【シアトル(米国)発=サッカー特別取材班】 北米を舞台に熱戦が続くサッカーワールドカップ。その命運を分けるラウンド16で、開催国アメリカの前に立ちはだかったのは、欧州の雄・ベルギー代表だった。試合前、世界中のメディアの視線は一つの「歪み」に注がれていた。直前の試合で退場処分を受けながらも、FIFAの異例の裁定によって出場が認められたアメリカの「渦中のエース」、フォラリン・バログン。この不穏なドラマを背景に、シアトルのルメン・フィールドは地鳴りのような歓声に包まれたが、90分後、ピッチに残されたのはベルギーの圧倒的な歓喜と、開催国の残酷な終焉だった。

試合の火蓋を切ったのは、ベルギーの新星だった。前半9分、若き才能シャルル・デ・ケテラーレが鮮烈な先制弾を叩き込み、アメリカの目論見を早くも崩しにかかる。地元サポーターの地鳴りのようなブーイングを物ともせず、ベルギーは冷静にボールを動かし続けた。対するアメリカも意地を見せる。前半31分、マリク・ティルマンが完璧な直接フリーキックをネットに突き刺し、スタジアムは狂喜乱舞の渦と化した。開催国の底力が、試合を完全に振り出しに戻したかに見えた。
しかし、真の強豪の恐ろしさは、相手が歓喜に沸いたその瞬間にこそ発揮される。同点弾からわずか61秒後の前半33分、再びデ・ケテラーレがアメリカの隙を突き、電光石火の勝ち越しゴールを奪う。この一撃は、アメリカの精神的な支柱を根底から揺るがすのに十分だった。追いついた喜びを噛み締める時間すら与えないベルギーの冷徹な効率性は、まさに世界トップレベルの戦術眼が成せる業であった。
後半に入ると、アメリカの焦りは守備の崩壊という最悪の形で表面化する。後半57分、守護神であるGKマット・フリーゼが痛恨のキックミス。そのこぼれ球を、ベルギーのベテラン、ハンス・ヴァナケンが見逃さずに無人のゴールへと流し込んだ。決定的な3点目。スタジアムを支配していた熱気は、瞬く間に絶望の静寂へと変わった。組織的なミスを見逃さないベルギーの鋭さは、百戦錬磨の経験が生み出す必然の結果だった。
そして仕上げは、やはりこの男だった。試合終盤に投入された絶対的エース、ロメル・ルカク。後半アディショナルタイム、途中出場ながらも牙を研ぎ澄ましていた重戦車は、鮮やかな個人技から4点目のゴールを奪い、アメリカの息の根を完全に止めた。渦中のバログンがベルギーの堅牢なディフェンス陣の前に完全に沈黙する一方で、ピッチに君臨したルカクの存在感は、ストライカーとしての「格」の違いを世界に見せつけることとなった。
4-1。終わってみればベルギーの圧倒的な快勝だった。この敗北により、アメリカはラウンド16で姿を消すこととなり、カナダ、メキシコに続き、北米の共催国3カ国すべてが同じステージで全滅するという、開催国にとっては極めて屈辱的な歴史が刻まれた。ルールを巡る議論でピッチ外を騒がせたアメリカの挑戦は、ベルギーという本物の壁によってあまりにも冷酷に、そしてフェアイメージを保ったまま収束させられたのだ。
劇的な勝利を収めたベルギーの次なる舞台は、7月10日にロサンゼルスで行われる準々決勝だ。対戦相手は、ポルトガルとの激闘を制した欧州王者スペイン。世代交代を進めながらも、ルカクのような大黒柱が健在のベルギーが、無敵艦隊を相手にどのような戦術を見せるのか。世界王者の称号へと続く道は、ここからさらに険しく、そして美しく加速していく。


