正月の午後、私は孫のハルトにお年玉を渡した。たった一万円を丁寧に包んだ祝儀袋だった。ハルトの笑顔を見て、心が温かくなるのを感じた。ところが次の瞬間、嫁の美佐がその袋をひったくるように奪い取った。中身を確認した彼女の顔が、みるみる歪んでいく。たった一万円? そんな小銭で偉そうにしないでください。もう、縁を切ってください。美佐の声が、正月の静かな空気を切り裂いた。息子の正太も、凍りついた目で私を見つめ、「母さん、もう帰ってくれ」と吐き捨てるように言った。善意で渡したお年玉が、まさか「小銭」と呼ばれるとは思わなかった。三十一年間、薬局で真面目に働いてきた私の思いが、一瞬で踏みにじられた瞬間だった。
胸が締め付けられる思いの中、私は静かに立ち上がった。「わかりました。喜んで、縁を切らせていただきます」この言葉を口にした時、私の中で何かが決定的に変わったのを感じた。
私は長谷川雪子。三十一年間、地元の薬局で正社員として働いてきた。決して裕福ではなかったが、夫の浩二と一人息子の正太のために、必死に生きてきた。正太の大学までの教育費は総額八百万円。私たち夫婦が毎月こつこつと貯めたお金だった。息子の将来のため、自分たちの贅沢は我慢してきた。正太が美佐と結婚した時は、心から祝福した。結納祝いに百万円、新居の頭金には四百万円を援助した。孫のハルトが生まれた時の喜びは、今でも忘れられない「可愛い孫ね、おばあちゃん、たくさん遊びに来るからね」あの頃の美佐は、笑顔で「お母さん、本当にありがとうございます」と言ってくれていた
ところが、ここ一年ほどで二人の態度は明らかに変わっていった。訪問すれば露骨に嫌な顔をされ、一回の面会時間は三十分に制限された。私の話は聞き流され、まるで邪魔者のような扱いを受けるようになった。それでも私は、孫のハルトに会いたい一心で、全てを我慢してきた。まさか、その優しさが仇になるとは思ってもいなかった
変化の兆しは、半年ほど前から始まっていた。毎回の訪問時、私は五千円程度の手土産を用意していく。決して高価なものではないが、私の給料から考えれば精一杯の気持ちだった。薬局の正社員として働く私の月収は約十五万円。そこから生活費を差し引けば、息子家族のために使えるお金は限られていた
ある日、美佐が手土産を受け取りながら、こう言った「お母さん、手土産、いつもありがとうございます」言葉は丁寧だったが、その声には明らかに棒読みの響きがあった。受け取る手つきも、まるで義務的に処理しているかのような冷たさを感じた。別の日には「あら、今日はデパートのじゃないんですね」と、わざとらしく残念そうな顔をされた「この前の、まるまるさんはもっと高級なものを持ってきてくれましたよ。やっぱり、違いますよね」比較されるたびに、胸が痛んだ。私なりに精一杯の気持ちを込めていたのに、それは美佐にとって、そんなものだった
「すみません」私は思わず謝ってしまった。謝る必要などないのに、その場の空気に押されるように頭を下げてしまった
やがて攻撃は、私の外見や持ち物にまで及ぶようになった。食事の席で、美佐が私のバッグをじっと見つめる。その視線には、明らかな軽蔑が含まれていた「お母さん、そのバッグ、何年前のですか? 」「え、十年くらい前に買ったものですが」「やっぱり、見れば分かりますよ。恥ずかしいから、外では持たないでくださいね。うちの評判に関わりますから」正太も、追い打ちをかけるように言った「母さん、もう少しマシな格好できないの? 正直、一緒に歩きたくないんだよ」美佐が笑いながら続ける「薬局勤務三十一年でしょう。なのに、そんな貧乏臭い、うちの品位が悪いんですよ。ご近所の目もありますし」
三十一年間、真面目に働いてきた私が、貧乏臭いと言われる。自分の息子から、一緒に歩きたくないと言われる..

その言葉が心に深く突き刺さった。私の人生そのものが否定されているような気持ちになった「ごめんなさい」また、私は謝っていた.. 何に対して謝っているのか、自分でも分からなくなっていた
さらにお金を無心するように、LINEメッセージが頻繁に届くようになった。最初は月に一度程度だったが、次第に週に何度も要求が来るようになった「お母さん、ハルトの絵画教室、月三万円なんです. 半分負担してもらえませんか? 将来のための投資ですから」「誕生日プレゼント、おもちゃで五万円のもの見つけました..
お願いします,ハルトが本当に欲しがってるんです」「幼稚園の制服、十万円、お母さんが出してくださいね.. 他のお子さんもみんな着てますから」孫のため、そう思って、私は毎回答えていた
三十一年間、こつこつと貯めてきた貯金が、目に見えて減っていくのを感じながら.. 通帳の残高が減っていく数字を見るたびに、不安が込み上げてくる.. それでも、孫に会えなくなるのが怖くて、断ることができなかった
夫の浩二が、心配そうに言った「雪子、そんなに援助して大丈夫なのか?
」「大丈夫よ,孫のためだもの」私はそう答えたが、本当は不安でいっぱいだった.. でも、その不安を口にすれば、もう孫に会えなくなるかもしれない.. そんな恐怖が、私を縛りつけていた
そして、決定的な瞬間が訪れた. クリスマスの数日後、私が少し早く息子の家に着いてしまった時のことだ「チャイムを鳴らそうとした瞬間、リビングから美佐の友人の話し声が聞こえてきた「うちの義母、ただの薬局のパートよ..
実際は正社員なのに」美佐はそう言っていた「友人が『へえ、大変ね』と相槌を打つ」「本当よ. センスないし、お金ないし,正直邪魔なのよね.. でも断れないから、仕方なく相手してあげてるの」美佐の声が、笑いながら続いた「でも、少し話してくれるから、うまく使ってるの.. これがコツなのよ」「賢い..
さすがね」友人の笑い声が響く.. その瞬間、私の体が凍りついた
私は、使われているだけ.. 三十一年間、必死に働いて息子を育て、総額千五百万円以上を援助し続けて.. これが、私への評価なのだろうか?
立ちすくんでしまった自分の手が、震えていたのを覚えている. 玄関先で立ち尽くす私の目から、涙がこぼれそうになった
あの会話を聞いてから数日後,正月が訪れた.. 朝早くから、私は準備に追われていた.. 真新しい一万円札を丁寧にポチ袋に入れる..
手土産は、奮発して一万円の高級羊羹を選んだ.. 少しでも喜んでもらえたら,そんな思いだった「雪子,お年玉一万円は妥当だぞ.. 気にするな」夫の浩二が、優しく声をかけてくれる「でも去年は、少ないって顔されたから、今年は手土産も高いものにしたわ」「一万円は祖父母から孫の相場だ.. おかしくない..
自信を持て」浩二の言葉に、少しだけ勇気をもらった
今年こそ、普通に過ごせますように.. そう願いながら、私たちは息子の家へと向かった
玄関のチャイムを鳴らすと、美佐が出てきた.. その表情は、やはり冷たいものだった「あ、お母さん,来たんですね」招き入れられるというよりも、仕方なく通されるという雰囲気だ「リビングには正太とハルトがいた」「ハルト君,おばあちゃんだよ.. お年玉,持ってきたからね」私がポチ袋を差し出すと、ハルトの顔がぱっと明るくなる「わあ,ありがとう,おばあちゃん」その純粋な笑顔に,私の心も温かくなった..
やっぱり,孫は可愛い.. この笑顔を見られるなら,どんな苦労も報われる気がした
ところが,次の瞬間,美佐がその袋をハルトの手からひったくるように取り上げた「ちょっと待って.. 中身,確認させてもらうわね」その言い方には,明らかに棘があった.. 袋を開けるその指先に,私は嫌な予感を覚えた..
封を開けた美佐の顔が,みるみるうちに歪んでいく.. まるで,何か汚いものでも見たかのような表情だ「たった一万円? これだけ? 」その言葉に,私の心臓が大きく跳ね上がった「え,普通,祖父母からは一万円が相場だと思うのですが」私の声は,震えていた「はあ,そんな小銭で偉そうな顔しないでください」美佐の声が,正月の静かな空気を切り裂く..
その大きな声に,私は思わず後ずさりしてしまった
正太も,凍てついた目で私を見つめる「母さん,恥ずかしいんだよ.. うちの周りはみんな五万,十万が普通なんだ.. たった一万円なんて,貧乏人みたいじゃないか」「で,でも一万円は」「黙って」美佐が私の言葉を遮る「こんな小銭で恩着るましいんですよ.. それに,この手土産も一万円程度でしょう..
他の親戚は,三万以上のものを持ってきてくれますよ」私が精一杯奮発した一万円の羊羹さえも「一万円程度」と言われてしまった.. 息が詰まるような思いだ
「もう,縁を切ってください.. あなたみたいな貧乏人が来ると,うちの評判が下がるんです」美佐の言葉は,,私の心を容赦なく切り裂いていく.. 正太が立ち上がり,,私の方へ歩いてきた..
その目には,,冷たい光しかない「母さん,,悪いけど帰ってくれ.. ババアはもう来なくていいから」「ババア」.. 自分の息子から,,そんな言葉で呼ばれる.. 三十一年間,,必死に育ててきた息子から..
涙が溢れそうになるのを,,必死にこらえた
「今すぐ出ていけ.. 二度と来るな」正太の怒鳴り声が,,部屋中に響き渡る.. ハルトが,,怯えたように後ろに隠れた.. 可愛い孫が,,私を怖がっている..
その現実が,,何よりも辛かった「あ,,あの,,まだいるんですか? 日本語が分からないんですか? 」美佐の言葉は,,もはや義母に対するものとは思えないほど冷徹だった
その時,,私の中で何かが切れる音がした.. もういい..
もう我慢する必要はない.. 三十一年間働いて,,尽くして,,援助して.. これが私への答えなら,,もう何も与える必要はないのだと.. 私は静かに立ち上がった..
震えていた体が,,不思議と落ち着いてくる「わかりました」「やっと分かってくれたのね.. 最初からそうしてくれればよかったのに」美佐が,,勝ち誇ったように言う.. 私はゆっくりと二人を見つめた.. そして,,はっきりとした声で告げた
「喜んで,,縁を切らせていただきます」「え?
」美佐の表情が,,一瞬だけ困惑に変わった「縁を切るとおっしゃいましたよね.. お望み通りにいたします.. 喜んで」「当然だ.. 二度と来るな」「え,二度と参りません..
それでは,,失礼します」
私はもう,,振り返らなかった.. 玄関を出る時,,ハルトの「おばあちゃん」という小さな声が聞こえた気がする.. でも,,振り向くことはできなかった.. 振り向いたら,,涙が溢れてしまいそうだったから
車で待っていた浩二が,,私の様子を見て驚く「雪子,,どうした?
」「浩二さん,,帰りましょう.. もう二度と,,ここには来ません」私の声は,,驚くほど冷静だった「何があった? 」「もう我慢する必要はないわ.. 私たち,,間違っていなかったのよ」
車が動き出すと同時に,,私の心の中で決意が固まっていった..
もう息子夫婦に,,何も与える必要はない.. 三十一年間の貯蓄も,,これからの人生も,,全て私たち夫婦のために使う.. その決意が,,静かに,,しかし確実に,,私の中で形になっていった
自宅に戻った私たちは,,リビングのテーブルを挟んで向かい合った.. 浩二が,,静かに口を開く「雪子,,本当にいいのか?
」「え,,もう決めました.. 息子たちは,,私を小銭のババアと呼んだのです」言葉にすると,,改めて怒りが込み上げてきた.. でも,,不思議と涙は出なかった.. 悲しみよりも,,怒りよりも,,もっと冷静な感情が,,私を支配していた
「許せんな..
だが,,後悔はしないか? 」浩二が,,心配そうに尋ねる「後悔なんてしません.. 私は三十一年間,,真面目に薬局で働いてきました.. 息子の教育費八百万円,,結婚祝い百万円,,新居援助四百万円」私は指を折りながら数えていく「その他,,毎月の生活費援助,,孫の習い事費用,,誕生日やクリスマスのプレゼント代,,総額千五百万円以上を援助してきたんです」「そんなに?
」「そうよ.. それを,,小銭と言われて,,もう何も与える義務はありません」私の声には,,揺らぎがなかった
浩二が,,力強く頷く「その通りだ.. 俺の稼ぎと合わせて,,二人で必死に貯めた金だ.. 息子夫婦に,,バカにされる筋合いはない」「ありがとう,,浩二さん..
あなたが賛成してくれて,,本当に嬉しいわ」夫の支持を得られたことで,,私の決意はさらに固まった
翌日,,私は以前から相談していたファイナンシャルプランナーの元を訪れた.. 実は,,数ヶ月前から老後の資産について相談していたのだ「長谷川さん,,三十一年間の勤続,,本当にお疲れ様です」「ありがとうございます」ファイナンシャルプランナーが,,資料を広げながら説明を始める「現在の資産状況ですが,,貯蓄が約千五百万円.. そして,,来年の定年時に受け取れる退職金が約千五百万円.. 合計すると,,総額約三千万円になります」
三千万円..
その金額を改めて聞いて,,私自身も驚いた.. こつこつと貯めてきたお金が,,こんなにも大きな額になっていたなんて「さらに,,ご主人と合わせた年金は,,月で約三十万円受給できます.. 持ち家もローン完済済みですから,,老後の心配は全くありません」「そうですか? むしろ,,かなり余裕のある老後を送れますよ..
旅行や趣味にも,,十分お金を使えます」ファイナンシャルプランナーの言葉に,,私は安どの息を吐いた.. 息子たちに頼る必要は,,全くない.. 私たちは,,自分たちの力だけで,,豊かな老後を送れるのだ
「実は,,息子夫婦への援助,,全て停止しようと思っています」私がそう告げると,,ファイナンシャルプランナーは優しく微笑んだ「それは賢明な判断だと思います.. 長谷川さんは,,十分に尽くされてきました..
これからは,,ご自身とご主人のために,,そのお金を使うべきです」その言葉に,,背中を押されたような気持ちになった
翌日,,私は銀行を訪れる.. 息子夫婦への自動振り込みを設定していた口座を,,全て停止するためだ「毎月五日に設定されている,,五万円の自動振り込みを停止してください」銀行員が,,手続きを進めながら確認する「こちらの振り込み,,五年間継続されていますね」「え,,もう必要ありませんので」「承知いたしました.. では,,本日を持ちまして,,自動振り込みを停止させていただきます」手続きが完了すると,,不思議と肩の荷が下りたような気持ちになった
この五万円は,,息子夫婦の生活費として援助していたお金だ.. さらに孫の習い事費用として毎月三万円,,臨時の出費として年間約五十万円,,年間総額で約百五十万円を援助していたことになる..
念のため,,私は弁護士事務所にも相談に行った.. 法的に問題がないか,,確認しておきたかったのだ「贈与を停止することに,,法的な問題は全くありません.. むしろ,,長谷川さんには,,贈与をする義務も,,援助を続ける義務もないのです」弁護士の言葉は明確だった「息子さんは成人していますし,,経済的に自立すべき年齢です.. 今まで十分すぎるほど尽くされてきました..
これからは,,ご自身の人生を,,大切になさってください」「ありがとうございます」弁護士の言葉で,,私の決意に一切の迷いがなくなった
自宅に戻ると,,浩二が待っていた「雪子,,準備完了だな」「え,,銀行での手続きも,,弁護士への相談も,,全て終わりました」私は浩二に,,全ての書類を見せる.. あとは,,彼らが気づくのを待つだけだ「待って,,泣きついてきても」「もちろん,,一切助けません.. 『喜んで』と言ったのですから」私たち夫婦は,,静かに微笑み合った
息子夫婦は,,まだ気づいていない.. 自分たちの生活が,,どれだけ私の援助に支えられていたかを..
毎月の五万円,,習い事費用の三万円,,その他の臨時出費,,年間百五十万円という大きな額を.. そして何より,,彼らは知らない.. 貧乏な薬局パートだと思っていた私が,,実は総額三千万円の資産を持つ,,経済的に完全自立した女性であることを.. 間もなく,,息子夫婦は現実に直面することになる..
そして,,自分たちがどれだけ愚かなことをしたのか,,思い知ることになるのだ.. 私は,,その時を静かに待つことにした
正月から二週間が経った頃,,息子の家で異変が起きていた.. 美佐が通帳を見つめながら,,顔色を失っていく「あれ? お母さんからの振り込み?
ない? 」「え? どういうこと? 」正太が,,軽い表情で訪ねる「いつも月曜に五万円振り込まれるのに,,今月ない」「おかしい..
まさか,,忘れてる? ありえないわ.. 五年間,,毎月欠かさず振り込まれてたのに」美佐の声に,,焦りがにじみ始めた.. 正太が,,嫌だったように言う「母さんに電話してみろ」「でも,,あの時,,『縁を切るな』って言っちゃったし」「お前が言ったんだろ..
どうするんだよ」「だって,,たった一万円だったじゃない.. あんな小銭で偉そうにされたら,,つい」二人の間に,,険悪な空気が流れ始めた
さらに一ヶ月が経った.. 状況は,,さらに深刻になっていく「ハルトの絵画教室,,今月も払えない」美佐が,,頭を抱えている「俺の給料だけじゃ足りないんだよ.. 分かってるだろ」正太の声も,,疲れきっていた「だって,,お母さんから月八万は来てたのに」「八万?
五万じゃなかったのか? 」正太が,,驚いて聞き返す「生活費五万,,習い事三万よ.. それに,,誕生日やクリスマスには,,別に十万から二十万もらってたわ」「年間,,百五十万近くも援助されてたのか」正太が,,初めてその金額の大きさに気づいた「それだけじゃないわ.. 結婚祝い百万円,,新居の頭金四百万円..
全部,,お母さんが出してくれたのよ」「母さんに,,頼るしかないか」正太が,,重い口を開く「でも,,ババアって」美佐の声が,,小さくなった
それでも,,生活の困窮は止まらない.. 正太が,,スマホを消して私に電話をかけてきた.. しかし,,私は出ない.. 着信履歴が増えていくのを,,冷静に見つめていた「出てくれない」正太の声が,,留守番電話に残されている..
美佐も,,LINEでメッセージを送ってきた「お母さん,,お話があります.. 電話してください」既読はつけたが,,返信はしなかった「お母さん,,本当に困ってます.. 助けてください」次のメッセージも,,無視する
そして,,正月から二ヶ月後,,ついに息子夫婦が直接訪ねてきた.. インターホンが鳴り響く「母さん,,開けてくれ..
お願いだ」正太の必死な声が聞こえてくる「お母さん,,お願いします」美佐の声も混ざる.. 私はインターホン越しに,,冷静な声で答えた「何の用でしょう? 」「母さん,,その,,お金が.. 」「お金?
私は,,小銭にしか持ってないババアですが」私の言葉に,,インターホンの向こうが静まり返った
「あ,,あれは言いすぎました」美佐の声が震えている「言いすぎですか? 確か,,『縁を切るな』とおっしゃいましたよね」「母さん,,許してくれ.. 本当に困ってるんだ」正太の声は,,まるで別人のように弱々しいものだった.. 私は玄関のドアを開けた..
しかし,,中には入れない.. 玄関先で,,冷たく二人を見つめる「それで,,何の用ですか? 外の人に」「外の人? 」美佐が,,困惑した表情を見せる「『縁を切るな』とおっしゃったので,,私は外の人ですよね..
外の人に,,何のご用でしょう? 」私の言葉は,,静かだったが,,鋭い刃物のように二人を切り裂いていく
「母さん,,悪かった.. あの時は,,俺が間違ってた」正太が,,頭を下げる「あの時は,,何ですか? 私のお年玉を小銭と呼び,,私をババアと呼び,,帰れとおっしゃいましたね」「それは,,間違いだったと..
すみません」「それで,,小銭のババアに,,何の用でしょう? 」美佐が,,耐えきれなくなったように言った「お母さん,,すみませんでした.. あの時は,,私が悪かったんです」「そうですか」私の冷たい対応に,,美佐の顔が青ざめていく「毎月の援助,,また.. 」「援助?
私は,,わざと首をかしげた.. 「お荷物には,,お金はありませんよ.. 小銭にしか,,持っていないと言われましたから」「お母さん,,お願いします.. 本当に困ってるんです..
このままじゃ,,生活が」美佐の声が,,涙声になっていく「困っている.. それは大変ですね」私は,,感情のかけらもない声で続けた「でも,,外の人に頼むのは,,おかしいのでは? 縁を切ったんですよね,,お母さん」「それに,,確か私は,,邪魔で貧乏臭い人間でしたよね.. 友人の方に,,そうおっしゃっていましたが」美佐の顔が,,さらに青ざめた「あれ,,聞いてたんですか?
」「え,,クリスマスの日に,,『うまく使ってる』とも,,おっしゃっていましたね」もう,,美佐は何も言えなくなった
正太が,,膝をついて頭を下げる「母さん,,俺が悪かった.. 許してくれ」美佐も,,慌てて土下座をした「お母さん,,本当にすみませんでした.. お願いします」二人が地面に額を擦りつけている姿を,,私は冷静に見下ろしていた.. 以前の私なら,,この光景に心を痛めたかもしれない..
でも,,今は違う
「今更ですね」「母さん」「あなたたちは,,私を小銭のババアと呼びました.. 三十一年間の努力を,,一万円のお年玉で全て否定しました.. そして,,『縁を切るな』と」私の声は穏やかだったが,,その穏やかさが,,却って恐ろしさを増していた「本当に,,すみませんでした」美佐が,,泣きながら謝る「ですから,,私は『喜んで』と言ったのです.. 喜んで,,縁を切ります..
喜んで,,援助を停止します.. 喜んで,,あなたたちと,,縁を切ります」「母さん,,そんな」正太の声が,,絶望に染まっていく
「ちなみに,,私は決定的な一言を告げました.. 「私の退職金と貯金,,総額三千万円あります.. 小銭ではなく,,かなりの額ですよ」「三千万」美佐が,,驚愕の表情で顔を上げた「でも,,一円とも,,あなたたちには渡しません」「そんな嘘//」二人が,,驚きましたか?
貧乏な薬局パートだと思っていたでしょう.. 実際は正社員で,,三十一年間貯めてきたのです.. 年金も,,月約三十万円受給できますから,,老後の心配は,,全くありません」美佐が,,完全に言葉を失っていた.. その時,,浩二が私の後ろに立った「雪子,,もういいだろう」「え,,もうこの人たちと,,話すことはありません」私は,,最後に二人を見つめた「さようなら..
二度と来ないでください.. 外の人ですから」そして,,ドアを静かに閉めた.. その音は,,二人との関係が完全に終わったことを告げる音でもあった.. ドアの向こうから,,泣き声が聞こえてくる..
でも,,私の心は,,微動だにしなかった
あれから,,三ヶ月が経った.. 春の穏やかな日差しが,,リビングに差し込んでいる.. 私と浩二は,,テーブルに旅行のパンフレットを広げていた「雪子,,来月の北海道旅行,,楽しみだな」「え,,今まで我慢してた分,,これから思いきり楽しみましょう」浩二の笑顔を見ていると,,心が温かくなる.. 三十一年間働いてきてよかった..
自分たちの老後をしっかり守ることができる.. その安心感が,,私たちに自由をもたらしてくれた
先週は,,久しぶりに友人たちとランチを楽しんだ.. 誰かに気を使うことなく,,心から笑える時間.. それがどれほど貴重なものか,,今なら分かる「雪子さん,,最近すごく明るくなったわね」友人の一人が,,そう言ってくれた「そうかしら」「え,,以前は何か悩んでいるような雰囲気があったけど,,今は本当に楽しそう」確かに,,肩の荷が下りたような軽やかさを感じている..
誰かに取り入られることも,,軽蔑されることもない.. ただ自分たちのために生きる.. それだけで,,こんなにも幸せになれるのだと知った
一方,,息子夫婦のその後については,,風の噂で聞こえてくる.. 年間約百五十万円の援助がなくなり,,彼らの生活は一変したようだ..
ハルトの習い事は全て停止され,,外食も控えるようになったと聞いた.. 美佐は,,パートを始めざるを得なくなったそうだ「お母さんの援助,,本当に大きかったのね」と,,美佐がそう漏らしていたと,,共通の知人から聞いた.. 今更気づいても,,遅い「俺たちが,,悪かった」正太も,,ようやく自分たちの過ちに気づいたようだ.. 「ハルトに,,『おばあちゃんに会いたい』って言われるの,,辛い」その言葉を聞いた時,,一瞬だけ胸が痛んだ..
でも,,それは彼ら自身が選んだ道だ.. 私を小銭のババアと呼び,,縁を切るなと言ったのは,,彼らなのだから
浩二が,,私の手を優しく握る「雪子,,後悔してないか? 」「え,,全く.. むしろ,,もっと早く決断すべきだったわ」私の言葉に,,浩二が安堵の表情を見せた..
窓の外では,,桜の花びらが舞っている.. 新しい季節,,新しい人生.. 私たち夫婦には,,まだまだ楽しい時間が待っている
この物語を通して,,私が伝えたいことがあります.. 善意を踏みにじられたなら,,その善意を引き上げる権利があるということ..
小銭と呼ばれたなら,,その小銭を,,二度と与えない権利があるということ.. ババアと呼ばれたなら,,そのババアから離れる権利があるということ.. 我慢することが美徳とされがちな社会です.. 特に親は,,子供のため,,孫のためと,,無理をしてしまいがちです..
でも,,自分の尊厳を守るためには,,時として毅然とした態度が必要なのです.. 因果応報は,,必ず訪れます.. 悪いことをした人には,,必ず報いが来ます.. そして,,正しいことを続けた人には,,必ず幸せが訪れます
私は今,,夫と二人,,自由で幸せな生活を送っています..
三十一年間の努力の結果を,,自分たちのために使っています.. それは,,当然の権利であり,,当然の幸せなのです.. もしあなたも,,理不尽な扱いを受けているなら,,一人で我慢し続ける必要はありません.. 正当な権利を主張し,,自分を守る勇気を持ってください..
あなたには,,幸せになる権利があります.. 理不尽に屈しない強さを持つ権利があります.. そして,,自分の人生を,,自分のために生きる権利があるのです.. 正義は,,必ず勝利します..
そして,,あなたも,,必ず幸せを手にすることができます.. そう信じて,,強く生きてください.. 私の物語が,,あなたに少しでも勇気を与えられたなら,,幸いです.. 不正に立ち向かう勇気,,自分を大切にする勇気,,そして,,新しい一歩を踏み出す勇気を..
人生は,,一度きりです.. 誰かに取り入られるためではなく,,あなた自身のために生きてください.. それが,,本当の幸せへの道なのですから