病室に入った瞬間、夫の秀がつぶやいた。
「俺、一生車椅子生活らしい。下半身不随だって言われた。」
直後、一緒に来ていた義両親が膝から崩れ落ちた。
「そんなまさか、秀が…なんてことなの?信じたくない。」
驚きの言葉の後、義両親はすぐに立ち上がり、夫に励ましの言葉をかけた。
「大丈夫だぞ、秀。俺たちがついているからな。」
「そうよ。こんな時こそ家族で協力しないとね。優香さん。」
私を見ながらうんうんと頷く義両親。しかし、次の私の行動は夫と義両親にとってありえないものだった。
「もう秀ったら何言ってんのよ。面白すぎ。お腹痛い。」
夫の背中をバンバンと叩いて私は大爆笑した。その瞬間、パンと乾いた音が鳴る。義母が私の頬を叩いた音だ。
「優香さん、あなたそれでも秀の奥さんなの?愛する人が一生歩けなくなったのよ。元気づけようとしているのかもしれないけど、やり方ってものがあるでしょう。」
「母さん、落ち着かないか?そんな大声出したら隣の病室まで聞こえるぞ。でも優香さんも優香さんだ。たとえ夫じゃなくても、怪我人を前にバカにしたような態度。わしも許せないなあ。」
「そうだよ、母さん。隣の病室に聞こえるのはまずいよ。きっと優香も混乱してるんだ。そりゃそうだよな。夫が突然下半身不随になったら。」
「仕事はリモートでやるつもりだけど、俺、優香には迷惑かけたくない。だから離婚も考えてる。今日はそれも伝えたかったんだ。」
そこまで考えていたなんて、と言いたそうな表情の義両親。そして悲しそうに俯く夫に、私はこう言い放った。
「あ、全然大丈夫だよ。もう離婚届け出しておいたから。今日で会うのも最後かもね。」
「は?」という声が夫と義両親から同時に漏れる。さて、ここからが本番だ。今日、私は全てを打ち明けたいと思う。
夫と義両親は互いに顔を見合わせ、挙動不審になりながら私に尋ねてきた。
「優香、冗談だよな。」
「もう離婚届け出したって、どういうことなんだ?」
「そうよ。こんな時に何を言ってるの?ここから夫婦で支え合っていかなきゃいけない時に。冗談にしては酷すぎる。何か事情があるのか?」
私は3人の問いかけに一つ頷いて見せた。もちろん、冗談なんかじゃありません。私は本気です。秀だってそうでしょ。だって、ずっと記入済みの離婚届けをちらつかせて、私にきつく当たってたんだから。3人は目を見開いた。私は夫に向かい、これまでのことを思い出しながら話す。
「結婚してから1年くらい経った後かしら?あなたは急に私に冷たくなったわよね。私、何か悪いことをしてしまったのかと思って、何度も理由を尋ねたわ。でもあなたは何も話してくれなかった。私にひどい言葉をかけたり、家事に必要以上の文句をつける頻度が上がっていくばかり。私、必死になって謝ったわ。これ以上あなたを怒らせたくない。私も怒られたくない。もっと昔みたいに笑って過ごしたいって思って。でも結局、私のどこに問題があるか分からなかったの。」
義両親の目が夫に向く。夫はゆっくりとため息をつくと、大きく頭を振った。
「なんか誤解があるみたいだな。そりゃ元々他人同士だった2人が一緒に暮らしてるんだ。喧嘩の1つや2つはあったさ。でもそれはあくまで家族の中で深めていくためのプロセスに過ぎない。俺たちはどこにでもいるありふれた夫婦さ。」
夫が白い歯を見せながら爽やかに笑って見せると、義両親は互いに顔を見合わせながら私を見た。
「正直、俺たちが数十年見てきた秀は、人をないがしろにするようなやつじゃない。優香さんのことを疑うわけではないけれど、どうしても私たちの子がそんなひどいことをするとは思えないのよ。」
ここでも私は一つ合槌を打って、義両親に寄り添う姿勢を見せた。
「もっともなご意見だと思います。では、一旦秀と私の話は置いておいて、今回の事故についてお話ししましょう。」
「事故についてって、これ以上何を話すことがあるんだよ。どんな事故であったかは、もう当事者の俺から話を聞いただろう。」
夫は不機嫌そうな顔で尋ねると、義両親も首を振る。私は満面の笑みを咲かせた。
「実は今回の事故は、秀一人で起こしたわけではありません。助手席に女性を乗せた状態で起こったんです。」
瞬間、夫の顔色が変わった。
「な、なんでそれお前が知ってるんだ?い、いや、実は優香の言った通り、助手席には会社の同僚を乗せていてさ。でも、女性と2人で車に乗った状態で事故なんて、ちょっと言いにくくて、それで黙ってたんだ。」
「秀、お前、なんでそんなに焦ってるんだ?そうよ。会社の人と同乗することはよくあることでしょう。特に隠すようなことはないはずよ。」
義両親の不思議そうな顔に、夫は軽く咳払いをして私をきつく睨みつけてきた。
「とにかく、下半身不随になった俺に変な疑いをかけるなんてふざけんな。こっちは今、先が真っ暗でそれどころじゃないんだ。」
「ふ。まだ隠し事をするつもりなのね。」
私の探るような視線に、夫は一瞬肩を揺らしたが、すぐに唾を飛ばす勢いで反論する。
「一体何のことだ?突然体を悪くした人間にするような話じゃないだろう。」
私は間を置いて、さっきの鉄槌を振り下ろした。
「さっきから誰の話をしているのかしら。下半身不随は、あなたの浮気相手でしょ。」
「え、何言うか。なんで?」
「秀に浮気相手がいるだって。しかも、その人が下半身不随。じゃあ、今まで沈痛な表情をしていた秀は何なの?優香ちゃん、詳しく話してちょうだい。」
義両親からの求めに、私は心よく応じることにした。
「先ほど、秀が私に冷たくなったとお話ししましたよね。同時に、彼は出張と残業も多くなりました。スマホを見る頻度も上がった上、トイレやお風呂など、どこに行くにもスマホを共に連れていくようになったんです。私といる時には来たこともないようなブランド品を購入するようになり、ごく自然な流れで私は浮気を疑いました。」
私は一度視線を外し、病室に置いてある、事故当時の夫の靴に視線をやった。明らかにビジネス用とは違う、華やかな光沢のある品に、義両親も眉をひそめた。
「常識的には褒められた行動ではありませんが、私は夫のスマホを覗きました。そして、浮気相手とのメッセージのやり取りや写真の一覧から、浮気を確信したのです。それから、より確実な証拠を掴むために、浮気の現場を押さえなければなりません。私は夫を尾行して、彼と浮気相手が車に乗り込む現場を見ていました。そんな中、秀が交通事故にあったのね。つまり、事故は秀と浮気相手のデート中に起こったものだった、ということか。」
「その通りです。お父さん、お母さん、こちらをご覧になってください。これが2人がやり取りしていたメッセージの内容です。」
私は自分のスマホの写真を見せる。こんなこともあろうかと、夫のスマホを覗いた時に撮っておいたのだ。2人の顔が見る見るうちに険しくなり、勢いよく夫の方を振り向いた。
「秀、どういうつもりだ?優香さんを裏切っただけでなく、こんな嘘までついて、私たちを騙そうだなんて。直ちに理由を説明しなさい。」
「違うんだ父さん、母さん。これには深いわけがあって、仕方なかったんだ。とにかく俺の話を聞いてくれ。」
隣に聞こえないよう静かに話し合おう、という空気はどこへ行ったのか。3人はこれ以上ないくらいの大音量で言い争い始めた。私はこれ幸いと病室を抜け出し、そっと隣の部屋へと向かう。その間も、親子ならではの遠慮のない物言いは止まらない。
「大体、父さんも母さんも優香を甘やかしすぎじゃないか。実の息子がこんなに訴えているのに、耳も貸さないなんて。今までずっと2人のことを尊敬していたのに、がっかりだよ。」
「がっかりはこちらのセリフだ。何十年と必死で働いて家族を養い、お前をいい大学まで行かせて、自力で飯食っていくようになってようやく肩の荷が降りたと思えば、この親不孝者が。甘やかしすぎてしまったのはあなたよ。親を騙すような大馬鹿者に育ってしまうなんて。どこで道を間違えたのかしら?」
「時を戻せる方法があるのなら、もう一度やり直したいくらいよ。」
「それこそ俺は、この結婚自体をやり直したいよ。最初から気に食わなかったんだ。いつも俺の顔色を窺うような女が。あれが優香の…」
夫の一言で、義父母も義母もハッとしたような顔つきで、辺りを見回した。どうやら私が抜け出したことに気づいていなかったらしい。私はそろそろ潮時だなと思い、もう一度夫の病室の扉を開けた。
「ただいま。少しは話し合いも進んだかしら。その様子だと、まだまだお取り込み中みたいね。お手伝いするために、隣からスケットを連れてきたわよ。」
「スケットとは、優香さん。その人は一体…」
義両親は、私が車椅子を押してきたことに驚いた顔をしていたが、夫の反応は違った。見る見るうちに顔が青ざめていく。
「優香、なんでお前がレイ子を連れてくるんだよ。」
「え、隣から連れてきたって…まさか、ずっと隣の病室に浮気相手がいたの?」
「あなた、どんな神経で私たちの話を聞いて…」
義母は今にもレイ子に飛びかかっていきそうだったが、彼女の様子を見て、はっと足を止めた。レイ子は夫以上に真っ青になっており、膝の上に乗せた片方の拳がブルブルと震えていた。義父が戸惑ったように声をかけた。
「君、大丈夫かね?君が本当に秀の浮気相手なら、許されない恋をしたとは思うが、だからと言って体に無理をかけるのは良くない。今は部屋に戻って休んだ方がいいんじゃないかね。」
「そうね。私たちとのやり取りの最中に、もしものことが起きても困るし。ここは一旦…」
突然現れた息子の浮気相手にも気を使えるとは。義両親は前世でどれだけ徳を積んだのだろうか。もはや人間としての作りが違うのではと錯覚してしまう。
私が心底感心していると、車椅子に乗ったレイ子が、か細い泣くような声で喋り始めた。
「知らなかったんです。」
「うん?何のこと言ってるのだね。」
「私、秀さんが既婚者だってこと、知らなかったんです。さっきこちらの病室からお母様の声が私の部屋まで聞こえてきて、初めて独身ではないと知りました。」
「な、なんですって。ああ、秀!あなた、だから隣の病室に聞こえたらまずい、なんて言ったのね。彼女に真実が知られてしまうと思って。どこまで曲がった根性なの?」
義母が髪を振り乱して怒鳴り散らしていると、今度は負けじとレイ子が怒りに満ちた表情で夫を睨みつけた。
「私、あなたに騙されていたわ。あなたの甘い言葉に誘われて…。奥様、ご迷惑おかけして申し訳ありません。ですが、私も騙された身。どうか、あの男に下半身不随になった責任を取らせるように要求する許可をください。」
すると夫は、たちまちレイ子の前に膝まずいた。
「レイ子、結婚していること黙っていてごめん。君に心配をかけたくなかったんだ。でも、もう大丈夫。優香はさっき離婚届けを出したって言ってた。これで晴れて君と結ばれることができるよ。君の体は半分動かなくなってしまったけど、俺が一生そばにいてあげるからね。」
爽やかな笑みを浮かべる夫に、義両親の怒りがピークに達したようだ。
「何をしれっとプロポーズしとるんだ、お前は。俺や優香さんの目の前で、どんな神経をしとるんだ。全く。」
「これほど頭の痛くなるプロポーズもないわね。離婚届けを出したから、はい、再婚、って。そんな結婚を人生ゲームみたいに捉えないで欲しいわ。」
まるで火山の大噴火のような義両親の怒りだが、夫は耳をほじりながら明後日の方を向いている。
「もう優香のことは関係ないだろう。夫婦じゃなくなったんだ。むしろ、なんでそこまで気を使ってやらなきゃなんないんだ?俺は本気さ。ずっと立ちはだかっていた障害が消えたんだ。時期を見計らって、父さんたちとも離れて、レイ子と2人で新しい生活を始めようと最初から考えていた。今がそれを実行すべき時なんだよ。」
夫が声高に語るものだから、ついに私は耐え切れずに大笑いした。その場でしゃがみ込み、お腹を抱えて笑い続ける私に、誰もが困惑した視線を向ける。少しばかり笑いの衝動が収まると、私は再び立ち上がり、今度は夫に向けてスマホの画面を差し出した。
「問題です。これ、誰だ?」
液晶には見知らぬ男の写真が次々と表示される。そしていずれも隣には、見覚えのある女性が映し出されていた。夫が何度も瞬きを繰り返す。
「え、これってレイ子?どうしてこんなにたくさんの男たちと腕を組んでるんだ?合成か何かか?」
「残念ながら、どれも天然物の写真です。」
「嘘をつけ。レイ子がこんなことをする理由がないだろう。女が、他の男とホテルから出てくる理由なんて。」
夫の勢いが、またたく間に失われていく。私は車椅子に座るレイ子の方を見下ろした。彼女は俯いて、自分の膝ばかりを見つめている。特に反論はなさそうだ。
「沈黙は金と言うわね。私から説明するわね。レイ子さんにとって、秀はただの捨て駒だったのよ。お金を運んでくれる、いわばATMのような役割ね。あなた、頭は良くないから、お給料だけは人並み以上にもらっているものね。」
「なんと…しかし、どうやってそれが分かったのかね。」
「秀ですら彼女の正体を知らなかったのよ。優香ちゃんは、最初から分かっていたの?」
義両親の最もな質問に、私は鞄から何枚かの書類を取り出した。
「探偵事務所との契約書です。私は自力で夫を尾行して浮気の証拠を手に入れましたが、万全を期すために探偵にも依頼したんです。どうせ制裁を加えるなら、とことん調べ尽くして、自分に有利なように物事を運びたいですからね。」
「今、さらっと恐ろしいこと言ったな。これだから女性は怖いというか…」
「何を言ってるんです。怖いことを言われたくなければ、そもそも女性を怒らせるようなことをしなければいいだけの話ですよ。」
義母がにっこりと微笑むと、義父はバツが悪そうに咳払いをした。どこの夫婦も、他人からは見えないだけで色々あるのかもしれない。その都度修復を選ぶ人たちもいるだろう。だが人間は十人十色だ。私はたまたま、許せない人だった。それだけの話だ。
私もまた軽く咳払いをして話を続ける。
「プロの探偵なんて初めて雇いましたが、やはり高額の費用を払うだけのことはありますね。予想外に、夫の浮気相手であるレイ子さんの秘密も明らかになったんです。夫は確かに既婚であることを隠し、レイ子さんを騙したかもしれませんが、それはお互い様だったということです。」
ふっと、その場の空気が淀んだ気がした。変わらずその場は部屋の照明に照らされ、窓からも陽光が差し込んでいるはずなのに、明るさの調整をしたかのように薄暗く感じられる。
義父がまだ呆気に取られているレイ子の前に立ちはだかったかと思うと、突然に乾いた音が響いた。
「ふざけるな。お前のために俺は両親すら捨てようとしたのに。そもそも初めから俺を捨てる気だったと。冗談じゃない。」
叩かれたレイ子も負けていなかった。強く夫を睨みつけて、高々的に目の前にあった夫の股間に右ストレートを放ってきた。再び夫は膝をつく。
「ふざけるな。あ、こっちのセリフよ。圧の弱そうな、頭の弱い人だと思ったから、絞り取れるだけ絞り取ったら捨てようと思ったのに。既婚者だなんて、離婚問題なんて面倒なものに私を巻き込まないでよ。」
「なんだって、なんて品のない女なんだ。こんなやつだとは思わなかったよ。やっぱり、結婚相手の人はなかなか見つからないんだな。」
「え?何を言い出してるの?」
今度は私が目を丸くする番だった。ぱちくりと何度も瞬きを繰り返すうちに、夫は私の両手を握りしめ、愛想笑いを送ってくる。
「目が覚めたよ。やっぱり俺には優香が1番だった。ちょっと寄り道しちゃったけど、遅すぎるってことはないもんな。これから2人の愛を深めて、仲良くやっていこう。」
「頭に虫でも湧いてるの?大丈夫?」
私は夫の手を払いのけて、一歩後ろに下がった。爽やかな笑顔で私に詰め寄る姿に、薄寒さを覚えてしまう。
すると義両親が、さっと私と夫の間に割って入ってくれた。
「さっきから黙って聞いていれば、なんて自惚れ屋なやつなんだ。いい加減にしろ。優香さんに近づくな。」
「もう散々あなたには愛想が尽きたけど、せめてもの情けで、警察沙汰になるようなことは未然に防いでおくわ。これ以上、優香さんには執着しないで。もう離婚して、夫婦ではなくなったんでしょう。もっと、距離を置くべきよ。」
義両親の私への配慮に、思わず涙腺が緩んでしまった。目尻に滲んだ涙を拭い、もう一度表情を引き締める。あと一息だ。
「秀、あなたはたくさんの罪を犯したわ。私を裏切ってレイ子さんと浮気したこともそう。その浮気相手を事故によって下半身不随にさせたこともそう。どれも取り返しのつかないことよ。あなたはたくさんの人の人生を変えてしまったの。お父さんとお母さんだって、最愛の息子の変わり果てた姿を目の当たりにして、深く傷ついていることでしょう。あなたは、もっと叱られるべき罰を受ける必要があるわ。」
「なんだよ。どれも俺は悪くないだろ。たまたま優香より美人で気立てのいいレイ子が現れて、たまたま曲がろうとした先に別の車が現れて。父さんと母さんだって、俺の選択に勝手に傷ついているだけじゃないか。」
夫の意見に、義両親は愕然とした顔で肩を落とした。
「だめだ。どうやら、わしらの息子はいなくなってしまったらしい。」
「そうね。もう何を言っても無駄だと思うわ。これからは、もう息子はいないものとして、余生を過ごすしかないわね。」
私が2人の方にそっと手を添えると、義両親は寂しそうに微笑んだ。
「秀、私、あなたのこと絶対に許さないわ。私自身を傷つけたこともそうだけど、こんなに優しいご両親にここまで言わせるなんて。後日正式に慰謝料を請求して、あなたの会社にも次第を報告します。」
「え、何だって?ちょっと、会社はまずいよ。」
夫は何やらごちゃごちゃと叫んでいたが、私は綺麗に無視して、義両親と共に病室を後にした。
その後、夫は随分とごねたが、なんとか私は離婚を成立させることができた。しかし、夫が私を諦めることはなく、実家に戻った私を尾行したり、家の近くにずっと張り付いていたりと、完全にストーカーと化してしまう。恐怖を覚えた私は警察に通報。これまでの経緯を話すと、夫は厳重注意を食らうこととなった。この警察沙汰となった一件を機に、会社からも完全に見限られたようで、居場所を失った夫は退職する運びとなる。今ではアルバイトを掛け持ちしながら、なんとか慰謝料を捻出する日々だそうだ。
また、浮気相手のレイ子は、関係を持っていた男性の1人に見事裏切られ、慰謝料を踏み倒されて逃げられたらしい。元々男は金目当てで付き合っていたらしく、レイ子が下半身不随となったことを機に見限られてしまったのだ。すると今度は逆恨みしたレイ子が夫を待ち伏せることとなり、夫は追われる恐怖を味わうことになった。
現在の私はと言うと、真面目に仕事をして、友達や両親とショッピングに出かけたりと、充実した日々を過ごしている。離婚で得た傷が癒えたわけではないが、一方であの2人から学ばせてもらったこともある。彼らは互いに欲をかいて、道に背く行為をしてしまったせいで、悲惨な結末にたどり着いてしまった。もっと誠実に生きていれば、ささやかながら幸せを掴むことができただろう。世の中には、取り返しのつかないこともあるのだ。夫とレイ子の2人を反面教師として、私は周りの人の親切を裏切らない人生を歩もうと思う。



