「今日の商談、あなたは行かなくていいわ」…

「今日の商談、あなたは行かなくていいわ」...

今日の正談、あなたは行かなくていいわ。

その言葉を聞いた瞬間、俺は耳を疑った。今日のために何週間もかけて資料を作り、相手先との信頼関係も築いてきたのだ。くにろうちの大口契約の担当だというのに、いきなり外せだと? 女部長は真っ赤な唇を歪め、性質の良くない笑い声を響かせて俺を見下す。あんたみたいな中卒の無能にあんな大口の契約を任せるとでも思ってたわけ? やだもう、そこからしてありえない勘違いだわ

彼女の後ろでは、同じく東大卒の安倍という同僚が、漏れる笑いを抑えきれないといった顔でこちらを見ている。どうやら二人は最初からこのつもりだったらしい。

ちゅうそつの俺の存在など、彼らにとっては無に等しいのだろう。

俺は怒りに震えながらも、淡々とした口調で告げた。

わかりました。このクライアントには今後関わるつもりはございません

そう言って静かに頭を下げると、部長たちはまた笑った。悪意に満ちたその声にうんざりしながら、俺は二人を残して自分の席へ戻った。

俺の名前は橋本正。ウェブシステムの開発会社に勤務している。

昔から学校というものに馴染めなかった俺は、高校には進学しなかった。しかし中学時代に初めて触れたプログラミングにはすっかり魅了され、独学で勉強に励んできたのだ。

そしてその能力を買ってくれたのが、今の会社の社長だった。中卒という学歴に関係なく、俺を入社させてくれたのである。

それから数年。忙しくも充実した日々を送っていたある日、開発部の部長が家の都合で急遽退職することとなった。

噂話に敏感な同僚が、早速新しい部長の情報を仕入れてきた。それも中途でキャリア採用された人なんだって。確か前職は営業部長をしてたとか

他同僚たちも興味を示す。すごいじゃん。一流企業なのよ。それも東大卒のバリキャリなんだって

俺はその話を聞いて、一筋の不安を覚えた。相手の経歴は確かにすごいし、きっと仕事もできる人なのだろう。だが得てしてそういう相手は、いわゆる学歴差別をすることも多いのは事実だ。そしてその場合、中卒の俺が標的になることは安易に想像できた。

もちろん世の中そんな人間ばかりではないと分かってはいるが、とにかくあまり波風を立てない相手でありますようにと祈るしかなかった。

しかし、そんな願いも虚しく、新しい開発部長としてやってきたのは、なかなかに強烈な女性だった。

こちらが開発部長に任命されました。前職は女性発の営業部長として十分な実績を上げております。仕事の効率化と配属は任せてください

相当自信があるのだろう。真っ赤な口紅を塗った唇を大きく動かして、彼女は延々と自身の経歴自慢を続ける。そして開発部の面々がすっかり困惑し始めた頃、ようやくその自慢大会は終わりを迎えたのだった。

これはもしかしたら、大変なことになるのではないか

その懸念はすぐに現実のものとなった。新しい部長は、就任早々、部長という権限を振りかざしやりたい放題に振る舞うようになったのだ。

己のミスには甘く、他人のミスには異常に厳しい。また仕事が少しでも遅れようものなら、当事者を皆の前で容赦なく叱責する。

今では彼女のハイヒールの音が響く度びに、開発部にはピリピリとした嫌な緊張感が漂うのだった

中でも特に厄介なのは、やはり学歴差別だった。新しい部長は高卒以下の社員に対しては、ろくに口を聞くこともしない。指示は全て雑なメールで済まし、詳細を尋ねに来た部下には冷たい一瞥を返し、「あんな簡単な指示も理解できないの」と見下すのみだった

周囲や上層部の注目度が高い仕事は全て大卒以上の社員にしか回さない。作業量が多い割に地味な仕事を、俺たちは懸命にこなす傍らで、「あんな人たちに大事な仕事は任せられないわ」などと、平気で嘘をつくのだった

もちろんこの会社には大卒以外の社員もたくさんいる。それでも前の部長は学歴に関係なく実力主義で評価してくれていたため、部署内の空気も良かった)だが今の部長が配属されてからは、そんな風通しの良かった雰囲気も一気に淀んだものに変わってしまった

今や開発部は、大卒以上で部長のお気に入りの社員たちと、高卒のその他の社員たちとで二分されてしまい、仕事の効率が落ちるどころか、かえって仕事がしづらくて仕方のない環境になっている

それでもいくら愚痴を言ったところで状況が改善されるわけもない)だから俺は、せめて自分に回ってきた仕事だけは確実にこなそうと、毎日頑張っていた

そんなある日、とある企業から俺に連絡があった

ここは以前、俺が中心となって社内システムの構築に関わった会社で、この度新たに稼働する大規模工場のシステム導入に、是非とも関わって欲しいとのご指名である。契約ということになれば動く金額も数億円という大口だった

久々の大口契約ということで部署内もにわかに湧き立つ中、俺は新しい部長に突然呼び出されたのだった

部長室の扉を開けると、そこには部長の他、彼女と同じく中途採用で開発部にやってきた安倍という同僚が顔を揃えていた

「あなたの担当する今度の契約に、この安倍君をサポートとしてつけなさい」

未だ大卒以上の社員とは最低限の会話しか交わさない部長だが、そう口にした彼女の顔は、なんだか不気味に感じてしまうほどの微笑みに染まっている

その態度に思わず絶句した俺を知り目に、部長に促された安倍が、顎をしゃくって挨拶してきた

「部長の時々のご指名で、この度橋本さんのサポートに着くことになった安倍です。とりあえず一通りのことはできると思うので、橋本さんには特に手取り足取り教えていただかなくても結構です」

あ、そうですか。その物質かつ傲慢な挨拶に、俺は思わず悪態をつきたくなった

確かにこの安倍という男は、部長と同じく東大卒のエリートだ。だが過労じて仕事ができるわけではなく、安倍は学歴こそいいものの、臨機応変が求められる職場においては頭でっかちで、大して役に立たないのである

俺はこれまで安倍とはあまり関わってこなかったが、彼と仕事を共にしている同僚が以前、「東大卒をひけらかして態度が偉そうな割に、実践では完全にダメなタイプ」と評していたのを思い出した

実際、今も安倍は中卒の俺を見下している気配がうっすらと漂っていた

しかし自身の後輩というその一点において、部長はこの部下をとても気に入っているらしい)安倍も図に乗ってさらにその傲慢さに拍車がかかっているようで、この頃は二人して部署内でも煙たがれる存在となっていた

まあでも、あんな大口の仕事を俺一人でこなすのは難しいのも事実だ)安倍の立場を考えても、今回のサポートを通して経験を積んでもらうには良い機会だと、俺は考えた

そして俺は部長の提案を受け入れることにした

「分からないことがあったら、何でも聞いてください」

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

それから俺と安倍は、本商談に向けての資料作成を合同で行っていた。そしてあっという間に時間が経ち、迎えた本番当日

だがここに来て、大きな問題が起こったのだった

作成した資料を確認しつつ、さあ相手方の会社へ向かおうとしていた俺のところに、突然部長が現れたのだ

彼女は自身のハイヒールを高らかに鳴らし、俺の前に立ちふさがる)そして開口一番、とんでもないことを言った

「今日の正談、あなたは行かなくていいわ」

え、俺はとっさに聞き間違いかと思い、困惑しながらも確認する

「部長、すみません。私の聞き間違いかと思いますが、今、私は本商談に同行しなくていいと、そうおっしゃいましたか? 」

どうか聞き間違いであってくれと、そう願いながら問うた俺に

しかし部長は、冷たい一瞥をくれるだけであった

「はあ。だからそうだって言ってるじゃないのよ。何よ、あんた高校にも入れないくらい頭が悪いだけじゃなく、耳も悪いわけ?

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‘これくらいのこと、一度で聞き分けなさいよ」

言いながらハイヒールの靴をやたらに鳴らして、自身の苛立ちを顕わにする部長。そして彼女は俺の全身をじろじろと見下ろすと、実に嫌味な笑いを投げかけてきたのだった

「不服なら、理由まで教えてあげましょうか? あんた、中卒でしょ? 以前に仕事でちょっと関わってただけってだけで、向こうから指名されたもんだから、なんか勘違いしてるんじゃない? 」

「勘違いですか?

声を潜めてそう問い返した俺に、部長はふんと鼻を鳴らして頷いた

「そう勘違いよ、そもそもあんたみたいな中卒の無能なんかに、あんな大口の契約を任せるとでも思ってたわけ? やだもう、そこからしてありえない勘違いだわ」

性質の良くない笑い声を響かせて、部長はあからさまに俺を見下す

「ということで、あんたは担当から外れなさい。あとは安倍君に任せるわ」

すると今までこちらの後ろでもじもじと準備をしていた安倍が、上司と同じく、にやにやと口元を吊り上げながら俺の前へと回り込んできた。そして彼は、漏れる笑いを抑えきれないかような顔で俺を見上げると、肩を竦めて口を開いた

「ということです。最初から俺だけでも大丈夫っぽかったんですけど、相手方がどうしてもって橋本さんをご指名で、それに資料もさすがにあの量はきついなって思ってたんで、ちょうど良かったんですよね」

安倍は罪悪感どころか、一ミリも悪いと思っていない、あっけらかんとした顔でそんなことを言ってきた

ああ、なるほど。二人とも最初からこのつもりだったんだな

そこで俺はようやく、部長と安倍の間で意思疎通が図られていたことに気づいたのだった

今更ながらに悔しくはあるものの、それ以上に、このまま担当を安倍に任せるのはかなり心もとなかった

共に資料作成をしていて思ったのだが、とにかく安倍は、何事も自分が納得できないと、その度手を止めてしまうのだ

勉強においてはその特性も時に大事ではあるのかもしれない )しかし仕事の現場では、その場その場で対応していかなければいけないことの方が多いのに、それを安倍は許さない)そして仕事が遅い割には余計な口を叩くので、さらに仕事が遅れていくという、なかなかの悪循環を引き起こす男なのである

それこそ新システムの構築などは、何が起こるかなんて誰にも分からないのに、とっさのことに全く対応できない安倍一人であの仕事が勤まるとは、とても思えない

「お言葉ですが、部長、安倍君一人では今回の案件は、正直、勝ち目が薄すぎるかと思います。先方も私とは懇意にしてくださっていますし、せめて私にサポートだけでもさせてもらえませんか? 」

だが案の定、部長は俺の言うことなど聞く相手ではなかった

彼女はそう訴える俺を、いかにも面倒そうに見上げて深いため息をつく

「あんた、自分の立場が分かってんの? 今時、高校にも上がれなかった中卒の人間を表に出すなんて、恥ずかしくてるわけないじゃないの」

大げさに肩を竦めながら、部長は俺を嘲笑った

さらには、俺に力不足だと言われた、安倍も不機嫌そうにこちらを睨みつけて、上司に同意する

「東大卒の俺が力不足なら、中卒のあんたはそもそも一緒に仕事しちゃいけないレベルだろうが。どうせ先方にも適当にごまをすって、気に入られただけだろうが]

こんな人間が俺をバカにするとか、マジでありえない」

きっと一緒に資料を作成していた時も、彼はこうやって常々俺を見下していたのだろう

顔を歪めて毒吐き捨てる安倍の顔から、そんなことがありありと伝わって、俺は腹立たしくも、どこか悲しい気持ちにさえなった

だが顔を曇らせる俺を知り目に、部長は勝手に話を進めていく

「そんなに心配なら、私がサポートに入るわよ)実は前の会社で、私、先方の担当だったことがあるの」とってもよくしてもらって、あちらも高い評価をくださったわ」

小さく高に言う彼女の顔には、中卒ごときが東大卒のこちらと同じ土俵に上がるなとばかり、それはそれは傲慢な色が浮かんでいた

「ということで、あんたがこの件で出る幕なんてないの?

いいから大人しく、中卒にでも勤まるような地味な仕事してなさいよ」

部長の言葉に、安倍も堪えきれずとくすくす笑う

そんな二人の様子を見て、俺は無力感に襲われた

彼らは中卒の俺の存在など、無に等しいとでも思っているのかもしれない)それなのに自分たちが楽をするために、利用するだけ利用してやろうという魂胆が、透けて見えている

東大卒だかなんだか知らないが、そのせこさと厚かましさに、俺は呆れ果ててしまった

やがて俺は、淡々と口を開いた

「わかりました。このクライアントには、今後関わるつもりはございません」

そう言って静かに頭を下げる

そんな俺のことを見て、部長たちはまた笑う

悪意に満ちたその声にうんざりしながらも、俺は二人を残して自分の席へ戻っていったのだった

さて、それから一時間が経った

このところあの案件にかかりきりで溜めてしまった他の仕事を、俺は黙々とこなしていた

だがその時、俺のスマートフォンが立て続けに着信を知らせる

確認すれば、それは先ほど息せき切って本商談に出かけていった、部長と安倍からだった

こちらはこちらで自分の仕事をしているのだ)そんなに暇ではないと、初めは無視していた俺だったが、二人からの着信はあまりにもひっきりなしに来る

このままでは周囲にも迷惑だろうと、俺はため息をついて渋々電話へと出た

相手は部長である

だが電話口から聞こえてきたのは、俺が初めて耳にするほどの切迫した彼女の金切り声だった

「ちょっと、電話くさっさと出なさいよ、このバカ」

いや、それどころじゃないのよ)ねえ、あんたが来ないって伝えたら、先方の担当があからさまに態度を変えたのよ,どういうことなの? 」

耳をつんざくその声に、俺は思わずスマートフォンの画面を話して離した

どういうこともこういうことも、言葉通りの意味ですとしか俺は答えられないのだが

けれど否応なしに、部長はますます声を荒げる

「あんた、まさか先方に余計なこと言ったんじゃないでしょうね」じゃないと、この私が契約無効にされるなんて、信じられないもの

それも安倍君は安倍君で、全然役に立たないし」

どうやら部長は、先方に話すらさせてもらえなかったようだ

それで仕方なく安倍にバトンタッチしたのはいいものの、肝心の部下は持ってきた資料を機械的に読むだけで、投げ掛けられる質問や詳細な説明には全く対応できなかったのだという

ああ、もうだから言わんこっちゃない

俺は内心頭を抱えた

あそこの会社は、何より人と人とのコミュニケーションを大事にしているのだ)そして多少説明が下手くそでも、一緒に良い仕事をしたいという熱意が伝われば、それを汲んでくれる

だが安倍は説明も下手くそなら、伝わるような熱意すらない)それも本人の自己評価だけは高いと来ているので、今回も例のあの傲慢な態度で、先方をすっかり怒らせてしまったようだった

結果ほどなく本商談は一時中断となり、先方は俺を呼べと繰り返しているという

「とにかくあんた、早くこっちに来なさい)どうやって取り持ったか知らないけど、あんたさえ呼べばとりあえずは商談を続けてくれるんでしょう」あんたは黙って座ってればそれでいいから」

その言葉を聞いて、俺は何とも言えない気持ちになった

この後に及んでまだ部長は、無意味なマウントをしてくるつもりらしい

ため息しか漏れないのをこらえて、俺は冷静に答える

「部長、先ほどの私の返答を、まさか覚えていらっしゃらないのですか? 私は今後関わらないとお伝えしたはずです」

「はあ? あんた誰に物を言ってんのか分かってんの?

電話口では部長が枯れた怒鳴り声をあげた

だがその直後、同じく電話の向こうで、部長や安倍とも違う声が、明らかに怒りを含んで「この商談はなかったことにしてください」と声を荒げている様子が伝わってきた

姿を見なくても分かる)この声は、先方の担当だ

人が良い彼がここまで怒りを表すなど、尋常なことではない

一体彼らは何をやらかしたんだと、俺は頭痛さえ覚えた

電話口では部長と安倍が必死になって先方の担当に泣きついている

だがこの様子では、もうひとまず彼らの手に負える状態ではないだろうと、俺はそのまま静かに電話を切ったのだった

さて、それから俺は改めて先方に連絡を入れた

そこで俺は今回の一連を丁寧に謝罪し、自分が担当を外された経緯を合わせて話した

そして俺は、そこで驚愕の事実を知る

なんと、部長は前の会社で先方側から出入り禁止を食らっていた人物であるというのだ

先方の話を要約するとこうだ

以前の会社で、部長は先方の営業担当を受け持っていた)だがその際、先方側の担当が高卒であるということをどこかで耳にしたらしく、それから部長の先方に対する態度が高飛車なものに激変したという

そして商談の場でもそれは変わらず、部長は随分と滅茶苦茶な要求を持ち掛けてきたらしい

それに耐えかねた先方側の担当が自社の上層部に訴え、先方上層部からの時々の講義により、部長は即刻営業担当から外されたようだった

またその件が原因で、部長は窓際部署に追いやられたようで、キャリアアップといえば聞こえがいいものの、実際は前の会社から逃げるようにして弊社へと転職したようだった

「まさかあの高野さんが御社に転職しているなんて、思いもよらなかったですよ」というか、高野さん、高飛車なところは相変わらずでしたね

橋本さんも苦労されたようで、

こちらの謝罪の電話で、思いの外深い労いを寄せられ、俺は思わず苦笑する

「ああ、いや、それよりも、お見苦しい場面をお見せしてしまい、大変ご迷惑をお掛けいたしました」

「いえいえ、それより橋本さんはもう、うちの担当には戻られないのでしょうか? もしそれなら、一つお話がありまして」

すると電話口の先方の担当が、とあることを言い出した

なんと、俺を自社のシステム開発専門の社員として招き入れたいというのだ

「橋本さんさえ良ければ、うちの会社は総出迎えですよ」あなたのその知識と経験は、正直うちとしては喉から手が出るくらい欲しいものですから」

思い掛けないことではあったが、俺はその話を承諾することにした

俺としても、部長との一件でだいぶ精神的に疲弊しており、またそんな社員をのさばらせておく今の会社のあり方にも疑問を感じていたのだ

俺を高く買ってくれていた社長も、果たして引退を表明していて、タイミングとしても良い機会だと思った

そうして俺は数日後、部長に退職届を突きつけたのである

「はあ? ちょっと待ちなさいよ」今回の商談、先方がどうしてもあんたがいいって聞かないから、特別にあんたを交えてやり直す段取りを付けてたのよ)それなのに辞めるってどういうことよ?

なんだかもう笑えてくるほどに勝手な言い分だった

結局この人はどこまで行っても自身の態度を改めないらしいが、それならば俺も後ろめたさなく辞められるというものだ

「私はしがない中卒ですので、あとは高学歴の安倍君と二人で、どうぞご存分に仕事なさってください」

それだけ言って、俺は満面の笑みで会社を去ったのだった

さて、その後のことである

俺が退職した後、元部長には降格処分が下ったそうだ)大口の商談を不成立にし、俺を他社に引き抜かれた責任を問われたのだ

元部長は役職を剥奪され、平社員となり、外部と接することのない裏方の事務へ回されたらしい

また安倍も、グループ会社に左遷されたようだ

あのプライドばかりが高い二人が、このまま仕事を続けられるのかは疑問だが、もう俺には知ったこっちゃない話である

一方俺は、新しい職場でのびのびと仕事ができている

こちらは徹底的な実力主義を謳っており、周囲も学歴どうこうと余計なことを言わずに、今の俺を見てくれる

やはり自分を信じること、そしてひたむきに研鑚していくことで、道はおのずと開けるものだ

新天地で俺は自分の力を最大限に発揮すべく、今日も仕事に邁進しているのだった