意識が戻った瞬間、全身に管が刺さっていることに気づいた。動くたびに激痛が走る。だけど、生きている。そう思って必死に視線を動かすと、すぐ近くで夫と義母が楽しそうに話していた。「お医者さんが言うには、今夜が山らしいし」「ま、こいつがくたばったらすぐ再婚だな」。え?…

意識が戻った瞬間、全身に管が刺さっていることに気づいた。動くたびに激痛が走る。だけど、生きている。そう思って必死に視線を動かすと、すぐ近くで夫と義母が楽しそうに話していた。「お医者さんが言うには、今夜が山らしいし」「ま、こいつがくたばったらすぐ再婚だな」。え?...

病室の天井が見えたとき、体の自由が効かないことに気づいた。全身が管だらけで、少し動かすだけで激痛が走った。それでも目が覚めた安堵感はあった。夫と義母がいるはずだと、必死に視線を彷徕わせた。

夫は窓際のソファに座り、義母と何やら楽しそうに話し込んでいる。私が起きたことに気づいていないのか、2人は私の方を一度も見ようとしない。むしろ、楽しそうな声が聞こえてきた。

「じゃあ、そのお嬢さんはあなたと結婚するつもりなのね。」

「ああ、彼女はまるまるグループの社長令嬢なんだよ。大金持ちなだけあって、すごく上品で優しい。こいつとは大違いだよ。」

声のトーンが、私への侮辱で盛り上がっている。意識が朦朝とする中、2人の会話の意味を必死に理解しようとした。すると、義母が続けた。

「あの嫁の実家って、お金はあるはずなのに私たちにちっともよこさないものね。まるまるグループのお嬢さんだったら、使いきれないくらいの財産があるんでしょうね。」

「そしたら私も老後が安心だわ。実は気になっていた高級老人ホームがあってね。」

「おいおい母さん、気が早いよ。まだ生きてるんだからさ。」

「ま、こいつがくたばったらすぐ再婚だな。お医者さんが言うには、今夜が山らしいし。」

「そうね。待ちどしいわ。」

その瞬間、全身の血が逆流するのを感じた。あの2人は、私が死ぬのを待っている。そして、私が死んだら夫は別の女と再婚して、義母は贅沢な暮らしをするつもりなのだ。

体中の痛みが、怒りに変わっていくのを感じた。あの2人に地獄を見せてやるまで、絶対に死ぬわけにはいかない。私は自分にそう言い聞かせた。

それからの私は驚異的な速さで回復していった。医師が「ちょっとした奇跡だね」と首をかしげるほどだった。怒りのパワーは凄まじく、辛いリハビリも歯を食いしばって乗り越えた。何度も泣きそうになったが、あの日の2人の会話を思い出すたびに、体の奥から力が湧いてくるのを感じていた。

ある程度回復した頃、私は両親にすべてを打ち明けた。両親は私の話を聞くや否や、私以上に激怒した。

「あの男とあの女、どんな手を使っても痛い目に合わせてやらないと気が済まないわ!」

母が声を荒げた。父も静かに、しかし鬼のような形相で頷いていた。

実は私の実家は代々の資産家で、かなり裕福だった。しかし夫はそのことをよく思っておらず、両親も夫の人間性を見抜いていたため結婚に反対していた。だから、金銭的な援助は一切しなかったのだ。それが夫には面白くなかったのだろう。

父は言った。

「あの男は気に食わなかったから金は出したくなかったが、お前に関しては別だ。金に糸目はつけない。優秀な弁護士や探偵を手配するから安心しなさい。」

父はリハビリで体が辛い私に代わって、あらゆる手配をしてくれた。弁護士も探偵も、私が直接動くことなく話を進めてくれた。

退院の日が近づいたある日、病室に来ていた夫が義母と電話で話しているのを偶然聞いてしまった。

「退院したら離婚の話を進めるよ。で、親権は俺たちが取るから、何としてでも義理の両親を丸め込まないと。」

「そうね、あの娘だって、もう年だし養えるはずないわよ。それに、まるまるグループの令嬢に色々と取り持ってもらわないとね。」

私はその場で冷や汗が出る思いだった。そして、この会話を両親にそのまま伝えた。退院の日は、両親に病院ではなく私の家に来てもらうよう依頼した。

退院の日、私は車で家まで送ってもらった。家に着くと、夫がリビングに呼んだ。

「退院早々だけど、大事な話があるから座ってくれ。」

私は何も言わずにリビングへ入った。ソファには、含み笑いをした義母が座っていた。その隣のテーブルには、記入済みの離婚届が置いてあった。私を見た義母は、勝ち誇ったように口元を歪めた。

私はそれを見て、静かに言った。

「ちょうど良かった。実は私も両親を呼んでいて、もう家の前に来ているんです。」

そう言って、私は玄関の鍵を開けた。すると、私の両親が笑顔で家に入ってきた。そして、その後ろにはスーツ姿の男性が一人。担当の弁護士だった。

夫と義母がポカンとしていると、弁護士が口を開いた。

「早速ですが、本題に入らせていただきます。離婚は成立しますが、旦那様側に5年にわたって交際関係にある女性がいらっしゃるため、相当額の慰謝料を請求させていただきます。もちろん、親権も奥様側です。」

夫は一瞬、言葉を失った後、激怒して声を荒げた。

「何を証拠にそんなこと言うんだ! 名誉毀損で訴えるぞ!」

しかし弁護士は動じず、封筒を取り出した。

「探偵に依頼して、不倫の証拠は抑えています。職場関係の女性だそうですので、旦那様の会社にも報告させていただきました。相手側の女性のことは『まるまるグループの社長令嬢』だと言っていたそうですが、調べたところ完全な虚偽でした。ごく普通の一般家庭の方です。もちろん、相手の女性のご実家の住所にも、内容証明郵便で慰謝料を請求させていただきました。」

淡々とした説明が終わった瞬間、夫と義母は血の気が引いた顔で立ち尽くしていた。次の瞬間、義母が奇声を上げて私に飛びかかろうとした。

「この泥棒猫が!」

義母は手に灰皿をつかみ、私目がけて振りかぶった。しかし、その瞬間だった。ずっと黙っていた父が、静かに口を開いた。

「見苦しいですよ。」

すると、隣に座っていた母が私をかばうように立ち上がった。母は昔、合気道の先生をしていたのだ。灰皿が降り下ろされる直前、母は義母の手首を掴み、涼しい顔で「はい、正当防衛」と言いながら、その場に関節技を決めて組み伏せた。

「い、痛い! 離しなさい!」

義母の悲鳴が響く中、父が茶をすすりながら言った。

「おやおや、賑やかな家ですね。ここは道場ですか? 私は娘をやるとは言った覚えはないんですがね。」

私は初めて本気を出した両親の姿を目の当たりにして、ちょっと驚いてしまった。母の動きは完全に現役のそれで、老いるということを感じさせなかった。

その後、離婚の手続きはスムーズに進んだ。元夫は不倫相手とは破局したそうだ。あの女は、元夫のお金を当てにしてすがりついてきたというが、元夫は無視したらしい。結局、あの女に捨てられた元夫は、一文無同然で実家に戻っていった。

私と娘は実家で暮らすことになった。両親は可愛い孫と一緒に暮らせるのを、本当に喜んでくれている。夕食の準備を手伝っていると、母がふと言った。

「あの時の、義母さんの顔を見たときは、この世の何よりもすっきりしたわね。」

私は笑いながら頷いた。確かに、あの2人の顔は今でも忘れられない。

娘は新しい学校にもすぐに馴染み、笑顔を見せてくれるようになった。私もリハビリを続け、徐々に普通の生活を取り戻している。通院の帰り道、何気なく元の家の前を通りかかったことがある。カーテンは閉められたままで、誰か住んでいる気配はなかった。噂では、あの家は競売にかかるらしい。

ふと、あの病院の日のことを思い出す。あの時、私は死ぬのを待っていると知った。しかし、あの日を境に私は強くなった。怒りが私を生かした。復讐心が私を生かした。

しかし、その感情が今は昔のことのように思える。娘を抱きしめながら、私は思う。私の人生は、あの2人との結婚生活の何倍も、何十倍も豊かだと。

父は今でも穏やかな笑顔で、娘を膝に乗せている。母は台所で何やら楽しそうに料理を作っている。私はそんな両親を見ながら、改めて思うのだ。

あのとき死ななくて本当に良かった、と。

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