登録を済ませ、法的手続きを進めるコンサルタントと会った。そして、わたしが出した資料一式を見て、初めて彼女は目を見開いた。
「オデッサの……オデッサの仕事の受賞歴がある。待って、まさかあなた、あの『オデッサ』を知っているの?」
「その名前で十年、やってたの」
「知らなかった。どういうこと?」
「誰にも、必要がなかったから。そして、この雪の吹雪の夜まではね、この秘密を、ある女が必死で守ってきたの」
わたしは訴訟を起こした。三年前の出来事を含む、身体的・精神的虐待、子の養育を巡る争い、そして、サブリナとの関係が始まった時期の記録、ダルトンの嘘の並ぶ書類一式。ダルトンはウソをついて、サブリナは嘘の証言をし、コンスタンスはあらゆる捏造を試みた。でも、虚偽の証拠は押さえられていた。
二ヶ月かかった。法廷で、ダルトンはわたしが家を出たと言い、シェルターで暮らしていると言った。申し立ては却下された。調停で、向こうは飲み込めなかった。だって、裁判所は、わたしの能力を証明する決算書や、預金残高、そしてあの返信メールまでを見ていたから。公的な扶助を必要としないだけの、独立した収入が、三年前からあったことを。
「これは、常軌を逸しているわ」と、ダルトンの弁護士が言った。「あなた、最初から計画的だったのね」
「いいえ」と、わたしは言った。「わたしは三年前から、ただ幸せになりたかっただけ。主導権はあなた側にあるから、これで終わりにしましょう」
調停は決裂し、裁判の日が来た。プリヤが依頼した弁護士が、傍聴席の一番後ろで、ダルトンの携帯の画面上のサブリナからのメッセージを提出した。妊娠中のメッセージや、慰謝料を示唆する決定的なもの。彼らの計画は、法定で崩壊した。
判決はわたしに軍配が上がった。養育権は単独で、ダルトンには月に二回の面会が認められた。慰謝料は取らなかった。その代わり、選択的養子縁組も、同居も、コンスタンスがわたしに突きつけた「孫に会わせろ」という要求も、ことごとく退けられた。
判決から数週間後、差し押さえの警告が出た。ダルトンが背負っていた隠れた負債は、コンスタンスの名前を借りて行われていた投資の失敗によるものだった。連帯保証人になっていたダルトンの口座は、事実上のカラッポ状態。そして、わたしが保留にしていた――あの「オデッサ」の契約、コンスタンスの経営する不動産会社が密かに売り込んでいた大型再開発プロジェクトが、白紙になった。公になったわたしの正体と、訴訟の経緯が原因で。
コンスタンスはわたしを貶めようと、あちこちに電話した。けれど誰も相手にしなかった。親権を失い、地位を失い、家も失い、負債だけが残された。ダルトンとサブリナの関係は、サバイバル競争の中で破綻した。コンスタンスから離れ、サブリナ自身にも知らない借金があると知ったダルトンは、怒り心頭だった。
それが空中分解するまで、わたしは何も言わなかった。けれど、ある吹雪の夜、また真理に気づかされた。シェルターに戻ったその夜、プリヤはわたしに言ったんだ。
「あなたがこの家に来たのは、あなたが壊れたからじゃない。あなたが初めて、自分の人生を、自分の言葉で取り戻そうとしたから。あのドアが閉まる音は、終わりじゃないわ。始まりの合図よ」
そうだ。そうだったんだ。
その二年後。春。玄関のドアの外に、白いクロッカスが咲き始めていた。もうすぐ五歳になるエロインが、小さなスニーカーで水たまりを跳ねて、噴水の周りを走り回っている。エズラは手すりに座って、読みかけの本から顔を上げた。
「ねえ、ママ」
「なぁに?」
「あの青いお家に、もう行かなくてもいいの?」
青いお家。あの家のこと。売却から二年、今は見知らぬ家族が住んでいる。
「もう行かなくていいのよ、エズ」
「どうして?」
「だってあの家は、もうわたしたちのお家じゃないから。わたしたちの新しいお家は、ここよ。三年前にもう、ここに決めたの。もう一度、ここに住みたいって思ったの」
朝の日差しが窓から差し込む、この家の階段に座って、エズラの長いまつげを見つめた。彼は本を閉じて、静かに言った。
「僕は、あっちの家のこと、あんまり覚えてないよ」
「覚えていなくて、いいのよ。あなたがいたのは、本当にそれだけの世界だったから」
エロインが走り寄ってきて、わたしの脚に抱きついた。「ねえ、ローレル? 」
「なあに?」
「ママはまた、どこかに行っちゃう?」
「行かないよ」
「絶対?」
「約束する。ねえ、お空の青い鳥、あの鳩を見てごらん」
「あっ!」
エロインが追いかける。エズラが立ち上がり、わたしの手を握った。小さな指が、しっかりと。
「ママ、ありがとう」
「何が?」
「ママがいたから、ちゃんと僕らを守ってくれたから。ありがとう」
わたしは息を飲み、その手を強く握り返した。
「これはママの役目だから。エズ、エロ、あの家にもママの居場所はなくなるって、あの日の夜からわかってたの。でもここには、ママの居場所があるんだよ。大好きなみんながいる場所に」
エロインが振り返って叫んだ。「あのね、ママ! はやく来て!」
「今行くよ」
わたしは立ち上がり、芝生の上を歩き出した。後ろで太陽が昇り、前の角に咲いた桜の花びらが風に舞った。この家は、もう二度と、誰かに追い出される夜を過ごさせはしない。
あの日の吹雪は、わたしからたくさんのものを奪った。けれど、もっとたくさんのものを与えてくれた。本当の自分を隠さなくていい居場所、愛する小さな人たちのいる家、沈黙を強いられる代わりに、真実を語る強さ。
それからというもの、日曜日はいつもこうして、三人でのんびり過ごす。エロインが「青いお家」を指さすと、エズラは必ずこう言うんだ。
「あの家はね、ただの家だよ。お母さんが僕のために作った城は、ここにあるんだから」
そしてわたしは、その言葉を聞くたびに、思うのだ。あの夜、寒さの中で凍えながらも、その一歩を踏み出した自分を、今度こそ褒めてやりたい、って。もう二度と、あの雪の夜に立ち戻ることはない。立ち戻りたいとも思わない。だって、ここに、わたしの居場所があるのだから。
