「他人のババは卒業式に来るなよ」
その言葉を、私は息子の口から直接聞いた。卒業式の数日前のことだ。私は他人。この家に私の居場所はない。その事実をようやく受け入れた私は、卒業式の前日、誰にも何も告げずに家を出た。そして迎えた当日の朝、焦ったような息子の声が電話の向こうから聞こえてきた。
「おい、お前今どこにいるんだ?」
どうやら相当混乱しているらしい。
「お前、今日が何の日か分かっているのか?今戻ったら今回のことは許してやるから早く帰ってこい」
「別に許していただかなくて結構です」
そう言い残して電話を切る。スマホには何十件ものメッセージが届いていた。自業自得だ。私は自然と口元がほころぶのを感じた。そっとスマホの電源を切り、今日の晩御飯のことを考え始めた。もうあの家のことは、私の人生とは関係ない。
私はさち子。四十五歳の専業主婦だった。三十二歳で結婚して、もう十三年が経とうとしている。夫の秋斗さんとは親友の紹介で出会った。引っ込み思案でなかなか人と仲良くなれない私にとって、明るくて活発な秋斗さんは眩しすぎた。初めて会った時、私は少しおじけづいてしまった。私なんかが釣り合うはずがない。そう思ってしまったのだ。
だが秋斗さんはそんな私の気持ちをよそに、私が作る料理が美味しいと褒めてくれ、内気な性格も家庭的で素敵だと言ってくれた。正反対の彼に、私はだんだんと惹かれていった。秋斗さんからのアプローチで交際を開始し、順調に楽しい時間を過ごしていた。しかしある日、彼の口から衝撃的な言葉が飛び出した。
「実は、五歳になる息子がいるんだ」
そう告白されたのは、交際して半年が経ち、プロポーズをされた時だった。バツイチだということは友人から紹介された時に知っていた。しかしまさか子供がいるとは思わなかった。両親は猛反対した。特に父は、「バツイチで子持ちなんて絶対に許さん。さち子が苦労するに決まっている」と怒り、両家の顔合わせにも出席してくれなかった。両親の反対。結婚してすぐに母親になるという不安。戸惑い迷う私を見て、それでも秋斗さんは「絶対に幸せにする」と約束してくれた。
きっとこの人となら何でも乗り越えていける。そう思った私は、両親の猛反対を押し切って結婚した。そして家族として、彼の息子の蒼太君を立派な大人に育てようと心に誓った。
しかし現実は想像以上に厳しかった。結婚してすぐに、秋斗さんと蒼太君の三人で暮らし始めた。しかしこちらからいくら歩み寄ろうとも、蒼太君は私にほとんど口を聞いてくれなかった。
「蒼太君、おはよう」
「蒼太君の好きなハンバーグを作ってみたんだけど、どうかな?」
「いらない。本当のママが作ったハンバーグじゃないと食べない」
そう言って、ハンバーグが乗ったお皿を床に落とす。悲しくて涙を流しながらハンバーグを拾い、床を拭いた。蒼太君は私のことを「偽物のママ」とよく言った。大好きな母親と離れてすぐに新しい母親が現れたのだから、小さな彼が混乱してしまうのも無理はない。家族の母親として精一杯向き合っているつもりでも、そう言われてしまうと返す言葉がなかった。
秋斗さんの希望で専業主婦になった私は、蒼太君との付き合い方を相談する相手もいなかった。一日中家で過ごすうちに、ストレスはどんどん溜まっていった。このままでは精神的に参ってしまう。そう感じた私は秋斗さんに相談したが、彼の言葉は私が期待していたものとはまるで違っていた。
「家事と育児はお前の仕事だろう」
「でも、家族なのよ。少しくらい助けてくれてもいいじゃない」
「俺は家族の役割として仕事をしているんだ。お前の役割で起きたことは、お前が解決するのが当たり前だろ。努力が足りないんじゃないのか」
そう言うと、秋斗さんは「俺は仕事で疲れているんだ」と言い、すぐに寝室へ向かってしまった。きっと彼の言う通り、私の努力が足りないのだ。そう思い込むことにして、より一層家事と育児を徹底し、必死に辛い日々を我慢し続けた。だが努力も虚しく、蒼太君が大きくなればなるほど、私への暴言は増えていった。
「蒼太君、明日の体操着、ここに置いておくわね」
「名前で呼ぶなよ、おばさん。あんたはどうせ他人なんだから」
そう言って体操着を乱暴に奪い取り、部屋の扉をバタンと閉める。小学校高学年になるにつれて、こうした会話が増えていき、しまいにはほとんど口を聞いてくれなくなってしまった。何度も我慢の限界を迎えた私は、その度に秋斗さんに相談した。しかし彼は相変わらず「私の責任だ」と取り合ってくれなかった。さらには「蒼太がこうなったのも、お前の努力が足りなかったからだ」と私を罵倒するようになった。
「ずっと家にいるくせに、何をしてきたんだ」
「私なりにちゃんと彼に向き合ってきたつもりだったわ。でも、うまくいかなくて」
「料理しか脳がない女だと思ってたけど、まさかここまでだったとはな。もうお前に蒼太は任せられない。勝手にしてろ」
「ちょっと待って、秋斗さん」
問いかけも虚しく、秋斗さんは会話を終わらせてしまった。それ以来、蒼太君のことは全て秋斗さんが管理するようになった。私が蒼太君と会話することはほぼなくなり、まともな話を交わさないまま、彼は中学を卒業した。ある日、花束を持って帰ってきた蒼太君を見て、無事に高校に入学したのだと知った。秋斗さんから蒼太君の情報は、全く知らされていなかったのだ。入学式の日すら、私は知らなかった。
「蒼太君、入学おめでとう。入学式、今日だったのね」
「言っただろうが。話しかけるなって言っただろ。お前はただ料理だけ作っておけばいいんだよ。だって、それしかできないんだからな」
そうにやにやと笑う蒼太君に、私は何も言い返せなかった。彼は秋斗さんと私の普段のやり取りを見聞きしていたのだろう。私を憎むだけでなく、完全に見下していた。きっと彼は、私が「存在していてもいい存在」ではなく、「扱ってもいい存在」だと思ったのだ。それが分かった瞬間、恥ずかしさと悲しさで胸がいっぱいになった。もうこの家に、私の居場所はない。そう理解したのだった。
そして、ただ苦痛に耐えるだけの毎日が過ぎていった。気づけばあっという間に、蒼太君の高校卒業の時を迎えていた。相変わらず卒業式の日は知らされていなかったが、たまたまテーブルの上に残されたプリントを見て、今週の金曜日だということが分かった。どんな扱いを受けようとも、蒼太君は私にとって大切な息子だ。息子の晴れ姿を見たいと願うのは、母親の本音だろう。私はたまらずプリントを握りしめ、蒼太君に声をかけた。
「蒼太君、これ、返して。卒業式、今週なのね。私も見に行ってもいいかしら」
「はあ?何言ってんの?本当の母親でもないくせに。恥ずかしいから、ババは来るなよ」
「そう、分かったわ」
心底嫌そうな顔をして、汚いものを触るようにプリントを奪い取る蒼太君。正直こうなることはどこかで分かっていた。それでも、いざ面と向かって言われるとショックだった。私は感情を押し殺し、家事に戻った。
その夜、たまたま目が覚めてしまった私は、水を飲もうとリビングに向かった。するとリビングの明かりがついており、秋斗さんと蒼太君の声が聞こえてきた。聞いてはいけない。そう直感が叫んでいたが、私はそっと近づき、扉に耳を近づけた。
「そう、あの火政府が卒業式に出たいとか言い出して、困ったよ」
「はあ?随分図々しいな。どこで知ったんだか」
「父さんがプリントをテーブルに置きっぱなしにしてたからだろ」
「そうだったか。すまない、すまない」
「頼むよ。俺、卒業式で答辞を読むって言っただろ。卒業生代表の母親が火政府だって。もし知られたら、俺恥ずかしくて外も歩けないよ」
火政府?まさか、私のこと?楽しげな二人をよそに、私の鼓動はどんどん速くなる。これ以上聞いてはいけない。そう頭では分かっているのに、体が動かない。
「それにしても、あいつよくこんな生活に耐えられるよな」
「無能だと、出ていくこともできないんだな。かわいそうに」
「ははは。確かにそうだな」
「まるで、火政府という名の奴隷みたいだな」
「うわ、父さん、さすが言えてる」
二人の笑い声が、ひんやりとした廊下に響いた。まるで私だけが別の世界に取り残されたように、時間が止まった気がした。どんなにひどいことを言われようとも、家事も育児もやり抜いてきた。なぜなら、家族だからだ。母親になると、あの時決意したからだ。だけど、二人にとって私は家族ですらなかった。火政府という名の奴隷としてしか、見ていなかったのだ。
ふと、料理や洗濯で荒れてしまった手に目を向ける。皹が深く刻まれて、所々赤く切れている箇所もある。今まで私がしてきたこと、全て無駄だったんだ。この傷だらけの手も、全てが無駄だった。私の今までの生活が、全て否定されたのだ。そのことに気づくと、頭が真っ白になった。それと同時に、何かがプツンと弾ける音がし、体の奥深くからふつふつと怒りが湧き上がり、体が震え始めた。
なんとか怒りを抑え、二人にバレないようそっと寝室に戻った。そして布団に潜り込むと、ある決意をし、計画を立てることにした。
そうして迎えた金曜日。蒼太君の卒業式当日だ。朝七時頃、スマホが鳴った。発信元は蒼太君だった。かかってくることは予想していたので、それほど驚きはしなかった。ふっと小さく息を吐き、電話に出る。すると電話口から怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、お前今どこにいるんだ?」
「別に、どこだっていいでしょ」
「ふざけるな。お前、今日が何の日か分かっているのか?なんで家にいないんだ?」
蒼太君はとても混乱しているようだ。それもそのはず。私は木曜日の夜中、二人が寝静まったのを確認し、バレないように家を出ていたのだから。
「どこに行こうが私の勝手でしょ。だって私は、母親じゃなくて火政府ですから」
「お前、何言ってるのか分かってるのか?とにかく、俺と父さんのスーツの場所だけさっさと教えろ。そうしたら許してやる」
「別に、許していただかなくて結構です。あなたがもう俺に関わるなと言ったのでしょ。なら、自分でどうにかしてください。さようなら」
そう言い残すと、私は電話を切った。今頃、家中のクローゼットを必死に探しているのだろう。だが、二人のスーツは見つかることはないだろう。なぜなら、洗濯や衣服の管理は全て私が行っていたからだ。秋斗さんのスーツは週の初めにクリーニングに出していた。どれを着ていってもいいようにと、全てのスーツをクリーニングに出しており、卒業式の前日に受け取る予定だった。クリーニング屋の場所すら知らない秋斗さんや蒼太君が、すぐにスーツを受け取りに行くことはほぼ不可能だろう。そして蒼太君のスーツは、私が今持っているスーツケースの中に入っている。蒼太君の高校は私服だったため制服がなかった。だからせめてもの卒業のお祝いとして、スーツを買ってプレゼントしようと考えていたのだ。だが、あんな会話を聞いた後だ。母親として蒼太君にスーツを渡すことは、二度とないだろう。
スマホに目を向けると、「スーツはどこだ?」「電話に出ろ」「家に帰って来い」など、何十件ものメッセージが届いていた。自業自得だ。そう思い、私はスマホの電源を切った。
後日、近所に住むママ友からメッセージが来た。中学時代、私が授業参観や行事に来ないことを心配した彼女と、連絡先を交換していたのだ。彼女の息子は蒼太君と同じ高校に進学しており、卒業式の当日、秋斗さんと蒼太君は欠席したらしい。卒業生代表が欠席したというのでかなり話題になり、どうやら「着ていく服がなかったらしい」と噂になっているようだった。秋斗さんはともかく、蒼太君も卒業式に参加できなかったと知ると、少し胸がちくりと痛んだ。ただ、あんなにひどいことをされて、私の人生全てが否定された。あの二人が招いた、当然の報いだ。そう言い聞かせるようにした。
そうして私が家を出て行ってから、約一ヶ月が経とうとしていた。何をするにもやる気が起きず、私は実家でのんびりしていた。すると突然、家のチャイムが鳴った。両親は出かけていたため、私がインターホンに出ると、そこには秋斗さんが立っていた。まさか、迎えに来たのかしら?複雑な気持ちになりつつも、少し期待をしている自分がいる。平常心を保ちながらドアを開けると、秋斗さんは何も言わずにリビングへずんずん入っていき、椅子に座ると私も座るように言った。私が座るやいなや、一枚の紙をテーブルに叩きつけた。その紙には「離婚届」と書いてある。私の淡い期待は、一瞬にして崩れ去った。やっぱり、期待するだけ無駄だった。しかし秋斗さんは、期待を裏切っただけではなかった。彼の口から、信じられない言葉が次々と飛び出した。
「今付き合っている女性と結婚することになったんだ。離婚してくれ」
「え?どういうこと?何度も言わせるな。お前と違って、若くて気の利く美人と結婚すると言っているんだ」
「何よそれ。私が出ていって一ヶ月しか経っていないじゃない。それなのに、新しい相手がいるってどういうこと?」
「お前には関係ないだろう。それに、蒼太も新しい母親ができて喜んでいるんだ。分かったら、さっさと記入してくれ」
離婚届の秋斗さんの欄は、すでに埋まっている。もう何を言っても無駄なのだろう。それにもう、この二人に振り回されるのはごめんだ。私は諦めてサインをした。
「じゃあ、これは俺が出しておくから。蒼太が気になるからってもうあの家には帰ってくるなよ。お前のものはこっちで処分しておくから」
馬鹿にしたように笑う秋斗さん。離婚届をしまいながら冷たくそう言い放つと、彼は家を後にした。後悔しても知らないんだから。私はスマホを手に取り、ある場所に電話をかけた。
それから数日後、秋斗さんから突然電話がかかってきた。しぶしぶ電話を取ると、電話の向こうから怒りと混乱に満ちた声が聞こえてきた。
「おい、どういうことだ?」
「まだ何かしら?」
「家を出ていけって、不動産屋から電話が来たんだよ。どういうことか説明しろよ」
「本当に何も知らなかったんだな。呆れて言葉も出ないわ」
ここまで秋斗さんが家庭のことに無関心だとは思わなかった。私は全てを説明してあげることにした。
「あなたたちが、出ていけって言ったでしょ。だからその日に不動産屋に電話して、あの家を売ったの」
「どうしてお前が家を売れるんだ?所有者は俺じゃないのか?」
「そうね。あなたは引っ越しも手続きも全部私に押し付けたから、何も知らないでしょうね。あの家も土地も、私の父親が所有しているのよ。結婚したら自動的に旦那のものになるとでも思っていたの?」
「それは…」
「お父さんは、あなたとの結婚に反対していたけど、何かあった時のためにと家と土地を渡してくれたの。私が世帯主を変更することもできたけど、万が一のためにそのままにしておいて正解だったわね」
無言になる秋斗さん。ようやく状況が理解できたのだろう。もうあの家に住むことはできず、明日から一家三人、路頭に迷うことになるのだ。まずいことになったと分かったのか、手のひらを返したように必死に許しを乞うてきた。
「た、頼む。謝るから、家を売るのだけはやめてくれ。明日からどうやって生活すればいいんだ」
「さあ、自分たちで考えたら?あなたが仕事をするのなら、どうするか考えるのは新しい奥様の役割なんじゃないかしら」
「あいつはまだ若くて何も知らないから、そんなことできるはずない」
「あら、そうなの?まあ、そうでしょうね。既婚者と知っていながら関係を持つような頭の悪い子だし」
「お、お前、どうしてそれを…」
さらに絶望に落ちたのか、今までの秋斗さんとは全く違う、弱々しい声が聞こえてきた。実は前々から秋斗さんの行動が怪しいと感じており、私は父親に相談していたのだ。状況を聞いた父親は、秋斗さんの私への扱いに憤慨しつつも、探偵に依頼することを勧めた。そこから定期的に調査をしてもらっていたのだ。そして離婚届を突き出されたあの日、私は不倫を確信し、探偵事務所に電話をした。すると案の定、秋斗さんは私と結婚している時から不倫をしていたのだった。
「そのうち、弁護士事務所から慰謝料の連絡が来ると思うわ。確認しておいてよね」
「今までのことは全て謝る。だから、どうかやめてくれ。家もなくなって慰謝料まで請求されたら、どうやって生活していけば…」
「秋斗君、いい加減にしないかね」
父の声だった。電話の声が聞こえてきて、父に代わってもらったのだ。
「結婚には反対したけど、さち子が幸せならそれでいいと思っていた。だけど、あまりにも君たちは非常識だ。これ以上さち子に何かするなら、弁護士を通して話し合わないといけなくなるね」
「…分かりました」
秋斗さんはそう小さな声で言うと、諦めたのか電話を切った。
「父さん、ありがとう」
「いいんだ。また何かあったら、いつでも言うんだぞ。守ってやれなくて、すまなかった」
父は、悔しさと悲しさが混じった表情をしていた。いくつになっても、娘は娘だということだろう。ここまで傷つける男との結婚を許してしまったことを、後悔しているのだ。その顔を見て、私は胸がぎゅっと締め付けられた。今までは、自分さえ我慢すればそれでいいと思っていた。だが、自分が我慢することで、誰かを苦しめてしまうこともあるのだ。これからは、大切な人のために、自分を大切にしよう。そう心に決めたのだった。
その後、無事に夫との離婚が成立し、分割ではあるものの慰謝料を払ってもらっている。しかし数ヶ月が経った頃、秋斗さんから慰謝料の支払いを延長して欲しいとの相談があった。
「延長して欲しいって。その理由は何?」
「それは…」
「理由を濁すなら、弁護士さんに相談するけど、そうなったらご実家にも連絡が行くでしょうね。あなたの不倫で離婚したこと、知らないんでしょ?理由を話さないなら、電話切るわね」
「待ってくれ。実は、会社を首になったんだ」
「突然、どうして?」
「家もなくて慰謝料もあって、俺の給料じゃ家族を養っていくのは難しいと思ったんだ。それで、つい…。任されてた会社の売上金に手を出してしまって、それで…」
開いた口が塞がらない。あんなに明るくて友達も多かった人が、追い詰められるとこうなってしまうのか。かわいそうにも思うが、私にしたことを到底許すことはできない。
「理由は分かったわ。でも延長はしない。新しい奥さんにも働いてもらって、どうにかして」
そう言い残して、私は電話を切った。その後、どうしても弁護士を出されたくなかったのだろう。秋斗さんと奥さんはアルバイトを始め、なんとか生活費を稼いでいるらしい。慰謝料も滞りなく払ってもらっている。蒼太君はと言うと、いくつか大学に受かっていたが学費を払えなくなり、退学に追い込まれたらしい。こんなにも簡単に、人生って変わってしまうのね。もし私が、あのまま二人との生活を続けていたらと思うと、ぞっとする。
それからというもの、私は第二の人生をやり直すべく、仕事復帰をした。小さい頃からの夢であった自分のお店を持つため、小さなカフェでアルバイトを始めた。毎日立ちっぱなしで覚えることも多く、正直大変だ。それでもその忙しさが楽しくて、毎日が充実している。今度こそは、自分を大切にしよう。でも、もう結婚はこりごりね。そう思いながら、今日もカフェに出勤するため、玄関の扉を開けた。
